【本編完結】星をなくした子   作:フクブチョー

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誰しもに平等な183日間
けれどその時間の使い方は平等ではないだろう
躍進の差を考えてはいけない
それは抱えた業と覚悟の差なのだから


83rd take 躍進の差

 

 

 

 

 

 

B小町のMV撮影から、半年が過ぎた。

 

「ええ。うちのルビーをですか?もちろん構いません。では企画書の方、お待ちしてます」

 

B小町は今や、ブレイク寸前の特有の空気を持つグループになりつつある。

 

きっかけはやはりあのMV。ヒムラさんとアネモネはこちらの期待以上の仕事をしてくれた。

 

アネモネの仕事は正直良い仕事かと言われれば微妙だった。アレはMVというよりプライベートアート作品と言っていい代物。通常の万人受けするMVとはかなり毛色が違った。しかし──

 

「刺さるやつにはめちゃくちゃ刺さるだろうな。巷に溢れかえってるありふれたMVより良いと思うぜ。新規でもコアなファンがつきそうなVだ」

 

元々芸術家肌のアクアには高評価だったようで、それはネットの反応でも同じだった。

 

洗練されたヒムラさんの楽曲。そこに乗ったアネモネのアート。

 

通常のアイドルMVと比較しても明らかに頭一つ抜けた完成度となり、再生回数はナント2000万回を突破。これは大手のアイドルグループと比較しても遜色ない数字。勿論火種となる基盤は作っていたし、打てるだけの広告戦略はMVがアップするまでの期間でできるだけ打った。

 

けれどこれはデビュー1年未満の新人アイドルが叩き出せる数字じゃない。

 

そして、その数字の中心に座したのは、間違いなく星野ルビー。

 

ルビーはどちらかというと天真爛漫さを売りにしていたが、今回のMVでは今までにないミステリアスでダークな雰囲気を纏い、何かを強く訴える視線は、観る者の心になんらかの爪痕を残した。

 

私達はあの瞳に見覚えがあった。

 

ストーカー撲滅PVで全てを食い荒らし、『今日あま』の最終回を私物化した男と同じ瞳。

 

最初期に星野アクアが纏っていた。周囲の視線を自らに引き摺り込む、魔性のオーラだった。

 

「血は争えないって事なのかしら」

「やっぱりアクたんとルビーには、何か特別なものがあるんだろうな………」

 

この機を逃すわけにはいかないB小町はSNS界を東奔西走。バズが新鮮なうちに大手ユーチューバーとのコラボをいくつか実現させたり、他チャンネルに定期的に呼ばれるくらいの関係性を築いた。

 

ネット戦略で最も活躍したのはメムちょだった。

 

自身の活動内容を削ってまでB小町の活動に専念。企画動画やshort動画の増加。長時間生放送も実施。それだけでなく動画編集者や切り抜き屋との交渉。及びキッズ向けやグッズ販売向けの動画などにもオファーを出し、横の繋がりを強化した。

 

全ては、一時的なバズではなく、コンスタントな導線の確保のため。

 

一回限りの視聴ではなくリピーターを増やす。継続的に客が入ってくるシステムの構築のため、メムちょは八面六臂の活躍を見せた。

 

そのおかげもあり、今やB小町の登録者数は36万人。ユーチューブから銀盾が届き、いずれ金盾も夢ではないレベルにまで来ている。

 

そしてルビーには個人的なオファーも増えていた。きっかけはコラボ動画におけるこの一言だっただろう。

 

『好きな男性のタイプは?』

『結婚するならどんな人がいいですか?』

 

アイドルをやっていれば必ずされる、アイドルの恋愛は許されないが、ファン達のガチ恋は許される。観ている人たちに夢を与えるためのこの質問。優しい人とか仕事をわかってくれる人とか、無難な答えを返す有馬やメムちょと違い、1人だけ具体的に、そして胸を張って断言してみせた。

 

『どっちもお兄ちゃんです!』

 

実現不可能、かつ可愛らしいこの答えはルビーの天真爛漫なキャラクターを強く後押しするもので、ファン層にめちゃくちゃウケた。ファンが安心して推せるブラコンアイドルとして人気を博し始める。

 

【ルビちゃんかわいい!】

【ブラコンカワイイヤッター!】

【あの星野アクアだから、仕方ないね!】

 

などのコメントがSNSで溢れ返った。

 

アクアの飛躍も相まって、ルビーの知名度はこの半年で急速に上がる。B小町のセンターを務めてるのは有馬かなだが、中心人物はもはやルビーであり、寧ろメムや有馬がバーターと化しつつあった。

 

「あかねも頑張ってるなぁ」

 

