今回から第二部、『ロードエルメロイⅡ世の事件簿』編、始まります。
空の境界編より難産してるので毎日更新は無理ですが、なるべく間隔を開けないよう更新していく所存です。
よろしくお願いします<m(__)m>
双貌塔イゼルマ:プロローグ
東欧某所
男はがむしゃらに走っていた。行手を遮る木も動物も一顧だにせず、見るからに上等な服が汚れようとも気にせず、ただただ生存を求めて走っていた。
何故こんなことになっているのか……男の脳裏に、事の発端が思い起こされる。
それはダイニングルームにて昼食後のティータイムを配下と共に楽しんでいる時に起きた。男の住居である屋敷に、突如として恐るべき破壊が齎されたのだ。
手段は判明していない。気がつけば屋敷は半壊し、衛兵は皆殺しの憂き目にあっていた。
そして、いつの間にか下手人と思われる男女二人組が男たちの前に立っていた。
もちろん男たちは襲撃者を排除しようと各々武器を持った。ある者はフレイルを、ある者は杖を、ある者は籠手を……。
男が持ったのは騎士剣だ。長年愛用してきたものだけあって、性能は折り紙付きだ。
じりじりと、白昼堂々襲撃した狼藉者を決して逃さぬよう包囲網を敷く。
こやつらをどう料理してやろうか。囲んで嬲り殺しにするのもいいし、足の腱を切って犬のように這いつくばらせるのもいい。
様々な案が浮かんでは消え浮かんでは消え……ついに結論に達する。
「行けぇ!我が
号令と共に配下たちが突撃する。その動きは大型肉食獣を連想させるほど
「殺すなよ!そいつらは生かしてジューサーにするのだ!」
衛兵は手も足も出なかったようだが、所詮グールとアンデッドの寄せ集め。それらと違いこの場にいるのは最低でも夜属、少数だが夜魔も混じっている。
教会の代行者を幾度となく返り討ちにした実績もある男は、勝利を確信していた。
しかし、その予想図はいとも簡単に打ち崩された。
襲撃者の片割れの男の姿が一瞬ブレたかと思うと、配下たちが一斉に吹き飛んだのだ。
「…………は?」
突然の異常事態に男の口から間抜けな声が漏れ出る。
配下たちは死屍累々と様子だ。夜属だった者たちの大半は頭を潰され、夜魔も致命傷を辛うじて避けられた程度だ。だが、仮にも人間を軽々と屠ってきたプライドがあるのか、生き残った配下たちは体勢を立て直そうと力を込め始める。
しかし、それを許さぬものがいた。片割れの女だ。
彼女は指で空中にルーン文字を描く。するとダイニングルームの床全体に何百ものルーン文字が展開された。
いつの間に……と男が驚く暇もなく、ルーンが一斉に起爆した。それらは初撃の比ではない威力を放ち、易々と配下を屠っていく。中には復元呪詛にて再生を試みる者もいたが、復元する側から破壊されていき、ついには塵となって消えていった。
ここまでが男──―死徒であるジェイムスンが屋敷を飛び出す直前の記憶だ。彼はルーンの爆撃に晒される中、配下が全滅したことをいち早く察知し襲撃者から逃亡を図ったのだ。
(クソッ!クソクソクソッ!何故こんなことに……ッ!?)
男には、他者とは一線を画する
わずかな違和感や気候変動を察知し、その中から将来の危機を察知する能力。臆病さとも取られかねないほどの敏感さにより、ジェイムスンは幾度もの窮地を脱してきた。
まだアンデッドだった時代に代行者の手から逃れられたのも、親が敵対した死徒勢力との戦争を生き延びられたのも、一瞬の隙を突き親に下克上を果たした時も。
全ては彼の敏感さがあったからこその結果だった。
その敏感さが、ジェイムスンに最大級の警告を鳴らす。
ゆえに彼は恥も外聞も、それこそ今まで積み上げてきた全てをかなぐり捨ててでも逃走に全力を傾けた。
死ななければいくらでもチャンスはある。生きてさえいれば、いつかは処女の踊り食いも
意地汚いという言葉すら霞むほどの執念。これもまた、敏感さと並ぶジェイムスンが成功を収めることができた要因でもあった。
しかし。
その執念と敏感さがあっても。
襲撃者たちの魔の手から逃れることはできなかった。
ジェイムスンが森を抜け巨大な湖に差し掛かると、進行方向に二色の影が見えた。
赤橙と蒼色だ。
それを認識した瞬間、彼は強く歯軋りした。
何故なら、それら二色は襲撃者たちが身に纏っていたコートの色だったからだ。
今すぐ森に引き返せ!と生存本能が叫び声をあげる。だが、ジェイムスンは意図的に無視した。
今更引き返そうとも、すぐに追いつかれることが明白だったからだ。それは、明らかに後追いしたであろう襲撃者たちが先回りしたという結果が証明している。
ジェイムスンは覚悟を決め、騎士剣を構えた。彼が考察するにやつらはコンビを組むことによって戦闘力を大幅に上昇させている。ならば、どちらか片方を殺すことに全力を注ぎ込めば活路が開けるかもしれない。
