人形師の使い魔   作:アスラ

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双貌塔イゼルマ:11

 脇目も振らず、敵へと特攻する。

 獣性魔術によって大幅に身体能力を上げたスヴィンにとって、この戦法はとても理に適ったものだった。事実、ガリアスタの私兵との戦闘では反撃も許さず制圧することができた。

 しかし、今回の敵はアルス。かの冠位(グランド)の使い魔にして色位(ブランド)の魔術師、世界が違えば二十七祖にも数えられるであろう上級死徒を単独討伐した『コレクター殺し』。

 魔術のみならず近接格闘術にも秀でた彼に対しては、自殺行為も甚だしい行為だ。

 故に、スヴィンはアルスへとあと五メートルに差し掛かった時点である選択をする。

 

 直角に曲がり、アトラスへと飛び掛かったのだ。

 

 アルスの言う通り、スヴィンは実力差というものを正確に把握していた。自身に感づかれることなく接近するスピードにルーンによって増幅された圧倒的なパワー。現時点では逆立ちしたって敵う相手ではない。

 だから、標的を変更する。

 バイロン卿を狙うアトラム・ガリアスタを倒せば、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を返してもらえるはず。

 第一目標を達成するために、アルスを倒す必要はない!

 

「おっと、君の相手は俺だ」

 

 しかし。

 その目論見は足元の地面に出現したルーンが爆ぜることにより阻止されてしまう。

 虚を突かれた形で爆発を喰らい、面喰うスヴィン。

 自分が攻撃対象を変更してからルーンを刻んだのか!?それともあらかじめ己の行動を予測し罠として仕掛けていたのか!?

 どちらにせよルーンを刻んだ瞬間を捉えられなかった自分には不可避の攻撃であった。

 だが幸いなことに、威力はそれほどでもなく幻狼体にススを付ける程度だった。

 ……が、スヴィンは続けて自身を締め付ける感触を覚えることにより、アルスの攻撃が終わっていないことに気が付く。

『束縛』を意味するルーンにより円環が自身を腕ごと拘束し、地面に縫い付けてあったのだ。おそらくルーン爆破で目晦ましした瞬間に刻んだのだろう。

 

「さて、まだやるかね狼坊主?」

「……当り前だ」

 

 暢気に煙草を吹かしながら質問するアルスに、スヴィンはねめつけながら返答する。

 これくらいで勝ったつもりなのか。

 俺はまだまだやれるぞ。

 全身の毛を逆立て、敵を食い千切らんと戦意高揚させる。

 

「確かにあんたは強い。今の俺じゃあ逆立ちしたって勝てない。けどなぁ……」

 

 ミシミシミシと円環が異音を発する。

 自らを侮る使い魔に一矢報わんと、屈辱感を力に変換し束縛を引き千切らんとする。

 

 さて、ここでひとつ疑問を呈したい。

 いくら獣性魔術によって人狼の力を身に纏っているとはいえ、戦闘特化の色位(ブランド)魔術師の拘束魔術をスヴィンは破ることができるのか?

 解答を一足飛びに提示することは簡単だが、その前にスヴィン独特の体質について説明しよう。

 スヴィン・グラシュエート。エルメロイ教室最古参にして最右翼。

 獣性魔術を扱う彼の身体は、術式に引っ張られる形で変質している。嗅覚は体臭どころか魔術の匂いまで嗅ぎ分けることができ、怒鳴り声は魔力がこもった咆哮になり、殺意を込めた指を指すだけでガンドのような呪いを発射する。もはや人間のカテゴリに収まりきらず、魔獣に片足を突っ込んでいると言えよう。

 そんな彼が獣性魔術を発揮するとどうなるかは明白だ。

 嗅覚はさらに研ぎ澄まされ、咆哮すればその音圧だけで魔術式は霧散し、攻撃には必然的に呪いが付与されることになる。

 そんな神秘の塊が、全力で魔術に抗うとどうなるか。

 その結果が解答であり、スヴィンが指した新たな一手である。

 

「意地があるんだよ男の子にはなぁ!」

 

 ルーン魔術による束縛を引き千切り、全身全霊でもって突進する!

