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目指せ1位!!!
『
アルス・キュノアスの二つ名は数あれど、一番有名なものはやはり『コレクター殺し』であろう。
時計塔から畏怖と尊敬を持って呼ばれるこの名の由来を説明するには、前提としてキュノアス家について語らなければならない。
「彼の生家は時計塔じゃ名の知れた名家でね。三大貴族のような権勢はないものの、ある一点だけでそれらに次ぐ影響力を持っていた」
「一点……ですか?」
「ああ、
魔術世界における特許は、表社会とそう変わらない。
術式を公表する代わりに使用料を徴収する。
むしろ世界規模で特許使用を監視する専用礼装がある分だけ容赦ないかもしれない。
「まぁ、自ら弱体化するような真似だから出願する魔術師はそういないがね。出したとしてもせいぜい一つか二つ。内容も出願者の秘奥と併用して本領発揮するものが大半だ。──―だが、キュノアス家は違った。
「さ、三十以上ですか!?」
何度聞いても狂った数だと耳を疑う。しかもそれらのほとんどが有能な術式と来た。
「その大半は一貫したテーマがあってね。内容は『術式の省略』。名称通り組み込めば詠唱や術式を短縮するこができる。これだけならば他の魔術師が申請しているものと似たようなものだが、それらと一線を画しているのはその多様性だ」
なんせ、汎用ではなく種類別に特化した術式なのだ。キュノアス家が得意とする建築魔術や錬金術のみならず、時計塔ではマイナーな陰陽術や呪術までカバーしてある。
特許数同様、聞いた己の正気を疑う事柄だ。
今やキュノアス家の特許を使用していない魔術師なぞよっぽどの経済弱者しか存在しないと言われるほどだった。
「……十六年前に、何があったんですか?」
「簡単なことさ。当時当主を務めていたアルス・キュノアスが権利を全て時計塔に売り払ったのさ」
私はまだ生まれていなかったので当時の様子は知らないが、聞くところによると時計塔を上下にひっくり返したような騒ぎになったらしい。
それも無理はない。長年どの派閥にも属さず中立の立場を守ってこれた権勢の源を自ら手放したのだ。自殺行為も甚だしい。
「それもその後に彼が取った行動の下準備だということが判明するのだが……その前にアルス・キュノアスについて話そう」
ええ!と、大好きなお話を「つづく……」で焦らされた子どものような顔になるグレイに後ろ髪を引かれながらも、説明を続ける。
アルス・キュノアス。六代目キュノアス家当主であるローガン・キュノアスとその妻シズカ・キュノアスの息子。
長男として生を受けた彼は幼少期から才能の片鱗を見せつけ、齢十を迎える頃には
イギリスの初等教育を終えると同時に時計塔に進学。そしてキュノアス家の権勢をフルに使い十三学科全てを受講するという狂気じみた所業を敢行。それに目を付けた後のロード・バリュエレータであるイノライ・バリュエレータ・アトロホルムの一番弟子となり、研鑽を積むことになる。
風の噂によれば、魔術師としては珍しく単なるスペアの意味合いしか持たない妹との関係もよいらしく、家族の万全のサポート体制と優秀な師匠によってより一層才能に磨きをかけた彼はいつしか『バリュエレータの後継』とまで謳われるほどになり、順当に行けばいずれロードの地位に納まるかもしれないと噂されるほどだったという。
そんな凡庸な魔術師からすれば輝きで目が潰れんばかりの順風満帆な魔術師人生をこれからも送り続ける……と思われた矢先、彼を突然の悲劇が降りかかる。
死徒……それは後天的に吸血種となった人間を指す『人類史を■■するモノ。人間世界のルールを汚すために存在してきたモノ』。
数少ない例外を除けば人類に仇なす存在であり、聖堂教会の最大の敵。
大別して下級・上級の二種類がおり、下級の時点で並の魔術師や代行者では歯牙にもかけられない。上級ともなれば最早アンタッチャブル扱いだ。
そんな天災に、キュノアス家は襲われた。
幸いにもローガン・キュノアスに刻まれていたキュノアス家の魔術刻印は無事だったそうだが、屋敷は見るも無残な有様だったらしい。詳しい状況は部外者である私たちでは窺い知れないが、相当酷いことになっていたのは確かだ。
「皆殺し、ですか……」
愁いを帯びた表情でグレイが俯く。我々生粋の魔術師とは違い、性根が良い彼女は彼の痛みがありありと想像でき、悲しむことができるようだ。
そんな彼女を好ましく思いながら、私は説明を続ける。
「その悲劇の下手人こそが『コレクター』こと『ヴィレム・バークアソート』。時計塔の悩みのタネであり聖堂教会における埋葬機関の番外席次さ」
全く、聖堂教会にも呆れたものだ。
毒を持って毒を制すという故事成語があるとはいえ、番外席次というのも見逃す為の方便だろう。
