返照・告られるには:   作:Crappy Clippy

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Ifelse

「え、えーと、私には付き合うとかちょっと早いっていうか、わかんないかなー……みたいな。あ、嫌いとかじゃなくてさ、えーとほら、女の子同士だし、みたいな?」

「──そっか」

 

 それが最後の言葉だった。

 風光(ふみ)の酷く寂しそうな顔を覚えている。酷く苦しそうな、今にも嗚咽の漏れてしまいそうな顔を覚えている。

 それが最後の言葉だった。

 それ以降──音信不通。進路も違ったし、住んでいる所も遠くて、ケータイで連絡するのもちょっと億劫で。だから、それが最後の言葉で、最後のキオク。

 

 高校卒業2年後。

 風光(ふみ)の行方がわからなくなった、と。彼女の母親から連絡が来たあの日──私は、カミサマに遭った。

 

 

 ●

 

 

「……」

 

 言葉が出ない。

 感無量という奴か。あるいは懐古に浸るという奴か。それとも──本当に起きた事への驚愕か。

 校庭だ。懐かしい母校の校庭。たかだか2年と馬鹿にするなかれ、学園祭にも赴かなかった私にとっては懐かしみに溢れる景色。家は遠く、大学も反対方向。言っては何だけど、こんな僻地に寄る用がなかった。だからこそ──どこか、空気さえも懐かしいような気がして、大きく息を吸う。

 

「おはよ、榾火(ほたひ)。今日、早いんだね」

「うぇっ!?」

 

 ポン、と肩に手を置かれて、それはもうギュルンと音が鳴ったんじゃないかってくらいのターンを見せる。華麗だ。10点と10点と8点がもらえておかしくはない。

 吃驚した。仰天した。びっくらぎょうてんしたのだ。

 

 だってその声は。

 

「……どうしたの?」

「風光!」

 

 思わず抱き着く。

 コンプレックスに思っているという、女子にしては高い身長。171cm。その高身長に、そのお腹にぼふっと顔を埋めれば、風光は後ろによろめく……こともなく、「わ」なんて言って受け止めてくれる。体幹が良い。

 

「どうしたの?」

 

 同じ言葉。

 でもそれは、さっきよりも心配の色が混じっている。

 そりゃそうだろう。いつものように挨拶をしたら、尋常じゃない様子でオトモダチが抱き着いてきたのだ。抱き着いてきて、涙を流さんとする勢いなのだ。奇人変人を見る目で見られても致し方なし。とはいえ学生時代の私は割合こういう奇行をするタイプだったのでいつものアレか、と流す者も多かろう。誇れることじゃないけど。

 

「……怖い夢見た」

「……夢? え、夢? ……榾火、私達何歳かわかってる?」

「今年で18になる17歳」

「うん、そう。もうそろそろ大人なわけで……怖い夢みたからってそんな泣きそうになってたら、社会じゃやっていけないよー?」

「……うん」

 

 うん。

 そう、これは始まりだ。はじめの一歩だ。スタートラインだ。

 ここで勘繰られてはできるものもできることもできなくなる。そう、切り替え切り替え。これが夢でないのだとしたら──いや、この感触を私が忘れるものか。この感触。そう、風光のたわわを私が忘れるものか。あと匂いも。

 ええと、だから。

 

 これは夢なんかじゃなくて。

 

「風光」

「う、うん。どうしたの、本当に。てゆか、みんな見てて恥ずかしいんだけど」

「今日から一緒に下校しよう」

「ど、どうやって? いやいいけど、私達一緒に帰れるの校門前までじゃん。家反対だし」

「──私が風光の家に行ってから、自分の家に帰ればいい」

「どうしたの?」

 

 これは「(頭)どうしたの?」だな。私にはわかるんだ。

 

 そうですね。

 暴走し過ぎましたわ。ええ、あくまでお淑やかに行かなければ。

 ここで引かれちゃいけない。だってまだ、風光は私を好きじゃないかもしれないんだから。

 

 よぉし。

 

「風光」

「おー、何かを決意したような顔」

「手、出して」

「いいけど、何? 怖いな」

 

 何も疑うことなく差し出された手を──握る。

 両手で。

 

「……ホントに何?」

「教室まで手を繋いで行こう」

「なにそれ。仲良しカップル? やだよ、恥ずかしいじゃん」

「ふ、残念だったな──もう離さない!」

「えー。じゃあ何したら離してくれる?」

「なんとしてでも!」

「今の心境言っていい?」

「"至極面倒"」

「正解」

 

 手を離す。放す。

 ふぅ、おちけつおちけつ。ビークール。

 その手を離さないのは未来の話だ。今はまだ良い。むしろあんまりおかしなことしすぎると、本当に離れて行ってしまう可能性がある。それを考えると大人しくしていた方が良い気がする。というかいつも通り、前とおんなじようにやっていれば自然となるのでは?

