人形師の使い魔   作:アスラ

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この世界では刃○じゃなくてケンガン○シュラが先に連載された世界線ということでお願いします。
スマヌ、貧弱な発想力の作者を許しておくれ……。


20:黒桐鮮花育成計画

「アルスさん!わたしに本格的に体術を教えてください!!」

 

 現在、俺は物凄い勢いで鮮花に迫られている。彼女の背後には橙子がいるが、笑うだけで役に立ちそうもない。

 一体、何故こんな事態に陥ってしまったのか。

 その原因は二時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 俺が紅茶を淹れていると、鮮花の声が聞こえてきた。それも、言い争うかのような大声だ。

 何事かと気になったが、淹れている途中で投げ出す訳にはいかない。ぐっと野次馬根性を堪えて作業を続けた。

 そして人数分の紅茶を淹れ終わって事務所に入った俺の目に飛び込んできたのは、床に散乱した文房具類と勝ち誇った顔をしている式、対照的に顔を曇らせ蹲る鮮花だった。

 

「おっ、ちょうどいいとこに来たじゃないか。一つ頂くぜ」

 

 何事かと口を開く前に、颯爽と式がおぼんから紅茶を掻っ攫い屋上へと向かった。その様子を、鮮花が凄い形相で睨んでいる。

 

「なぁ、何があったんだ?」

 

 全員に紅茶を配り終え、ニヤニヤ笑っていた橙子に質問する。

 すると、彼女の口から面白い──―鮮花にとっては遺憾だろうが──―出来事を聞かされた。

 なんと、鮮花と式が喧嘩したそうだ。

 その原因は三日前のクリスマスイブに鮮花の想い人であり実の兄である黒桐くんを式に掻っ攫われたこと。距離を一気に縮めようと気合を入れている最中、ふらっと現れた式に連れ出されてしまったらしい。

 結果、魔術の講義を受けに伽藍の堂にやって来た鮮花がばったり式と遭遇してしまい、口論になり喧嘩に発展したという。

 まぁ、口論や喧嘩といっても鮮花が式に突っかかって式が受け流す、という形だったようだ。

 喧嘩も可愛らしいもので、鮮花が手元にあった物を手当たり次第に投げつけるが、式が華麗な身捌きで避けるだけ。最終的には分厚い魔導書まで投げつけるが見事なキャッチ&リリースでカウンターを喰らったらしい。

 ああ、だから鮮花の顔に何かが当たった跡があるんだな。

 

「さ、気持ちを切り替えるんだ鮮花。講義を始めるぞ」

「…………はい、橙子さん」

 

 よろよろと席に向かう鮮花。

 うん、ショックなのは解るが、式と鮮花の関係について俺たちにできるのは彼女を鍛えてあげることだけだ。

 席に着き、真面目な様子……いや明らかに式への嫉妬の炎を燃やしながら講義を受ける鮮花を眺めながら、今日はどんな体術を仕込んでやろうか悪だくみした。

 ……しかし、こちらから声をかける前に頼み込んできたのは想定外だった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 運動しやすいジャージに着替え、わたしはアルス師と共に屋上に来た。

 ……いや、ここはもう屋上ではない。何故なら()()ができているからだ。なんでもわたしが礼園にいる間に増改築を繰り返した結果、ついに六階ができてしまったらしい。霊草栽培場も新たな屋上になった六階に移設してある。

 一体この人はどこまで行くのだろうか……。このまま放っておけば七階八階と際限なく拡張されそうでちょっと怖い。

 

「基本的な身体作りや室内トレーニングの方法は教えてきたが……鮮花はもう一歩先に進みたい。それでいいんだな?」

「はい、式との喧嘩で察しました。このまま魔術の鍛錬を続けても敵わないということが」

 

 そう、いくら攻撃力を上げても当たらなければ意味がない。いくら球速が速くてもノーコンピッチャーだったら試合に出してもらえないのと同じだ。

 自分で言うのもなんだが、わたしは運動神経がいい方だ。そんじょそこらの人間と喧嘩をしようものなら華麗に打ち倒せる自信がある。

 しかし、わたしの敵は両儀式なのだ。身体能力頼りの生半可な戦闘技術では倒すどころか勝負の土俵にすら立ち入れない。

 

