真実を教えられた紅い星は神の社で祈りを捧げる
光と闇の狭間に堕ちた紅い星の願い
最も暗い刻、聞き届けるのはきっと神ではなく
「撮影しゅーりょー!!」
「みんな、お疲れ様」
まだアクアが病院にいる頃、B小町のメンバー達は重圧からの解放に身体を伸ばしていた。と言っても解放されたのはアイドル達だけで、アネモネはこれからが本番だが。それでもほぼ丸2日ぶっ続けで仕事をしていた有馬達を労った。
「残り時間はまあゆっくり観光でもしてってよ」
「明日の昼にはもう飛行機だけどね…」
「今から観光はする気になんないし、ホテルに戻る頃にはもう夜だし。ゆっくりする時間はほとんどないわね……とりあえず今日は温泉で心身ともに疲弊し切った身体を休めますかぁ」
「だねぇ」
有馬達の宿は掛け流しの温泉が目玉の一つ。一晩を休養に充てて、半日で観光が最も効率的な残り時間の過ごし方だろう。
「MVっていつ頃上がりそう?」
「そりゃもちろんなるはやで上げるつもり」
映像は撮り終えたし素材は充分ある。しかしそれらをつなぎ合わせ、一本の動画にしなければMVは成り立たない。オフライン編集で素材を切り貼り。1本の仮映像にしてから、一度依頼側がチェックを入れる。オンライン編集はそれからだ。カラコレ色味編集やCG、VFXなどで飾り立て、ようやく納品。
「まぁ来月には上がると思うけど」
「けど?」
「…………2本目は、ちょっと時間貰っていい?」
「いいけどなんで?」
「いやー…まぁねぇ」
二、三度髪をすくと、アネモネは含みのある笑顔で振り返った。
「商業クリエイターだって、ただのアーティストに戻りたい時はあるものよ」
期待や心地よい疲れにそれぞれが身を委ねる中、ルビーだけがずっと無表情だった。
▼
あかねの首筋。普段は服で見えないところに、まだアザがあった。ソレは虫刺されのように赤く滲んでいる。あの夜、クリスマスイブからまだ1週間経っていない。アザが完全に消えるまではもう少し時間が必要だった。
「平気だよ。嬉しかったから」
アザを労っているのに気付いたのか。柔らかく微笑んで、オレの首に手を回す。抱きあって、キスをして、肌を重ね合わせた。
「…………来て」
手を広げる。閉じられていた両足に手を掛かるとほとんど抵抗なく開いてくれた。
あかねの中に沈んでいく。やっぱりまだ慣れてなくて、狭いし、圧迫感がある。あかねの表情は痛いというより、苦しいという感じだった。
「わかる……イブの時は、色々ぐちゃぐちゃだったけど、今は全部わかる……感じる…」
あの時、アクアは痛みを誤魔化すために快感を促した。痛み以上の感覚であかねを塗りつぶした。しかし今はそこまで前戯に時間をかけてはいなかった。だから今は苦痛も快感も両方正しく感じとっているのだろう。
時間をかけるのはこれからだった。
アクアはずっと動かなかった。繋がったままキスをし、感度の高い場所を愛撫し、舌を這わせた。触れるか触れないか、ギリギリのタッチで。快感に慣れさせた。
「アクアくん……アクアくんっ!」
苦しそうな表情から、吐息に甘いものが混ざり始めたところで、アクアはゆっくりと動き始めた。
水音が立つ。
あかねが溶け始め、自分から動き始める。その動きと合わせ、少しずつピッチを早くし、強くする。
慣れてきたあかねの身体は何度も跳ね上がり、間隔も短くなって、強く締めつけられる。
あかねから、一層甲高い声が上がった。
腹部に生温かい何かが広がる。ビクビクと震え、オレの下で悶えるあかねを組み伏せ、耳元で囁く。
「あかね、オレのこと好き?」
身体を震わせながら、オレの肩を甘噛みし、コクコクと何度も首を縦に振る。貴方が好きだと言う。貴方だけが、私の神様だと。
「ずっとオレの彼女でいてくれる?」