ネットニュースに時折あかねの名前が上がるたび、メムちょは少し嬉しくなる。あかねは初の主演映画の公開を控えていて、ドラマも何本か撮影が始まるらしい。

 

実力派女優としての地位を着実に築き始めている。もはやB小町も黒川あかねも芸能界で軌道に乗ったと言っても過言ではないだろう。

 

「この人は、そんなレベルじゃないけどね」

 

ウィンドウの中でカッコつけて大写しになっている金髪アシメの美少年の顔を指で弾く。今やこの男は渋谷の街中に溢れかえっており、若手マルチタレントの代名詞と呼べるほどの地位を確立させていた。

 

メムにとって、というか苺プロにとって、この半年で最大の衝撃。なんとアクアが大手事務所への移籍を発表したのだ。

 

前々から今ガチにおけるフリルとの関係から、誘われてはいたらしい。そしてあの東京ブレイドの活躍を経て、本気で勧誘をかけたそうだ。アクアも結構悩んだみたいだけど、最終的に移籍を決めた。

 

一度だけ、軽い送別会のようなものが執り行われた。もっと荒れるかと思ったが、ミヤコさんも有馬ちゃんもルビーも穏やかだった。表面的には。

 

「向こうに行っても頑張りなさいよ」

「済まないな、ミヤコ。これからって時に」

「いいのよ。打診があったのは知ってたし、移っていいって言ってたのも私だしね。それに正直コレから貴方とB小町二つの面倒を見るのは私だけじゃキツいと思い始めてたから。貴方はウチみたいな小さな事務所に収まる器じゃなかったのよ」

 

花束を受け取りながら、頭を下げる義息子の頬に義母が手を添える。顔を上げて、と言われてようやくアクアも頭を下げるのをやめた。

 

「それに移籍金はがっぽり貰ったしね。はるか先の益より目先のお金の方がウチみたいな中堅は大事よ」

「ははは…世知辛いな」

「それに、今までは身内故の躊躇いがあったけど、コレからは堂々とできるから」

「?」

 

疑問符を浮かべるアクアの唇をミヤコさんが奪う。親子がやってはいけない深度のキスを私たちは見せつけられた。

 

「身内の贔屓目って思われたくなかったから今まではコソコソしてたけど、これからは一ファンとして堂々と貴方のことを推させてもらうわ。それと恩を感じてるならこちらからのオファー断らないでよ。知ってるでしょ?私、イケメンと仕事するためにこの世界に入ったんだから」

「…………前向きに検討させていただきます、ミヤコ社長」

「ミヤコさんずるい!私もするー!お兄ちゃん、いってらっしゃいのチュー!」

「やめろルビー。気持ち悪い」

「ひどい!」

 

そんなドタバタが繰り広げられはしたが、比較的穏便にアクたんは苺プロから移籍していった。

 

次の日、二日酔いでグデングデンになってるミヤコさんを見て、やっぱり本音は移籍させたくなかったんだなぁとよくわかった。

 

「良かったのぉ?有馬ちゃん。アクたん止めないで」

「止められないわよ。私がアイツでも同じ選択するもの。中堅どころで才能を磨いて実力を伸ばして、力をつけたところで大手へ移籍。才能ある芸能人のスタンダードなステップアップよ。蹴る方が愚かだわ」

 

理解しているようなことを言ってはいたが、アクアが移籍した前と後で、有馬かなは確実に雰囲気が変わった。僅かな変化だが、MV撮影の頃にはあった、太陽感がなくなり、そしてその代わり……

 

『みんなー!!今日は来てくれてありがとー!!』

 

直視することも難しい眩さをルビーが放つようになり始めた。

 

動画で見せたミステリアスでダークなオーラ。けれど舞台では煌めくスポットライトの光に変わる。意図してやっているとは思えなかったが、このオーラのギャップは確実にルビーをB小町の中心へと立たせる力になっていた。

 

───そしてそのオーラを自在に使いこなす方は…

 

ユーチューブのお気に入り登録された動画。その中にはアクアが1人で歌っているサムネイルが映っている。

 

そう、アクアは今、歌手としての活動も積極的に行っていた。

 

きっかけはとあるドラマ。噛ませでもなんでもなく、紛れもなく主演を務めた作品が、星野アクアの名前を決定づけた。

 

『リバーシ・アイドル』

 

通称『リバドル』。人気コミックが原作のドラマ。

 

主人公は男子高校生、川原ルイ。幼馴染でアイドルを目指す女の子、茅野雫から、緊張を緩和するため、一緒にオーディションを受けてくれと頼まれてしまう。

 

『お願い!一緒にオーディション受けてくれるだけでいいから!』

 

