【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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火を知らぬ少女が属する組織の長から貴方は予言を受け取る
予言を頭の片隅に、渡された紙片を懐に納め、星をなくした子達は神話の国へと向かうだろう
旅の目的を後回しにしてはいけない
死神に時間を与えることになってしまうから


74th take 神話の国へ

 

 

 

 

 

 

 

国内線では最大規模を誇る空港。バンにてそこに到着した苺プロダクション一行は、搭乗時間まで待機を強いられる。保護者であるミヤコも。帯同者であるアクアも。余裕を持って組まれたタイムスケジュール。雑談する猶予は充分にある。

 

無論、他の帯同者が合流する時間も。

 

「──というわけで、今回の慰安旅行に参加することとなった、黒川あかねさんです。皆さんよろしく」

「黒川あかねです!今回は参加を許していただきありがとうございます!皆さんの邪魔にならないよう頑張りますのでよろしくお願いします!」

 

アクアの紹介で遠慮がちに頭を下げるのは、青みがかった黒髪を背中近くまで伸ばした美少女。名前は黒川あかね。ここ最近で急速に名が売れ始めた女優で、星野アクアの公式彼女だ。

 

「なんで部外者がここにいるのよ」

 

B小町のセンターを務める有馬かながあかねに、というよりはアクアに詰め寄る。この旅行にコイツを招いた人物がいるとすればアクア以外考えられなかった。

 

「いいじゃん、東ブレの慰安旅行兼ねてるって話だし」

「だからってなんでよりによって黒川あかね1人だけ呼んでんのよ!今後のこと考えたらもっと呼ぶべき人間いたでしょ!?姫川大輝とか不知火フリルとか!!」

「姫川さんは断られた。フリルは最近連絡つかん。ま、忙しいんだろうよ」

 

年末年始にまとまった休暇を取る芸能人もいるが、売れてる人ほどこの時期は特番などに呼ばれる。師が走ると書いて師走。あの2人に旅行など行く暇があるわけがなかった。

 

「黒川あかねを呼んだ理由は!?」

「…………年末年始の予定聞かれて、宮崎行くって話したら、一緒に連れて行くか、黒川家の家族旅行にオレが付き合うかの二択を迫られた」

「ほとんど脅迫じゃない!犯罪よ犯罪!黒川──」

「わ!黒川あかねちゃんだー!『今ガチ』観てました!綺麗ー!かわいいー!」

 

糾弾しようと振り返ると、ルビーが黒川あかねの手を取っていた。満面に笑顔を浮かべ、彼女の同行を歓迎している。その無邪気な様子に赤みがかった黒髪の美少女は何も言えなくなってしまう。

 

「そんな……私なんかよりルビーさんの方が何倍もかわいいですよ」

「えへへー!」

「あかね。お世辞でもそういうこと言うな。こいつは本気にするぞ」

「べーっ。お兄ちゃんのイジワル」

「お世辞じゃないよ。私初対面の人にそんなこと言えるほど器用じゃないもん。アクアくんと違って」

「うるせー」

 

気安いやり取りをする三人を見て、まるで家族みたいだと思わされた有馬かなは、目の奥がジンと熱くなった。いや実際三人のうち二人は家族なのだが。

 

「改めまして、アクアの妹のルビーです!よろしくお願いします!」

「うんっ、よろしくね」

「素敵……容姿も心も綺麗……なんで兄なんかと……どんな弱味を握られたんですか?」

「お前がオレをどういう目で見てるか、よーくわかった」

「あはは。ルビーさん。お兄さんは素敵な人だよ。容姿は言わずもがな。能力も、人間力も高くて、魅力的。恩で言っても、まだまだ私の方が返済真っ最中だし。私が気後れすることの方が多いくらい」

 

オーラ。天賦の才。努力の量。カリスマ。美しさ。全てにおいてアクアが上回っていると黒川あかねは誰よりも思っている。客観的に見ても、釣り合いの取れなさでいうならあかねの方が分が悪いだろう。

 

───でも、この人を誰よりも愛しているのも、誰よりも守りたいと思っているのも、私だと胸を張って言えるから。

 

「だから、そうだな……強いていうなら…」

 

やっぱり何かあるのか、とルビーが身を乗り出す。アクアも心当たりがないわけではないため、ちょっと緊張が走った。

 

「惚れた弱味かな?」

 

なんの演技も打算もなく、朗らかな笑顔で述べられたその一言は、ルビーの頬を赤く染め、アクアすらも照れくさそうに頭を掻いた。

 