喘ぎ声を噛み殺しながら、また何度も首を縦に振る。何があってもアクアくんの彼女でいる、という。
競り上がる快感を、2人とも解き放った。
▼
しばらく抱き合ったまま、横たわっていたが、そろりとあかねが起き上がる。裸体を毛布で隠すと同時にアクアが寝返りを打った。目が合うとあかねはちょっと怒ったような顔をして、ぽすんとアクアを叩いた。
「アクアくん、ベッドの上だと意地悪だね。私、何度も待ってって言ったのに」
「ごめんごめん」
「許してって何度も言ったのに。全然許してくれなかった。もう無理って何度も言ったのに、ぜんぜん」
「ごめんって」
「そんなことしなくても、私どこにもいかないのに。私はアクアくんの女の子なのに」
オレの上に覆い被さり、オレにくっつく。優しく口元にキスをされた。
「私、もう離れられないよ。とっくにアクアくんに狂っちゃったから。だからそんな事で繋ぎ止めようとなんてしなくていいの。何があっても。あなたがどれだけ罪を犯しても、私はアクアくんの女の子だから」
アクアがまだ何か、隠しているのはわかってる。自分を利用しようとしているのも知っている。それでもいいとあかねは思ってる。利用し、利用されるのは世の常だ。彼氏彼女だって例外じゃない。世間体、ルックス、ステータス。そういったものが交際関係にまるでないなどというカップルなど存在しないだろう。それでもいい。
私だけが、星野アクアの女を堂々と名乗れるのなら。
彼の隣で、彼の女として立てるなら。世間に認められ、たくさんの人に祝福され、人目を憚らず堂々と彼に侍ることができるなら。それ以外のおこぼれは構わない。
いずれアクアは日本中が知る俳優となるだろう。天才の名を欲しいままにするだろう。そして眩いスポットライトの下、隣に立てるのは自分だけ。他の女はせいぜい日陰で彼の慈愛を受ける程度ならば、構わない。太陽を独占することなど本来不可能。だが、自分は今限りなくその場所に近い位置にいる。
───あ…
どこか遠くから、鐘の音が聞こえてくる。年の終わりを、そして年の始まりを知らせる鐘。108回の振動で煩悩を祓うとされる日本の伝統行事。全国で執り行われるソレは宮崎でも変わらなかった。
「明けましておめでとう」
「今年もよろしくお願いします」
ベッドの上でギュッと両手を握り合う。本当に色々あった一年だった。一年前にはこんな事になるなんて想像すらしてなかった。
生まれて初めて演技以外の仕事をして。炎上して。自殺しかけて。でも神様みたいなこの人に救われて。恋に落ちて。ビジネス彼女としての生活が始まって。どんどんアクアくんのことが好きになって。クリスマスイブで初体験をして。年末の家族旅行を蹴ってアクアくんに着いてきて。事件に巻き込まれはしたけど、結果的に私とアクアくんの絆は深くなって。正式に彼氏彼女になって。一年の終わり。最後の夜に、再び肌を重ねた。そして今、一緒に年を越した。
「不思議な感じ」
「何が?」
「去年最後に会ったのがアクアくんで、今年最初に会ったのもアクアくんなんだなって思ったら」
心の奥がくすぐったくて笑ってしまう。別にドラマチックでもなく、特異なことでもない。平凡な、当たり前のこと。でもその当たり前があかねにとっては特別で、いつかこの特別を当たり前にしたいことだった。
「これから先も、ずっとそうだといいね」
「…………そうだな」
「ずっと、一緒にいようね」
「…………ああ」
アクアの声はいつも通りだったけど、少し躊躇の色があった事をあかねは感じ取った。
───ちょっと、重かったかも
嬉しくて、浮かれて口にした言葉に少し後悔する。アクアが自身を縛るタイプの女が苦手なことは知ってるつもりだったのに。反省したあかねは握った手を放し、軽い口調と共に毛布を身体に纏い、ベッドから起き上がった。