最初は当然拒否するが、子供の頃からの夢を知っている彼は、まあ一緒に受けるだけなら、仕方なく承諾する。

 

『な、なんだコレはぁああああ!!?』

『わぁ、凄い。ルイのこと昔から中性的とは思ってたけど、実際に形にすると凄いクオリティ』

 

雫の手によって変装させられた姿はどう見ても女の子の姿だった。

 

『あれ?言ってなかった?女性アイドルグループだって』

 

そして、それから一悶着あったが、一度受けると言ってしまった以上、約束を破るのも気が引ける。仕方なく受けたそのオーディションになんと2人とも合格。ルイは合格を辞退しようとしたが、雫に一緒に入ってくれと懇願される。

 

『一緒にやろうルイ!周り知らない女の子ばっかりで私不安!いじめられそう!』

 

泣き落としで懇願された後、女装した写真を脅しのネタに使われ、雫がグループに慣れるまでの短期間なら、と受諾。

しかし才能を持って生まれてしまったルイはなんとグループのセンターに抜擢。なんやかんやと引くに引けない状況になってしまう。

 

『ふーん、カッコいいじゃん』

『私を差し置いてセンターに選ばれたからって調子乗らないでよ』

『アンタって男みたいね』

『なんでアンタなんかにドキドキするのよ!』

『アイツじゃなくて!私を頼ってよルイ!幼馴染でしょ!』

 

何人ものアイドルに囲まれ、身バレの危険を伴いながら、愛憎渦巻くアイドル界で戦うラブコメ作品。

 

学校では男子高校生。外ではアイドルという役。

 

本来なら不知火フリルが男装して務める予定だったこの主演。体調不良と学業への専念を理由にフリルは芸能活動の自粛を発表。日本で最も売れてるタレントだし、忙しすぎるのは大衆すら知っていた事だったから、この発表にはSNSでも同情的なコメントがほとんどで、批判などは全くと言っていいほどされなかった。

 

そしてガクッと仕事を減らした彼女の代わりに、白羽の矢が立ったのが星野アクア。唐突に割り振られた主演を、星の瞳の少年は完璧に演じ切ってみせた。

 

アイドルもののドラマなのだから当たり前だが、劇中で歌うシーンもダンスを踊るシーンもある。ギター演奏しながら歌うシーンさえあった。そして一度やるとなったら手加減はできないのが星野アクア。持って生まれた美声と運動神経。そして鍛え上げられた歌唱力とダンススキル、元バンドマンの腕が世間の目に晒され、認知されるところとなる。

 

代役(スタント)及びNG行為一切なし。全て星野アクアが演じ、星野アクアが踊り、星野アクアが歌っています』

 

という広告の下、撮影されたこのドラマ。公式アカウントには証拠として、アクアが女装するまでのメイク動画や実際に歌っている動画。OKテイクののち、ウィッグを外したり、メイクを落としたりしているメイキング動画などがアップされる。

 

『星野アクア!?美少女すぎ!』

『歌こんなに上手いの!?』

『ダンスキレキレ!絶対なんかやってた!』

『ギター演奏シンセとかひき振りじゃなくてコレマジで弾いてるやつじゃん!』

 

などなど。動画がアップされる度にSNS界隈は大騒ぎとなり、万バズが毎週ドッカンドッカン発生した。

 

演技力は言わずもがな。トークスキルもすでに周知されている。その上で見せた歌とダンスの高いスキル。演技だけではない。バラエティの司会や楽曲など、多岐にわたるアクアへのオファーが殺到するのは必然だった。

 

「できるのは知ってたけど、あの子が嫌がるから。そういう仕事はさせなかったのよ」

 

ミヤコさんが言っていた。アクアは中学時代、バンドマンとして活動してたことがあり、ステージで歌っている姿も見たことがあったと。けれど本職の世界を見てきたアクアにとって、自身の歌唱力は大したものではないと本気で思っており、中途半端な実力をひけらかすようなマネはしたがらなかった。故にミヤコは敢えてそういう仕事をさせなかった。義息子に意外と甘いミヤコらしい配慮だった。

 

しかし、大手にそんな甘えは許されない。

 

バズが新鮮なうちにオリジナル曲を作り出し、アクアに歌わせ、MVの制作に取り掛かる。この半年で発表されたMVは【star's mine(星は僕のもの)】と【俺を忘れた私(アムネジ・アイドル)】の二曲。

一曲目は聞いてるだけで力が湧き出るようなハードロック。二曲目は穏やかで物悲しいバラード。

 

ギター&ボーカルを務めたのは星野アクア。

 

