【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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死神から発せられた警告文
正しく読み取った貴方は狭い個室で二択を迫られる
覚悟か、勇気しか選択肢はないだろう
半身に流れる天使の血を裏切らない限りは


77th take ただ一つ

 

 

 

 

 

 

アレから5分もせず警察は到着した。最初は数人だったが、死体遺棄が真実だと確かめられると応援は一気に増えた。洞穴にはキープアウトのテープが張られ、アクアとあかねは死体発見時の状況の説明を求められ、パトカーで警察署へと赴き、事情聴取が行われた。事情聴取にはもちろんルビーも参加させられた。

 

警察官といっても公務員。警察署は役所と変わらない。そしてお役所仕事とは非常に時間がかかる。連絡を聞いて駆けつけたミヤコと合流できた時、時計は深夜の3時を回っていた。

 

「まさか、MV収録に来てこんな目に遭うとはね…」

 

憔悴した面持ちでホテルへと戻った三人からは流石に生気が感じられなかった。仕方のない事だ。人によっては一生夢に見るレベルのグロ映像を生で見せられたのだから。

 

「ルビー、あまり顔色良くないわね?明日の収録大丈夫そう?」

「うん大丈夫」

 

無表情で、色素の薄い唇をした左目に強い輝きを宿す美少女は無感情に言葉を発する。元気そうにはとても見えないが、あまりショックを受けているようにもぱっと見は見えなかった。

 

「今日はもう休みなさい。眠れなくても目は閉じて横になってるのよ。それだけでも結構違うから」

「うん」

 

ホテルの部屋の扉を閉じる。本当に大丈夫か、判断はできなかったが、少なくともパニックにはなっていなさそうだ。

 

───パニックになっているとすれば、寧ろ……

 

ホテルに着いてすぐ、夜風にあたってくると外へ出ていった義息子が脳裏に浮かぶ。車に乗っている時も唇を真一文字に結び、歯を食いしばり、震えていた。目を手で隠すように頭を抱え、時折髪をかきむしっていた。まるで何かに怯えるように。

 

「頼んだわよ、あかねさん」

 

そしてずっとアクアの隣でその背中を摩り続けていた息子の彼女に、ミヤコは祈るしかできなかった。

 

アクアの性格は誰よりも知っている。1人で何でもできるが故に、何でも1人で背負い込み、頼るということをしない。頼らなくても生きることができてしまった。12年間、一度も頼らせてあげられなかった自分では、きっと心の中を吐露してはくれないだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテルの近くのベンチ。景観を整えるために植えられた多くの植物庭園。そんな公園のような場所を深夜も深夜。通常であれば眠りについているはずの時間帯に、一組の若い男女が歩いていた。1人は片手で頭を抱え、微かに震える少年と、その少年の隣で心配そうに見上げる青みがかった黒髪の少女。

 

星野アクアと黒川あかね。2人とも才能溢れる俳優で、ここ数ヶ月で急速に名を上げている。公式彼氏彼女であることも一部では有名で、一般からも人気の高いカップルだった。

 

「大丈夫?」

「ああ、大丈夫」

 

見上げた先で僅かに見える星の瞳はいつもとは比べ物にならないほど暗く澱み、何かに耐えるように細められた眉間には深い皺が幾つも刻まれていた。

 

───大丈夫なわけないよ…

 

出会いは春。それから今日まで一年近く付き合ってきた。彼が窮地に追いやられるような場面もいくつか見てきた。

 

でもどんな時も彼は余裕のある態度を崩さなかった。フリルちゃんに迫られた時もそう。ダブルキャストになった時もそう。追い詰められても余裕のあるフリをして見せた。いつでも不敵に笑っていた。

 

舞台の稽古中、倒れた時もそうだ。トリップに陥った時は流石に動揺してたけど、その後は余裕を取り戻した。実際は違ったのかもしれないけど、少なくとも擬態はしていた。

 