「私、もう一度温泉入ってくる。色々綺麗にしなきゃいけないし」
「ああ」
「その後はルビーちゃんたちの部屋で寝るね。今日は一緒に泊まるって約束だったし」
「言えよ。もっと早く済ませたのに」
「えへへ、お休みなさい」
「お休み、あかね」
最後にもう一度キスをする。長時間の歩きによる気怠い疲れ。情事の後の開放感。そして多大な罪悪感の中、アクアは目を閉じた。
▼
旅館の女湯。露天風呂であかねは夜空を見上げながら放心していた。
───この旅行は、色々ありすぎたなぁ
宮崎でのアクアとのデートまでは計画通りだった。そして平和だったのはそこまでだった。それ以降はもうめちゃくちゃ。死体遺棄の発見に加え、アクアから語られた推理。身の危険を顧みず進むことを選んでしまったアクアを見送ることしかできなかった後悔。帰ってきた時の心からの安堵。
そして先ほどまでのセックス。
初めてした時のイブの夜とは全然違った。最初は苦しかったけど、アクアくんのキスや愛撫でだんだんと蕩けてきて、苦しさはいつのまにかなくなり、快感へと変わった。声が抑えられず、震えが止まらず、快楽の奔流に流された。
『オレと、付き合ってくれ』
思い出すたびに心臓と下腹部がキュッとなる。今日、改めて告白してくれた。あの夜、アクアくんが稽古で倒れたあの時から、私はもうとっくに恋リアではなくなってたけど。アクアくんもきっとそうだと、うすうす分かってたけど。それでもやっぱり実際に言葉にしてくれると嬉しいものだ。思い出すだけで顔がニヤける。頬が熱くなる。ブクブクと温泉の中に顔をつけて息を吐いた。
───男と女。ビジネスでもセフレでもなく、正式に彼氏と彼女。
嬉しい。ニヤける。コレからもっと考えなきゃいけないことがたくさんあるはずなのに、もう何もかもどうでも良くなってしまう。
下腹部の辺りを撫でる。ついさっきまで、ここに彼がいた。私の中に入って私を埋め尽くしていた。まだ中に何か入っているかのような異物感がある。避妊具はあったけど、限りなく彼と一つになれた。
「顔赤いわよ。のぼせる前に上がりなさいよね」
思わず身体が跳ね上がる。後ろめたいことをしていたからか。それとも声の主が自分にとって特別な人だからか。わからないが、温泉で温まっていたはずの身体が一気に冷えた気がした。
「何ビビってんのよ。オバケが出たとでも思った?」
「うん、ちょっと……ぼーっとしてたから」
ザブンと水音が跳ねる。頭にタオルを置いた有馬かなが、あかねの隣に座り込んだ。
「ま、今くらいは気を抜いててもいいんじゃない?映画の撮影始まったら、それこそボーッとしてる暇なんてないでしょうし」
さっきとは違う意味で少し心臓が跳ねる。映画の主演のオファーが届いた事はつい最近だったのだが、業界には思ったより広まっているらしい。
「売れたわねぇ。アンタもアイツも」
「そんな事ない……上映館数多くない映画だし。アクアくんのオファーの数に比べれば私なんて…」
「他人や配給で比べる必要なんてないでしょ。主演よ主演。充分すごい事じゃない」
映画という90分の長丁場の作品。キャストだけでもエキストラを含めたら一体どれだけの人間が関わっているかわからない。その中の主演。確かにすごい事だ。一生をかけてもそこまで辿り着けない役者なんてゴマンといる。謙虚が嫌味に聞こえておかしくない立場だ。
「羨ましいわ。アンタも、アイツも」
赤い髪の少女は頭に置いていたタオルで顔を隠す。悔しさも羨望も、目の前の女には見せたくなかった。
「これからがアンタにとってもアイツにとっても大事な時期よ。この波に乗れるかどうかで役者としての今後が決まる。なのにアクアは山程のオファー片っ端から断ってるらしいし、アンタもこんな旅行に着いてきて。一体何考えてるか私にはわからないわ」