「あかねさん」

「うん?」

「お姉ちゃん、て呼んでもいいですか?」

「えーっ!?」

「私ずっとお姉ちゃんが欲しかったんです!たまに兄がお姉ちゃんやってくれる時もありましたけど──」

「いや、そのーっ!……うん?どういうこと?」

「ルビー、わけわかんねーこと言うな」

「やっぱりちゃんと女の子のお姉ちゃんが欲しいなって!だっていずれ私のお姉ちゃんになるんでしょ!?結婚するんでしょ!?」

「えっとね──私はいつかそうなれたらって思ってるけど…(チラッ)」

「こっち見んな、返答に困る」

「きゃーーっ!あかねお姉ちゃーん!!」

 

先日の黒川家でのアクア同様、身内の好感度を爆上げするあかね。一気に打ち解けてキャッキャする中で、どんどん暗くなっていく人が約1名いた。

 

「どうしてこんな仕打ち……私、この旅行楽しみにしてたのに……」

 

あかねとルビーに背を向けながら、表面張力限界まで目を潤ませた有馬かなは、さめざめと現状を嘆いている。その様子を見ていたメムはちょっと複雑な心境だった。

 

普段、有馬かなと星野アクアは口論していることが多い。

 

───けれどハタから見れば、アクたんはともかく、有馬ちゃんは楽しそうで…

 

喧嘩しながらいちゃついてるようにしか見えなかった。その様子をずっと見せつけられてきた。うっせえ爆発しろ、と思ったことも一度や二度じゃない。だからちょっとざまぁと思う部分もある。けれど今のかなちゃんは流石に可哀想が過ぎるとも思わされたため、複雑な心境のまま迂闊なことも言えず、関わらないように距離をとった。

 

その離れた距離の間に。キャッキャうふふしているあかねとルビーの視界の背後に、スッと自然に入り込む黄金の煌めき。

 

 

ポン

 

 

有馬かなの黒のキャップの上から、暖かく、柔らかい手が添えられる。振り返った先にいたのは星野アクア。

頭を触ってくれた人間が誰かを認識し、赤みがかった童顔の少女は嬉しさと悲しさと悔しさがないまぜになった表情で肩をいからせた。

 

「なによっ。こんなので誤魔化されないんだからっ」

「何も誤魔化してるつもりはない」

「私修学旅行とかも仕事で縁がなくて、こういう同世代の仲間との集団の旅行って初めてで、ホントに楽しみにしてたのにっ」

「オレもだよ」

「ルビーもなんなのっ。アイツがビジネス彼女だってことくらい知ってるはずなのにっ」

「それはルビーに言え」

「向こうのお土産物屋さんで目についたもの端から端まで買わせてやるんだから!」

「はいはい。時間は作ってやるよ」

「ふんっ」

 

不機嫌は治っていないが、涙目からは回復した。取り敢えずは良しとしよう。

 

「ナイスフォロー」

「おう」

「あとくたばれ女の敵」

「おい」

 

耳元で賛辞と罵倒両方囁いたメムはアクアが文句を言う前に女性陣へと合流する。安全地帯に逃げ込まれた後ではもう何も言えない。憤然と鼻を鳴らし、アクアは溜飲を下げた。

 

───………っ

 

「悪い。ちょっと先に行っててくれ」

「トイレ?もうすぐ搭乗時間よ?」

「わかってる。すぐ戻る」

 

一言言い置き、空港の雑踏に姿を消す。その行動に特に疑問も持たなかった一行は準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく察したわね」

 

視線を感じた先に足を進めていると声をかけられる。やはりあの、フリルの事務所の女社長だった。相変わらず貫禄のある人だ。風貌は年相応ながらも品格があり、若い頃は大層美人だったのだろうと伺える。

 

「仕事柄視線には敏感でして……そちらもよくオレがここにいるってご存知でしたね」

「貴方、フリルもこの旅行に誘ってたでしょ?」

「なるほど………オレに何か用ですか?」

「とりあえず来なさい」

「もうすぐ搭乗時間なんですが」

「時間は取らせないわ。早く」

 

有無を言わさぬ口調で告げられる。この人にしては珍しい。余裕のなさそうな態度だ。フリルの事務所関係者には基本的に嫌われてるオレだが、社長だけはそこそこ気に入られていたはずなのだが。

 

まあ断るという選択肢があるはずもなく、黙って従った。

 