 今度こそアルスに向けたものであり、後先考えていない全力の一撃。

 倒せるなんて思っちゃいない。だが今の俺が持つ質量と膂力ならば、はるか遠くへ吹き飛ばせるはず。

 敵との距離、わずか五メートル。いくら一工程(シングルアクション)で展開速度に秀でたルーン魔術とはいえ、この距離ならば俺の方が速い。

 確信と共に、両腕を振り上げる!

 

「……悪くない。スピードは余すことなく威力へと変換されている。倒すことに固執せず、強制的に距離を取らせアトラムを狙う判断も良い」

 

 しかし、それでも。

 

「俺を吹き飛ばすには、まだまだ足りなかったな」

 

 渾身のアッパーは、アルスの両腕によって受け止められてしまった。

 あまりの異常事態に、スヴィンは混乱してしまう。

 何故だ。いくら身体能力を強化したとはいえ、物理法則を鑑みれば質量の小さい方が動くのは確実なはず。

 アルスの全身を見ても彼をその場に固定するような支えは見当たらず、両足はしっかり踏ん張られているのか地面に沈み──―待て、沈んでいるだと?踏みしめられているのではなく?

 僅かな違和感をを見逃さなかった灰色の脳細胞が、アルスの礼装を視認するよう指令を出す。

 そこには以前と変わらずルーンによる円環が展開されている……が、構成が僅かに変化していることにスヴィンは気が付いた。

 新たなルーンが追加されていたのだ。

 そのルーンとは『スリサズ』。巨人を意味するルーンであり、先ほどの違和感と統合して察するに彼の体重は劇的に増加していることだろう。

 なるほど、これは吹き飛ばせないはずだ。小人がガリバーを拘束できないように、大きすぎるモノに干渉できないのは道理だ。

 

「さて、わざわざ俺の領域(エリア)に入ってくれたんだ。覚悟はできているだろうな?」

 

 ニヤリと笑うと、彼の右手がスヴィンの胸へと押し付けられる。すると、先ほど拘束された時とは比べ物にならない重圧が全身に襲い掛かってきた。胸に視線を向けると、そこには束縛のルーンが刻まれていた。

 即座に抵抗を試みるが、金縛りに遭ったようにピクリとも動けない。全力で抵抗するが、解除するまで数十秒はかかるだろう。虚空に刻まれたものとは違い、直接刻まれたものはこうも強力なものなのか。

 ……いや、それも理由のひとつだろうが、一番は術者が桁外れなのが理由だろう。

 諦めの境地と共に、スヴィンは己の鼻が察知したアルスの新たな一手に視線を向ける。

 そこには『ナウシズ』『イェーラ』『ウルズ』。作成を意味するルーン文字が刻まれており、それらを起点として新たなルーン文字が次々と己を囲うように生まれていく。

 つまり、アルスのルーン魔術はルーン文字にルーン文字を創らせる自動化(オートメーション)に成功したのだ。

 

「すまんな狼坊主。余裕があればもう少し付き合えたんだが、これで終わりだ」

 

 いつの間にか咥えられた煙草に、アルスはジッポで火を点ける。

 同時にルーン文字が一斉に起爆し、スヴィンの意識は闇の彼方へと吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

(うあああああああ!ヤバイよヤバイよ!)

