人形師の使い魔   作:アスラ

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1/24、日間ランキング(加点・透明)で一時的ですが、1位になっていました。
そして、評価バーに赤色が付きました。
これも読者の皆様のお陰です。この場をお借りしてお礼申し上げます。

ありがとうございます<m(__)m>

次の目標は日間総合ランキングにランクインすることと、評価バーを全部真っ赤にすることですね。
これからも応援、よろしくお願いいたします<m(__)m>


6:新たな同居人

1998年6月某日

 

 

「それで、女を誑かした成果はあったのか?」

 

 工房で作業する俺の背中をげしげし、と橙子が蹴る。

 

「橙子、作業しにくいからやめてくれないか?」

「断る。私という主人がいながら他の女にうつつを抜かす莫迦者を調教する良い機会だからな」

「調教って……」

 

 振り返り、橙子の瞳を真っ直ぐ見つめる。いきなり見つめられたせいか、彼女は一瞬たじろいだ。

 

「あのな、俺はとっくの昔に橙子に全てを捧げたんだ。今更調教するなんて悲しい事言わないでくれ」

「……り、理解しているならいいんだ」

 

 あまりに唐突な反撃を喰らった橙子は、眼鏡を外しているのにまるで乙女のような反応を見せる。

 ふっふっふ、俺の渾身のデレなんてレアだからな。存分に悶えるがよい!

 ニヤニヤしてると、それに気づいた橙子からさらに足蹴にされる。くっ、使い魔は辛いぜ。

 

「結論から話すと、収穫はほとんどなかった」

「ほう、おまえともあろうものが珍しいな。それほど、彼女に霊体を与えた魔術師は痕跡を消すのが上手いと」

 

 ここで俺の力不足を疑わないのは、使い魔冥利に尽きるな。

 内心の喜びを見せぬよう取り繕いながら、説明を続ける。

 

「もちろん、この街に根を張っている俺たちに感づかれないよう慎重に立ち回ったことは確かだろうな。だが、それ以前に彼女には干渉された形跡が見られないんだ」

「おいおい、そいつは本当に魔術師なのか?報酬無しに霊体を与えてはいさよならなんて、等価交換の原則をまるで無視しているじゃないか」

「その通りだ。だが、ある情報を追加すれば、その魔術師は霊体を与えること自体が目的だと判明する」

「情報だと?」

「ああ、女性の名前はフジョウと言っただろう?字は巫女に式条と書くんだ」

「巫条……退魔四家に連なる家系か」

「あのまま浮遊を続ければ、遠からず良くない変質が始まっただろうな」

 

 苛立ちを紛らわせるように、煙草を灰皿に押し付ける。

 つまり、魔術師は自らの目的の為に巫条霧絵を利用したのだ。

 あんな出来損ないの身体で、まやかしの幸福を与えた。

 

「唯一の接触した彼女も、当時は意識朦朧としていて死の気配を纏った坊さんみたいな名前だということしか覚えていないらしい」

「ちっ、それでは特定できん。それくらいなら日本にごまんといるだろうからな」

「ああ、だがいくら痕跡を消そうにも、無意識的に癖というものは残る。霊体を詳しく調べた結果、証言と合わせて容疑者は浮かび上がったよ」

「ほう、そいつは誰だ?」

「俺たちもよく知ってるやつだよ。──―荒耶だ」

「ッ!死の蒐集家か。その名を聞く事になるとはな」

「ああ、問題はなぜやつが動き出したかってことだ。ミステリー風に言うならホワイダニットが解らないってやつだ」

 

 この時は預かり知らぬ事だったが、俺が巫条霧絵と出会ったのは、両儀式が目覚めてそれほど経ってない時期だった。

 

「まぁ、やつも俺たちのことはよく知っている。企みが露呈する可能性を恐れてもう彼女には手出ししないだろう。一応病室に守護のルーンを刻んだ」

「そうか。……で、お前は彼女をどうするつもりだ?」

「? 質問の意図が読めないが」

「でははっきり言ってやろう。義手や人工臓器をそいつに移植するつもりなのか?」

 