それが今は、擬態すらできていない。歪んだ相貌。震える身体。落ちる冷や汗。全てが隠せていない。

 

───息が白い。動いてるから寒くはないけど、指先は冷たい。

 

油断すると2人の距離があっという間に開く。何度かデートもしたが、一度も起こらなかったことだ。彼はいつも私に歩幅を合わせてくれた。私の隣で歩いて、先を歩いていたとしても、私に何かあったらすぐに駆けつけてくれた。

 

私が苦しい時は助けてくれたのに、私は何もできない。

 

───今年の冬って、こんなに寒かったっけ

 

頬が痛い。風が肌に突き刺さる。今年はずっと彼が隣にいた。その横顔を見つめているだけで他の全てはどうでも良かった。何も感じなかった。けれど今、初めて、冬が寒い。

 

───来ない方が良かったかな

 

アクアくんは旅行前から嫌な予感がすると言っていた。その予感は見事に当たった。私に来ない方がいいとも言ってくれた。やっぱりあの時無理にでも私たちの家族旅行に同行させた方が良かったのかもしれない。アクアくんには嫌われたかもしれないけど、こんな辛そうな姿を見るくらいなら、嫌われた方がマシだった。

 

───っ!ダメダメ!何言ってるの今さら!

 

首を大きく横に振り、パンっと一度頬を叩く。起こってしまったことを今さら後悔してもしょうがない。人間誰でもミスはする。抗えない不可抗力はある。大事なのはその後どうするか。適切な処置をして、被害を最小限に食い止める。その為に力を尽くしてきた姿を、彼の背中を何度も見てきたはずだろう。何をすればいいかわからないならせめてそばにいよう。彼が耐えきれず崩れ落ちてしまった時、すぐ抱き止められるように。

 

「アクアくん、少し休もう。そこにベンチあるから。ほら──」

「触んな!」

 

手に触れた瞬間、強い力で振り払われる。こちらを見つめる目は心の底からの怯えで震えていた。

 

「やっぱり、別れよう。オレ達」

 

震える声音のまま、言い放つ。表情は手で隠されていて、見えなかった。

 

「オレのそばにいると、殺される」

 

震える声音が紡がれる。そのまま膝から崩れ落ちる。不幸中の幸いか、崩れた体は近くにあったベンチが受け止めた。しかし予期せぬ着座にアクアの体勢は乱れる。まるで歩くこともできなくなった酔っ払いが椅子に倒れたかのようだった。

 

「…………殺されるって、どういうこと?」

 

穏やかな、優しい声で、あかねは話しかけ、隣に座る。続いた。

 

「私は殺されないし、もし殺されても良いよ。貴方と一緒に死ねるなら」

 

手の甲に手を重ねる。逃げようとしたが強い力で掴んで離さなかった。

 

「貴方が私の手を拒んでも。私と一緒にいてくれなくなっても」

 

ぼろりとあかねの目から涙が落ちる。役者とは想像力豊かな生き物だ。あかねが口にした虚構が鮮烈なイメージとして自身の脳裏を過ぎる。そのイメージの痛みと悲しみはあかねの目から演技でない涙をこぼれさせた。

 

「つらいけど。すごくつらくて、悲しいけど。どれだけ突き放されてもいいから、私に貴方を愛させてほしい」

 

初めてアクアの手から、震えが止まった。

 

「貴方が何に怯えてるのかはわからない。何を恐れてるのかは知らない。でも私が貴方を守るから。貴方を支えて生きていきたいから。貴方の背負っているものを、一緒に背負わせてほしい」

 

手を握る。今度はあかねが震えていた。

 

「冬は寒いから、一緒にいたい」

 

今年初めて、冬の寒さが身に沁みた。去年までどうやってこの寒さに耐えていたのか、わからなくなってしまった。寒い。もうアクアと一緒にいられない未来なんて、考えられない。考えたくない。