劇中で歌われた曲も含め、これらのMVはあっという間に再生数1億回を突破。

 

そして先月、星野アクア作詞作曲の新曲【ロスト・チャイルド】がリリース。

 

夢を求めて、理想を演じるうちに本当の自分がわからなくなるアイドルの心情を幻想とリアルを絶妙のブレンドで交え、生々しく、けれど美しく綴られた歌詞。明るい曲調の中でも、時折と闇を感じさせるメロディはティーンだけでなく歌詞の意味がイマイチわかっていない幼い子供たちの心にも爪痕を残した。

 

数々のランキングで一位を総ナメ。ストリーミングも一ヶ月間トップを独占。今年の紅白の出場もほぼ確実視されている。

 

半年前までSNSの活動なんてまるでしていなかった星野アクアの公式アカウントの登録者数は70万オーバー。ユーチューブはやっていないが、もしやってたら軽く100万人以上の登録者をマークしていただろう。

 

ずば抜けたルックス。第一線で戦い続けているベテラン達と混ざっても光り輝く演技力。特に感情演技の評判が高い。

 

『まるで画面を突き抜けて伝わってくるかのような表現力』

『喜怒哀楽全ての感情が真に迫る』

『敵役にも味方役にも愛を感じる。キャラというか、共演者を大事にしてる』

 

薄っぺらではない本物の真心がこもった感情演技。その眩さは星野アクアを照らすだけでなく、共演者も輝かせ、結果的に自分がさらに輝く。共演者達から芸能界へ、評価はあっという間に広がった。

 

星を愛する星はどの現場でも重宝され、高いコミュ力は評判を呼び、監督が求める理想的演技を120点のクオリティでやってのける新星。映像関係者はこぞって彼を使いたがった。

 

バラエティなどでは基本皮肉屋で毒舌クールな正論マシーン。しかし根っこは熱いキャラクター。高いトーク力にMC能力。音楽においても才能を魅せた。

 

【不知火フリルに肩を並べる才能】

【令和の福○雅治】

 

などなど。多種多様な異名で呼ばれ、俳優、ミュージシャン、バラエティ司会者。三つの軸を持ち、どの分野においても高いスキルを魅せた星野アクアは現在、天才の名を欲しいままにしている。

 

街中の至る所で流れるbgm。広告の動画。マルキューの看板。雑誌の表紙。今や日本中に星野アクアが溢れていた。

 

ここまでの格差を見せつけられるともはや対抗心はおろか、嫉妬すら湧いてこない。

 

端的に言い表すと───

 

「やってらんねー」

 

である。

 

この芸能界という伏魔殿で、B小町も順調と言って差し支えない。これ以上を望むのは贅沢と言える。

 

しかしこちらのボーナス貰っても足りないような努力と労働をあっさりと超えている姿を見せつけられれば。同じ半年という時間でこれほどの伸びの違いを見せつけられれば、この感想になるのも致し方ない事だろう。

 

「大手の力、か」

 

活動自粛したことによってできてしまった不知火フリルという大きすぎる穴。その穴を埋めるべく彼らは星野アクアをプッシュした。そしてアクアはその期待に十二分に答えた。与えられたチャンスを掴み、波に乗り、今やマルチタレントとして、不知火フリルと肩を並べる存在にまでのし上がった。

 

「けど、なんか違和感あるんだよなぁ」

 

アクアのこの半年の活動にメムちょは違和感を感じていた。

大手に移籍したからには今までのような甘えが許されなくなるのはわかる。けれどフリルの事務所は結構タレントに気を遣ってくれる方の大手だ。そうでなければ『東京ブレイド』はともかく、ネットバラエティにおいて最底辺と言っても過言でない恋愛リアリティショーの参加が事務所の意向のはずはない。

アレはアクアに会いたかったがためだけの、不知火フリルのワガママだった。そんなワガママを許す程度の緩さはあるはずだ。

 

それなのにアクアはこの半年、事務所の言いなりだ。身を粉にして尽くしている。演技、歌、ダンス、ギター、バラエティ。生まれ持った才能、培ってきた技術、惜しみなく放出し、殺人的スケジュールをこなしている。その忙しさは恐らく不知火フリルの全盛期に迫るほどだろう。

 

───アクたん、芸能界にそんなにやる気あったっけ?

