エピローグも兼ねた閑話となります。
「おめでとうございます!大当たりです!!」
カランカラーン、とベルの音が商店街に鳴り響く。
その音に釣られ、道行く人は新井式回転抽選器……いわゆるガラガラを回した女性に祝福の目を向けた。係員も笑顔で景品を用意している。
「では!こちらが一等賞『ミザリーランド入場チケット引換券』となります!!」
そして、一等賞を引き当てた女性──―巫条霧絵へと景品を手渡したのだった。
◆
夕食後。どうにか顔を合わせられるようになった俺と橙子は、霧絵ちゃんからある物を見せてもらった。
ちなみに橙子は眼鏡を掛けている。気持ちを切り替える為だろう。
「ミザリーランド入場チケット引換券?」
「はい!商店街の福引で当たったんです!」
詳しい話を訊てみると、お正月イベントということで商店街が福引を開催していたらしく、買い物の特典で福引券を貰ったそうだ。
そして、これ幸いと福引をした結果、なんと一等賞を引き当てたという。
「へぇ~あの商店街にしては太っ腹ね。いつもはもっとケチくさい景品だってのに。見てよここ」
橙子は引換券のある部分を指す。
そこにはこういった文言が書かれていた。『この券一枚で三名様まで引き換えることができます』
「いつもはペアチケットだったのに、一人分増えているわ」
「本当だ。……だが何故一人分しか増えていないんだ?三人って中途半端な数だぞ」
「大方、両親に子どもひとりって考えなんでしょうよ」
やっぱりケチくさいわ、と橙子はぼやく。
「でも凄いじゃない霧絵ちゃん。福引で一等賞なんて滅多に出るもんじゃないわよ」
「はい!……それで、なんですけどね……」
霧絵ちゃんが急にもじもじし始める。
顔を真っ赤にし、つんつんと指先を合わせ……意を決したように口を開いた。
「お二人がよければ、一緒に行きませんか!!」
……………なんだって?
霧絵ちゃんから思わぬお誘いを受けてから一週間後の一月十日。
俺と橙子、霧絵ちゃんの三人はミザリーランドの入場ゲート前にいた。
ミザリーランド……東京郊外に建設されたテーマパークであり、総面積はなんと510,000㎡。東京ドーム約10.9個分という巨大さを誇っている。
アトラクションも140kmを超える速度のジェットコースターや、日本一怖いと評判のお化け屋敷、園全体を見渡せる巨大観覧車など豊富な品揃えだ。
ちなみに何故誘われてから一週間も経ってから行くことになったかというと、仕事が忙しかったからだ。
仕事と言っても正月に橙子が依頼された礼園絡みのもので、それの後始末に奔走していたのだ。
まさか鮮花が黒幕と旧校舎で大立ち回りを演じるとは思わなかった。黒幕は大型の妖精を自らに憑かせることによって小型の妖精を使役していたようで、それらを弾丸のように射出して攻撃してきたらしい。
それに対し、鮮花はただのステップで必要最小限の動きで躱して大型妖精に拳を一撃、次いで魔術で焼き殺したそうだ。
お陰で旧校舎に刻まれた魔術戦の痕跡を全て消すハメになってしまったが……うん、さすが俺たちの弟子だ。有無を言わさず特大火力で一撃必殺。年末に仕込んだ歩方も役立ったようでとても嬉しい。
──―しかし、封印指定の
「さあ、さっそく入りましょう!」
満面の笑みで俺と橙子の手を引っ張り入場ゲートへと突撃する霧絵ちゃん。
俺たちは苦笑しながら、引っ張られるがまま霧絵ちゃんに着いていく。
係員に入場券を渡し、ゲートを潜る。
そして一歩園内に足を踏み入れると、目の前には夢の世界が広がっていた。
「うわぁ~~~」
眼前に広がるのは、メルヘンと現代を上手く融合させたアーケード街だ。現代的な機能美を備えた建物に、妖精や小人たちファンタジーの住人が思い思いの装飾を施している。それに加え、アーチ状に広がったアーケード街の先には、まるで額縁に納まったかのように美しい白亜の城が顔を覗かせている。
あまりの絶景に霧絵ちゃんの目がキラキラ煌めく。
それも仕方ないことだろう。彼女にとっては十数年ぶりの遊園地だ。入院している間に技術は進み、彼女の思い出にある遊園地より何倍も魅力的になっていることだろう。
実をいうと、俺と橙子も目を奪われていた。決して舐めていた訳ではないが、本職の本気というのをまざまざと見せつけられた気分だ。
気を取り直し、ぱらりと入口で貰ったパンフレットを開く。
