急いで書き上げたので、後日修正する箇所が出てくる可能性がありますが、その際は前書きや活動報告でお知らせいたします。
では、後編をどうぞ!
「最初はここです!」
ビシィ!と霧絵ちゃんが最初に乗るアトラクションを指さす。
そこには『REAL THUNDER』と書かれた看板がある。
ええと、こいつは……。
「最初にジェットコースターって飛ばし過ぎじゃないか?」
「いいえ、最初だからこそ乗るんです!元気いっぱいなうちに乗って、100%の反応をもって楽しむ!疲れてから乗ったんじゃ楽しさ半減だと思うんです!」
霧絵ちゃんの力説に、確かにと納得する。
ジェットコースターに乗ったことはないが、思いっきり叫ぶことが正しい楽しみ方だと聞いたことがある。ならば、元気なうちに乗った方がいいのだろう。
ウキウキと列に向かう霧絵ちゃんに着いていきながら、隣の橙子に質問する。
「俺は初めて乗るんだが、橙子は?」
「私もよ。というか、遊園地自体初めてね」
「おっ、お揃いだな。それじゃあ、今日は遊園地の先輩に遊び方をご教授願おうか」
「そうね。まずはジェットコースターの乗り方からね」
それからとりとめもない会話をして待つこと三十分。正月明けということもあり客が少ない為、意外と早く乗ることができた。
係員に従い手荷物を預け、コースターに乗り込む。幸運なことに霧絵ちゃんと橙子が先頭で、俺はそのすぐ後ろだ。
乗車時の注意アナウンスが流れ、係員がしっかり安全バーがロックされていることを確認する。
そして、係員の合図と共にゆっくりとコースターが出発した。
……おお、ジェットコースターは初めてだが、こうしてレールのてっぺんに移動する時間はワクワクとドキドキが同時にやってきてイイ感じだな。前の二人も同様なのか、楽し気に会話している。
そして、コースターがレールのてっぺんに到達する。
すると、霧絵ちゃんの口からとんでもない発言が飛び出した。
「実はわたしも初めてなんですよジェットコースター!子どもの頃は身長制限に引っ掛かっちゃって!」
あ、隣に座ってる橙子の顔が引きつったな。そんな気配がするっておいおいおいおいおい!ツッコミ入れる暇もなく急降下始めうおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
◆
ジェットコースターから降りたわたしたちは、早速次のアトラクションへと移動を開始します。
「霧絵ちゃん初めてのジェットコースターだったのに、何であんな自信満々に楽しみ方をレクチャーしてくれたんだ?」
「おそらく雑誌で勉強したんでしょうね。昨日事務所で付箋塗れのガイドブックを見たわ」
後ろでアルスさんたちが何かひそひそ話しているようですが、きっとジェットコースターが楽しすぎて感想を言い合ってるに違いありません。
さて、次のアトラクションも元気があるうちに遊ばなければ損なもの。
なんてったって……。
「次はここ、『絶叫迷宮』です!」
日本一怖いと評されているお化け屋敷だからです!
「なんでもここは人形の出来が良くて、物凄く怖いそうですよ」
「ほう、人形か」
「人形ねぇ……」
きらり、と二人の目が光ります(もちろん比喩ですけど)。
人形師としての血が疼いたんだと思います。だってお化け屋敷に向かう人の顔じゃありませんもん。あれは人形を品定めしてやろうという芸術家としての顔です。
でも、それこそがわたしの目的!
芸術家モードなら二人はお化けにも怖がらないはず。
屈強なボディーガードに護衛されている人は、安心感から恐怖を感じにくいと聞いたことがあります。その理論でいけば、二人が傍にいてくれたらわたしの恐怖心もやわらぐはずです。
さあ、いざ行かん絶叫迷宮!二人がいればわたしは無敵です!!
「いやああああああああ!!!!」
前言撤回します。怖いものはやっぱり怖いです!
何ですか朽ちた子ども人形で気を惹いてから死角から本命のゾンビ人形で驚かせるとか反則ですよ反則!!
「おお、子ども人形もよかったがこいつもハイクオリティだぞ」
「ケロイド状になった皮膚とかリアルでいいわね。材質は何かしら?」
しかも頼りの二人はわたしを守ってくれるどころか人形に興味津々で全く相手してくれません!何度袖を引いても「はいはい」といった感じでおざなりな対応です……。
「しっかし、城を見たときも思ったが最近の職人は凄いな」
「そうね。舐めていたわけではないけど、ここの人形も素晴らしい出来だと感心しちゃうわ」
「まだまだ序盤だし、先にはもっと凄い人形があるかもな。行ってみよう」
ああ!人形見たさにスタスタ先へ進んでいます!待って待って、わたしをひとりにしないでぇぇぇぇ!!
