人形師の使い魔   作:アスラ

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橙子さんのファンよもっと増えろ!と思いながら執筆しています。
あと、何かの間違いでいいから橙子さんサーヴァントになってFGOに実装されないかな~、とも。


15:ある男の絶頂

 誰もいない伽藍の堂事務所にて、巫条霧絵はひとり祈っていた。

 共に待機するよう命じられた黒桐幹也はいない。最初は大人しく待っていたが、夜になっても帰ってこないことに痺れを切らしたのか飛び出してしまった。

 

(神様お願いします。どうか、どうか二人を無事に返してください……!)

 

 彼女は、かれこれ数時間は祈り続けていた。それは何故か。

 巫条霧絵は、伽藍の堂から出発する二人を見送る際、言いようのない不安に駆られたからだ。

 それは、彼女にとって二度目の経験であり……一度目は、実の家族を交通事故で失う直前に経験したもの。

 家族を失い天涯孤独の身になる前兆。つまり、アルスと橙子が死ぬということ。

 そんなのは嫌だ、と霧絵は食事も摂らず必死に祈っているのだ。

 

 ──―その祈りが通じたのか、一つの異変が伽藍の堂を襲う。

 

 ドオン!という爆音と共に、伽藍の堂が大きく揺れたのだ。

 

「な、なに!?!?」

 

 地震に襲われたかのような揺れに襲われ、霧絵は尻餅をついてしまう。

 打ち付けたお尻の痛みに耐えながら、彼女は視線を天井──ー正確には、爆音の発生源と見られる屋上へと向ける。

 一体、何が起こったのか……。不安に苛まれながらも、霧絵は階段を登る。

 屋上へと繋がる扉にたどり着き、意を決し開ける。

 そして、屋上に広がる惨状に言葉を失ってしまった。

 

 屋上に設置されていたビニールハウス製の霊草栽培場が、台風の被害を受けたかのように崩壊していたのだ。

 

 ……いや、正確には違う。これは台風などの強風によって齎された破壊ではない。隕石のような、一方向からの衝突によって齎された破壊だ。先程の爆音とビニールハウスの崩れ具合から、霧絵はそう判断する。

 恐る恐る栽培場に足を踏み入れる。予想通り、奥に向かって一直線に破壊の痕跡が続いている。

 視線を奥に向けると、なにかしらの物体が鎮座しているのが見えた。おそらく、これが栽培場に突っ込んだものなのだとあたりをつける。全体像は、影に隠れてよくわからない。

 正体を確かめるべく、霧絵は物体に近づいた。一歩、二歩と近づく度に、その正体が薄皮を剥くように露わになる。

 そして、三歩目を踏み出した瞬間、物体の正体を認識した霧絵は飛び跳ねるように駆け出した。

 

「橙子さん!!」

 

 栽培場に衝突した物体の正体。それは、蒼崎橙子だった。

 

「橙子さん!橙子さん!」

 

 ぐったりと、身動き一つしない橙子を、霧絵は抱き抱え必死に呼びかける。しかし、彼女は目を覚まさない。

 ふと、霧絵は右手に違和感を感じた。なにか粘着質な液体が、自らの右手に触れている。

 液体の正体を確認すると、それは真っ赤な色をしていた。……血液だ。

 蒼崎橙子の血液が、べったりと右手に付着している。

 

「ッ!!」

 

 そこから霧絵の判断は早かった。橙子の右腕を肩に、左腕を腰に回し、血に汚れることも厭わず事務所へと運ぶ。

 絶対に助けるという決意を秘めながら。

 

 

 

 

 

 

 橙子が屋上に着弾してから二時間後。橙子の手当てを終えた霧絵は、彼女をベッドに寝かせ看病を続けていた。

 橙子の顔に浮かぶ汗を拭きとりながら、霧絵は彼女の寝顔を見つめる。

 その顔は、苦しみに満ちていた。眉間には皴が寄り、痛みを堪える為か歯は食いしばられ、大粒の汗が浮き出る。見ているだけで、こちらも苦しくなるほどだ。

 しかし、身体はもっと酷い。服に隠されて初見では解らなかったが、体中いたるところに切り傷があり、右足が骨折していたのだ。

 幸い、緊急時に使用するよう言い含められていた救急箱にあった軟膏のお陰で止血できた。骨折した右脚も、ちょうどいい棒が栽培場に転がっていたので、添え木にして固定済みだ。

 

「橙子さん……」

 

 何故栽培場に突っ込んだのか、何故大怪我しているのか、何故ひとりだけなのか……。

 彼女に訊きたいことは山ほどある。できるならば叩き起こしてでも質問したい。

 しかし、最優先事項は『蒼崎橙子の看病』だ。巫条霧絵は、鋼の意思で誘惑を抑えつける。

 桶を持ち、キッチンへ向かう。新しい濡れタオルを用意する為、使用済みのものは篭に入れ、桶に水を張っていると──―。

 ドン!と重たいものが落ちる音が、橙子の眠る私室から聞こえた。

 何事かと慌てて戻ると、当の蒼崎橙子がベッドから転落していた。それどころか、無理矢理立ち上がろうと両腕を床に突いている。

 

「橙子さん、まだ起きてちゃダメです!酷い怪我なんですよ!」

「ハァ……ハァ……霧絵か。……私は、どれくらい寝ていた?」

「そんなことより、まだ寝ていないと!」

「どれくらい寝ていたッ!!」

 

 突然の怒声に、霧絵はびくりと震える。

 キッ、と橙子が霧絵に視線を向ける。その顔は、霧絵が今まで見た彼女のどんな顔よりも真剣だった。

 

「……二時間くらいです」

「そうか……。ならば、まだ手遅れではないな」

 

 橙子は、霧絵に頭を下げた。

 

「頼む霧絵、()()()()()()()。今すぐ小川マンションに戻らなければ、全てが手遅れになってしまう」

 

 突然助力を頼まれ、霧絵は一瞬フリーズする。

 しかし、すぐさま意識を切り替えた。

 今までは、二人の庇護を受けることしかできなかった。だけど、今度はわたしが二人を助ける番だ!