「アクアくんだって大変だったんだよ。かなちゃんも知ってるでしょ?あの舞台はアクアくんが倒れちゃったの。あの深度でのトリップを一ヶ月ぶっ通しで続けた。休みを入れないと壊れちゃうよ」
「だからって全部断る必要ないじゃない。仕事選り好みしてたら人はあっという間に離れるって事、教えてやらなきゃね。まったく。あいつはホント、私がいないとダメなんだから」
あかねの頭の中でカチンと音がする。今かなちゃんは私に明らかにマウントをとりに来てる。同じ事務所で、出会ったのは十三年前で。付き合いの長さからくる自負をぶつけられてる。
「前に話したかしら。クリスマスの夜、六本木のバーで一緒に食事した時も、アクアが私に迎えに来いって言ってきてね。まったくめんどくさいったらないんだから。お礼にピアノ弾いてくれて、家までバイクで送ってくれたから、チャラにしてあげたけど」
「…………前から気になってたけどさ。なんで、かなちゃんはアクアくんのこと呼び捨てにするの?」
「あら、気に障った?付き合い長いからね。私もアイツも。どうしても砕けた感じになっちゃうのよ。でもいいでしょ?アンタは恋リアのビジネス彼女なんだから」
「もう恋リアじゃないもん。私も、アクアくんも」
湯船から立ち上がる。カチンときて、湯だった頭のまま、言ってしまう。
「私、アクアくんとしたよ」
「…………なにをよ」
「多分、かなちゃんがまだしたことないこと。十三年の付き合いがあっても、かなちゃんがアクアくんと一度もしたことないことを私達はした。私は他の男の子には絶対させないことをアクアくんにさせてあげた」
湯船の中にいながら、有馬の顔が青ざめる。一瞥すると、あかねは湯船を出た。
「じゃあね」
毅然とした態度で露天風呂から出る。誰もついてきてないことを確認してから、あかねは扉を背にしゃがみ込んだ。
「最低かな、私」
こぼれ落ちた雫は温泉の水滴ではなかった。
▼
それぞれの思惑が交錯する中、夜が明ける。朝食など、一通りの事を済ませた後、B小町メンバー達の宮崎観光が始まった。と言っても昼には飛行機に乗るため、回れる場所は限られている。バラバラに観光されても困るため、すでに観光済みのアクアとあかねも同行していた。
「ここが荒立神社かー」
「そう、芸能の」
「やっぱり役者志望のお参りも多いわねー」
飾られた絵馬を眺めながら、有馬が感想を述べる。役者になれますように、という願いが込められた絵馬がいくつも飾られていた。
「木の板を槌で叩くと一拝の効果があるんだって。せっかくだからお参りしていこー!」
木の板をたたき、メンバー三人とミヤコが釣鐘の前に立つ。しかし六人のうち、一列に並ぶ4人から2人だけ離れていた。
「アクたんは?」
「言わなかったか?オレ神様信じてねーの。何事も神頼みはしない主義」
「うわー、相変わらずスーパードライ」
「この世界、目に見えない力はあるのよ。バチ当たっても知らないから」
「あかねちゃんは?」
「私は一昨日お参りしたから」
遠慮するように手を振る。特にそれ以上追求はなく、4人は手を合わせ、熱心に神に祈りを捧げていた。
「アクアくん」
社務所で何かを買っていたアクアの隣に来たあかねが耳打ちする。袋に入ったソレをさりげなくバッグに入れながらアクアは感覚を耳に集中させた。
「ルビーちゃんから、アクアくんが役者をやってる理由について、昨晩聞かれた」
僅かに眉が動く。アクアが演技が好きじゃないことも、役者に執着がないことも、ルビーは知っている。特級の才能を持っていながら、モチベーションは低い。それでも12年以上、アクアは芸能界にとどまり続けている。疑問に思ってもおかしくはない。
───が、それをオレに直接聞くのではなく、あかねに聞いてくるとは。