 ピタリ、と作業する手を止める。

 

「おまえの腕は私が一番よく知っている。それを巫条霧絵に移植し霊薬を活用した治療を行えば、問題なく完治するだろう。だが、なぜそこまでする?彼女は赤の他人だぞ?」

 

 彼女の瞳は、こちらを鋭く射抜いている。まるで、下手な返答をすれば力ずくで止めると言わんばかりだ。

 再度、橙子と向き合う。

 

「これはな橙子、等価交換なんだ。如何に抑止力が後押ししたとしても、やつがこの街で行動を起こしていることを知れたのは彼女のおかげなんだ。なにも知らないうちに巻き込まれるのと、あらかじめ前準備をし備えてから巻き込まれるのとでは天と地ほど差がある」

「ゆえに情報の報酬として、人工物による人体置換を行う、か」

 

 ジジジ、と橙子は煙草を吸い込む。

 そして、俺の顔目掛け紫煙を吹きかけてきた。

 うおう!目に染みるぅ!!

 

「この大莫迦者、私を欺けるとでも思ったか。おまえの考えなどお見通しだ」

「……やっぱり解るか?」

「突発的な不運で天涯孤独の身になったことに共感してしまったのだろう?全く、甘くなったものだな」

「それはお互い様だろう?」

「たわけ、私は巫条霧絵なぞどうでもいいんだ。やるならひとりでやれ。手は貸さんからな」

 

 作業を再開する俺を尻目に、橙子は事務所に戻っていった。

 しかし橙子、君は自身が甘くなったことを否定したが、それが嘘だということはさすがに解るぞ。

 なぜなら、俺が巫条霧絵を助けることを黙認したのだからな。

 

 

 

 ◆

 

 

 

1998年9月某日

 

 

 

 ぺらり、と紙が捲れる音が病室に響く。

 アルスが巫条霧絵のカルテを閲覧している音だ。

 その目は真剣そのもので、一つの異変も見逃さないと言わんばかりだ。

 その様子を、緊張した面持ちで巫条霧絵は見つめる。

 そのまま沈黙が続くこと数分、アルスはカルテを閉じ、霧絵へと目線を向け口を開いた。

 

「うん、腫瘍の転移も見られない。完治したな。リハビリで筋力も戻りつつあるし、この分なら来週には退院できるだろう」

「あぁ……本当ですか……ッ」

 

 霧絵の目から涙が溢れる。

 それも仕方のないことだろう。長年病魔に蝕まれていた彼女の人生は絶望の闇に包まれていた。

 それが、一気に取り払われたまでか健康な肉体まで取り戻されたのだ。その歓びは、常人には想像できないほどのものだろう。

 

「私……私、本当に生きていけるんですね!」

「おいおい、俺を信用していなかったのかい?最初から言ってるじゃないか、霧絵ちゃんは治るって」

「ごめんなさい……でも、アルスさんに完治を伝えられるまで、治った気がしなくて……。もしかしたら、腫瘍が転移したり再発するんじゃないかって不安で……」

 

 えぐえぐと泣く霧絵の背中を、アルスはそっと(さす)る。

 

「大丈夫。君の未来は光で満ち溢れているさ。俺が保証する」

「はいっ……、ありがとうございます……ッ!」

 

 その後、感涙の涙を流し続ける霧絵を落ち着けさせたアルスは、本題を切り出した。

 

「霧絵ちゃん。退院後のことなんだが……」

 

 現在、巫条霧絵はとても不安定な立場にある。

 その原因はとても単純なもので、身寄りがないということだ。

 

「霧絵ちゃんは資産と呼べるものは何も保有していない。家も財産もない。君にあるのはその身一つだけだ。ここまではいいね?」

「はい」

「まぁ、現代日本は社会的弱者に対する保証は世界屈指のレベルだ。日常生活を送るだけならなんとかなるだろう。……しかし、ここまでやってはいさよならというのも無責任な話だ。そこでだ、霧絵ちゃんに俺から一つ選択肢を提示する」

