やっぱり感想は作者の一番の栄養になるってはっきりわかんだね。
建築デザイン事務所兼人形工房『伽藍の堂』が開業してから数年。
俺と橙子は充実した日々を過ごしていた。
私生活では、ようやく思う存分研究や趣味に没頭できる時間を手に入れたため、お互いタガが外れたように創作活動などに力を入れている。
つい先日など、仕事関係で世話になった美術館オーナーの依頼で人形を製作することになり、久しぶりに橙子と合作で創った(もちろん、一般向けの神秘ナシの代物だ)。
あれは我ながら会心の出来だと思っている。
仕事だって順調だ。
開業初期は実績皆無で特に宣伝などもしていなかったため閑古鳥が鳴く始末だったが、橙子による発想の転換、『依頼がないならこちらで創ればいいじゃない』という強引すぎる売り込みによって収入を得ることができた。
当初は困惑と懐疑の目線がほとんどだったが、それも品が完成すると消えていった。おかげで評判は上々だ。
ちなみに、仕事のほとんどは売り込みとなる。時計塔に封印指定されている以上目立ったことができないため仕方のないことだ。
しかし、何の偶然か依頼がごくまれに舞い込むこともある。以前も小川マンションという建築物の設計図を橙子が引いていた。
……しかし、依頼料が入金される端から骨董品などに使い込むのはやめてほしい。おかげで頻繁に家計が火の車になる。当初は主特権で財布を独占していた橙子だったが、一時期本気と書いてガチと読むくらいにやばくなったので、今では俺が財産管理している。それでも目を盗んで骨董品を買ってくるのには頭を痛めるが、中には本当に貴重なものが含まれているため中々止めるに止めれない。
「アルス、言い忘れていたが今日は来客がある」
眼鏡を外した橙子が、煙草を吹かしながら予定を告げた。
「来客だと?そんなことはここに来てから初めてだな。もしかして魔術師か?」
「いや、魔術師ではない。神秘のしの字もない、完全無欠な一般人だよ」
「一般人だって、何の用でここに?……もしかして依頼者か?珍しいな、橙子がここに招待するなんて」
「いや、招待してないさ。彼は自らの力でここを探り当てた」
「そいつ、本当に一般人なのか?神秘と関わりないやつがここを見つけ出すことなんて考えられん」
「それが、私が調べた限り本当に一般人。使い魔で観察しても特に異常はなかった」
「……未だに信じられないが、橙子がそういうならば真実なんだろうな。で、その一般人くんはいつ来るんだ?」
「この後すぐ」
ピンポーン、と呼び鈴が事務所に響き渡る。
「それじゃ、ここに連れてきてね~」
振り返ると、いつの間にか眼鏡をかけた橙子がニッコリと手を振っていた。
まったく、これはイタズラではなく本当に忘れていたパターンだな。とひとりごちりながら玄関へと向かう。
ドアを開けると、そこには黒ずくめの青年が立っていた。
年齢は十八歳くらいだろうか?あどけなさを残した顔立ちは、青年がまだ未成年であることを物語っている。
「初めまして、黒桐幹也と申します」
青年──―黒桐幹也は礼儀正しくお辞儀をし、つまらないものですがと手土産を渡してくる。
おっ、これは最近話題のどら焼きじゃないか。後で橙子と頂こう。
「橙子から話は聞いているよ。さ、中に入って」
黒桐くんを橙子の元へと案内する。
さて、橙子との会話で彼にトラウマが刻まれないと嬉しいが……。神秘なしで
まぁ、今の橙子は眼鏡モードだ。あまりに無体なことはしないはずだろう。
紅茶を淹れながら、二人の会話に耳を傾ける。
……おや、意外と話が盛り上がっているな。しかも、黒桐くんの方から積極的に話している。これは予想外。
さて、紅茶も完成したし配膳に行こう。彼、苦手でなければ嬉しいのだが……。
その後の会話は、特筆すべきものはなかった。美術展に出展されていた人形が素晴らしかっただの、それに感銘を受けてここを探し始めただの。
橙子が1を問いかけると、彼は10も返答する。どうやら、俺たちの合作『逢瀬』は彼にとてつもない影響を与えてしまったらしい。
ちらり、と橙子に目を向ける。どうやらこの青年との会話は楽しめるもののようだ。会話を止める気配はない。
よかった。つまらないようなら早々にお帰り頂くつもりだったが、杞憂だったようだ。
これは長丁場になると判断し、軽食を作りにキッチンへと向かう。
ちょうどお昼の三時だ。小腹が空く頃だろう。
冷蔵庫の余り物でサンドイッチを作り、二人の元へと向かう。
「そうだ。なら幹也くん。うちで働かない?」
事務所に戻ると、橙子がとんでもない爆弾発言を投下していた。
なぜそうなる!?
