誤字報告してくれた方、ありがとうございました<m(__)m>
アンケートですが文字数制限があったので本来書きたかった選択肢をここで公開します(前話のプロローグの後書きにも追加いたします)。
・アルスが膨大な借金を背負って乗車する魔眼蒐集列車
・フェイカーとドクターハートレスが原作以上に苦労する冠位決議
ウィンダミア。
イングランド有数のリゾート地・保養地としても知られる湖水地方の玄関口であり、蒼崎橙子とアルスの依頼主であるイゼルマ家が治める領地がある都市である。
そこに向け、赤蒼の主従は電車で移動していた。
「名前だけは聞いたことあるわ。確か『最も美しいヒト』を作り出すことによって根源を目指す一族のことよね?」
「そうだ。民主主義派の中でもかなり有力な貴族で、
「えっ、なにそれ知らない」
「狙ったかのように橙子が留守のタイミングだったからな。ま、やってきたのは当主とそのお付きだけ。黄金姫も白銀姫もいないから、橙子にとっては会う価値なんてほぼ零だったろうな」
四人掛けのコンパートメント席にておやつのチョコレートを摘まみながら、使い魔は主に情報を差し出す。
「黄金姫と白銀姫ねぇ……。面識はあるの?」
「十五歳の時に一度だけ。あれは師匠に連れられイゼルマの領地に行った時だった……」
『社会勉強の一環だ』と無理矢理馬車で拉致され連行されたのが、双貌塔イゼルマだった。
当主であるバイロン・バリュエレータ・イゼルマに挨拶し、そこそこ会話を交わしたところで師匠に追い出されてしまう。ここから先の話は、一番弟子とはいえ聞かせられるものではないということだったのだろう。
仕方がないので探検がてら月の塔の調度品を鑑賞していると、背後から声をかけられた。
『あら、見慣れないお客さまね。どなたかしら?』
振り向くと、そこにはとても美しい童女とお付きらしき幼きメイドが立っていた。年齢はどちらも十歳未満というところか。
着ているドレスからして貴族であることを見抜いたアルスが、失礼のないよう挨拶する。
すると、童女は微笑みながら自らをエステラ・バリュエレータ・イゼルマと名乗った。白銀姫候補とも。
お付きのメイドはレジーナというらしい。
何をしているのか問われたので、手持ち無沙汰になったことを伝える。すると『ではお茶でもどうでしょう?』と誘われた。
「それでのこのこ着いて行ったという訳?」
「暇だったし、なにより年下の誘いを無碍に断れば男が廃るってもんだ」
主の茶化しを受け流し、使い魔は話を続ける。
お茶会はとても充実したものだった。
まだ十歳にも満たない年齢でありながら指先に至るまで洗練された所作と豊富な知識は妙齢の貴婦人を思わせる。そのアンバランスさは魅力の一つに成りうるが、同時に違和感による嫌悪感も引き起こす。
しかし、時折顔を覗かせる年相応の無邪気さによってソレは未然に防がれる。むしろ掛け算のように彼女の魅力を引き立たせていた。
相手が年下であるにもかかわらず、アルスは時間を忘れるほど会話を楽しんだ。仮に師匠であるイノライが見れば落第点を与えたことだろう。
しかし、何事にも終わりというものがある。
談話室の扉がノックされ、妙齢のメイドが現れる。何事かと視線を向けると、どうやらイノライからアルス宛に言伝を預かったらしい。
『すぐに陽の塔談話室に来ること』
エステラとレジーナにお茶会を途中で抜けることを謝罪し、アルスはメイドに先導され陽の塔談話室へと向かう。
そして、談話室にはエステラと瓜二つな童女……黄金姫候補、ディアドラ・バリュエレータ・イゼルマがいた。
「当時はまだ本格的に
『最も美しいヒト』を目指すことは、ただ単に元ある素材を磨け上げるということではない。
万人にとっての美を体現させる為には、千差万別ある個人の嗜好を超越しなければならないからだ。
その為には、貌なぞ真っ先に調整という名の改造が施されているだろう。
「へぇ、あなたがそこまで言うなんて珍しいじゃない。これは期待してもいいのかしら?」
「眼福なのは保証する」
これは楽しみね♪と橙子はチョコレートに舌鼓を打つ。
しかし、対照的にアルスは嫌な予感を感じ取っていた。
出発前、噂程度に耳に挟んだのだが、近々イゼルマにて社交界が開かれるらしい。お題目は『今代の黄金姫・白銀姫のお披露目』。
彼女たちの年齢を鑑みれば、イゼルマの成果として発表するのはおかしくないことだ。
しかし問題なのは、何故そんな大切な時期に領地へ招待してまで
噂通りなら、お披露目の為に総仕上げを行っているだろう。そんな大事な時期に部外者を招き入れる余裕はないはずだ。しかも封印指定を受けた『冠位人形師』という曰く付きを。