「……………………」

 

しばらく無言で雑踏の中をうろうろ彷徨う。こういう煩雑な場所の方が内緒話はしやすいものだ。オレから何か喋るべきか逡巡していると、ようやく向こうから口を開いた。

 

「舞台、見せてもらったわ」

「…………どうも」

「相変わらず不安定。でも貴方の哲学は見えた。才能だけでやってた貴方に再現性を見出せた。コレから貴方を使いたがる関係者は増えるでしょう。貴方もフリルも爆発的に成長した。良い芝居だったわ」

「ありがとうございます」

「コレからしばらく荒れるでしょうね。貴方の周りも、芸能界も」

 

言っている意味はわかるようなわからないような、微妙な感じだった。今回の舞台、オレとメルトを除けば、誰もがある程度役者として評価されてる人たちだ。東京ブレイドというキャッチーな作品に出演したことで、芸能界のみに留まらず、世間一般の目に触れられる事にはなった。しかし荒れるというほどでもないだろうと思っている。オレ1人の成り上がりで荒れるほど芸能界という海原は小さくない。

 

「まるで、エスカレーターね」

「は?」

「一年足らずで貴方はここまで駆け上がってきた。飛躍の速さだけでいうならフリル以上よ。階段なんてレベルじゃない。才能と環境(どりょく)が貴方をエスカレーターに乗ることを許可した」

「………褒められてる、だけじゃなさそうですね」

「才能っていうのは祝福であると同時に呪いよ。大きければ大きいほどその呪縛は強くなる。周囲を巻き込み、大衆を巻き込む。コレからたくさんの人が貴方という星の光に惹かれるわ。良い人も、悪い人もね」

 

今度はよくわかる。この業界、監督、演出家、プロデューサー、その他諸々。胡散臭い人間はいくらでもいる。ほとんど詐欺師みたいな連中も。

 

───危険なファンも…

 

そう言った連中の標的にオレもなりつつある。かつてアイがそうだったように。

 

「貴方、ウチの事務所に入りなさい」

「………は?」

 

唐突に叩きつけられた本題はあまりに意識の外すぎて脳が理解するのに時間がかかる。間抜けヅラして聞き返しているであろうオレを社長は真っ直ぐに見据え続け、同じ言葉を繰り返した。

 

「ウチに移籍しなさいって言ったのよ」

「………そういう話は以前お断りさせていただいたはずですが」

「貴方はもうエスカレーターに乗ってしまった。それに乗る資格が貴方にはあった。けどそのエスカレーターは片道切符。一度乗ってしまうと、後はもう先に進むか、急に穴が開いて真っ逆さまに落っこちるだけ。本人の意思とは関係なく。いろんな人を巻き込んで」

「いろんな人を、巻き込んで…」

 

脳裏に過ぎる。あの舞台で改めて思った、大切な人たち。ミヤコ、有馬、あかね、フリル、ルビー。アイツらの顔が浮かんだ。笑ってたり、泣いてたり、怒ってたり、様々だった。

 

「貴方には才能がある。けれどその才能が貴方を、貴方達を幸福にしてくれるとは限らない。漫然と芸能界にいるのでは、いつか破滅するわよ。貴方が大切にしている人たちごと」

 

予言する、というよりは断定するような口調で告げる。続いた。

 

「貴方はタレントにとって一番怖いのはなんだと思ってる?」

「悪質なマスコミ、とか?」

「ハズレ。マスコミがタレントにとって厄介なのはあくまで副次的効果に過ぎない。本当に怖いのはその先にいるモノ」

「………厄介なファン」

「ご名答」

 

マスコミによって暴露されるスキャンダル。コレがタレントにとって致命的になるのはスキャンダルを知った一般大衆が行動を起こすからだ。バッシングが起こったり、罵詈雑言叩きつけたり、大衆イメージが最悪に落ち込む。イメージの悪いタレントを業界は使うわけにいかなくなり、仕事が干される。負の連鎖の始まりと終わりは全て厄介なファンの活動によるものだ。

 

「貴方は以前言ってたわね。今の事務所にいるのは恩のある人の為だって」

「───よく覚えておいでで」

「恩返しをしたい。普通の人として真っ当な、正しく小さな願望。そんなものを叶えるのは諦めなさい。それだけの才能を持って生まれてしまったからには。真っ当な、当たり前の願いを持ち続けるには、貴方の呪いは強すぎる。苺プロでは星野アクアを持て余す日がいつか必ず来る」

