人形師の使い魔   作:アスラ

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スタートダッシュは大切だと思うので嘘つきます。
昨日投稿した第三話でしばらく1日1話投稿するって明言しましたが、今日も2話目の投稿します。
今後もストックが溜まり次第、土日は2話投稿する可能性があります。


5:巫条ビルでの邂逅

 残暑が厳しい九月。アルスは珍しくひとりで行動していた。

 橙子から借りた車を来客者専用の駐車場に止め、道中で購入した花を手に受付へ向かう。

 受付で所定の手続きを済ませ、エレベーターに乗る。

 道中すれ違う看護師に挨拶しながら、アルスは目的の病室に到着。

 コンコンコン、とノックする。

 

「どうぞ」

 

 中から、若い女性の声が聞こえる。

 入室の許可を取ったアルスは、扉を開き足を踏み入れた。

 

「調子はどうかな、()()()()()

「はい、おかげさまで」

 

 出迎えたのは、絹のような黒髪を腰まで伸ばした美女──―巫条霧絵だ。

 その瞳は、しっかりとアルスを映していた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 俺が巫条霧絵と遭遇したのは、今から遡ること三か月前。

 気紛れに夜の街を散歩していた俺は、ふとなにかを感じ取り上空を見上げた。

 通常なら、そこには月が浮かんでいるだけのはずだった。しかし、今夜は明らかな異常が存在していた。

 人だ。人が浮いている。

 いや、正確には人ではない。あれは霊だ。肉体を持たない存在だ。なにより、人間は空を単独では飛べない。

 ゴーストの類か?と推察するが、それにしては『意思』というものを感じられる。通常、霊というものは意思がない。それは複数が寄り集まってヒトガタを取った後でも変わらない。やつらにあるのは本能だけだ。

 だからこそ、興味が惹かれる。意思を持った霊との遭遇なぞ初めての経験だ。

 幸い、すぐ傍にはビルがある。屋上まで登れば意思疎通が可能な距離まで接近できるはずだ。

『巫条ビル』と書かれたビルを上り、屋上へとたどり着く。

 移動中にどこかへ消えてしまうかと危惧していたが、それは杞憂だったようだ。まだ屋上の近くで浮遊している。

 年齢は、二十代後半あたりだろうか?絹のように艶やかな黒髪を腰まで伸ばした美しい女性だ。

 

「こんばんはお嬢さん。いい夜だね」

 

 声をかけると、女性霊は驚いた様子でこちらに振り返る。どうやら、他人に見られていたなんて考えてもいなかったようだ。

 それもしょうがないことではある。霊は一般人には見えない。専用のチャンネル、つまり霊視を用いなければ視認することもできない。

 おそらく、彼女は人目を気にせず浮遊していたのだろう。今まで彼女を視認した人間はいなかったはず。

 だからこそ、いきなり見知らぬ人間、しかも明らかに西洋人である俺に声をかけられて彼女は驚愕したのだろう。

 

「────―ッ!────―!?!?」

 

 口をパクパク開け、オロオロする女性霊。どうやら声を出せないらしい。この様子では念話もできないのだろう。

 というか、本当に確固たる意志を持っているんだなこの女性霊。反応だけ見れば彼女は生きている人間そのものだ。

 

「落ち着いて。俺は君に危害を加えようとは思っていない。……と言っても、初対面の人間の言葉なんて信用できないか」

 

 俺は屋上の縁へと腰を下ろし、鞄を屋上入り口へと放り投げ上着を脱ぐ。うお、寒っ!

 

「ほら、危ないものはなにも持ってない。必要ならシャツも脱ぐぞ」

 

 これも敵意がないことを知ってもらうためにはしょうがない、とシャツのボタンに手をかけると、スッと女性霊の手が俺の手に触れる。いや、正確には触れようとして通り抜けてしまう。

 女性霊に目を向けると、慌てた様子で首を振っていた。どうやら敵意がないことは理解してもらえたらしい。

 

「まずは自己紹介しよう。俺の名はアルス。ただのアルスだ。君の名前は?」

「────―」

 

 パクパクパク、と口を開閉する女性霊。しかし、先ほどと変わらず声は聞こえない。

 そして、女性霊も発生できないことをようやく悟ったらしく、懸命に口を動かすが、ついぞ声が聞こえることはなかった。

 あ、ついに諦めてしょんぼりした。

 ……不覚!思わずキュンとしてしまった。

 

「仕方ない。今回は俺が質問して、君がジェスチャーで答えるQ&A方式にしよう」

 

 コクコク、と女性霊は頷く。

 

「君は確固たる意思があるのか?」

 

 コクン(YES)

 

「いつからここに?」

 

 指を六本立てる。ふむ、六日前か。

 

「ここ以外にも自由に移動できる?」

 

 少し悩んだ後、フルフルと首を振った。

 

「行ける範囲は限られているということか?」

 

 コクコクと首を振る。どうやらその通りのようだ。地縛霊の類なのか?