何事もなければいいが……。アルスは不安を噛み砕く意味も込め、チョコレートを口へと運んだ。
◇
ウィンダミア駅へと到着し改札を出ると、すぐ近くに馬車が停まっていた。おそらくあれがバイロン卿が寄越した迎えなのだろう。その証拠に御者が二人の姿を認めると、シルクハットを取り深々と一礼した。
「お待ちしておりました、蒼崎橙子様でございますね。バイロンより申しつかっております。どうぞお乗りください」
促されるまま橙子が馬車に乗り込み、アルスが二つの大型トランクケースを持って続く。
二人が乗り込んだことを確認すると、ピシャリと鞭の音が響きゆっくりと馬車が発進する。
馬車といえば揺れるものと相場が決まっている。例えサスペンションがあろうとも避けられないものだ。
しかし、この馬車には揺れというものがほぼ発生しなかった。それは舗装されていない道や険しい山道でも同様だった。おそらく魔術を併用しているのだろう。
そんな快適な旅に満足していると、遠くに異様な建造物が見えてきた。
十三メートルほどの三角形の塔が二つ、先端を交らわせるように現代建築ではありえない角度で並び立っていたのだ。
「見るのは十数年ぶりだが、相変わらずの傾き具合だな」
「あなたがそう言うということは……」
「ああ、あれが依頼主であるバイロン・バリュエレータ・イゼルマが拠点にしている双貌塔イゼルマだ」
やがて馬車は双貌塔の麓に辿り着く。
「では、私はこれにて」
御者が一礼すると、馬車と共にどろりと溶けた。後に残ったのは、小さな玩具の御者と馬車だけ。
人形師として琴線に触れたのか、「ほう」と橙子が感心していると、コツコツという杖の音と共に初老の男性が塔から現れた。
「遠路はるばるようこそいらっしゃいました、蒼崎橙子殿。バイロン・バリュエレータ・イゼルマと申します」
初老の男性……依頼主であるバイロン卿は、優雅に一礼する。
そして、蒼崎橙子の従者と思われる男性に視線が向き……僅かだが、動揺の色が瞳に現れた。
「ご当主自らお出迎えとは。これは挨拶が遅れました。蒼崎橙子と申します」
そんなバイロン卿の様子を知ってか知るまいか、橙子は気にせず挨拶する。
そしてアルスに振り向くと、存在を知らしめるよう大仰に腕を広げ使い魔の紹介をした。
「彼は私の使い魔、アルスです」
「アルスと申します。以後お見知りおきを」
アルスは
バイロン卿はその行為に隠された意味を察したようで、気持ちをリセットするかのようにかぶりを振ると背後のメイドへと指示を出す。
「レジーナ、お二人を客室に案内しなさい」
「かしこまりました」
レジーナと呼ばれた褐色肌のメイドは一礼すると、「こちらでございます」と二人を先導する。
その様子を、バイロン卿は黙って見つめていた。
◇
バイロン卿が用意した客室にて、アルスはひとり作業をしていた。
金属製の歯車や、映写機に使用するリール、フィルム、
ちなみに彼の主たる蒼崎橙子はここにいない。到着早々バイロン卿の要請により依頼内容について協議に行ってしまった。
本来なら使い魔たるアルスも護衛として着いていくべきなのだろうが、バイロン卿直々に断られてしまった。使い魔といえど、依頼の当事者以外に情報は明かせないそうだ。
布を手に取り、歯車を磨く。ルーペを用いルビーに傷があるか確認する。
他にも様々な単純作業を繰り返していると、窓から夕陽が差し込まれた。どうやら熱中し過ぎて時間を忘れていたようだ。
一休みするかと卓上にある物品を片付けていると、ガチャリと無遠慮に扉が開かれた。
振り返らずとも解る。我らが主のご帰還だ。
「おかえり橙子。話は順調に進んだか?」
「滞りなく、ね」
彼女の顔は喜びに満ちていた。どうやらお眼鏡にかなう依頼だったようだ。
「それより、バイロン卿があなたをお呼びよ」
「俺をか?」
アルスは訝しみながらも、主の背後に控えていたレジーナの先導のもと、談話室へと向かう。
入室すると、中にはバイロン卿がひとりパイプを吹かしていた。お付きのメイドも護衛もいない。
「かけたまえ」
自らの対面に座るよう、バイロン卿が促す。
「では失礼をば」
アルスが座ると、レジーナが紅茶の準備を始めた。
「あの場では君の意図を汲んだが、こちらとしては正式に挨拶をしておきたくてね。こうして場を設けさせてもらった」
粛々と紅茶が淹れられる中、バイロン卿が呼び出した訳を説明する。
アルスは彼の本家筋であるイノライ・バリュエレータ・アトロホルム──ー現在のロード・バリュエレータの一番弟子だ。
過去幾度となく顔を合わせたこともあり、通常ならば塔の麓で相対した時に再会を喜ぶはずだったのだが……。
