ですので進行に問題ないようセリフの大幅カットをしています。
ロード・エルメロイⅡ世の宣言から二時間後。
月の塔ロビーには、今回の事件に関わった人物が勢揃いしていた。
ロード・エルメロイⅡ世。
ライネスとグレイ。
イノライ。
橙子とアルス。
ミック・グラジリエ。
白銀姫とレジーナ。
バイロン卿。
アトラム・ガリアスタ。
イスローとマイオ。
他にもアトラムの部下やイゼルマの使用人が壁際に侍っている。ちなみにフラットとスヴィンはⅡ世からの命により席を外している。
「で、ロード・エルメロイⅡ世。全員集まればご自慢の推理を聞かせてくれると豪語していたね?」
「推理ではなく推測だ。なにしろ理がない。……それより、バイロン卿。先にお願いしていたことを」
「……ああ」
Ⅱ世の要望に、バイロン卿は指を鳴らすことで返答する。
それを合図に、従者が運んできた箱に刻まれた魔法円の一部をナイフで削った。
途端、箱の隙間から水銀がうねるように出現し、メイドの形に変形していく。
「トリム」
顔を輝かせ、ライネスが駆け寄る。
数年間一時も離れなかった自身の従者の帰還を、少女は誰よりも喜んでいた。
「だが、妙な動きをすれば即座に拘束させてもらうぞ」
「ああ、精々見張っているがいい。集中力も戻った頃合いだろうしね」
いつもの調子を取り戻し、ライネスはフフンと笑みを浮かべる。
「……準備は整ったのかな?」
「いえ、もうふたり」
Ⅱ世はアトラムの問いに答えると、出入り口へと視線を向ける。
「到着っ!」
「すいません、失礼します」
そこから現れたのは、フラットとスヴィンだ。彼らは毛布に包まれた人間──―メイドのカリーナを抱えていた。
彼らはロビー中央に歩み寄ると、ゆっくり丁寧に床へと降ろした。
「カリーナ姉さん……」
白銀姫の傍らに立つレジーナの口から、姉の名前が切なく響く。
フラットが遺体に掛けられていた毛布を取り、カリーナの遺体が露わになる。
Ⅱ世は懐からルーペとペンライトやら道具をいくつか取り出し、遺体の側にしゃがみ込んだ。
そして、まるで警察の鑑識のように彼女の身体を検分し始めた。
その姿に、周囲の魔術師たちはざわつく。
魔術世界においても、検視というものはある。凶器の特定、死亡時刻の算出、犯人の足取り捜索……作業自体は一般社会とそう大差ない。
しかし、たった一点だけ大きな違いがある。それは『魔術』を使用すること。魔術師である以上、魔術を使用しないという選択肢ははなから存在しない。
ゆえに、Ⅱ世の所業には衝撃しかなかった。
「……やはり」
しばらくして、カリーナの左耳をペンライトで覗きながらⅡ世が小さく呟く。手がかりを見つけ、得心したといった様子だ。
「
「……それは……どういう意味……なんだい……?」
イスローが疑問を呈する。彼……いや、彼以外の魔術師も、Ⅱ世の述懐の意味を正確に理解できていないのだ。
「ああ。では結論から言おう」
胃の辺りを擦りながら、Ⅱ世は立ち上がる。
そして、衝撃の事実を口にした。
「
シン、とロビーに静寂が舞い降りた。
◆
黄金姫の侍従カリーナ。彼女こそが、お披露目に出席した黄金姫。
突拍子、飛躍的。そんな言葉が陳腐にすら思える超ワープした結論に、ロード・エルメロイⅡ世を除いた全員が絶句していた。
静寂が場を支配する。Ⅱ世の正気を問う言葉すらなかった。
しかし、結論に対する疑問を投げかける気力は残っている者がいたようだ。
ミック・グラジリエと、アトラム・ガリアスタだ。
彼らは口々に質問した。その言葉の意味は?カリーナが黄金姫に化けていたとして、その方法は?
Ⅱ世は彼らの質問に回答すべく、
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
おいおい、解説の為にイゼルマの術式を
沈黙だけが、イゼルマの秘奥を守る唯一の手なのだ。
しかし、彼でも抗弁しなければならない内容が出てきた。寝台にバラバラ死体として撒き散らかされていた人物の正体だ。
Ⅱ世によればアレは
さすがのバイロン卿もこれには声を荒げた。無理もないことだ。Ⅱ世の言が真実であると判断されれば、イゼルマ家は招待した魔術師に詐欺を働いたことになる。付け入る隙を与えるどころか、トカゲの尻尾切りとして見捨てられる可能性さえ出てくる。
……しかし、魔術の研究の為身内をバラバラにするとはな。魔術師らしいと言えばそれまでだが、俺には理解できない行為だ。
家族とは唯一無二の存在だろうに。想像するだけで気分が悪くなる。
舌打ちしたい気持ちをぐっと抑え、ポーカーフェイスを貫いていると……Ⅱ世が証人として意外な人物の名を挙げた。
「でしたら証言をお願いしましょうか、ミス蒼崎」
……むむむ?