 

「意思を確立したのはいつか覚えているか?」

 

 前述したとおり、通常霊は意思を持たない。しかし、ここに例外が存在する。魔術師という性質上、質問しないという選択肢は存在しないのだ。

 さて、どのような知見が得られるかとワクワクしていると、女性霊は困ったように首を傾げた。その様子は、まるでどのように答えようか悩んでいるようだ。

 まぁ、仕方なかろう。自分の意思を自覚したタイミングなんて覚えている方がごく少数なのだから。

 回答を諦め、次の質問に移行しようと口を開く。

 が、発声する直前、彼女の指が折りたたまれる。

 しかし、その答えは想像の埒外だった。

 

「に、二十六ぅ!?」

 

 あまりの年数に取り乱してしまう。

 おかしい、ただの霊体がそこまで存在を維持できる思えないし、変質している様子もない。

 しかも、それほど長い年月を地縛霊として過ごしているのならば俺や橙子が見逃すはずがない。

 ──―いやまて、もしかしたら前提が違うのでは?俺が勘違いしているとしたら?

 俺の想像が合っているのであれば、もしかすると彼女は──―

 

「もしかして君、まだ生きているのかい?」

 

 ハッと目を見開く女性霊。その顔は驚愕に満ちている。

 なんてことだ。生霊ならば存在する肉体との縁が見えなかったから思考の外にあった。

 まさか、彼女がまだ此岸の存在だとは思わなかった。

 

「すまないが、明日も同じ時間にここに来ることはできるか?詳しい話を訊きたくてね。君と会話できる道具も持ってくる」

「────(コクコクコク)」

 

 どうやら、俺は嫌われていないようだ。よかった、生者であることを見抜いたことに驚愕はしたようだが、嫌悪感までは行ってないようだ。

 コートを羽織り、放り投げた鞄を拾う。

 屋上から出て、扉を閉める直前、彼女の姿が一瞬目に入った。

 俺の見間違いでなければ彼女は……とても嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 巫条霧絵(わたし)の人生は、絶望で満たされていた。

 難病に侵され、自分以外の家族も全員事故死した彼女を待っていたのは、孤独。

 それも、ただの孤独ではない。死という絶対的な恐怖が付きまとう、地獄のような孤独。

 病気が進行し、体中に腫瘍ができるたび、精神はどんどん荒廃していく。

 寝ることが怖い。もしかしたら二度と目覚めないかもしれないから。

 起きることが怖い。病魔にむしばまれているという現実を否応なく自覚させられるから。

 窓から見える景色が憎い。ただ変化してしていくだけの風景はわたしを置き去りにしていくようだから。

 病院にいる全ての人間が憎い。わたしの声に気づいてくれないから。

 ……いや、一つ訂正しよう。たったひとり、憎めない人がいる。毎週決まった時間に誰かのお見舞いにやってくる男の子。彼だけは、どうも憎む気になれない。

 閑話休題。

 ただ日々を絶望で満たされ、無気力に、抜け殻のように生きていく。そんな生き方に神様も見放したのか、ついには視力まで失ってしまう。

 そんな時だった。父の友人らしき男が現れたのは。

 名前はよく覚えていない。どこかお坊さんを連想させるような名前だったような気がする。

 そんな男から、わたしはもう一つの身体を手に入れる。

 それは想像していたものと違ったけど、とても満足するものだった。

 少なくとも、初日だけは。

 外を自由に飛び回れる身体。それは幼い頃に読んだピーターパンになったようでとても興奮したが、少し違和感もあった。

 その違和感の正体は、二日目になって判明した。

 わたしのもう一つの身体は、他人には見えないのだ。

 きっかけはビルの谷間を浮遊していたとき、うっかり警備員の男性と目が合ってしまう。

 人に見られないように、深夜にこっそり飛び回っていたのだが、高揚感から気づくことができなかった。

 そのとき、あまりにびっくりしてわたわた驚くばかり。わたしの秘密の時間を見られてしまい騒動になるかと戦々恐々してしまう。

 しかし、警備員は何事もなかったように通り過ぎるだけだった。

 そこで、ようやく気付くことができた。

 わたしの運命は、ちっとも変わっていないんだということを。

 それから、わたしは自分が見える人を一生懸命捜しはじめた。

 ようやく自由に動く身体を手に入れたのに、未だにひとりぼっちなんて耐えられない!