一縷の望みに掛けながら、ジェイムスンは女に向け疾駆する。明らかに戦闘特化と思われる男に比べれば、女の方がまだ殺せる可能性は高いと判断したからだ。仮に邪魔されようとも、復元呪詛によるゴリ押しで剣を振るえばよい。
雄叫びをあげ、剣を上段に構える。その様子は極東に伝わる示現流に通ずるものがあり、並の人間であれば恐れから金縛りにあうことは必須だ。
しかし、襲撃者たちには通じなかった。女を庇うように男が立ちふさがる。その目には一切恐れが宿っていない。
そして、男は手甲を装着した両腕をジェイムスンへと突き出し──―。
「
光が湖畔を包み込んだ。
◆
男が塵となって完全に消滅したのを確認し、俺は構えを解いた。
「全く。往生際が悪いったりゃありゃしない」
イラついた様子で、橙子が煙草に火を点ける。
「百回以上殺してもまだ再生するとはな。下僕と同じくさっさと塵に還ればよいものを」
「下級とはいえ死徒だからな。成ってから十年とはいえ溜め込んだエネルギーも相当だったんだろう」
こちらも一服しようと煙草を取り出すと、橙子が顔を近づけてきた。好意に甘え、煙草の先端を接触させる。
「だが、そのお陰で錆落としの総仕上げには丁度良かったな」
紫煙をくゆらせながら、下級死徒を討伐するに至った経緯を回想する。
きっかけは1999年末にまで遡る。
秘儀裁示局・天文台カリオンにて発生した大事変の当事者になった俺たちは、事変後ある悩みに苛まれた。
あれ……俺たち弱くなってね?と。
同じことを橙子も思っていたらしく、これは不味いと二人で頭を悩ませた。
理由は解っている。隠遁生活が長すぎたからだ。
時計塔の目から逃れ、数年間戦闘から離れたブランクは予想以上に魔術のキレを鈍らせていた。全盛期を知る者たちからすれば、堕落したなと嘆息されるのは免れないほどに。
橙子の封印指定が解除され、大手を振って時計塔に戻れることになったとはいえ、この状態で陰謀渦巻く伏魔殿に行くのは避けたい。
そういう訳で、俺たちは一計を案じ錆び付いた腕を磨き直すことにした。
具体的には魔術の研鑽と戦闘行為だ。秘密裏に設立した工房にて一から魔術を練り直し、時計塔のツテを利用し堕ちた魔術師や魔獣に戦闘を挑む。
その過程で幾つもの借りを時計塔の各派閥に作ってしまったが……討伐した魔術師の研究成果や魔獣の素材を渡すことで帳消しにしてきたので問題なかろう。
「おや?」
煙草を吸っていると、橙子の元に一羽の白鳩が舞い降りた。その足には手紙が括り付けられている。
今回討伐した死徒に関する情報提供元であるバイロン・バリュエレータ・イゼルマの使い魔だ。おそらく死徒の討伐と共に橙子の元に行くよう条件付けし、上空に待機させていたのだろう。
「バイロン卿からの手紙か。さしずめ借りを返せというところか?」
「そのようだ……なに?」
手紙を読み進める橙子の眉がぴくりと動く。
「どうした?よほど法外な報酬でも要求されたのか?」
死徒が溜め込んでいた財産を全て寄越せとか、蒼崎橙子の魔術の一端を開示せよとか。
まぁ、仮に後者だったらぶっ殺すまでだが。
「いや、魔術の開示も金銭の要求もない。むしろ死徒の財産は全てこちらが頂いても構わないらしい」
「は?それホントか?」
事前に受け取った情報によれば、屋敷地下には二代に渡って溜め込まれた財宝が隠されているらしい。
俺たちは確認していないが、その価値は金銭的にも魔術的にも莫大なものと推定されるそうだ。
魔術師にとって垂涎モノであるはずなのだが、それら一切の所有権を放棄するとは……。
確実に何か裏があるな。
「その通り。どうやらバイロン卿は私たちにどうしても引き受けさせたい依頼があるようだ」
手紙を手渡される。
そこには、報酬としてイゼルマからの依頼を引き受けるよう要求する旨が書かれていた。
という訳で、双貌塔イゼルマ編開始です。
感想、評価、推薦、お待ちしております<m(__)m>
あと、今後の展開に関わるアンケートにご協力お願いいたします。
※文字数制限があったので、本来選択肢にしたかった文言を公開します。
・アルスが膨大な借金を背負って乗車する魔眼蒐集列車
・フェイカーとドクターハートレスが原作以上に苦労する冠位決議
双貌塔イゼルマが終わりましたら閑話を挟んでいく予定ですが、その後に突入する原作をアンケートで決めたいと思います。
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アルスが膨大な借金を背負う魔眼蒐集列車
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フェイカーが原作以上に苦労する冠位決議