 

マスコミ、厄介なファン、その他諸々から四六時中見張られてると言って良い不知火フリル。それでも星野アクアとのゴシップが漏れないのは本人達の警戒もさることながら、事務所によるバックアップも大きい。所属タレントのデータを大手事務所のマンパワーでガチガチに守っている為、一般人はもちろん、業界人でもフリルの住居は知らないし、知られたとしてもすぐに引っ越せるよう幾つかセーフハウスを用意している。鍵も全て二段階オートロック。アイのような悲劇はまず起こらないようにシステムされてる。

大手事務所の力がなければ、流石のフリルもあそこまで危険な橋を何度も渡れなかっただろう。

 

「大谷○平がそこらの草野球チームに所属してたらチームも本人も迷惑でしょう?」

「あんな野球の神を超えたような人とは比較にならんでしょう」

「モノの例えってのはね。大抵真実より大袈裟なものよ。大事なのは本質が同じということ」

 

草野球チームがメジャーリーグのスター選手の活躍に見合う報酬を渡せるはずもなく、相応しい環境を与えられるはずもない。そうなればチームも本人も崩壊してしまう。コレと同じことが、遠からず苺プロでも起きると社長は予言した。

 

「貴方の才能に見合う仕事。報酬。環境。保護。全て用意するわ。もちろん移籍金も十分な額を苺プロに提示する。タレントとしての恩返しはそれで事足りるでしょう。いいわね?」

「良くないです。流石に唐突過ぎる。考える時間をください」

「この業界、即断即決できない人は大成しないわよ」

「なら貴方の見込み違いでしたね。大成しない器のタレントは見合った事務所で頑張りますよ」

 

背を向ける。コレがオレを呼んだ理由だというなら、もう話すことはない。

 

「アクア」

 

こちらの背を震わせるような、威厳ある厳しい声。真っ直ぐに見つめるその強い瞳に、アクアは思わず足を止めた。

 

「…………金じゃないんだよ」

 

絞り出すような声で星の瞳の少年は呟く。アクアが他人に言える精一杯。その姿はいつもの凛とした一部の隙もない星野アクアとはまるで別人だった。

 

社長はオレの一言を黙って聞いていた。話は終わったと判断したのか、オレが黙り込んで十数えるほど時間が経ってから口を開いた。

 

「上にあがる為なら何でも利用するタイプかと思ってたけど。意外と人間臭いわね、アクア」

「………オレにも良識はあります」

「だからこそ、貴方はいずれウチのドアを叩くわ。賢くて、強くて、優しく、弱い、人間臭い貴方なら」

 

名刺が一枚渡される。そこには連絡先も記入されていた。

 

「その気になったら連絡してきなさい。いつでも時間を作ってあげるわ」

「ならねーよ」

 

と口にしながらも名刺を捨てることはできなかった。

 

『漫然と芸能界にいるのではいつか破滅するわよ。貴方が大切にしている人たちごと』

 

『苺プロでは星野アクアを持て余す日がいつか必ず来る』

 

このセリフが耳にこびりついて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい、ようこそ高千穂へ!私は映像Dのアネモネって言います」

 

飛行機で宮崎まで飛び、レンタカーでバンを借りて、高千穂に到着すると妙齢の女性が出迎えにきてくれた。長い黒髪を編み込みで纏め、前髪は姫カット。初見の印象は快活な美人。声にもハリがあり、誰もが好印象を抱く人だ。

 

良い映像を撮る人は他者の感情ややる気を引っ張り出すのが上手い。結構良い人に当たったな、とアクアは思った。

 

「アネモネ!」

「メムちょおひさー!社長さん!この度はお忙しい中こんな田舎までわざわざ来ていただいて!」

「いえいえ」

 

メンバー達及び責任者への挨拶回りが終わると早速スタジオへと向かう。観光案内所も道中にあるため、途中まではアクア達も付き合った。

 

「街並み、面白いでしょ?」

 

キョロキョロ辺りを見回しながら歩いているのに気付いたのか、アネモネが感想を述べる。確かに良い場所だ。空気は綺麗だし、辺りは森林の生い茂る山に囲まれて、景観は美しい。人と自然が共生している街だ。東京ではありえない。

 

