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空に暗雲が立ち込め、ズガンと大きく雷鳴が鳴り響く。
天候魔術による雷撃。標的はエルメロイ一派だったが、明確なイゼルマに対する侵略行為だ。
「おーおーおーおー。湖水地方とはいえ人様の領地でこれほどの天候魔術を行使するとは、師匠も面白いやつを使ったもんだ」
その様子を、俺は使い魔の視点でもって上空から俯瞰する。真鍮製の身体に
以前橙子が針金のみで製作した使い魔を使役する魔術師がいると聞き興が乗って製作したものだが、凝り性な彼女は
結局一機作った時点で熱が冷めてしまった代物だ。
「で、いつ出発するつもりだ?襲撃者はすぐに領地に侵入するだろうし、バイロン卿も防衛機構を発動させ迎撃に向かった。遅かれ早かれ戦闘が起こるぞ」
「そうだな……。決着が着いた後でも遅くないが、混乱に乗じる方が楽だろう。幸い、エルメロイ教室の援軍はⅡ世から離れたようだしな」
橙子の発言通り、使い魔を通して送られてくる映像からは森へと疾走するお調子者な少年と、それを追いかける狼のような少年が映っていた。どうやらバイロン卿と襲撃者による戦闘に介入するつもりらしい。
「よし、決めた。まずは各個撃破と行こう。まずはあの少年二人からだ」
「りょーかい」
クローゼットから赤橙と蒼色、二つのコートを取り出し片方を橙子に渡す。
そして無造作に床に置かれた茶色の大きな鞄を持ち、戦場に向かうべく部屋から退室した。
◆
イゼルマへと侵攻した褐色肌に原始電池を持つ中東出身の魔術師、アトラム・ガリアスタに向け、エルメロイ教室の双璧のひとり、スヴィン・グラシュエートは疾走する。獣性魔術で持って魔力を人狼のカタチへと変質させ、通常の強化魔術とは一線を画する効能でもってアトラムに向け爪を振りかぶる。
無防備に喰らえばひとたまりもない、一撃でもって命を刈り取らんとする凶爪。アトラムは怯むこともなく、その手に持つ原始電池を向けた。
「
魔術回路を起動する合言葉と共に、落雷にも匹敵するであろう電撃がスヴェンへと放たれる。ツンと鼻につくオゾン臭を撒き散らしながら、敵対者を屠らんと黄色の閃光が空気を引き裂く。
いくら人狼と変わりない肉体を身に纏おうとも、これまた無防備に喰らえば昏倒は免れない一撃。
魔力の籠った電撃に対し、スヴィンは大きく息を吸い込み、指向性を持たせた咆哮を放った。
ただの声と侮るなかれ。ガリアスタの放った電撃同様、魔力の籠った咆哮は耳だけでなく身体まで犯す呪いと成りうる。威力は段違いだが、ライネスが
アトラムとスヴィン。全力とは程遠いが、本気の一撃がぶつかる。電撃と咆哮が拮抗し、余波が周囲の環境を蹂躙する。
その様子を、場外から眺める
「おいおい、ちと大袈裟過ぎやしないか?」
「確かにな。現代の魔術師にしては規模が大きい」
蒼崎橙子とアルスだ。彼女たちは今から戦場に踏み込まんとする魔術師だが、その足取りは軽やかであり、まるで散歩にでも行くかのようだ。
「しかし、ガリアスタの当主は面白い術式を使うな。部下を自らの魔術回路に見立てるとは……日本にしろ中東にしろ、時計塔と距離を置いてる魔術師は似たような進化を遂げるのか?」
「考察は後にしなさい。あの褐色くんも良い線いってるけど、事戦闘においては狼坊やが一枚上手。じき均衡は崩れるわ」
「楽はできないか……。じゃあ牽制入れるから、前口上頼んだぞ」
今まさにアトラムが張った電撃網を打ち破ろうとするスヴェンに向け、アルスは虚空へと指を走らせルーンを刻む。
瞬間、力持った言葉は現実世界を改変し、目に見えぬ衝撃でもって電撃網ごと幻狼を吹き飛ばした。
「横やり失礼、ガリアスタの当主。ちょいとあの狼坊やたちに用があってね」
戦闘を無理やり中断させ、颯爽と両者の間に割り込む蒼崎橙子とアルスを視認したスヴィンとアトラムは目を剥いた。
直接会ったことはない。しかし、知識として頭に入れていた。
何故、この場に蒼崎橙子とアルス・キュノアスがいる……ッ!?