「解った。橙子からお許しも出たし、俺の持つ戦闘技術を余すとこなく伝授しよう。……といっても、鮮花は強化を使えないから伝えられる技術は限られる。だが、それでも有用なものはある。手始めに……」

 

 アルス師はチョークを手に、床に十五センチ幅の円を描いていく。

 

「俺が身に着けた戦闘技術は実戦経験に寄るところが多い。だからといって鮮花を実戦の場に連れていくってのはナシだ。効率が悪いし、ここ日本でそんな都合のいい場所は滅多にない」

 

 五階の中央に大量の円が生まれる。円の直系も数も異なっているが、まるでケンケンパのようだ。

 

「この前漫画で読んだ方法なんだけどな、現実でも活用できるんじゃないかと思って真似してみた」

 

 トン、とアルス師は片足で円に立つ。

 

「円の中に入るんだ。一つの円に置けるのは片足だけで、移動できるのも円の中だけ。まずはお手本を見せよう」

 

 そして、アルス師がスッと腰を落とすと──―

 

 タタタタタタタタタッ──―

 

 まるで忍者のように、円が描かれた床の端から端までを高速移動した。

 

「こんなもんだな。じゃあ鮮花もやってみて」

「はい!」

 

 片足を円に置く。

 ふっ、舐めないでくださいよアルス師!これくらいならちょちょいのちょいです!

 先ほどのアルス師に倣い、円を踏み渡る!

 

「はいアウト」

「えっ!?」

「足が何度も円から出てる。それに無駄が多い」

 

 指さされた円を見ると、チョークが消えている箇所があった。わたしが移動する前にはなかった跡だ。

 

「両足を同時に着いて移動していたがそれもアウト。常に片足を浮かせるんだ」

 

 見てな、と再度お手本をやるアルス師。

 ……確かに、わたしと違って全く出ていないし、何もなかったかのように円は綺麗な状態を保っている。

 しかし、常に片足を浮かせろとはどういうことだろうか?両足の方が安定するし速度も出る。

 ……いや、疑問は師に対して失礼だ。理由を求め思考は働かせるが、今は言われた通り円から出ないよう気を付けながら移動するのみ!

 

 

 

 

 

 

 それから一時間後、アルス師ほどではないが高速で移動することができるようになる。

 

「おーおー、いいじゃないか。途中から片足を浮かせる理由にも気づいたようだし、やっぱ鮮花は筋が良いな」

 

 パチパチパチと拍手しながら、アルス師がスポーツドリンクを手渡してくれる。

 

「鮮花が気づいた通り、これは小刻みで素早い左右半身の重心移動訓練だ。重心が安定すれば、足に伝わる力のロスも極力減らせる。──―うん、これなら次の段階に行けるな」

 

 今まで見守っていただけのアルス師が、円の中へと足を踏み入れた。

 

「次はおにごっこだ。俺が逃げる役で、鮮花が鬼。俺に指先だけでも触れられたらクリアだ。ああ、安心するといい、強化は使わない」

 

 アルス師の発言に、ぴきりと怒りが込み上げる。もしかして、わたしのこと舐めているのでは?

 いくら戦闘に特化した魔術師であるアルス師でも、この狭い室内空間で逃げ続けるのは至難のはず!

 

「吐いた唾は呑めませんよ」

「大丈夫。今の鮮花なら何時間やっても逃げられる自信がある」

 

 アルス師が懐からコインを出す。あれを弾き床に落ちたら開始ということだろう。

 フッ、今のうちに余裕ぶってておいてください!すぐに吠え面かかせてやりますからね!

 キィン、とコインが弾かれた。意識を獲物(アルス師)に集中させる。

 そして──―コインが床に落ちる!

 ズアッ!とアルス師に向け疾走する。未だに彼は自然体のままだ。

 その余裕、崩してあげます!!

 片足立ちしているアルス師に向け、右手を伸ばす。アルス師はようやく反応し腰を少し落とすがもう遅い!

 取った!と勝利を確信する。

 

 ──―そして、わたしは師匠との差を痛感させられた。

 

 気が付くと、わたしの目の前には誰もいなかった。アルス師に触れるはずの右手は空を切っている。

 一体どこに!?

