人形師の使い魔   作:アスラ

31 / 44
お気に入りが順調に増えていってて嬉しい……嬉しい……。
この勢いのまま高評価貰えるよう頑張ります!

今更ながら注意をば。
この小説は原作のネタバレを含む場合がございます。未読の方はご注意を。


双貌塔イゼルマ:3

 お披露目が行われる社交界まであと五日というところで、イスローくんから俺たちに正装が届けられた。

 彼はギリギリになって申し訳ないと恐縮していたが、むしろこちらが謝りたいところだ。バイロン卿からの無茶振りとはいえ一か月足らずで二着も仕立ててくれたのだ。負担は相当なものだったろう。

 

 失礼しましたと功労者が退室したのを見計らい、俺と橙子は顔を見合わせた。お互い通じ合っているようで、どちらともなく正装を手に取り着替え始める。

 社交界当日に一度も袖を通していない服を着ていくほど俺たちも馬鹿ではない。

 それに、お互いドレスアップした姿を見てみたいという欲もある。綺麗に着飾ったパートナーはさぞ美しく見えることだろう。

 思えば、橙子のドレス姿を見るのも久しぶりだ。

 昔はそれなりにパーティーというものに縁があった。時計塔時代は貴族であり次期当主でもある為、パートナー必須である場合は付き合ってもらったし、伽藍の堂では逆に従者の役割としてパーティーに出席した。

 最後に橙子のドレス姿を見たのは……数年前のビル完成披露祝賀会だったか。

 あの時は爆弾魔という横槍のせいで早々にパーティーが切り上げられてしまったが、今回はその心配もないだろう。

 

 それぞれ互いが見えない位置で正装に袖を通す。どうせ見るなら、途中経過より完成した状態を見たいしな。

 手触りの良さ、加えて着心地の良さに驚く。素材もさることながら、イスローくんの腕の良さも素晴らしい。二回ほどしか仮縫いしていないのにジャストフィットする。

 そして数十秒後。お互い着終わったことを確認し、ファッションショーの如く部屋中央に集まった。

 

 ──―そして、完成された芸術品を見ることになる。

 

 黒と白のツートンカラーで構成されたドレスは橙子が持つ赤を引き立たせるだけでなく、相乗効果によって女性らしいプロポーションをより魅力的に魅せていた。広げられた胸元は豊かな乳房をこれでもかと強調するが下品さは一切なく、髪留めや真珠のネックレスといったアクセサリーも見事に蒼崎橙子という美と一体化している。

 対して俺のタキシードは全身青系統の色で統一されていた。さすがにワンポイントで黒色が配色されているが、俺の髪と瞳の色に合わせているようだ。

 

 ……なに?橙子と比べて俺の説明が短すぎるだって?

 野郎の詳細なんて聞いてもしょーがねーだろ、うん。

 

 とにかく、俺が言いたいのは橙子のドレス姿は素晴らしいということだ。社交界は黄金姫・白銀姫が主役だが、彼女たちが現れるまでは橙子が会場中の視線を一身に浴びることになるだろう。

 楽しみになってきた。俺は添え物だからそんなに注目を浴びないだろうが、主菜である橙子が目立てばそれでいいのだ。

 そんなことを彼女に言うと、なんともいえない顔をした。理由を訊いても苦笑を漏らすだけである。

 ……謎だ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 疑似的なファッションショーを終え、春もうららな昼下がり。

 アルスは白銀姫付きの侍女レジーナとお茶を楽しんでいた。

 きっかけは、橙子に忠告されレジーナに話しかけた頃にまで遡る。

 一仕事を終え、休憩中のレジーナを捕まえたアルスは何故視線を向けるか問いかけた。

 すると、彼女の口から意外な事実を聞かされる。

 なんと彼女の紅茶の腕はアルスに影響されて磨かれたものだという。

 詳しい話を聞くと、十数年前アルスが双貌塔を訪れた時に(アルスが橙子に語ったエピソードだ)ご馳走になった紅茶に感銘を受け、その味を目指して努力を重ねたらしい。

 つまり、アルスは彼女の間接的な師であるのだ。

 

 熱く紅茶への想い、そして感謝を述べるレジーナ。

 そんな予想外な感情をぶつけられたアルスはと言うと……機嫌をよくしていた。なんなら気に入っていると言ってもいい。

 褒められて気を悪くする人間などいないということもあるが、紅茶好きという同好の士というのが大きい。加えて自らに匹敵する腕の持主であるならば、アルスには交流を深める選択肢しか残らなかった。

 今ではお茶会という名の研鑽会が開催されており、今回で三回目ということになる。

 

「……ふう。大変美味でございます」

 」

 

 アルスの紅茶を称賛しながら、ティーカップを置く。その動作は洗練されており、メイドという身でありながら優雅さを醸し出している。人間の美を追求してきたイゼルマ家の面目躍如といったところか。家門の人間だけでなく召使いにまで教育が行き届いている。

 

(だが、それを加味しても彼女(レジーナ)の美しさは群を抜いている……)

 

 僅かな違和感を抱くも、それを根拠に根掘り葉掘り質問するような無粋な真似はしない。

 今は優雅なお茶会の時間だ。個人的興味で場の雰囲気をぶち壊すような趣味をアルスは持ち合わせていない。

 

「そう言ってもらえるとは嬉しいな。前回前々回と紅茶をご馳走になったから、今回は俺が淹れてみた。……気に入っていただけたようで何より」

「初めてお会いした時と変わらず、素晴らしい腕前でございます。……ですが、疑問が一つ」

「なんだい?」

「アルス様がご使用なされた茶葉は一体どこで産出された物なのでしょうか?爽やかな口当たりはダージリンを想起させますが、それにしてはアッサムのような甘みもある……。全ての茶葉を知り尽くしているとは口が裂けても言えませんが、イギリスで入手できる物は全て頭に入っております。しかし、これには全く心当たりがございません」