 

「貴方のなくした過去を取り戻してあげる事はできないけど、それでも私は、貴方と春を迎えたい。これからずっと」

 

だから、(かこ)に囚われないで。

 

(いま)を選んでほしい」

 

お願い、と小さな声で呟く。ここで涙を見せるのは卑怯だとわかっている。けれど止められない。止める気もない。彼のためならどんな卑怯な手だってする。涙も女の武器も、何だって使う。使えるものなんでも使うのはアクアから教わった戦い方だ。

 

「あかね、ありがとう。もう大丈夫」

 

重ねた手をグッと握り返す。頬に手を添え、キスをする。添えられた指が、あかねの涙を吸い取った。

 

「さっき、振り払って、ごめん」

「私がそんなことで怒ると思う?」

「何も言わなくても許してくれると思うから、謝ってる」

「ちょっと性格悪いこと言うね。弱ってるアクアくん、私すごく好き」

「病んでんなぁ、お前もいい感じに」

「アクアくんも人間なんだって。私が守ってあげなきゃって思える。すごく好き。これからも定期的にへこんで」

「勘弁してくれ」

 

ふふ、と笑いがこぼれる。アクアくんも釣られて笑った。やっと笑ってくれた。

 

「───あかね」

「はい」

「今からオレが考える最悪の推理を話す。聞いてくれるか?」

「もちろん」

 

そして始まる。星野アクアの、最悪のシナリオについての推理が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの死体……アマミヤゴロウ、だったか」

「うん、所持品のクレジットカードから名前がわかったみたい。本格的な調査はこれからだけど、恐らく間違いないだろうって」

「一つ目の違和感はそれだ」

 

指を一本立てる。手の形はそのままに、続いた。

 

「あの人は恐らく他殺体だと警察が言っていた。つまりアマミヤゴロウは誰かに殺された後、犯人によってどこかに隠されていたということになる。だとしたらおかしい」

「普通死体遺棄なんてする人はその死体の身元がわからなくなるように工夫する」

「その通り」

 

いくら殺人事件でも被害者の身元がわからなければ立件の仕様がない。故に遺棄犯は指紋を焼いたり顔をつぶしたり、その死体が誰かわからなくなるようにする。まあそこまでやるのは手間なため、山に埋めたりして白骨化を待つのがスタンダードだが、クレジットカードや運転免許証は違う。持ち帰るのも廃棄するのも簡単にできる。真っ先に排除しなければならない物件だ。それがそのまま残されている。完全に白骨化するまで見つからない工夫をされた死体が、だ。おかしい。ありえない。

 

「犯人はきっとわかって欲しかったんだ。あの死体が誰かを」

 

───でも、なんで?何でそんなことを?

 

あかねの胸中に質問が湧き上がったが、アクアの推理はまだ終わりではない。最後まで聞こうとあかねは質問を飲み込んだ。

 

「二つ目の違和感は死体遺棄現場だ。綺麗すぎた。死体の状態も、あの洞穴の中も」

 

白衣以外の衣服は朽ちており、遺体は完全に白骨化していた。殺されたのは昨日今日の話ではない。なのに5体フルセットで遺体は残っており、野生動物に食い荒らされた形跡もなかった。

 

「アマミヤゴロウについて、警察署にいる時に軽く調べた」

 

正確には調べてもらった、が正しいが。一度行方不明になった時、捜索届が出されていたから調べるのは意外と簡単だったらしい。

 

「アマミヤゴロウ。宮崎総合病院に勤めていた産婦人科医。16年前に突如失踪。その後の行方は不明。彼がいつ殺されたのかはわからないが、最長で考えるなら、16年前ということになる」

 

つまり最長で16年間隠し通された死体ということ。あの祠の裏の洞窟。確かに人目につきにくくはあるが、入ろうと思えば成人男性でも入れて、埋めた形跡もなく野晒し状態。それが16年間も見つからないはずがない。カラスや野生動物が食い荒らさないはずがない。