 混乱していると、()()()()()()()()()()声が聞こえる。

 

「ほーら、鬼さんこちら♪手の鳴る方へ♪」

 

 反射的に後方に左手を突き出しながら振り向く。そこには紙一重で左手を避け、笑顔でパンパンと手を叩くアルス師がいた。

 

「アルス師、魔術使いました?」

「失礼な、純粋な体術だよ」

「ですよね……」

 

 ダメ元の質問もばっさり否定される。

 ……くそう、舐めていたのはわたしの方だったか。まさかこれほど差があるとは思わなかった。

 悔しがっていると、アルス師がポンと何かを思いついたように手を叩いた。

 

「そうだ。ご褒美があれば鮮花ももっとやる気になるな。よーし、今から一時間以内に俺に触れられたらご褒美をあげよう」

「ご褒美……ですか?」

「ああ、()()()()()()()()()()()()()()()()()を作ってやる」

 

 ……イマナンテイッタ?

 ハチブンノイチスケールコクトウミキヤフィギュア?

 

「もちろん、俺の全力をかけて製作することを約束する」

 

 ……メラメラメラ、と身体の奥底から炎が燃え上がる。

 報酬への渇望が、わたしに力を与える!

 

「おっ、やる気が出たようだな。それじゃあ、タイマースタートだ」

 

 いつでも休憩してもいいからなー、という言葉と共に、いつの間にか用意されたタイマーをスタートさせるアルス師。

 フフフフフ、わたしの幹也に対する執念を甘く見ない方がいいですよアルス師。

 今のわたしは、わたし史上最強のわたしだ!!

 

 

 

 ◆

 

 

 

「アルス、鮮花に体術を教えるのは楽しいだろうがもう少し自重しろ」

 

 時刻は夜八時。工房にて作業中の俺に、橙子がクレームを付けてきた。

 

「帰り際の鮮花を覚えているだろう?疲労困憊なんて言葉がかわいいほど疲れ切っていた。今回はおまえが家まで送ったからいいものの、今後も続くようでは帰宅途中で倒れるかもしれんぞ。……全く、一体どんな鍛錬を課したんだ?」

 

 呆れた様子で橙子は煙草を吹かす。

 

「ゲーム形式の至って普通の鍛錬……だったはずなんだがなぁ」

「その言い様だと、何かあったようだな」

「普段頑張っているご褒美に、勝ったら黒桐くんのフィギュアを作ってやるって約束しちまったんだ」

「……おまえは莫迦か?鮮花が黒桐に向ける感情の大きさ、知らぬ訳ではあるまい」

「ああ、軽い気持ちでポロっと言ったんだが、身をもって思い知らされたよ」

 

 まさか休憩も取らず一時間ノンストップで迫ってくるとは思わなかった。

 あの時の鮮花は鬼気迫るというか……俺の人生史上五本の指に入るくらい恐怖を感じたというか……。

 とにかく、ヤバかった。

 

「でも、やっぱり鮮花は才能あるよ。なんせ最後の五分間は一番動きがよくなったからな」

 

 おそらく疲労によって余分な力が抜け、必要最小限の力で身体を動かすコントロール力を身に着けたからだろう。

 

「ああ、だから珍しくフィギュアなんてものを作っているのか」

 

 クククと笑う橙子。

 そう、俺が行っている作業というのは黒桐くんフィギュアの製作なのだ。

 

「鮮花に不覚を取るとはな。油断でもしたか?」

「していないと言えば嘘になる。しかし、負ける気なんて毛頭なかったことも事実だ」

「渡すなら早めにするんだな。鮮花には来年の正月が終わったら礼園に行かせる用事ができた。うっかりすると二週間以上待たせることになるやもしれんぞ」

「え、それって一体どんな用事?」

「出身校の恥部を晒すことになるからな。守秘義務ということにしておいてくれ」

 

 気になることを匂わせるだけ匂わせ、橙子は事務所へと戻っていった。

 まぁ大丈夫だろう。一分の一スケールを作る訳じゃないし、フィギュアも人形の一種だ。この分なら三日後にでも完成することだろう。大晦日に渡すとするか。

 

 

 

 余談だが、プレゼントされたフィギュアは実家の鮮花の私室に設置された金庫に保管されたらしい。

 いや、そこはショーケースに入れて机や棚とかに飾ってほしかった……。

 




バゼットが2022バレンタインイベで実装されることが決定しましたね。
この勢いで橙子さんも実装されないかなぁ。
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