「悪いねエルメロイ教室。依頼によって、私たちは君たちの敵に回ることにした」
アトラム側に立ち、スヴィンへと相対する赤蒼の主従。
厄介な敵が現れたと歯噛みするスヴィンに対し、少し離れた場所にいたフラットが、アルスが足で何らかの魔術を行使しようとしているのに気がついた。
「ル・シアンくん!」
友の危機に、両手を突き出し術式への介入を始めるフラット。先ほどガリアスタの私兵にやったように術式効果を反転させダメージを与えようとする……が、彼が感じたのは手応えではなく自身を吹き飛ばす衝撃だった。
「な、なにが……?」
フラットは雨によってぬかるんだ地面に尻餅をつきながら呆然とする。
「さっきガリアスタの私兵にやってた介入術式だろ?あれだけ連発していれば術式の『おこり』くらい簡単に判別できる。加えて俺は術式の『早さ』には自信があってね。君が術式を弄る前に発動できるのさ」
ニヤリと笑うアルスの足元へ視線を向ける。そこには魔力光を発する力ある言葉──―ルーン文字が刻まれていた。
なるほど、ルーンなら自身が介入する前に術式を発動させることも可能だろう。
アルスが付き従っている蒼崎橙子により再生されたルーンの魔術基盤は権利ごと時計塔に売り払われ、時計塔所属の魔術師に広く周知されるようなった為、自身も基礎的な部分なら理解も行使もできる。ゆえに
そして、アルスの異常性も理解できた。魔力を込め、正しいカタチで刻むことによって成立させるルーンを
エルメロイ教室の友人にルーンを専攻している男がいるが、彼でも真似できない芸当だろう。アルス・キュノアスの家伝魔術『省略』が成せる業と推測できる。
そこまで思考したフラットは、反射的に次に起こす
「うん、これは無理だ!逃げようル・シアンくん!」
「はぁ!?」
敵前逃亡する同期にスヴィンは驚愕し、諫めようと振り向く。
しかし、目線の先にいたのは脇目も振らず逃げ出すフラットではなく、彼をそっくりコピーした影人形であった。
「逃げようル・シアンくん!」「逃げようル・シアンくん!」「逃げようル・シアンくん!」「逃げようル・シアンくん!」「逃げようル・シアンくん!」「逃げようル・シアンくん!」「逃げようル・シアンくん!」「逃げようル・シアンくん!」「逃げようル・シアンくん!」
壊れたレコード機のように延々と同じ台詞を繰り返す影人形は、創造主の思惑通り敵(ついでに味方であるスヴィン)を釘付けにした。アトラム・ガリアスタは唖然とし、蒼崎橙子は苦笑し、アルスは興味深そうに影人形を観察する。
「ふむ、自らの影を転写して身代わりに仕立て上げたのか。元ネタはドイツの田舎辺りか?……しかし、面白いやり方だな。魔術を行使するたび即興で基盤を組み上げるとは……、一からCPUを設計するようなものだぞ。普通は不発するものだが……全く、エルメロイは面白い生徒を育てているな」
今度食事にでも誘ってみるか、と暢気に呟く。
「で、どうする橙子。金髪坊主が逃げちまったが、追いかけるか?」
「無論だ。ひとりたりとも逃がすつもりはない。金髪坊やには使い魔で追跡をかけさせているから、アルスはあの狼坊やを頼んだぞ。……ああ、あんたは好きにバイロン卿と交渉するといい」
アトラムに一言告げると、橙子は強化した脚力でもって森へと飛び込む。
「ッ!待てッ!!」
慌てた様子でスヴィンが阻止する為飛び掛かる。しかし、横合いから先ほどとは全く別種の衝撃に襲われ弾き飛ばされてしまう。魔力で編んだ人狼体が剥がされ、地面を二度三度バウンドし、ようやく体勢を立て直したスヴィンは、下手人であるアルスの姿を視認し自らを襲った衝撃の正体を知る。
彼は鈍色の手甲を装着し、ルーンの円環に覆われた右腕を突き出していた。つまり、単純な右ストレートである。
その事実にスヴィンは戦慄する。いくら強化された身体能力があるとはいえ、獣性魔術によって人狼の力を模した己を吹き飛ばせるとは到底思えない。
一体どんな絡繰りが……と思案していると、強化された視力が右腕を覆うルーンの円環の詳細をつまびらかにする。
なるほど、単なる強化だけでなくルーンも併用したのであればあの馬鹿げた威力に納得がいく。
「友人の忠告に従うべきではないかね?」
「はっ、あいつに従うくらいなら死んだ方がマシだ」
「言うねぇ」
再度人狼の身体を身に纏いながら吐き棄てるスヴィンに、アルスはヒュウと口笛を吹く。
「でも、無理はよくないな。今の一撃で実力差は把握できたはずだ」
ある種侮辱とも取れる気遣いにスヴィンは歯噛みする。確かに、たった一撃で獣性魔術を剥がした相手に太刀打ちできると自惚れるほど自分は馬鹿ではない。自身の生存を第一に考えるのであれば、逃走一択だ。
しかし、その選択肢だけは受け入れられない。フラットに従うのがしゃくだというのもあるが、今自分を突き動かしている一番の理由は『
その為ならば、『コレクター殺し』なぞ何するものぞ!
「……仕方ない。軽く撫でてやるから、来なさい」
くいくい、と手招きするアルスに対し、スヴィンは獣性魔術を発動し身を低く構える。
そして強化された脚力でもって地面を爆発させながら、『コレクター殺し』への突撃を敢行した。
次回、アルスvsスヴィン。
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執筆への燃料となり作者が喜びます。
双貌塔イゼルマが終わりましたら閑話を挟んでいく予定ですが、その後に突入する原作をアンケートで決めたいと思います。
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フェイカーが原作以上に苦労する冠位決議