ふむふむ、どうやらあの城はアーサー王伝説に出てくるキャメロット城をモチーフに建設されたらしい。しかし、それならば何故異常なほど真っ白なのだろうか?いや、絶妙に調和が取れていて違和感などは感じないのだが。
この城をデザインした設計士はさぞ腕がいいのだろう。
「まずはお土産屋さんに!お土産屋さんに行きましょう!」
「おいおい、最初にお土産買ったら荷物になって邪魔になるだろ?」
「違います」
霧絵ちゃんがこちらに振り向く。
うおっ、なんか目がキラリと光ったような気がするぞ。
「ミザリーランドに来たらまずやることは一つ!大丈夫です。二人にぴったりなもの、選んであげますから!」
ふっふっふ、と何かを企みながら彼女は土産屋に突撃する。
……なんだか嫌な予感がするぞぉ。橙子も同じ予感を感じ取ったのか、顔を僅かばかり歪めている。
そして数分後、その予感は現実のものとなった。
パンフレット片手に満面の笑みで目的のアトラクションに向かう霧絵ちゃんのすぐ後ろを、羞恥に染まった顔で俺と橙子が歩いている。
「ほら、アルスさん、橙子さん。そんな顔してたら楽しめませんよ♪」
そんな俺たちを窘めるように霧絵ちゃんが声をかけてくる。
だがなぁ……。
「この年になって
「ええ、さすがの私も羞恥心を抑えきれないわ……」
俺は頭に装着している犬耳カチューシャを指さす。
そう、実は俺たちの頭には、それぞれ動物をモチーフとしたマスコットキャラのカチューシャが装着されているのだ。
俺はこのミザリーランドのメインキャラクターであるドッキー(犬耳)。
橙子はドッキーの恋人のニャニー(猫耳)。
霧絵ちゃんはドッキーの親友のウーサー(ウサギ耳)。
……ひとりだけアーサー王の実父と同じ名前なのはツッコミ待ちなのだろうか?どうやら発音は違うらしいが。
「何言ってるんですか!遊園地に来たならマスコットキャラのマカチューシャを付けるのは法律で決まってることなんですよ!」
「決まってたか?」
「そんな訳ないでしょ!」
「さあ、行きますよぉー!」
霧絵ちゃんはひそひそ話する俺たちを気にすることもなく、ズンズンズンズン確かな足取りで歩いていく。
その様子を眺めていると、俺は感慨に耽ってしまう。
「しかし、霧絵ちゃんも大分パワフルになったよな。初めて会ったときからは想像もできないくらいだ」
「ええ。でも、彼女が元気になったのはアルスのお陰なのよ」
「俺の?」
「だってそうでしょう?荒耶に霊体を与えられた彼女を見つけ、死病に侵された彼女を救ったのはアルスなんだから。しかも退院後は身元引受人になってウチに同居させて面倒を見ている。これが功績じゃないのなら、何だっていうのよ」
「……俺のお陰か。でも、それを言うなら橙子だって関係しているぞ」
「私も?」
「ああ。メイクのやり方を教えてあげたり、一緒に手芸人形を作ったり、いろいろ構ってたりしたじゃないか。そういえば、裸の付き合いとかいって一緒に風呂に入ってたりもしてたな」
「し、仕方ないでしょ。霧絵ちゃんってば髪の手入れもろくに知らなかったのよ」
「まぁ、そういうことだ。俺たちは何かと理由を付けて霧絵ちゃんに構っている。……きっと、彼女は俺たちの人生の中でも重要な位置に存在する人間になったんだろうな」
「……全く、これでは先が思いやられるわね。二人揃って未練が残ってしまいそうよ」
「そうならない為に、今回の誘いを受けたんだろう?」
「ええ、だからこのカチューシャも大人しく付けている」
ピッ、と装着しているカチューシャに指を刺す橙子。
「でも誘いに乗った甲斐はあったわ。こんなアルスの姿、滅多に見れるものじゃないもの」
「それはお互い様だな。似合ってて可愛いぞ」
「ば、莫迦……ッ!当分褒めないでと言ったでしょう!」
橙子は顔を真っ赤にする。どうやら一週間前に腰砕きにされるまで褒められ続けたことがフラッシュバックしたようだ。大分マシになったが、この様子じゃあと一週間は待たないと褒めることができないな。
「何やってるんですかー!早く来ないと置いてっちゃいますよー!!」
前を向くと、霧絵ちゃんが手を大きく振って俺たちを呼んでいた。
「さて、今日の主役が俺たちを呼んでいるようだ」
「なら、早く追いつかないとね」
俺たちは、足早に
長くなるので前後編に分けました。
今回出てきたミザリーランドはいろんな遊園地を悪魔合体させて作り出したものです。
といっても、元ネタはバレバレだと思いますが(;^_^A