「おお、一口飲んだだけでそこまで解るとは素晴らしいな。君の言う通り、この茶葉は一般では入手できない代物だ。──―なんせ、うちで自家栽培している品種だからね」

「えっ、嘘!」

 

 口に手を当て目を見開くレジーナ。思わず素が出たようだが、すぐに取り繕い「失礼いたしました」と頭を下げた。

 アルスは気にすることはないよと手を振ると、茶葉の解説を始めた。

 

「君が知っている通り、俺は紅茶に関して並々ならぬ情熱を注いでいてね。市販されている物では飽き足らず茶葉栽培にまで手を出したんだ。だが、資料を集め環境を整えるも初期は失敗続き。長年試行錯誤を続けてきたが、七年前ようやく完成にこぎつけることができた」

「それは……素晴らしいことでございます。紅茶好きならば、誰もが一度は夢見るオリジナル品種の開発。成し遂げてしまうとは、さすがでございます」

「ありがとう。その言葉だけで苦労が報われるよ」

「……困難を乗り越え、夢を実現させる。本当に、素晴らしいことでございます」

 

 レジーナの視線が下に向いてしまう。その瞳は物憂げな様相であり、なにか問題を抱えているように見える。

 

「何か悩み事でもあるのか?紅茶仲間なんだ。遠慮なく相談してくれても構わないんだぞ」

 

 むろん、レジーナが馬鹿正直に悩み事を打ち明けるとは思っていない。いくら同好の士であろうとも、そこまで仲が深まっている訳ではないからだ。

 

「……これは、例えばの話なのですが」

 

 案の定、レジーナは例え話というクッションを挟んだ。

 しかし、それでも構わないとアルスは耳を傾ける。彼女が楽になるならば例え話であろうと聞く価値はあると判断した。

 

「大切な人が危機に瀕している時、全てを敵に回しても救いの手を差し伸べますか?」

「差し伸べるな。間違いなく」

 

 きっぱりと。

 アルスは躊躇いなく回答した。

 

「え……」

 

 あまりの早さに、レジーナは言葉を失い戸惑うのみ。

 そんな彼女に構わず、アルスは言葉を続ける。

 

「見捨てる道が先の人生を華やかに彩る選択肢だったとしても、俺は茨の道を突き進むと断言できる」

「しかし……全てを敵に回すことになります。これまで得た名声も実績も、全て捨て去ることに……」

「それでも、だ。身内を守る為ならば、己の損得なぞ計算外さ」

 

 さも当たり前だと断言するアルスに、レジーナは言葉を失い驚愕する。同時に、この人ならば当然の答えなのかもしれないと納得した。

 詳しい経緯は知らないが、目の前で紅茶を飲んでいる男は封印指定を受けた冠位魔術師蒼崎橙子の逃亡を手助けするどころか同行し出奔までしたという。

 イゼルマ家の本家当主であるロード・バリュエレータの一番弟子という立場、時計塔史上数えるほどしか存在しない十代での色位(ブランド)到達という名誉、本家筋の人間ではないにも関わらず『バリュエレータの後継』の二つ名を許されるほどの実績。そして、それらに付随する輝かしいばかりの栄光。

 常人では一生かけても手に入れることのできないモノを、たったひとりの女の為に全て捨て去ったのだ。

 その在り方は、尽くすべき主であり大切な幼馴染を持つレジーナには尊く見え……。

 ある一つの決断を、彼女に下させた。

 

「こんな答えだが、満足してもらえたかな」

「──―はい、大満足でございます」

 

 すっきりした顔でレジーナは礼を述べる。

 

「つきましてはアルス様、もう一つお話ししたいことがございまして……」

 

 そして、たった今決断した内容をアルスに話した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時刻は早朝。

 太陽が未だ登りきらない時間帯に、ひとりの人間が月の塔へと歩みを進めていた。

 人間は確かな足取りで、確たる目的を持って月の塔正面入り口へと辿り着き──―通り過ぎる。

 出入口たる正面玄関を避けてどこへ向かうのか……その答えはすぐに解った。

 ぐるりと月の塔を回りこむこと百八十度。ちょうど正面限界の真反対側に裏口が存在していた。

 人間は迷うことなくドアノブに手をかけ、()()()()()()()()()扉を潜る。

 コツコツコツ……と静まり返った廊下を歩き、螺旋階段を上る。

 そして、目的の部屋へと到着し軽くノックをすると……

 

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 

 褐色肌の使用人──―白銀姫付きの侍女レジーナが人間を迎えた。

 人間は入室し、促されるままテーブルの席──―()()()()()()姫のいるテーブルの席につく。

 

「それでは、ただいまより会議を始めさせていただきます」

 

 この場に集まるべき人間が揃ったことを確認したレジーナが、会議の音頭を取る。

 

「議題は、どのようにしてイゼルマから逃亡するか」

 

 イゼルマに忠誠を誓っているはずのメイドから、驚くべき議題が告げられた。

 緊張からか、黄金姫と白銀姫が口を真一文字に固く結ばれる。

 そして人間は──―心底愉しそうに口角を吊り上げた。

 




次話からようやくライネスたちを出せます。
ついに一般魔術師から見た蒼崎橙子とアルスを描写できるぞ!

感想、評価、推薦、お待ちしております<m(__)m>

双貌塔イゼルマが終わりましたら閑話を挟んでいく予定ですが、その後に突入する原作をアンケートで決めたいと思います。

  • アルスが膨大な借金を背負う魔眼蒐集列車
  • フェイカーが原作以上に苦労する冠位決議
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。