 幸い、移動できる範囲には人通りが多い道もある。そこでずっと張っておけば、ひとりくらいわたしを見ることができる人がいるかもしれない。

 そんな希望的観測も、六日目になるころにはすっかり崩れ去ってしまった。道の端っこで待てども待てども、反応してくれる人はいない。

 すっかり気落ちしてしまったわたしは、ビルの屋上で悲嘆に暮れていた。

 

 そんな時だ。彼に会ったのは。

 

 海のような蒼い髪と瞳を持つ、アルスという名の男性。

 彼に初めて声をかけられたときには、驚きのあまりおろおろするしかできなかった。

 なんせ、見える人なんていないと悲嘆に暮れ油断しきっていた時に呼びかけられたのだ。みっともない姿を見せてしまったことは許してほしい。

 そんなわたしに、彼は優しく語りかけてくれた。敵意がないことを解りやすい形で示してくれた。

 ……その形が、コートを脱ぐという奇行だったのは予想外だった。シャツにまで手をかける彼を必死に止める。その際、チラリと見えた胸元にドキリとしてしまったのは内緒だ。

 その後、喋れないわたしに配慮した形で質問をしてきた彼は、わたしが生きていることに驚愕した。まぁ、幽霊にしか見えないのだ。驚くのは仕方ないことだ。

 そして、彼はわたしに『明日も同じ場所で会う』という約束をしてくれた。

 しかも、お喋りできる道具も持ってくるという。

 彼が屋上から出ていくとき、正直言うとわたしの顔は喜びで緩み切っていたと思う。人には到底見せられない顔になっていたことだろう。

 それほど、わたしは正の感情に支配されてしまったのだ。

 

 その後のことを語ろう。

 約束通り翌日、彼は一対のペンダントを持ってやってきた。どうやら、このペンダントをお互いに掛ければ意思疎通できるとのこと。

 霊体であるわたしが掛けられるのか心配したが、そこは大丈夫だという。霊体でも触れられるように魔術をかけたとのこと。

 そして、彼と会ってから二日目。

 ようやくお話しできるようになったわたしは、一晩中会話を続けた。

 彼の趣味のこと、最近あった面白い出来事、昔やっていた習い事の思い出……ずっとお話しできなかった鬱憤を晴らすように、元の身体のことを忘れたいかのように。

 そのお話の最中、例のお坊さんみたいな人の話が出てきたとき、彼は食い入るようにわたしを見つめてきた。そして、その人物について根掘り葉掘り質問されてしまう。

 本来なら、入院費を都合したまでか彼と出会う縁を作ってくれた身体を与えてくれた人のことを教えることはよくないことかもしれない。

 しかし、当時のわたしはお喋りできる高揚感からなんでも喋ってしまった。それに関しては後悔していない。

 その人について覚えている限りの情報を教えると、彼は難しい顔で考えこんでしまった。

 そして、最後にわたしが入院している病院と病室を聞いてきた。

 もちろん、わたしは正直に答えた。

 すると、彼は立ち上がり「やることができた。また明日ね霧絵ちゃん」と立ち去ってしまう。

 立ち去る彼に、わたしはニコニコしながら手を振る。

 これほど明日が待ち遠しいのは初めてだなと、わたしは翌日の屋上へと思いを馳せながら病室へと帰りました。

 

 翌日、彼は約束通りまた会ってくれました。

 その場所が、屋上ではなくわたしの病室だったことは予想外だったけど。

 




という訳で巫条霧絵さん生存√です。
式にさえ認められる美貌とCV田中理恵って最強だよね。

矛盾螺旋編が終わった後、忘却録音編と殺人考察(後)編と続き空の境界編が終了。続いてロード・エルメロイⅡ世の事件簿編に移行しますが、矛盾螺旋、忘却録音、殺人考察(後)、これらのエピソードの間には約1か月ほどインターバルがあります。この間に閑話を入れるかどうかアンケートしたいと思います。

  • 矛盾螺旋と忘却録音の間に閑話入れろ
  • 忘却録音と殺人考察(後)の間に閑話入れろ
  • どっちのインターバルにも閑話入れろ
  • 閑話いらねえ!早く事件簿編読みてえ!
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