そんな異端ともいえる死徒によって家族を失ったアルス・キュノアスの様子はというと、家族の死を悼みながらも気丈に振る舞っていたそうだ。それどころか研究により一層励むようになり、周囲はそれでこそ魔術師だと持て囃したらしい。
彼の内に潜むマグマよりも煮えたぎる激情に気づくことがないままに。
そして彼は数々の偉業を成し遂げる。
「霊墓アルビオンにしか自生できなかった霊草の栽培方法確立や魔獣の家畜化、失伝した伝承術式の再発見、魂への直接干渉術式……挙げればキリがないが、そのどれもが革命を齎した」
兄でありわが師でもあるロード・エルメロイⅡ世が言うには、これらの功績により時計塔の魔術は数十年単位で飛躍を遂げたそうだ。普通なら研究室や派閥が長い時間をかけて達成することをたったひとりで成し得たのだから、まさしく『偉業』と言える。
ちなみに先述した偉業は全て特許取得済みだ。例に漏れずアルス・キュノアスによって売り払われているが。
閑話休題。
これらの偉業は時計塔により正当に評価され、アルス・キュノアスはわずか十八という年齢で
だが、彼にとっては至極どうでもいいことだったらしい。ある日彼は特許を全て売り払い身辺整理を済ませるとふらりとどこかへ消えてしまった。
「もしかして……」
「察しがいいな。そう、彼は仇を討ちに行ったんだよ」
特許を売ったのも、費用を捻出する為なのだろう。彼のコレクター討伐に向ける激情は、己の全てを投げ打ってでも完遂させたいものだと推し量れる。
「結果は二つ名が示す通り。だが、代償は重いものになった。アインナッシュに代表されるように、上級死徒というものは強大すぎる力を持つ故に放置せざるをえないほどの化物だ。蒼崎橙子によって時計塔に運び込まれた時には既に意識はなく、怪我も相応に酷くまるで死人のようだったらしい。聞くところによれば、凍結処理が為されていなければ遠からず死んでいたという」
「だけど、無事に治ったんですよね?でなければ今日の社交界にも来れないでしょうし」
「ああ、おそらく蒼崎橙子により義手などに置換するなりして傷を癒したのだろう。でなければ同じ師を持つ身とはいえ使い魔に──―どうした、トリム?」
扉を注視する従者に違和感を覚える。待機命令を出しているとはいえ、従者であるトリムマウが主から視線を逸らすことはまずないからだ。
答えはすぐに判明した。
「不確定対象二名の接近を確認しました」
私とグレイの全身に緊張が漲る。夜分遅くにアポなし訪問なぞ厄介事の匂いしかしない。
じっと扉の向こうに神経を集中させる。
十秒ほど経過しただろうか。コンコンコンというノックと共に女性の声で入室許可を求められる。
警戒を解かぬまま、どうぞと許可を出す。
扉がゆっくりと開かれる。現れたのは、カンテラを携えた褐色のメイドだった。
彼女には見覚えがある。確か黄金姫・白銀姫に付き従っていたメイドだ。
「カリーナと申します」
彼女は
「これはご丁寧に。ライネス・エルメロイ・アーチゾルテだ。何の御用かな?」
こちらが目的を質問すると、彼女は脇にずれ、「どうぞこちらへ」と背後の人物を手招きする。
もしやイゼルマ側の人間が訪ねてきたのか?それならば明日でもよかろうに……と辟易しながら件の人物に目を向ける。
瞬間、意識が引き裂かれた。
そこには、黄金姫が佇んでいたのだ。
◆
同時刻。
ライネスが黄金姫に意識を引き裂かれていた頃、ひとつの人影が月の塔内部を闊歩していた。
誰もが寝静まるか部屋に戻っている時刻に人影は勝手知ったる我が家とばかりに足音を鳴らし廊下を歩いているが、不思議と誰も反応を返さない。
しばらく人影が歩いていると、行き止まりに突き当たってしまう。
しかし人影はにやりと笑うとスッスッと指を振るう。するとみるみる壁に模様が浮き出て、最終的には扉が出現した。
ドアノブに手をかけ開く。室内は窓一つなく大きな石製の棺が置かれているのみの殺風景な様相だったが、その棺こそが人影の目的。
人影は棺の蓋を開け、中を確認する。
そこには、提供された情報通りのモノ──―黄金姫の死体が安置されていた。
●ヴィレム・バークアソート
別名「コレクター」
魔術師の財産である魔術刻印、礼装、術式に異様な執着を見せる上級死徒。
彼に狙われて喪失したものは数知れず、その大半は彼の居城に博物館の如く展示されているという。
時計塔からすれば大きな悩みのタネであり幾度か討伐隊が組まれたことがあるが事あるごとに邪魔が入り、アルスによって討伐されるまで野放しになっていた。
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執筆への燃料となり作者が喜びます。
双貌塔イゼルマが終わりましたら閑話を挟んでいく予定ですが、その後に突入する原作をアンケートで決めたいと思います。
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