その後は散々でした。二人は所々立ち止まってくれたので置いていかれることはありませんでしたが、追いつく度に人形やゾンビに扮したスタッフさんが驚かしにやってくるので心臓がバクバクしっぱなしです。
もはやわたしはボロボロです。半泣きになりながらアルスさんと橙子さんの腕をがっしり組んで離しません。
そんな情けないわたしを気遣ってか、間に挟まっているわたしを守るように移動してくれます。人形やゾンビが視界に入らないよう立ち回り、怯えることも驚くこともなく突き進む二人はさすがとしか言いようがありません。お化け屋敷なのに安心感を覚えちゃいます。
そして、絶叫迷宮入場から三十分後。二人がじっくり見て回ったせいで平均の二倍近い時間をかけてお化け屋敷を出ました。
「予想以上に楽しめたな」
「ええ。インスピレーションがたくさん湧いたわ」
絶対に間違っている楽しみ方をした二人を尻目に、わたしは決意を固めます。
絶対に!二度と!!お化け屋敷には入らない!!!
「さて、次はどこ行くんだ?……と聞こうと思ったが、霧絵ちゃん予想以上に消耗してるな」
「なら、次はゆっくりできるアトラクションはどう?パンフレットによれば近くにメリーゴーランドがあるようよ」
「そうだな……霧絵ちゃん、よければメリーゴーランドに行かないか?」
その提案にコクンと頷きます。さすがに、この状態で絶叫系には乗れません……。
そして、その後メリーゴーランドに乗って気力を回復したわたしは、二人を引っ張っていろんなアトラクションを乗り回しました。
フリーフォールにコーヒーカップ、空中ブランコ、ゴーカート、バイキング、ウォータースライダー…………途中お昼休憩を挟みながら、悔いが残らぬよう思いっきり楽しみます。
そうしていると、時間はあっという間に過ぎ去り日没間近。
夜になる前に遊園地の全体像を見ておこうとわたしが提案し、観覧車の列に並ぶことになりました。
◆
係員に促され、アルス、橙子、霧絵の三人は観覧車のゴンドラに乗り込む。最初に霧絵、次に橙子、最後にアルスという順番で、席も奥詰で座り霧絵と橙子がアルスに対面する形となった。
ゆっくりと時間をかけてゴンドラが上昇していく中、徐々に露わとなる遊園地の全貌に霧絵は興奮──―しなかった。
ただただ、夕日で紅く染まる遊園地を、愁いを帯びた瞳で見つめていた。
遊園地で遊んでいる時とは打って変わった様子の霧絵を、アルスと橙子は黙って見守るのみ。
二人は悟っていた。意図的に霧絵が観覧車を後回しにしていたことを。三人きりになれるタイミングを伺っていたことを。
ゴンドラという小さな世界に静寂が訪れる。ただゴンドラが揺れ動くギィという音だけが、この世界を侵食している。
「……二人は」
行程の四分の一が過ぎ去った頃。ようやく、霧絵の口が開かれた。
「二人は、もうすぐ伽藍の堂を出ていっちゃうんですよね」
ピクリ、とアルスの指が動く。橙子はおもむろに眼鏡を外した。
「気づいたきっかけは、些細な物事の積み重ねでした。橙子さんが本格的に建築設計を教えてくれたこと、趣味の骨董品が増えないこと、二人が夜な夜な工房で作業していること……。普段は疑問にも思わないこと。穏やかな日常の一つとして流されるような出来事。──―でも、ある時ふと気づいたんです。『ああ、この人たちはもうすぐいなくなっちゃう』って」
「「…………」」
「最初は気のせいだって無視していました。でも、その思いは日に日に大きくなっていって……お正月を迎える頃には、確信に変わりました」
霧絵は二人に一切顔を向けず、淡々と語る。
「橙子さんは時計塔から追われている封印指定者で、アルスさんはその使い魔。いくら極東の日本で結界を張っていても、長く一か所に留まり続けるのはリスクでしかない。もう何年も伽藍の堂に腰を落ち着けている以上、旅生活に戻るのは当然のこと。わたしたちを巻き込まない為にも、それが一番良い選択肢であることは理解しているつもりです。──―でも」
霧絵の視線が下がり、僅かだが肩が震える。
「でも、それが一番だと頭で理解しているのに、心が全力で叫んでいるんです。『嫌だ』『もっと二人と一緒にいたい』『家族をもう一度失うなんて嫌だ』って。……その叫びに、身を委ねたくなっちゃう……」
両手で自身を抱きしめ、今にも溢れそうな感情を必死に止めながら、なおも言葉を続ける。
「そんな時、遊園地のチケットが当たって、これは神様の思し召しなんだと思いました。これで二人と思い出を作って、それを糧に生きていきなさいっていう。……でも、ダメなんです。二人と遊んでいくうちに、心の叫びはもっともっと大きくなっちゃって、今でも必死に縋りついて泣き喚きたくなるのを必死に我慢しているんです」