 

「わたしは何をすればいいんですか?」

「そこのクローゼットにある二つの鞄を出してほしい。片方私が持つ。それから、肩を貸してくれ。無理矢理歩けない訳ではないが、そっちの方が動きやすい。──―ところで、黒桐はどうした?さっきから姿が見えないが」

 

 あ……、と冷や汗を流す霧絵。

 その様子を見て全てを悟ったのか。橙子は深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 黒桐幹也が臙条巴と小川マンション突入に向けて作戦会議を行っていた時、彼らの横を車が通過した。

 こんな夜中に珍しいな、と一瞬疑問が浮かぶがすぐに頭の隅に追いやる。今はそんな無駄な事に思考を割いてる場合ではない。

 しかし数秒後、彼らは否応にも車に意識を向けざるをえなくなる。

 急ブレーキの音が響き、先ほど通過した車が急停止したのだ。そしてUターンしたかと思えば、黒桐たちに猛スピードで迫ってきたのだ!

 突然のことに身動き一つ取れなくなる。が、車は二人の前方二メートルほどの位置で急停車し、勢いよくドアが開かれ二人の女性が現れた。

 

「橙子さん!?それに霧絵ちゃんも!」

 

 蒼崎橙子と巫条霧絵だ。

 驚いた様子で二人に駆け寄る黒桐。だが、橙子の怪我を確認し目を見開く。

 

「橙子さん、どうしたんですかその足!?」

「油断の代償というやつだ。それより黒桐、私は事務所で待つよう言ったはずだが?」

 

 う、と罰の悪そうなら顔をする黒桐。どうやら、自分でも悪いことをした自覚はあるようだ。

 

「……まぁ、夜までに式を連れ戻さなかった私たちにも責任はある。これ以上咎めはしない。それより、そこにいる坊やは何者だ?」

「彼は臙条巴。訳あって一緒に行動しています」

 

 鋭い眼光が臙条に向けられる。

 臙条は一瞬たじろいたが、すぐに立ち直る。

 橙子は臙条を観察した。まるで、全身をスキャンするかのように。

 

「……どうやら、全くの無関係という訳ではなさそうだ。よかろう、着いてこい」

 

 霧絵に補助されながら、橙子は車に乗り込む。

 

「着いてこいって、橙子さん、どこに行くんですか!?」

「決まっている──―小川マンションだよ」

 

 

 

 

 

 

 三人の一般人を引き連れ、女魔術師が玄関を潜る。

 向かう先は、夕刻の頃と同じく東棟ロビーだ。

 霧絵に支えられながら、橙子は黒桐と臙条を引き連れ歩く。

 そんな痛々しい姿を見て黒桐は、不安に駆られてしまう。

 魔術師としての、蒼崎橙子とアルスの実力を彼は知らない。知る必要はなかったし、知ろうとも思わなかった。しかし、相当上位に位置するのだろう、ということは普段の彼らの在り方から薄々感じていた。

 そんな二人が、返り討ちに遭ってしまった。その事実が、心胆を寒からしむる。

 黒桐は、ポケットのルーン石をぎゅうと握りしめた。橙子から小川マンションに入る前に手渡されたものだ。

 

『手放すんじゃないぞ。中では私が三人を護るが、万が一という事もある。その石はその為の保険だ』

 

 庭を抜け、ガラス張りの西棟ロビーを抜け、東棟ロビーに入る。

 

「やあ、アオザキにその弟子たちよ!丁度よく来てくれたね!」

 

 瞬間、聞き覚えのある甲高い声が上から聞こえてくる。

 四人が視線を向けると、そこには赤いコートの魔術師──―コルネリウス・アルバがいた。

 

「いやぁ、私は運がいいな!君たちを殺す為に工房に向かおうと思っていたのだが、そちらからやってくるとは、手間が省けたよ!」

 

 高笑いしながら、階段をゆっくり下るアルバ。

 わざと神経を逆撫でするように、高圧的な態度を隠そうともせず四人を見下す。

 そんな彼に対して──―四人は、なにも出来なかった。

 アルバの持つ()()()()を目にしてしまったからだ。

 

 蒼崎橙子は苛立たしげに顔を歪め。

 巫条霧絵は絶望の涙を流し。

 黒桐幹也は吐き気を必死に抑え。

 臙条巴は恐怖で後ずさってしまう。

 

 そんな四人の様子を見たアルバは、愉しげに片手に持っている()()()()を掲げた。

 

「ああ、これが気になってしまうんだね。いい出来だろう?私も気に入っているのさ」

 

 それは、アルスの首だった。

 




アンケートの期限を決めました。
2月3日の夜0時に締め切ります。もしうっかり忘れていたら、4日の朝起床したときに締め切ります。

矛盾螺旋編が終わった後、忘却録音編と殺人考察(後)編と続き空の境界編が終了。続いてロード・エルメロイⅡ世の事件簿編に移行しますが、矛盾螺旋、忘却録音、殺人考察(後)、これらのエピソードの間には約1か月ほどインターバルがあります。この間に閑話を入れるかどうかアンケートしたいと思います。

  • 矛盾螺旋と忘却録音の間に閑話入れろ
  • 忘却録音と殺人考察(後)の間に閑話入れろ
  • どっちのインターバルにも閑話入れろ
  • 閑話いらねえ!早く事件簿編読みてえ!
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