プロローグ
黒桐幹也がその美術展に足を運んだのは、全くと言っていいほどの偶然によるものだった。
きっかけは、偶然美術展の看板が目に入ったこと。
予定も何もなく、入場料も500円と手頃だということで興味本位で入場したのだ。
入口に掛けられたカーテンを潜り、意図的に照明が絞られた館内に入場する。どうやら作品の一つ一つにスポットライトが当てられているようだ。
幹也は入り口で配布されていたパンフレットに目を通す。
どうやらこの美術展の趣旨は『人形』らしく、市松人形、ビスクドール、操り人形、こけし人形、果ては土人形や蝋人形まで。和洋問わず、時代までバラバラな人形が集められているらしい。
なるほど、確かにこの美術展の趣旨は『人形』だなと、幹也は主催者の大雑把さに感心した。
パンフレット片手に、順路に沿って人形を鑑賞して回る。
出品されていた人形はどれも見事な出来栄えだった。市松人形は和の心を確かに感じ取れるし、ビスクドールもとても精巧で今にも動き出しそうだ。こう言っては失礼だが、場末の小さな美術館にしてはとても見る目がある館長なのだなと感心した。
順路沿いに歩いていると、唐突に作品の展示が途切れる。そして、急遽取り付けられたであろうカーテンが行く手を塞いだ。
これはどういうことかとパンフレットに目を落とすと、答えは簡単に見つかった。
どうやら次に目にする展示物がラストであり、この美術展のトリを務める目玉らしい。
わざわざ他の美術品と分け、単独で展示するとは相当な人形なのだろうなとワクワクしながら、カーテンを潜り抜ける。
──―そこには、一組の
……いや、ヒトではない。人形だ。ヒトと見紛うほどに精巧に創られた、
先程ビスクドールを今にも動き出しそうと表現したが、この活人形と比べれば児戯に思えてしまう。
幹也は限界まで近寄り、まじまじと鑑賞する。
男と女、一組の男女が向かい合っている。
その手は、一刻も早く触れ合いたいと伸ばされている。
その目は、愛しいヒトを見つめるかのように慈愛に満ちている。
その躰は、互いを求めあう意思に溢れている。
極限までヒトに似せた人形。人間そのものを創造したかと錯覚するほどの、命を持たない人形。
あまりの完成度に、幹也は衝撃を受けると同時に納得もした。
なるほど、確かにこれは単独展示されるだけのことはある。いや、単独展示でなければならないのだろう。
この作品が今まで見てきた人形と同じ場に展示されていた場合、あまりの存在感に周りを喰ってしまい美術展が成り立たなくなることは明白だ。
幹也はパンフレットに目を落とし、作品名と製作者を確認する。
しかし、不思議なことに出展者の名前は記載されていなかった。
パンフレットにはただ一言、タイトルが載っているのみ。
作品名『逢瀬』
それがこの人形たちの名前だった。
その後、幹也は韋駄天のように自宅に帰るとすぐさま調べものに取り掛かった。
あれほどの活人形の制作者を知りたくなったからだ。
寝食を忘れるほどに熱中した結果、ようやく名前が判明する。
制作者の名前は、蒼崎橙子にアルス。
業界では曰く付きの人物として知られているようだ。なんでも依頼はほとんど受け付けず、押し入るように設計図などをプレゼンテーションして依頼をもぎ取っていく二人組だとか。
他にも、人形作りが本職であったり、あの『逢瀬』は二人が滅多にしない合作であるとか。
知れば知るほど興味が湧き出た幹也は、よせばいいのに住所まで探り当ててしまった。そのうえ、当の二人と話す機会まで手に入れてしまう。
それが、彼自身の運命を大きく変える出来事になるとも知らず。
(さて、二人はいったいどんな人物なのだろうか?)
期待半分、不安半分。幹也は廃ビルへと足を踏み入れたのだった。
黒桐幹也が橙子さんの人形を見た経緯が原作と違いますが、これは主人公がいた影響でバタフライエフェクトが起こっているからです。
初回はもう一話投稿して、その次からはストックが尽きるまで毎日投稿の予定です。
矛盾螺旋編が終わった後、忘却録音編と殺人考察(後)編と続き空の境界編が終了。続いてロード・エルメロイⅡ世の事件簿編に移行しますが、矛盾螺旋、忘却録音、殺人考察(後)、これらのエピソードの間には約1か月ほどインターバルがあります。この間に閑話を入れるかどうかアンケートしたいと思います。
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矛盾螺旋と忘却録音の間に閑話入れろ
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忘却録音と殺人考察(後)の間に閑話入れろ
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どっちのインターバルにも閑話入れろ
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閑話いらねえ!早く事件簿編読みてえ!