◆
「でしたら証言をお願いしましょうか、ミス蒼崎」
「……おやおや、私に?一体どういうことかな?」
Ⅱ世に名指しされ、橙子が歩み出る。
「彼女を見ていただきたい」
「ふむ、君の話が真実なら、彼女がお披露目に出てきた黄金姫ということかな?」
「ええ、彼女がお披露目に出席した黄金姫です」
足元の
「
シン、と再び静寂が場を支配する。
整形手術。大小差はあれど、魔術師たちはこの言葉を飲み込むのに苦労してしまう。
意識を引き裂かれ、未遂とはいえ自らの眼球を潰そうとする者まで現れるような完全な■が、連綿と積み重ねられてきた
いや、
「ほう、私がね……」
面白いじゃないか、と口角をニィと上げる。
「光栄且つ残念だが全く記憶にないな。本当に私が施術したのか?」
「まずは見ていただければ」
こめかみに人差し指を当てる橙子に、Ⅱ世はスッと場を開ける。
「では遠慮なく」
カリーナの傍らにしゃがみ込むと、橙子はツツ……と顔に手を這わせる。
「……ああ、確かに施術した跡があるな。魔術による整形なら術式によるが手術跡も最低限で済むし、治療用の魔術を併用すれば縫合の必要もない。それにこの感触……」
うなじ辺りを押した彼女は眉をひそめると、申し訳なさそうに断言した。
「あー、いろいろごめん。間違いなく私の仕事だなこれは」
ざわっ、と周囲がにわかに騒がしくなる。
無理もないことだ。Ⅱ世の突拍子もない推論が、冠位魔術師によって証明されたのだ。蒼崎橙子がエルメロイ派の味方をする理由が見当たらない以上、真実とするのが自然だ。
「しかし、何故私はこれほどの大仕事を忘れていたんだ?」
「忘れた訳ではないでしょう。ただ覚えていなかっただけです」
「……ほう?」
何かしらの結論に至ったのか、橙子は顎に手を当てる。
Ⅱ世は彼女から視線を外し、白銀姫の背後にいたマイオへと質問する。
「マイオさん」
「は、は、はい。何でしょうか?」
「最初にライネスたちと会った時、あなたは酔い薬を服用していたそうですね」
「……え、ええ」
「では、薬師であるあなたならば『記憶させない』薬を調薬できるのでは?」
◆
記憶を『忘れさせる』ではなく、『させない』薬か。名付けるなら『記憶阻害薬』と言ったところか。
原理は簡単に推測できる。
人間が物事の記憶を脳に定着させるには『感覚記憶』→『短期記憶』→『長期記憶』というプロセスを経る必要がある。情報を五感で感じ取り、記憶に加工処理し、繰り返し想起することで脳に刻み込む。
三つのうち、一つ目を除いた『短期記憶』から『長期記憶』に移行するプロセスを何らかの薬効で遮断させてやれば、投薬された人間は物事を記憶することができなくなる。魔術師であれば、その範囲を指定することも可能だろう。
しっかし、蒼崎橙子ともあろう者が記憶阻害薬を服用させられるとはな。だが、服用するに至った状況は容易に推察できる。
橙子がバイロン卿たちに騙されて服用させられるような間抜けではない以上、依頼の条件に含まれていたと考えるのが自然だ。黄金姫に整形で変身させるなんて面白い依頼を受ける為ならば、躊躇いなく服用するだろう。
うんうんと納得していると、Ⅱ世は懐から新しい葉巻を取り出し火を点け、灰と化していく先端を指さし……おい待て。それが整形に使われた術式だって?
……はは、はっははははははははは!!おいおい!灰かぶりだって!?そんな単純な方法だったのか!!
童話のシンデレラになぞらえられた、灰を利用した変身術式。一介の使用人が黄金『姫』に変身するにはおあつらえ向きの術式じゃないか!
……しかし、シチュエーションがぴったりでも、ただの灰ではイゼルマの秘奥には届かないだろう。相応の物を燃やし尽くさねばならないだろうが、バイロン卿は何を用意したのだろうか?