しかし、霧絵の努力もむなしくついに感情が溢れ出る。両目から涙がぽろぽろ流れ落ち、小さな嗚咽が漏れ出てしまう。
「ごめんなさい……こんな告白してから泣くなんて卑怯ですよね。……ごめんなさい……やっぱり、わたしは悪い子なんです。……ごめんなさい……すぐに泣き止みますから……」
壊れたレコードのように、ひたすら謝罪を続け涙を収めようと霧絵は顔を押さえる。
そんな彼女を見て、アルスと橙子は目を合わせた。
そして──―橙子が霧絵を引き寄せ、空いたスペースにアルスが入りこみ、ぎゅっと左右から抱きしめる。
「えっ……?」
急に抱きしめられたという事実に、霧絵は押さえていた手を放し呆然としてしまう。
そんな彼女を愛おしそうに見つめながら、橙子が口を開いた。
「ありがとう霧絵。それほど私たちを愛してくれているとは、冥利に尽きるというものだ。──―だがな、それほど私たちを見ているというのに、霧絵は気が付かないのか?」
「気が付く……?」
きょとんとしている霧絵に、橙子から引き継ぐようにアルスの口が開かれる。
「俺たちも、霧絵ちゃんと同じくらい君を愛しているってことさ」
「アルスさんたちも……?」
「ああ。霧絵ちゃんが親のように愛してくれているように、俺たちも霧絵ちゃんを娘のように愛しているんだ」
「そうだ。四か月と短い時間だが、私にとっては無為に何年も続けていた逃亡生活より価値ある時間だった。そんな輝かしい生活を送れたのも、霧絵がいてこそなんだ」
「わたしが、いてこそ……」
「だからこそ、俺たちは伽藍の堂を去るんだ。……だけど、それは決して哀しいことなんかじゃない。ただ、霧絵ちゃんに留守を預けるだけなんだ」
「大丈夫、約束する。私たちは、いつか必ず伽藍の堂に帰ってくる」
「……約束、ですよ」
「ああ、約束だ」
霧絵の両手が二人の腰に周り、ぎゅっと抱きしめる。
彼女の想いに答えるように、アルスと橙子は抱きしめる力を強くする。
その姿は、まるで血の繋がった本物の家族のようで──―
──―頂上に到達した三人を、夕日が温かく照らしていた。
◆
「霧絵ちゃんは?」
「ぐっすりだよ。よほど疲れていたようで、ベッドに潜るとすぐ寝息が聞こえてきた」
時刻は夜十時。霧絵ちゃんの私室前で、俺と橙子はドアの隙間から霧絵を覗いていた。
ベッドで就寝している彼女の寝顔は、驚くほど穏やかだ。
「まさか、彼女があんなに思い詰めていたとはな。俺たちが去ることを匂わせないよう、隠し通してきたつもりだったんだが……」
「私たちが予想していた以上に、霧絵が聡かった。そういうことだろう。子は親の変化に敏感だと言うしな」
橙子は煙草を咥え、ライターを取り出し……懐に仕舞った。ここでは吸えないと判断したのだろう。以前の橙子からは考えられない変化だ。
「俺たちも、霧絵ちゃんの想いに報いてやらないとな」
「ああ。そちらはどうなっている?」
「術式自体は完成した。あとは人格の剪定といったところだな。一週間もすれば、最適なものが出来上がるだろう」
「それならば上出来だ。私の方は少し難航していてな……」
「やっぱり、動力が問題か?」
「ああ。以前製作したタイプなら問題ないが、それだと霧絵に深刻な被害が及ぶ。対抗策はあるが、四六時中それを強要する訳にもいくまい」
「解った。ならこっちの作業が終わり次第、そちらに合流する」
「なるべく早く頼むぞ。案はあるが、頭脳は多いに越したことはないからな」
俺たちは作業を再開する為に、工房へと足を運ぶ。
近いうちに訪れる別離を前に、娘へ残す物を完成させるために。
◆
時は少し遡り、霧絵が就寝する十分前。
霧絵は、鞄からある物を取り出した。
「うふふ……。アルスさんも橙子さんも、やっぱり似合ってる」
それは写真だった。観覧車から降車した霧絵が二人にせがみ、係員に撮影してもらった代物だ。
中央にいる霧絵を挟むように、アルスと橙子が立っている。三人とも笑顔で、頭に装着されたカチューシャが存在感を放っている。
霧絵はその写真をひとしきり眺めた後、パーク内で購入したフォトフレームにそれを収めた。
そして、慈しむように抱きしめた。何故なら、この記念写真は霧絵にとって初めて三人で撮られた写真だからだ。
今まで写真をろくに撮る機会がなかった彼女にとって、唯一無二の宝物だ。
その宝物を、霧絵はデスクの上へと……座った自分の目に映りやすい位置へと飾った。
いつどんな時でも、自分が愛する母と父を思い出せるように。
リアルが忙しくなり、不定期投稿になるのが決定的になりました。下手すると週1の可能性も出てきました。
ですが、必ず第一章である空の境界編は完結させるのでご安心を。
それに、ロード・エルメロイⅡ世の事件簿編や、だいぶ先になるであろうFGO編も書きたいですからね!
気長に待っていただけると幸いです<m(__)m>