「大きい神社もたくさんある。パワースポット的な場所も多い。特に芸能の神様が祀られてることで有名。なんて言ったっけなぁ……日本神話で出てくる……」

「アンタなら知ってるんじゃないの?」

「知らねーよ。オレがなんでも知ってると思うな。神話とか興味ないし……観光案内所で聞いてみるか」

「ググりなさいよ」

「かなちゃんがね」

 

また軽くやり合うあかねと有馬だったが、いつものことなので特段止めもせずアクアはスマホで検索をかける。有馬の命令に従ったというわけではないが、ちょっと自分も気になった。

 

「天鈿女命」

 

荒立神社に祀られている歌や芸能の神様。芸能界からも参拝者が多く、商売ごとでも縁起がいいとされており、商談の場にされることも意外と多いらしい。あと縁結びも。

 

「えー!じゃあアクア!参拝いこ!話には聞いたことあったけど来たことはなかったし!アクアもそうでしょ?」

「いいけど、お前らスケジュール大丈夫か?MVの撮影2本に増やしたんだろ?」

「そのとーり!詰め詰めなんですわ!早く衣装に着替えてスタジオ入ってください!」

「うぇぇ…」

 

げんなりしつつも仕事モードに入っていく。前半はドラマパートの撮影。MVはダンスの姿を流すだけではない。イメージ映像や日々のちょっとした活動。ここの可愛さ、メンバー全員が映ったカットなどを差し込む必要がある。そういった撮影にアクアやあかねが万が一でも映ったら即ボツ。瞳に反射するだけでもアウトなため、アクア達が見学が許されているのは後半のダンスパートのみである。

 

そのため、今から夕方までは二人はフリータイムだった。

 

「私たちはどうする?」

「取り敢えず観光案内所行って荷物預けよう。まずはそれからだ」

「うんっ」

 

目的地まで徒歩で歩き、二人合わせて千円を支払って身軽になる。宮崎高千穂の観光ガイドブックを手にとったあかねはアクアと一緒に見るために大きくページを開いた。

 

「さすが神話の街。すぐ近くに天岩戸もある。知ってるよね?アマテラスが引きこもって──」

「宴会して楽しそうな音聞かせまくって誘き出したアレだろ?流石にそれくらいは知ってる。常識だ」

「───もしかして、アクアくんってオカルト嫌い?」

「別に好きでも嫌いでもない。興味ないだけだ」

「あはは」

 

───嫌いよりタチの悪いヤツだぁ

 

好きの反対は無関心。愛と憎悪は表裏一体だけど、無関心はどこまで行っても無関心。あかねはこの手の話が結構好きなため、高千穂の観光は楽しみだったのだが、アクアはそうでもなさそうだった。

 

「神様とか、あんまり信じてない?」

「神も神話も人間が作ったものだからな」

 

───なんて身も蓋もない……

 

超合理主義者で現実主義者のアクアらしいと言えばらしいが。それを言ってはおしまいだろうという事を平気で口にする。そこにシビれることも憧れることもあるけど、余計な敵作りそうだなと心配になる。

 

───そういえばゆきがアクアくんのこと、神様と悪魔の両方に愛されてるって言った時も不機嫌になってたな

 

目に見えない力に関しては否定しない。けれど積み上げてきた努力や実績を神様とかのおかげみたいに言われる事を嫌っていた。オカルトは興味ないだけ、と言っていたけど、本当は嫌いなのかもしれない。

 

「じゃあ早速始める?アクアくんの自分探しの旅」

「………いいよ。それは2日目以降で」

「え?なんで?」

「ここに来る前にミヤコにざっと聞いたんだが、オレが関わりのあった場所といえば生まれた病院くらいしかないらしい。まあそこで色々調べた結果、探索目標が増えることもあるかもしれねーが、まあ1日あれば事足りる。それに……」

「それに?」

 

何かを考えるように視線を伏せる。あかねと目が合ったとき、アクアはフッと柔らかな微笑を浮かべた。

 

「旅行中ずっとオレの目的に付き合わせるのも悪いだろう。今日はあかねの行きたいところに行こう。どこでも付き合うぜ」

「───うんっ、ありがとう」

 

アクアの左肘に自身の両手を絡める。隠し事をされたのはわかっていたが、彼が話したくなるまで待とうと決めた。

 

 

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
宮崎旅行編突入。色々不穏な始まりですが、アクアもあかねも重曹ちゃんもそれぞれで頑張っていきます。次回は宮崎デート。あかね優遇されすぎな気もしますが、話の流れ上仕方なかった。アクアは実は自分探しの旅とかやっちゃうのに躊躇いがあります。
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