 

「それで、本当はどったん?」

「怖い夢を見た。風光がいなくなっちゃう夢」

「なるほど。じゃ、私ここにいるから。安心した?」

「……うん」

 

 取り乱したことは認めよう。

 よし気を取り直して。

 

「風光」

「はいはい」

「おはよ」

「おはよ、榾火」

 

 ここに今、新たな高校生活が始まったのである!!

 

 

 ●

 

 

 さて、聞きなれたHRの間に現状整理をしておこう。

 まず、私は未来人である。ジョンタイターである。いやジョンタイター程未来から来てはいないけれど、ちょっと先の未来、ここから3年後の地球からやってきた未来人である。

 ではなぜ私が未来人となったのか。何故私が過去に来たのか。

 それは偏に風光から告られるためである!!

 

 説明しよう。今までのが説明でないのならなんだったのかという問いに対しては答える術を持たないが説明しよう。

 

 私、冬座敷(ふゆざしき)榾火(ほたひ)は一度高校を卒業し、大学校に入学している。

 一年後の話だ。ちゃんと勉学に励み、ちゃんと内申点も取り──ちゃんと、恋愛に現を抜かさなかった私は、ちゃんと大学校に行った。在学期間中に"コト"が起きたので就職までこぎつけられたかはわからないけれど、多分何も起きなければそのままお仕事に就けていたんだと思う。

 

 そんなことはどうでもよくて。

 そう、一度高校を卒業したのだ。一年後に。

 

 大学入学して、2年後。

 風光──青葉梟(あおばずく)風光(ふみ)は行方不明になる。家族友人から連絡がつかなくなり、そして。

 あの、思い出したくない光景が。

 

 私はそれを変えるために来た。

 あの時カミサマに遭い、ある制約を背負って、未来を変えるためにやってきた。ゆえの未来人である。

 

 制約──。

 つまるところ、私が未来人であるということは秘中の秘でなければならない。私が未来人であり、過去を変えるためにやってきたことが誰かに知られたらコトなのだという。カミサマ業界にも色々あるのだという。

 というわけで、私には3つの制約が課されている。

 1つ、──私から風光に告白をしたら、私は消える。

 というのも、風光があの日行方不明になった理由。その根本に、私が告白を断った……付き合えなかったことがあるというのだ。

 そも、私が告白を断った理由なんて「心の準備ができていなかったから」の一点だけで、その後も結構引き摺ったし、なんなら何度か「あの時の告白だけど、やっぱり受けてもいいかな」とかって連絡しようとしたことがあったくらいには……こっちからの未練も大きかった。

 その後。告白を断った後、絶縁状態になってしまったのが大きい。だって私はもっとずっと風光と一緒にいたかったのだから。

 という事情があった上で、私から風光に告白すると、私は消えてしまうのだそうだ。

 それはあってはならない改変だから、なかったことにされてしまう、のだと。

 

 2つ目。

 卒業時まで──つまり風光が告白してきたあのタイミングまでに付き合うことができていなかったら、私は自分が未来から来た、という事実、記憶をすべて忘れる。

 要は順当に風光からの告白を断り、そこから3年後、彼女が行方不明になって……。みたいな。

 もしかしたら私はn百回とループしているのかもしれないワケだ。

 

 3つ目。

 これは制約とは呼べないかもしれないけれど──風光から告白されたら。私がそれにOKを返したら。

 上記の制約は消える。晴れて未来は変わり、万々歳。

 

 だから、告白回りの事が無ければ、風光との高校生活をもう一回過ごせる、というとてもお得なプランとなっているのである。

 けど、やっぱり。

 あの未来に辿り着くことだけは避けたいから──私は彼女を振り向かせて見せる。

 風光にどうにかこーにか告白させて、私がOKを出して、ラブラブカップルになってみせる。

 

 それが私の目的。現状。

 

「榾火ー、体育館行くよー」

「え、なんで?」

「なんでって……HR聞いてなかった? 今日一限の現代国語変わって、レクリエーションになったんだよ」

「へぇ……」

 

 そう、だっけ?