 

「あの死体はごく最近───下手をすれば今日、オレ達が呑気に観光している間にあの場所に移されたんだ」

「…………なんで?」

 

ついに我慢できず、あかねが疑問を口にしてしまう。なんで?なんで16年間も隠すことができた場所から、わざわざあんな見つかりやすい場所に移す?祠の裏の洞窟。確かに人目につきにくくはある。が、あの祠にお参りする人だっているだろうし、子供が興味本位で入ってしまうこともあるだろう。まして埋めたりバラしたりもせず、野晒し状態だった。見つかるのは時間の問題だっただろう。なんでそんなことをするのか。犯人にとってはリスクしかない行動だ。移動中を誰かに見られれば問答無用で一発アウトだし、見られなくても、死体を発見されたことでその罪が自分まで遡る可能性はある。なんでそんなリスクしかない行動を取ったのか、あかねにはわからなかった。

 

「…………多分、警告だ」

「───警告?」

「宮崎で余計なこと嗅ぎ回ったらこうなるぞっていう、警告。黒幕から、恐らくオレへ向けてのな」

 

あかねの背筋にゾッと寒いモノが奔る。確かにそれなら全て説明がつく。身元が分かりやすくされていたのも。死体が見つかりやすい状態だったのも。そして、アクアがオレと一緒にいては殺される、と言った真意も。矛盾は何一つなく、綺麗に筋は通る。通ってしまう。

 

「誰かさんはオレが宮崎に行くことを知っていた。そこでオレが自分探しするつもりだったことまで知ってたかはわからねーが、どっちにしろそいつが探って欲しくない何かが宮崎にあるのは間違いないだろう。だからあの場所に死体を移した。身元が分かりやすくなるようにして」

 

それが事実だとすれば、その誰かさんはアクアとかなり近しい。少なくとも彼の宮崎旅行を知っているほどの人物となる。

 

「見られていたのかもしれない。宮崎に来てからはもちろん、東京にいる時も。そいつはいつも近くで、オレを見ていたのかもしれない。もしかしたら、今この瞬間も」

 

周囲を見回したくなる衝動を必死に抑える。もしキョロキョロして監視がバレたと相手に思われたらかえってこっちの身が危なくなる。

 

「ごめん。一瞬、あかねを疑った」

 

ベンチに座るアクアは顔の前に両手を組み、祈るような姿勢のまま、呟いた。

 

「オレは宮崎旅行について、家族以外じゃあかねとあかねの家族にしか話してない。身内以外で知ってるのはメムと有馬とあかねだけだ。だがメムと有馬は今日ずっとスタジオで撮影してた。ならもうあかねしか……」

「私だって!」

「そう、あかねは今日ずっとオレと一緒にいた。死体遺棄現場を移したのが今日だとすればあかねもありえない」

 

ホッと胸を撫で下ろすと同時に苛立つ。私を疑わない理由はそんな現実的なモノではなく、もっと感情によったモノであって欲しかった。

 

「ならやっぱりアクアくんの考えすぎじゃない?今言ったアクアくんの推理だって証拠があるわけじゃないんでしょ?」

「ああ、証拠はない。最初に言った通り、現在手元にある情報と状況で考えうる最悪のシナリオってだけだ。外れてる可能性だって全然ある」

 

だが常に最悪を想定し、その最悪に対応する策を考え、計画を立てて行動してきた。そのアクアにとって今話した推理はとても考え過ぎで片付けられるものではなかった。

 

「それにあの死体に二つの違和感があるのは事実だ。死体遺棄現場の移動とクレジットカードを処分しなかった理由。これを一つの動機で説明するには、警告。少なくとも誰かしらへのメッセージとしか……」

 

考えられない。そう推理するアクアの気持ちもわかる。実際彼の推理は理論的で現実的だ。無視するにはあまりに大きすぎる可能性を孕んでいる。

 

