この時期いろいろと忙しく、執筆にあまり時間が取れませんでいた。
許してください、何でもしますから!
鬱蒼と茂った森の中を、赤い女魔術師が闊歩する。
「すまない、遅れた」
そこへ、蒼い魔術師が颯爽と現れる。
いわずもがな、蒼崎橙子とその使い魔アルスだ。
「遅い。今までどこをほっつき歩いていた」
「ちょいと野暮用でな」
「済ませてきたのか?」
「進行中だ」
「なら手早く終わらせることだ」
軽口を叩きながら、赤蒼の主従は歩を進める。
すると、前方から三つの人影がやってくる。
幸い、正体はすぐに判明した。バイロン卿にメイドのレジーナ、加えてイラノイだ。
「おやバイロン卿に先生まで。お二人も魔力を感じて?」
「その通りだ」
「で、背後のソレは?」
橙子の視線の先、そこにはイノライによって拘束されたトリムマウ──―
「新たな殺人事件が発生したんだ、ミス・アオザキ。これは──―」
そして、二人はバイロン卿から
おかしな魔力の気配を感じレジーナをお供に泉へと向かったこと、道中同じ気配を捉えたイノライと偶然合流したこと、現場に到着すると文字通り血で手を汚した
一通り聞き終え、
「取り決めもついさっき決まったことだ。まだ現場にいるだろうから、興味があるなら行ってみな」
「そうします。噂のロードも気になりますし」
行くぞ、と使い魔を引き連れ人形師は泉へと向かう。
現場はバイロン卿たちと出会った地点からそれほど遠くはなかった。僅かな湿気の高まりを感じると共に、三つの人影が霧に映る。大ひとつに小ふたつ。
身長から察するに、小は昨日パーティーで出会った二人組で、大は件のロードなのだろう。
確信ともいえる予想を立てながら、赤蒼の主従は歩を進める。そして森を抜け泉の畔に辿り着くと、そこには予想通りライネスとグレイ、そしてコートを羽織った長身痩躯の魔術師──―ロード・エルメロイⅡ世がいた。
「おやおや、おっとり刀で来てみれば面白いやつが舞台に上がってるじゃないか」
予期せぬ
対し、赤蒼の主従を目にしたⅡ世はというと、ありえないモノを見たと言わんばかりに目を見開きボソリと呟く。
「あなたたちは……固定しているのか」
「おいおい、第一声がそれか……やめろアルス、手を下ろすんだ」
一目で秘密を見抜くⅡ世に向け威嚇する使い魔を窘め、人形師は胸元に引っ掛けてある眼鏡を装着する。
「初めましてロード・エルメロイⅡ世。お会いできて光栄です。蒼崎と言えば解るかしら」
「……トウコ・アオザキ……ではあなたがアルス・キュノアスか」
「ただのアルスで結構だ。今の俺は橙子の使い魔でしかないからな」
「ではそのように」
Ⅱ世は内心頭を抱えると同時に封印指定執行者たちに同情してしまう。RPGの最終戦、裏ボスがラスボスを従えて出てきたようなものだ。
「さっきバイロン卿とすれ違った際に訊いたのだけど、この事件あなたが預かるんですって?」
「そのつもりです。非才の身ではありますが解決に微力を尽くすつもりです」
「……へぇ、意外と挑戦者気質なのはエルメロイの伝統なのかしら」
ピクリ、と橙子の言葉にグレイの眉が顰められる。
「……初対面では?」
「面識があったのは先代の方よ。縁あって彼の義手を用立てたことがありまして」
「それは……第四次聖杯戦争の……」
「あら、ご存じなのね」
「では、あなたもあの戦争に……」
「いえ、直接参加していた訳ではないわ。Ⅱ世ときちんと顔を合わせるのもこれが初めて。代金の支払いだけはⅡ世にしてもらいましたけどね」
「……そうでしたな」
Ⅱ世が小さく咳払いする。どうやら苦い思い出のようだ。
「封印指定を執行停止されたと聞きましたが」
「それもいつまで持つのやら。こちらとしましては、いい加減諦めてほしいんですけどね。おちおち
言って、苦笑する橙子にグレイは目を見開く。
蒼崎橙子。ライネスから訊いた話によれば彼女は決して
そんな彼女が、
「ともあれお会いできて嬉しいわ、ロード・エルメロイⅡ世。あなたがこの事件をどう解決するか、特等席で観覧させてもらうわ」
橙子は踵を返すと、アルスを引き連れ森の中へと消えていった。
◇
白銀姫お付きのメイドであるレジーナは、ひとり廊下を歩いていた。その顔は普段通りの無表情に見えるが、彼女と親しい者ならば若干の焦りを感じ取れることだろう。
その焦りの元……ロード・エルメロイⅡ世の顔が彼女の脳裏にちらつく。
ほぼ詰みの盤面に待ったをかけた
イゼルマの術式をいとも簡単に解体する緻密な頭脳に、バイロン卿に要求を通す交渉術。
彼ならば、盤面をひっくり返すことが可能かもしれない……いや、やってのけるだろう。世界一の名探偵シャーロック・ホームズのように、僅かな手がかりから真相まで辿り着く能力を持っていると確信できる。
ならば、私たちが取る行動はひとつ。
危険な要素は排除するに限るのだ。
目的の人物がいる部屋に辿り着く。ひとつ大きく深呼吸し、覚悟を決めてノックする。
コンコンコン。
室内の人間に来訪者を告げる音が響く。レジーナはじっと反応を待つ。急かすような真似はしない。