 

才能はある。努力もしている。けれど何がなんでもトップに上がってやるというガツガツした熱さはなかったハズだ。求められる仕事はこなすし、やるとなったら全力でやる。けれど自分が気の進まない事はやらない。それで批判する人がいたり、地位を落とすというなら構わない。オレはオレのために芸能をやる。応援も批判もご自由に。

 

そんなクソ生意気な、けれどそれくらいの生意気は許される能力を持っている。それが星野アクアのスタンスだったはず。

 

「何かモチベーションを自分以外のところで見つけたのかな……それとも事務所になんか弱みでも…」

 

目を閉じる。電気をつけたままいつのまにかメムちょの意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、音はこだわり強い人が多いからなぁ。オレも人のこと言えないけど」

『完璧主義だもんね、アクアくん。この間のMVも相当拘ったんでしょ?』

「時間的な限界があったからそこまでじゃない。詰めはほとんどオレは関わってないし。けど完成ってのは諦めに限りなく近いよなぁ」

 

スマホで会話しながら廊下を歩く。すっかり日も暮れてほとんどの人が眠る準備に入る時間帯。蜂蜜色の髪の青年は照明で照らされた道で通話していた。通話の相手は黒川あかね。星野アクアの公式彼女。そしてプライベートでも交際中だ。

 

『音響の人って怒鳴ったりするからさ。監督より怖かったよ』

「わかるわかる。隣で怒鳴られると自分が怒られてるより怖く感じることあるよな。あかねなんか感受性高いから尚更」

『そうなんだよー。映画の撮影って時間取る分ホント細かくて……愚痴りたいこといっぱい』

 

ハハと笑いを返す。音声の向こうで何やらモゾモゾ動いているのがわかる。多分寝巻き姿でベッドの上から会話してるんだろう。あかねはこの頃、オレの声を聞きながら眠るのがマイブームになっている。

 

『ホントは今日会いたかったなぁ。夜ならギリギリ空いてたから会うだけでも出来たのに』

「悪いな、オレの方が都合つかなくて」

『ううん、アクアくんは今が勝負の時だもん。半年前はずっとアクアくんが理解ある彼氏だった。今度は私の番だよね』

「ありがとう」

『それに明日の夜は会えるんでしょ?』

「まあなんとかワンチャンってとこだな。そっちは?」

『私もワンチャン。埋まる可能性も普通にあっちゃう』

「お互い忙しいな」

『アクアくんに比べれば私はまだまだなんだろうけど、それでもドラマがあるとどうしても』

 

ドラマの拘束時間は長い。ワンシーン撮るのにも時間がかかるし、自分の出番が来るまで一時間二時間ザラに待つ。忙しい事はありがたい事だが、それ故に普通の高校生のカップルのような時間が取れなくなった。半年前は週一でデートしてたのに、今や月一あれば御の字レベル。

 

「あかね、眠い?」

『…………眠りたくない』

 

出さないようにしていたが、バレる。この半年でアクアは声を聞くだけでなんとなくあかねの状態がわかるようになっていた。

 

「朝から仕事なんだろ?疲れてるだろうし、ちゃんと休め。回復させるのも仕事の内だぞ」

『…………わかってるもん』

「うまくいけば明日会えるんだから」

『…………ばか』

 

そういう問題じゃないと頬を膨らませている顔が目に浮かぶ。可愛くて、笑ってしまった。

 

「もう切るぜ。あかね、おやすみ」

『…………アクアくん』

 

黙り込む。エレベーターのスイッチを押した後、アクアも立ち止まった。

 

『早く会いたい』

「…………オレもだよ」

 

通話が切れる。ふう、と一度息を吐くと、エレベーターが目標の階へと到着し、扉を開く。

 

またしばらく廊下を歩く。清掃された真っ白で美しい廊下は暖かさと同時に少し寒気も感じさせる。

 

目的の部屋へと到着し、インターホンを鳴らす。十数えるほど立つと、ドアが開く。その瞬間、防音されていた部屋から一気に音が漏れる。やっぱりというか、だよなというか。期待通りの音。

 

「………今日も元気だな」

 

思わず笑みが漏れる。扉の先に広がっていたのは期待通りの光景。

 

「あなた、おかえり」

「ああ、ただいま。フリル」

 

泣いている赤ん坊を抱きかかえた不知火フリルが、星野アクアを出迎えた。

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
苺プロ周りの半年間、というかほとんどメムちょの半年間ダイジェストでした。B小町の躍進はほぼ原作通り。ちょっとルビーが原作よりも人気かな?くらいで重曹ちゃんのモチベが若干低いって感じです。そして大手の恩恵とスパルタを受けたアクアは大躍進。もうほぼフリルと変わらないくらいの知名度になりつつあります。次話はアクア視点の半年間。新天地での事情。新居の状況。不知火家への挨拶。子供の名前付け。諸々やる予定です。多分時間かかりますが、ご容赦ください。
それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければモチベーション爆上がりです。時間がかかっても感想には必ず返信します。
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