「一介の使い魔には身に余る光栄です、バイロン卿」
あくまで、アルスは蒼崎橙子の使い魔という立場を強調する。
「そういう訳にもいかないのだよ。君がどのような立場に甘んじていようと、我々にとってはロード・バリュエレータの一番弟子であることには変わりない。それにここだけの話だが、バリュエレータ派には回状が回っていてね。『アルス・キュノアスと接触した者はなるべくその場に引き留めること』」
「師匠……」
まだ諦めていなかったのか。とアルスは頭を押さえた。
「安心したまえ、我々にその気はない。しなくても意味がないとも言えるが」
「それはどのような意味で?」
「一ヶ月後。ここ双貌塔イゼルマにて黄金姫・白銀姫のお披露目が行われる運びとなった。もちろん、イノライ様への招待状は送付済みだ」
「……つまり橙子が受けた依頼もそれほど長期のものと」
「その通り」
はぁ、とアルスが溜息をつく。
彼はとある理由で師匠であるイノライに負い目を感じている。だから時計塔に戻った後も意図的に出会わないよう立ち回っていたのだが……。
これは年貢の納め時かと諦めの境地に入る。
その時、かちゃりとティーカップが二人の前に置かれた。中には紅茶が満ちており、とても良い香りを漂わせていた。
アルスは気持ちを入れ替える為にも、それに口をつける。
「ッ!これは……」
「うち一番のマイスターが淹れた紅茶だ。お気に召して頂けたかな?」
目を見開くアルスに対し、イタズラ成功と言わんばかりにバイロン卿がウインクする。
「レジーナの紅茶はイゼルマ家の名物のひとつとなっていてね。イノライ様の称賛も頂いている」
「確かにこれは衝撃的です。俺が飲んだ紅茶の中でも五指には入ります」
手放しで褒めるアルスに「恐縮です」とレジーナは一礼する。
「……さて」
アルスが無言で紅茶を楽しんでいると、バイロン卿がレジーナに視線を向ける。すると、彼女は一礼して談話室から退室した。
どうやら彼はアルスと二人きりで話がしたいようであった。
彼の雰囲気が張り詰めたことを察知したアルスは、ティーカップを置き向き直る。
「……これはバリュエレータ派の総意と捉えてもらってもよいのだが」
バリトンの効いた低音が、言葉に込められた意思同様談話室に重く響く。
「君はいつイノライ様の元に帰ってくるのだ?アルス・キュノアス」
「……その名はよしてください。今の俺は、ただのアルスです」
「何故かね?君がどう言い繕うが、七代続いた名門貴族キュノアス家当主であることには変わるまい」
「領地を時計塔に接収された者が当主を名乗ることなどできませんよ」
アルスの言う通り、キュノアス家が治めていた領地は彼の出奔後時計塔によって管理されることが決定している。
出奔してから十年以上経っている為、今頃は他の貴族が運営しているだろうとアルスは嘯いた。
「その点については安心したまえ。現在彼の地はイノライ様が運営しておられる。屋敷も手付かずのままだそうだ」
「師匠……」
先程とは明確に違う呟きが、アルスの口から漏れる。
師匠であるイノライの心遣いが、彼の身に沁みていく。
「……それでも、俺はただのアルスです」
しかし。
それでもアルスの答えは変わらなかった。
「噂が真実だったとは……嘆かわしいことだ。『
「全てを橙子に捧げています。彼女に使い潰されることこそ、俺の存在意義です」
アルスは紅茶を飲み干し、失礼しますと席を立つ。
談話室を去っていく使い魔の後ろ姿を見送り、バイロン卿はひとつ溜息をついた。
「本当に、嘆かわしいことだ……」
彼にしては珍しく。
その言葉は本心からのものだった。
活動報告にて、閑話に使用するネタ募集したいと思います。
作者の貧弱な脳ではレパートリーに限界がある為です(´;ω;`)ウゥゥ
簡単に登場キャラとシチュエーションを書いていただければ、その中から書けるものを選んで執筆いたします。
読者様たちの見たいシチュエーションでもOKです!
特に期限は設けないので、気が向きましたらご記入ください<m(__)m>
感想、評価、推薦、お待ちしております<m(__)m>
双貌塔イゼルマが終わりましたら閑話を挟んでいく予定ですが、その後に突入する原作をアンケートで決めたいと思います。
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アルスが膨大な借金を背負う魔眼蒐集列車
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フェイカーが原作以上に苦労する冠位決議