一週間後、もろもろの手続きを終えた黒桐くんが初出社してきた。
いやぁ、橙子から聞いたときは耳を疑ったが、本当に入社するのか。
聞けば大学を中退までしたとか。どうやら俺たちの人形は善良な一般市民に道を踏み外させるほどの魅力を秘めているらしい。これは今後自重せねばならないかもしれない。
「仕事の説明をするが、基本的に事務作業をしてもらう。書類整理や帳簿の作成、あとは掃除とかかな」
新しく用意した事務机に案内する。
「橙子の仕事は不定期でね。息つく暇もないときもあれば閑古鳥が鳴く日もある。今はその中間というところかな。サポートするから、今日は書類整理をお願いするよ」
俺のサポートの下、黒桐くんは書類整理を始める。
大学中退というわけで若干不安があったが、それは杞憂だったらしく、目を見張る速度で彼は書類の山を片付けていく。
やばい。現時点で俺の処理速度と同等だ。仕事に慣れればこの倍以上の速度となって俺はお役御免になるかもしれない。いや、事務作業から解放されて俺は万々歳なわけだが。
この調子なら、助けは必要ないかもしれない。それならば、自分の用事を済ませるとしよう。
デスクの引き出しを開け、家計簿を取り出す。
これは、事務所の帳簿とはまた別の、私的な家計簿だ。橙子は金銭関係はズボラだからな。こうして俺がつけておかないとあっという間に貯蓄が底に着く。
さて、今月はどうかな……。げ、橙子の衝動買いが多かったせいで若干の赤字だ。おかしい、いくつか大きな仕事をしたから黒字だと思っていたのだが。
……あ、そうだ。橙子との合作が久しぶりということで人形の素材を奮発して上等なものにしたんだった。それでギリギリ赤字なのだ。
これは俺のミスだな。仕方ない、ヘソクリからいくらか補填しよう。
それから二時間後、書類を片付けた黒桐くんに紅茶を振る舞っていた。
「初めて飲んだときも思ったんですけど、本当に美味しいですよねこの紅茶」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。淹れた甲斐があるってもんだ」
橙子はもはや慣れてなにも言わなくなってしまったからな。最初は美味しい美味しいと感想を言ってくれていたのに……悲しいものである。
「すいません。質問良いですか?」
「ん、なんだい?」
「アルスさんも人形師なんですよね?橙子さんと同じく」
「人形師……ねぇ。正確には別物かな。俺は
「ジェネラリスト?」
「そう、人形以外にも絵画や家具などあらゆる物を創るんだ。例えば今君が使ってるデスクとチェア。それは俺が君に合わせて作ったものだ」
「え、これが!?」
「その証拠に、調整しなくてもぴったりフィットしただろう?」
「確かに、初めて座った時からみょうに仕事しやすかったですね……。でも、アルスさん僕の体形測っていませんでしたよね?」
「それくらいなら見ただけで測定できる。ま、これくらいの芸当できなきゃ橙子の傍に立てないさ」
「……橙子さんのこと、大切に思ってるんですね」
黒桐くんがポツリと呟く。その声音には、どこか羨望が混じっている気がする。
「黒桐くんにはいないのかい?大切な人」
「もちろんいますよ。両親に妹。それに……」
彼はカップに目を落とす。
「今は会えませんがひとり、家族以外にいます」
「……まぁ、深くは聞かないさ」
様子から察するに、あまり立ち入らない方がいいのだろう。誰にでもセンシティブな話はあるものだ。
「さぁ、休憩は終わりだ。次は掃除について教えよう。君が立ち入れない場所もあるからね」
「はい、よろしくお願いします」
しかし、この時の俺の気遣いもむなしく、彼の『大切な人』は後日橙子によって聞き出されてしまう。
それが、これから始まる激動のきっかけになるとは、この時は夢にも思わなかった。
原作との相違点があると思う人もいるかもしれませんが、そこは以前説明したようにアルスがいることによるバタフライエフェクトだと思ってください。
お願いします!なんでもしますから!!
矛盾螺旋編が終わった後、忘却録音編と殺人考察(後)編と続き空の境界編が終了。続いてロード・エルメロイⅡ世の事件簿編に移行しますが、矛盾螺旋、忘却録音、殺人考察(後)、これらのエピソードの間には約1か月ほどインターバルがあります。この間に閑話を入れるかどうかアンケートしたいと思います。
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矛盾螺旋と忘却録音の間に閑話入れろ
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忘却録音と殺人考察(後)の間に閑話入れろ
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どっちのインターバルにも閑話入れろ
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閑話いらねえ!早く事件簿編読みてえ!