 高3の一日目からレクリエーションなんかやったっけ?

 普通に授業だった気がする、んだけど、でもそこまで覚えているわけじゃないからなぁ。

 

「先行ってるよー」

「あ、待って! 一緒に行きたい!」

「はいはい」

 

 少しでも一緒にいて、好感度アップ!

 ……なんかギャルゲーみたいな考え方でヤだな。風光とは普通に友達なのに。

 

「榾火、ホントに遅れちゃうってー」

「ん、今行くー」

 

 なんにせよ。

 風光は私が守る!!

 

 

 ●

 

 

 そのまま2か月が過ぎた。

 ……やっべー。何のアクションも起こしてねー。

 てゆか告ってもらうってどうすればいいんだろう。魅力的に見せる? 私が?

 無理無理。というかあの時なんで風光が告ってくれたかもわかってないんだもん。私は後から風光が好きだって気付いたけどさ、風光って私のどこを好きで、あの時に告白してくれたんだろう。

 

 守るっていったって、高3で特に何かすんぎょい事件があった、という覚えもない。

 ホントに何にもなかったのだ。だからこそ行方不明になった、という事件があまりにもな衝撃だった。そういう話はテレビの向こう側の話で、私達の周りじゃ起こらないと思っていたから。

 

 そもそも何があったのか、という所を私は知らない。

 なんであんなことになったのか、という部分を私は知らない。

 それを知らなければ、守れないんじゃないかって。もしちゃんと告白してもらって、もしちゃんとOKが返せて──でも、あの日になったら、風光は私の元を離れてしまうんじゃないか、って。

 そういう嫌な想像が毎日のように浮かんでは消え浮かんでは消え。

 

 6月。

 雨の降る季節。だから、ちょっとだけ気分も下がる。

 体育の授業が基本体育館になるのだけは良い事だけど、結局じめじめしてるしムシムシしてるからあんまり変わらない。

 

「ね、聞いてるー? 榾火ってば」

「え? あ、うん。何? なんも聞いてなかった」

「素直だねー。榾火らしいけど」

「人の話を聞かないことにかけては私の右に出る者はいないと思ってるよ」

「何の自慢にもならないよそれー」

 

 それで、なんだろう。

 

「豊麗山でね、カップルが幽霊に襲われたんだってさ。興味ある?」

「全然」

「だと思ったー。榾火オカルト信じてないもんね」

「信じてないっていうか、いたとしても山の中にはいないんじゃないかなって」

「なんで?」

「山の中で死ぬ人が人間に恨み持つとは思えないじゃん? 未練がある、はまだわかるけど、人間を恨んで害を成す、はよくわかんない」

「なるほど。怖い夢みて寝れなくなってる榾火さんからはあまりに考えられない冷静なコトバに驚き桃の木山椒の木」

「ふふん、私だって色々と考えているのであーる」

 

 ただし。

 幽霊騒ぎは信じてないけど、気にはなっている。

 だって豊麗山といえば私がカミサマに会った山だ。そして、風光を──ううん。今は考えないようにしよう。

 

「行きたいの?」

「幽霊って虫取り網で捕まえられると思う?」

「捕まえる気なんだ……」

「榾火は虫かご持ってきてね」

「虫取り網しか持ってないんだ……」

 

 幽霊騒ぎ。

 そんなのも……無かった、気がする。私が覚えてないだけかもしれないけど。

 しかも6月のこの時期。土のぬかるみもすごいだろう時期に山に行く。……死亡フラグにしか思えない。

 

「行くにしても8月とかにしない? 肝試し的なさ」

「8月になってまで覚えてると思うー?」

「……覚えてないと思う。きれいさっぱり忘れてると思う」

「だから今行くんだよー」

 

 うーん。

 まぁここでかっこいいとこ見せて、風光の好感度アップって考えたら良い行事……なのかな?

 

 よし。

 何より風光が行きたそうにしているし。

 覚悟を決めよう。そして、ホントになんか出たら──お祓い(拳)でなんとかしよう。

 

「じゃ、金曜の17時にウチ集合ね」

「良いだろう」

「何キャラ?」

「私より強い奴を求めて」

 

 そんなこんなで、6月の幽霊騒ぎに乗り込む次第となったわけです。

 さて、鬼が出るか蛇が出るかカミサマが出るか……。

 


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