そして、五秒か十秒か。レジーナにとっては一日千秋な数秒間の末、ガチャリと扉が開かれる。
「おや、レジーナさん。どのような用件で?」
扉の向こうには、蒼髪の偉丈夫──―アルスが立っていた。
そう、彼女が目指していた部屋とは、一か月前からイゼルマ家に滞在している蒼崎橙子とアルスの部屋だ。
「ミス・アオザキはいらっしゃいますか?」
「ああ、いるぞ」
アルスは視線を背後に向ける。そこには、イゼルマ家にて保管されていた映写機でもってナニカを鑑賞している蒼崎橙子が煙草を吹かしていた。
「では、お取次ぎをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「依頼か何かか?……解った。橙子、お客様だぞ」
コクリと頷くメイドを連れ、使い魔は主に客を取り次ぐ。
「……ああ、君か。今更私たちに何の用だね?」
橙子は眼鏡を外すと、予期せぬ来訪者に質問する。その瞳は冷たく鋭く、下手な質問は許さないと言わんばかりだ。
「……私は、犯人ではありません」
まずは、自らの立場を明確にする。決してあなたたちを害する為にやってきた訳ではないと言外に宣言する。
「そんなことはどうでもいいさ。犯人捜しなぞどうでもいいし、政争だって興味はない。……それで、今更何を依頼するつもりだ?」
「エルメロイ一派の排除を。報酬は黄金姫の美の正体について」
ほう、と橙子は感嘆する。イゼルマの秘奥を、お付きとはいえ一介のメイドが明かす。明らかに当主のバイロン卿への背信行為であり、この件が露呈すればレジーナに待っている結末は『死』しかないことは明白だ。
それを理解しながらも、彼女は蒼崎橙子に依頼を持ち掛けた。
チラリ、とレジーナはアルスに視線を向ける。
白銀姫エステラの逃亡計画に加担している彼には、事前にバイロン卿が蒼崎橙子への依頼内容を説明してある。本物の黄金姫が死亡しているという事実を外部に漏らさない為に、マイオ特性の記憶阻害薬を施術中に服用するという条件もだ。
ゆえに、バイロン卿がディアドラに施した術式の全容を把握していないレジーナでも、この取引を成立させることができる。
ただひとつ問題点がある。明らかに詐欺一歩手前の取引に、アルスが待ったをかけるかどうかだ。先述したとおり、彼は黄金姫の秘密を知っている。彼が一言でも口を挟めば、この計画はおじゃんとなってしまう。
ドクン、ドクン、と心臓が鳴り響く。レジーナの心拍は緊張からか速くなり、喉はカラカラに乾く。
お願いします、どうか見逃して……。
ポーカーフェイスを必死に維持しつつ、レジーナは心の底から神に祈った。
「ほう、ずいぶん張り込むじゃないか」
祈りが通じたのか、アルスが横やりを入れる前に橙子が口を開いた。どうやら彼はエステラに宣言したとおり、見て見ぬフリをしてくれるようだ。
「その報酬なら、事情の説明はいらないな。──―よかろう、私たちはロード・エルメロイⅡ世の敵となろう」
夕飯のおつかいを了承するが如く、蒼崎橙子はひどく軽い調子で依頼を請け負った。
「だが、タイミングはこちらの好きにさせてもらうよ。なーに、安心したまえ。準備が済めばすぐに出陣してやるとも」
ヒラヒラと手を振る橙子にレジーナはお辞儀する。内心軽い罪悪感を覚えながらも、ホッと一息つきたい気持ちを抑え込む。
「では、失礼いたします」
もう一度お辞儀し、レジーナは部屋から退室する。扉を閉める直前、こちらを見つめるアルスと目が合い……ぶるりと背筋に氷柱が差し込まれた感覚を覚える。
何故なら、彼の視線はひどく冷たいものだったからだ。金縛りにあったかのように身動きが取れなくなるレジーナに、アルスはゆっくりと口を動かす。
『二度目はないぞ』
唇の動きだけでもって釘を刺す。どうやら見て見ぬフリはするものの、主に対する詐称は彼の許容範囲ギリギリだったようだ。
レジーナは震える手を必死で抑えながら、メイドの矜持でもって音もなく扉を閉める。同時に、身体に押し込めていた汗がどっと噴き出してしまう。
逃げるように部屋から離れながら、レジーナは酸素を求めて呼吸する。一世一代の大博打を成功させた彼女の身体に、鉛のような疲労感がどっとのしかかる。
レジーナはこの一か月間、彼とは良好な関係を築いてきたと思っていた。紅茶を愛する同好の士として、友人になったと言ってもいい。
だが、それすらも一顧だにしないほどの、蒼崎橙子への忠誠心。
もし彼女が殺せと一言命じれば、彼は躊躇なく私の命を奪うだろう。
レジーナは確信ともいえる奇妙な
ようやくⅡ世を出せました。
FGOではお世話になってます!!
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執筆への燃料となり作者が喜びます。
双貌塔イゼルマが終わりましたら閑話を挟んでいく予定ですが、その後に突入する原作をアンケートで決めたいと思います。
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