ルビーにしては随分小賢しい事をしてくる。いつでもまっすぐ当たって砕けろがアイツのモットーなのに。
「なんて答えた?」
「…………会いたい人が、いるんじゃないかって」
出てきた言葉は当たらずとも遠からずな答え。ぼかしてはいるが、咄嗟に嘘が思い浮かばず、つい言ってしまったらしい。
「好きな女優さんとかだよって、言い訳はしておいたけど…」
「わかった。合わせとく」
お参りが終わる。それぞれの願いが誰に通じたのかは、わからなかった。
後日、フリルの下に荒立神社のお守りが贈られた。赤い布の袋には金の刺繍で安産祈願と書かれている。
「…………無神論者のくせに」
淡い翠色を帯びる黒髪の少女はその日から守り袋を毎晩抱きしめて眠った。
▼
旅行が終わり、あかね達を自宅へと送り届け、アクア達も帰宅する。それぞれが各々の時間を過ごしている中、事務所のとある一室の前に少年が立つ。風呂上がりなのだろうか。身体からは僅かに蒸気が立っている。蜂蜜色の髪は普段より一層艶やかな輝きを放ち、桜色に火照った頬はどこか艶っぽい。
しかし熱くなっている身体に対し、青の瞳は暗く沈み、星の光は闇の中で輝いている。
青年の名前は星野アクアと言った。
「入って」
ドアを拳で鳴らすと鍵が開く音がする。部屋着でラフなスタイルをした妙齢の美女が出迎えた。あちこち無防備な姿で人によっては生唾を飲み込むほど扇状的だったが、少年の欲求は義母に向かうほど溜まってはいなかった。
「…………あまり休めなかったみたいね」
「旅疲れだ。気にするな」
義息子から疲労の色が抜けていない事を察した義母は痛ましさに眉を顰める。白骨化した死体などという人によっては一生のトラウマになっておかしくないものを見てしまった。1日2日程度で払拭できないのも無理はない、と目の下にクマを作ったアクアを憐れんだ。
「それで?話って?」
努めていつも通りに振る舞うアクアを見て、ミヤコも必要以上に気を使うのをやめる。そういうのを嫌う少年であることはよく知っていたから。
「アネモネさんから昨日までで撮った映像を送ってもらったの。観てくれる?」
「ああ」
パソコンを立ち上げ、映像が流れる。1日目は概ねアクアが見た通り。日常風景のメンバー達の何気ない可愛さを切り取った動画が流れ、ダンスパートへ移る。映像で見ても評価は昨日と変わらなかった。このままでは、厳しい。
映像はそのまま2日目へと移る。MVの外ロケ。大自然の中、真冬の小川で戯れる少女達。映像の中で寒そうな顔一つ見せないのは流石だと感心した。やはりこの中で誰よりも目立っていて、可愛さに『説得力』があるのは、有馬かな。
───頑張ってる。頑張ってるけど……頑張っちゃってるなぁ
自分が目立つために頑張ってる。言い換えれば頑張らなければ目立てていない。有馬は元々アイドルに対し、そこまで乗り気ではない。故にこの手の活動をするため、自分に鞭を打っているように見える部分がある。多かれ少なかれ、仕事に対してそういうメンタルの奮起は誰もがやってることだが、このMVを観る限り、有馬はずっと頑張りすぎだ。努力に対し、結果が伴わなければ有馬はきっとこの鞭を緩めることはないだろう。しかしそうなるといずれ張り詰めた糸が切れる日が必ず来る。
───頑張らなくても視線が集まってしまうのが、本物。
本来そこまでを求めるのは高望みしすぎだ。芸能界全体を見てもそんな本物など数人しかいないだろう。
しかし、数人は、いる。
十年に一度の才能と呼ばれたアイ。恋リアでそのアイをトレースした黒川あかね。今日病院で会った不知火フリル。
そして、星野アクア。
これらの数名が放つ、強烈な光。
火に群がる蛾のように。近づけば燃やし尽くされるとわかっているのに、吸い寄せられて、目が焼かれる。
人を騙す眼の持ち主。嘘を真実に見せる力を持つ者たち。