クエスチョンマークを浮かべていると、Ⅱ世が先月行われたというオークションの話を持ち出してきた。次いで、当事者であるアトラムとバイロン卿にオークションにて争われた呪体の詳細を明かす許可を求めた。
二人は各々許可を出す。
『好きにしろ』『必要ならば』。
そして、Ⅱ世の口から呪体の正体が語られる。
それは、とある英霊にまつわる竜の血を受けた菩提樹の葉だという。
『英霊』『竜の血』『菩提樹の葉』。
これほどまでに解りやすいキーワードで、正体を看破できない魔術師はいないだろう。
『ニーベルンゲンの歌』に登場する北欧の大英雄。悪竜ファヴニールを討ち取り、その血を浴びて不死の英雄として生まれ変わった宝剣バルムンクの担い手。
ジークフリート。ゲルマン神話に登場する世界一有名な
……ん?待て。もしかすると、そういうことなのか?
カリーナに灰かぶりの術式を掛けるにあたり、わざわざ特別な方法で菩提樹の葉を灰にしたのか?
……ありえる。というか長年橙子の使い魔を務めてきた俺には確信がある。凝り性である彼女は、自分の仕事に満足する為には採算や価値なぞ度外視してしまうだろう。
アトラムは目的の呪体が失われたことを知り呆然とし、バイロン卿は顔を真っ青にして問い詰める。あなたが報酬として要求した品を、何故私の依頼に使用してしまったのだ!と。
その時の様子を知らない身ではあるが、当時の思考は容易に想像できる。きっとバイロン卿が用意した資金と材料では仕上げのランクが落ちると確信し、報酬を使ってまで満足いく仕事をこなそうと考えたのだろう。蒼崎橙子らしい、非常に『合理的』な思考だ。
◆
とうとうと語られる。
お披露目に出席したカリーナの正体。
Ⅱ世の口から、イゼルマの秘奥ごと謎が解体されていく。
その様はまるで名探偵といったものだ。仮に今回の事件を本にして出版するならば、間違いなく読者にはミステリー小説の主人公として認識されるだろう。
「待ってください先生。その原理でカリーナが究極の美に至ったのならば、白銀姫も同様に至るのでは?」
エルメロイ教室の生徒らしく、スヴィンが手を上げ質問する。
美しいものを見て自らも美しくなるのならば、生活を共にする白銀姫も同様に美しくなっていなければおかしいと。
「それは簡単だ。……エステラさんは目が見えないんじゃないですか?」
「……どうしてです?」
「黄金姫は耳が聞こえなかったそうです。五感のひとつを閉じることによって魔術に磨きをかける、あるいはイゼルマの術式が遺伝子形質に影響を及ぼして障害を引き起こしたのか……。とにかく、重要なのは黄金姫と白銀姫は生活レベルからして対にされていること。全盲の白銀姫に必要ない鏡をわざわざ置くよりも、撤去した方が合理的とバイロン卿は判断したのでしょう」
だから、白銀姫は美の循環に加わることができなかった。
「しかし、この展開を施術したミス蒼崎が予想していなかったとは思えません」
「ふむ。記憶はないが、まあ想像はしていたんじゃないかな」
橙子はⅡ世の疑問に答えると、顎に当てていた手をレジーナに向け指さした。
「ちなみに、私にエルメロイ教室の排除を依頼したのはそこのレジーナだよ。黄金姫の美の秘密を報酬にな」
くつくつくつ、と橙子は笑う。
「なるほど、確かに君は嘘をついていない。それが私の手によるものだと事前に言わなかっただけであり、契約はしっかり遵守される。しかし、それなら私が守秘義務を履行する義理はないな」
悪く思わないでくれよ、と橙子はヒラヒラ手を振る。
対して、褐色のメイドは押し黙ったままだ。詐欺同然の行いをした橙子に謝るでもなく、ロビーに集まった魔術師全員の視線を受け止め動揺することもなく。
毅然とした態度で、口を真一文字に結んでいた。
そんなメイドに対し、彼女の第一の被害者とも言えるライネスが口を開く。
「じゃあ君が……私に黄金姫殺害の濡れ衣を着せた犯人なのか?」
告発同然の質問にも、レジーナは眉ひとつ動かさなかった。
アンケートの結果に驚いております。
投票する際はじっくり考えるもよし、欲望のまま投票するもよし。
双貌塔イゼルマ編が終わるまで続けるつもりですので、焦らず投票をよろしくお願いいたします。
感想、評価、推薦、お待ちしております<m(__)m>
執筆への燃料となり作者が喜びます。
投稿するのはかなり先になりますが、FGO編で橙子とアルスが出演する特異点の時系列を決めたいと思います。結果によって、シナリオ構想が変化する予定です。
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1部
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1.5部
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2部