「よく考えたら宮崎でMV撮るっていうのはメムがB小町のSNSで発表してたしな……それにオレが同行するって予想しても、こじつけとまでは言えねーだろう」

「…………なんでアクアくんにだけ向けた警告だって思うの?」

「ルビーにここまでの推理ができるとは思えない」

 

アイツの頭が悪いとは言わない。けどこんな最悪の可能性について筋道立てて推理できるかと言われればノーだ。誰もが持ってる二面性。言葉の裏とか行動の意味とか、深読みしないのがルビーの良いところなのだから。

 

「他のB小町のメンツは宮崎に何の関わりもない。わざわざ宮崎で警告する意味がない。やるなら東京でやるだろう。同じ理由でミヤコもない。となるとオレしかいない」

「───だとすれば…」

「そう、だとすればその誰かさんはオレについて相当知っているということだ。オレの思考回路もな」

 

もしあそこで、あの状態の死体を発見すれば。発見しなくても、死体遺棄は大事件だ。近いうちにニュースになって全国に報道される。そのニュースをアクアが見たなら。アクアはどう考えるか。その真意をどう読み取るか、ヤツは知っている。熟知している。だからこそのリスクを負ってでも発した警告なんだ。

 

ゴクッとあかねが息を飲み込む。アクアの推理は理論的で現実的だった。今この瞬間も見張られているというのもあり得るかもしれないと思わされた。恐怖と怖気があかねに息を飲み込ませた。

 

「…………怖くなったか?」

 

表情と行動から自身の聡明な彼女の心の内を読み取った星の瞳の少年は皮肉げに口角を歪める。しかし目は穏やかで優しげだった。

 

「それが普通だ。とゆーかオレなら逃げるね。あかねほどの美貌と才能の持ち主だ。男なんてほっといても寄ってくる。こんなヤバい地雷抱えたやつをわざわざ選ぶ必要──」

 

その途中で遮られる。頭を抱きしめられ、胸に顔が埋まる。青みがかった黒髪の美少女は彼氏の耳元に唇を近づけた。

 

「『お前はいつもそう。心にもないことを言う時、途端に饒舌になる。それで私はお前の心根を知ってしまうのさ。そのよく動く舌の奥に、秘め事が蹲っているのをね』」

 

東ブレの舞台裏、アクアがあかねに言ったセリフ。そっくりそのまま、声音すら似せて、女優は男優に囁いた。

 

「私に男の人は1人しかいないよ。貴方に救われて、この半年、お付き合いして、いっぱい怒って、いっぱい泣いて、いっぱい笑った。貴方だけが、私にとって唯一の男の人。私の神様」

 

イブの夜、貴方に抱かれた。貴方に私を捧げたあの日から、もう黒川あかねは星野アクアの女の子だ。

 

こんなに誰かに夢中になることは、多分残りの人生で一生無いと思う。

 

「大丈夫だよ」

 

朗らかな声であかねが断言する。続いた。

 

「アクアくんの推理が全部正しかったとして、それでも警告なら、これ以上アクアくんが何かしない限り、その誰かさんもこれ以上何もしないと思う。人1人殺すっていうのは、死体遺棄現場を移すより、よっぽどリスキー。まして貴方を殺すっていうなら最低でもあともう1人殺さなきゃダメなんだから」

 

あかねの言っていることは間違ってない。ここまで推理を話してしまったのだ。的中していたとしたら黒幕にとってあかねは充分排除対象だろう。アクアを消す上で恨みを持たれる可能性も高い。アクアを殺すならあかねも消す。その最悪は現実になりうる仮定だった。

 

「これからどうする?危険を覚悟で黒幕さんを追うなら私も手伝う。警告に従って引くのなら私もそうする。どっちも難しい、勇気ある選択だと思うよ。立ち向かうのも勇気なら、退くのも勇気。アクアくんならよく知ってるよね?」