 

 アルスは鞄から一枚の書類を取り出し、霧絵に渡す。

 

「ッ!アルスさんこれって……」

「橙子から許可は取ってある。霧絵ちゃんさえよければ、伽藍の堂は君の入社を歓迎するよ」

 

 

 

 

 

 

「全く。就職斡旋までするとは甘すぎるにも程があるぞ」

 

 時刻は夜。橙子とアルスは、橙子の私室にて晩酌を行っていた。

 

「そう言うなよ橙子。ちゃんと俺たちにも利益があることは説明したじゃないか。等価交換だよ」

 

 アルスたちへの利益。それは、巫条霧絵が荒耶宗蓮の手に落ちるのを防ぐことだ。

 肉体のほとんどを人工物へと置換したとはいえ、彼女が巫条家に連なる者なのは変わらない。つまり、彼女は未だに霊的素材としての価値が高いのだ。

 彼女へ荒耶が接触する可能性はほとんどないと考えられるが、万が一ということもある。彼女を庇護下に置くには十分すぎる理由だ。

 

「だからと言って、おまえの部屋を彼女に明け渡すこともなかろう」

「仕方ないだろう。四階に空き部屋はないし、二階と三階は工房だ。一階に関しては言わずもがな。なら、選択肢は一つだろう」

「だが、そのせいでおまえはソファーで眠ることになったじゃないか」

「うら若き乙女と同衾するわけにはいかないだろう。それとも、橙子のベッドに潜り込ませてくれるのか?」

 

 アルスが橙子に同衾を提案する。もちろん、冗談のつもりだ。普段いじられているゆえの、ちょっとした反撃。

 しかし、橙子の返答は彼にとてつもない衝撃を与えることになる。

 

「おまえが望むのならば、寝てやってもいいが?」

「……うぇ?」

 

 あまりの衝撃に、アルスの動きが止まる。

 

「聞こえなかったのか?同衾してやってもいいと言ってるんだ」

「うぇ……おぉう……いひぃ……」

 

 ニヤニヤしながらワインを回す橙子。

 対して、アルスはただただ意味不明な単語を壊れたスピーカーのように口から漏らすだけである。

 それどころか、どんどん顔が真っ赤になる。どうやら衝撃により身体のコントロールがおぼつかなくなり酔いが回ってきたようだ。

 

「ちょ、ちょっと外の空気吸ってくる!!」

 

 耐え切れなくなったのか、アルスは屋上へと走る。

 その様子を肴にしながら、橙子はワインを呷った。

 

「全く。それ以上のこともしたことあるというのに、変なところで初心な奴なんだな、アルスは」

 

 酔いが回っているのか、赤い顔をニヤニヤと緩ませる橙子。

 

(しかし、私も大胆なことを言ったな……)

 

 訂正。どうやら彼女の顔が赤くなった原因は、酒だけではなかったようだ。

 

「……私も夜風に当たってくるか」

 

 




アルスは肉体の代わりとなるパーツを造れますが、人間そのものを創ることはできません。今回巫条霧絵に用意した義手なども、見る人が見れば人工物だとバレます。
蒼崎橙子に近い技術を持ちながら、彼女に届くことは一生ありません。そこは作者として明言しておきます。
図で表すとこんな感じ。

蒼崎橙子>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>(封印指定の壁)>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>アルス

矛盾螺旋編が終わった後、忘却録音編と殺人考察(後)編と続き空の境界編が終了。続いてロード・エルメロイⅡ世の事件簿編に移行しますが、矛盾螺旋、忘却録音、殺人考察(後)、これらのエピソードの間には約1か月ほどインターバルがあります。この間に閑話を入れるかどうかアンケートしたいと思います。

  • 矛盾螺旋と忘却録音の間に閑話入れろ
  • 忘却録音と殺人考察(後)の間に閑話入れろ
  • どっちのインターバルにも閑話入れろ
  • 閑話いらねえ!早く事件簿編読みてえ!
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