───そこまでになれ、とは言わないが……理想と現実のギャップに有馬が潰される日は思ったより早いかもしれない
そうなってしまったら、メンバーの支えなどが必要になってくるわけだが、メムはともかく、ルビーにその手のサポートは……
───え…
途中から、有馬やメムが全くカメラに入らなくなる。明らかに、露骨に比重が偏る。オレの視線も吸い寄せられてしまう。まるでブラックホールを覗き込んでいるかのように。
無表情のまま、真冬の冷たい小川に素足で踏み入り、波紋を作る。そのまま膝から崩れ落ち、下半身全て水に浸かる。それでもまるで何も感じないかのように、凍りついた無表情は崩さず、紅い瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
今まで『顔がいい』だけだった星野ルビーに、オーラが纏われる。暗く、恐ろしく、冷たい。けれど見てしまう。かつて、『今日あま』でアクアが見せたような、強烈なオーラが、周囲全てを食い荒らした。
「…………どう思う?」
ミヤコから尋ねられる。見せたかったのはコレなんだ。纏う雰囲気が明らかに違う。昨日と比べて、というレベルではない。アイやフリルのような眩い光ではないが、魂ごと引き摺り込まれるかのような引力。ハマるヤツは中毒になるくらいハマるのではないだろうか。そんなオーラ。
「少し前の貴方とよく似てる。怖いけど、つい見ちゃう。そんな雰囲気」
「オレってこんなだったのか?」
「こういう変化は過去が現在に与えた影響が大きく関係している」
身をもって知っている。トリップのきっかけはいつだって過去のトラウマだった。
「…………ルビー、まだ起きてるか?」
「ええ、多分」
「ちょっと話してくる」
「お願い」
事務所を出て、居住スペースとなっている自宅へ上がる。その中の『ルビーの部屋』と書かれたドアの前で3回ノックした。
「ルビー、オレだ。入っていいか?」
「…………」
無言で扉が開く。許可が出たと認識し、ルビーの部屋へ足を踏み入れた。
暗い部屋の中で佇む少女は、先程映像で見た時よりもさらに強い引力を放っているように見える。
星野アクアと星野ルビー。
同じ母の胎から生まれた双子。
1人は星をなくした子、1人は星を追いかける子。
あり様は真逆。けれど彼らが立つ場所は同じ。
運命の旅を終え、光と闇の狭間で揺れる兄妹が、向かい合った。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
宮崎旅行編クライマックス。次話で星をなくした子の序章が完結予定。(なげーよ)。光と闇の狭間に立つ兄妹の会話は2人をどちらに堕とすのか。そして堕ちた後こそがこの物語の本番です。どうかお付き合いください。
以下本誌ネタバレ
遺伝子の残酷さよ。
ルビーもうほぼ同一人物じゃん。残酷すぎる。でもあれだけ瓜二つなら親子関係公表しておいたのは好手だったのでは?気づく人絶対いるでしょ。あと拙作のアクアが扮するレンもそっくりだっただろうから解釈一致で安心しました。筆者もですが、やっぱり赤坂先生も人の心が……
そしてなにより『15年の嘘』でフリル様の演じる役がなんと姫川愛莉!マジか……マジかぁ!解釈一致で済まない合致!筆者の考察力も捨てたもんじゃないね!…………調子乗りました。絶対偶然です。本誌で見た時震えたのは筆者だけだろうなぁ。拙作で『15年の嘘』演じる時アクアとフリルは何を思うのか(地獄)。二人に取材を重ねて描いていきたいと思います。
それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければモチベーション爆上がりです。時間がかかっても感想には必ず返信します。