 

よく知っている。自分に無理のない頑張らない選択をするというのは、頑張る選択をするのと同じくらい難しいこと。頑張らなければできないことなんて、やらない方がいいというのはアクア自身があかねに何度も言ってきた言葉だ。

 

───どうするべきか。立ち向かうか、退くか

 

「…………やめだ」

 

あかねを引き剥がし、諦めたと言わんばかりに両手を広げ、立ち上がった。

 

「元々あんま乗り気じゃなかったんだよ。自分探しって。中学の頃、そういう奴何人かいたけど、どうも懐疑的だったし」

「わざわざ遠くに行かなくても、自分はそこにいるだろ、的な?」

「そうそう。それにゴールもよくわかんねーし。ああいうのは大抵現状に不満がある奴がやるもんだけど、それなら旅とかする前にもっと身近でやることあるだろ、て思っちゃうし」

「だから今日、自分探しする?って聞いた時、微妙な顔してたんだね」

「4歳より前の記憶なんて憶えてねーのが普通だし、今生きる上でどうしても必要ってモノでもねーし。少なくとも命懸けてまでやる価値はねーよ。やめだやめ。今からはただの宮崎旅行に戻るよ」

 

吹っ切れた表情で振り返る。その様子にあかねはホッと胸を撫で下ろした。

 

「それが正解だと思う。凄いよ、アクアくん。勇気ある選択だった」

「あかねも明日はホテルで大人しくしてるか、出かけるにしてもオレと2人じゃなく、ルビー達と一緒にいろ」

「え!?なんで!!」

「見張られてる可能性あるって言っただろうが。事ここに至ってはオレと行動を共にするよりルビー達と集団で一緒にいる方が安全だ」

「そうかもしれないけど……」

 

アクアを見上げる視線に咎めの意図がこもる。アクア自身の心配をしている目だった。

 

「大丈夫。オレも基本ホテルから出ねーし、集団行動心がけるから。あかねが出かける時はオレも一緒に行くよ。ただ、2人きりはあぶねーからやめとこうって話。頼む」

「───条件一つ」

「なんなりと」

「今夜は、一緒に寝よう」

「…………わかった」

 

宿へと戻る道へと歩き出す。すぐにあかねもアクアに寄り添い、その腕に自身の両手を絡めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクアが今夜述べた推理。ほぼ完璧と言っていいモノだった。しかし、ただ一つ。間違っていることがあるとすれば。

 

それはアクアがあの死体を警告と受け取るだろうと黒幕がアクアの思考を読んだということ。

 

アレを自身の身の危険と結びつけられない程度の頭脳であるなら、警戒するまでもない。警告と受け取る程度に頭が回るとしても、それならそれでよし、という二面の策だった。

 

しかし警告と受け取るなら、アクアは退くだろうとは読んでいた。

 

───君は僕に似てるから

 

常に最悪を想定し、最悪を避けるために行動する。自分にないものを探していて、他者の才能を求めている。星を愛する星。彼は自分に似ている。なら危険とわかっている場所に足を踏み入れるより、退く方を選ぶと思っていた。

 

 

この推理。ほぼ完璧と言っていいモノだった。しかし、ただ一つ。間違っていることがあるとすれば。

 

 

星野アクアは彼の息子であると同時に、アイの息子でもあるということ。

 

 

天才を受け継いだ、俳優であるということ──

 

 

 

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
ちょっと早めの投稿。宮崎編で書きたかった所なので筆がノりました。推理パートでした。いかがだったでしょうか。原作の忠実さとあの時疑問を持った違和感を混ぜて、考察を重ね、拙作に落とし込んだ筆者の推理です。納得していただけているならありがたいのですが。
最後についてはまた次話で説明しますのでもう少しお待ちください。真の地獄ももうすぐです。
それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければモチベーション爆上がりです。時間がかかっても感想には必ず返信します。
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