 

 以前テレビでチラッと見かけた東洋人のコメディアンの口癖を内心吐き出しながら、フラット・エスカルドスは森林を必死に走る。

 遠隔操作していた影人形は既に消えている。現場にいたスヴィンは気が付かなかったが、目晦ましのルーン爆破と同時に太陽のルーンを刻まれ消されてしまったのだ。

 ゆえに、フラットは知らない。

 

「あぁ、ル・シアンくん大丈夫かなぁ」

 

 彼にしては珍しく、至極真面目な弱音交じりの心配が現実のものとなっていることに。

 

『いやいや、そこは仲間の心配をするところじゃないだろう?』

 

 そして、どこからか聞き覚えのある声が響いたことにより──―

 

『何しろ君も逃げ切った訳じゃないからな』

 

 自分が冠位魔術師の魔の手に絡めとられたことを察した。

 

「うわっ!?何これぇ!?!?」

 

 木々の隙間から、自身を大きく上回るサイズの黒猫が出現する。まるでイラストをそのまま三次元に持ってきたかのような、のっぺりとした二次元的な黒猫だ。

 今まで幾度と使い魔を見る機会があったフラットだったが、こんなカタチのものは初見であった。

 

「こっ、このっ!」

 

 強化を増幅させ速度を上げながら、呪文を唱え黒猫へと術式を投げつける。

 炎、雷、氷、嵐……バラエティ豊かな攻撃が黒猫へと殺到する。

 しかし、結果はフラットが期待するものではなかった。それどころか真反対だ。

 黒猫には傷一つ付かず、スピードも一向に落ちる気配がなかった。

 

「ああもう!じゃあこれでどうだ!」

 

 じっくりと術式を編み、今度こそはと投げた魔術が大爆発を引き起こす。

 黒猫もろとも衝撃波が自身を襲う。だが、とっさに軽量化の礼装を起動し、爆風に上手く乗ったフラットは大きく黒猫から距離を取ることに成功した。

 数十メートルも吹き飛ばされながらも、受け身を取り地面を転がり、泥まみれになりながら無傷で着地する。

 そして、僅かな期待感と共に爆心地へと目を向けると……。

 

「あっちゃあ……これでもダメかぁ」

 

 そこには、顔を洗っている無傷の黒猫が鎮座していた。

 こいつは参ったと頭を抱える。ここまでやって傷一つ追わせられないとは……。

 重い疲労感が身体にのしかかる。

 しかし、フラットの目は輝きを失っていない。僅かながらも、光明が──―無敵の黒猫の絡繰りが見えてきたからだ。

 おそらく目に見える身体が本体ではない。どこかに本体を隠し、仮初の身体を空間に投影している。

 言うなれば、実体を持つ幻で身体が構成されているのだ。

 こちらの攻撃は一切効かず、一方的に干渉できるのは反則としか言いようがないが、その反則を実現できるからこその冠位(グランド)なのだろう。

 とにかく、一刻も早く本体を破壊する必要がある。

 問題は、本体を見つけ出すまで粘れるかどうかだが……現状では狩られる未来しか想像できない。

 だけど、やるしかないとフラットは気合を入れる。

 いつぞやか読んだコミックに出てきた指導者は、絶望感に打ちひしがれているバスケ選手にこうアドバイスした。

『諦めたらそこで試合終了だよ』と……ッ!

 

「……大丈夫、ですか?」

 

 しかし、どうやら天はフラットを見捨てていなかったようだ。

 背後の木の陰から、自身がよく知るフードを目深に被った少女が現れたのだ。

 

「グレイちゃん!?」

 

 自身が所属するエルメロイ教室の長、ロード・エルメロイⅡ世唯一の内弟子が、フラットの窮地に駆け付けた。

 




前話まで開催していたアンケートを締め切ります。
結果は83票差で冠位決議となりました。
途中までは拮抗していましたが、徐々に差が開く結果となりました。

そして、新しくアンケートを開催したいと思います。
こちらも、ぜひ投票をお願いいたします<m(__)m>

感想、評価、推薦、お待ちしております<m(__)m>
執筆への燃料となり作者が喜びます。

投稿するのはかなり先になりますが、FGO編で橙子とアルスが出演する特異点の時系列を決めたいと思います。結果によって、シナリオ構想が変化する予定です。

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