つい昨日宣言した目標がすぐに達成できて嬉しいのですが、現実感がなくてふわふわしています。
今は59位(2022/01/24 20:19)ですが、どんどんランクアップして上位にいけるよう精進いたします。
感想もお待ちしております。感想が書かれると、モニター前で小躍りしちゃうくらい喜びながら返信します、私が。
しおりを確認すると第6話が突出して挟まれてて驚きました。
やっぱりヒロインのデレっていいよね。
「という訳で、新たにウチの仲間になる巫条霧絵ちゃんだ。二人とも仲良くするように」
ゆったりとしたワンピースを身に纏った霧絵ちゃんを、先輩社員となる黒桐くんと式に紹介する。
「ふ、巫条霧絵と申します。どうか、よろしくお願いします!」
緊張からか、若干上ずった声で自己紹介する霧絵ちゃん。
そんな彼女に対し、黒桐くんは「よろしくね」と朗らかに挨拶する。
式は対照的だ。挨拶せず、無言でじっと霧絵ちゃんを睨みつけている。
「あ、あの……両儀さん?」
睨みつける式に、オロオロする霧絵ちゃん。
そんな奇妙な光景が十秒ほど続く。
これはなんとかしなければとフォローを入れようとするが、その直前、意外なところから救いの手がやってきた。
「はいはい、睨まないの式。あなたの後輩になるんだから、優しくしなきゃダメよ」
眼鏡をかけた橙子が、窘めるように式を諫めたのだ。
諫められた式は、ふん、と興味を無くしたかのように視線を切る。
そして、革ジャンを羽織って事務所から出ていった。
「あの……わたし、なにかやっちゃったんでしょうか?」
「式が不機嫌なのは、勝手に期待して勝手に幻滅した、単なるひとり相撲を行った結果よ。あなたは気にしなくていいわ」
「は、はぁ……」
すかさず橙子からフォローが入るが、霧絵ちゃんはあまり理解できていないようだ。
「あと、式は名字呼びとさん付けを嫌ってるから、次からは呼び捨てでいいわよ」
「は、はい。解りました」
「よろしい。それじゃ幹也くん、彼女に仕事を教えてあげてちょうだい。順番は任せるわ」
「解りました。じゃあ、行こうか巫条さん。まずは掃除から教えるよ」
「は、はいっ!」
元気よく返事した霧絵ちゃんが黒桐くんの後ろに着いて外へ向かった。
「意外だな。まさか霧絵ちゃんに助け船を出すとは」
二人っきりになったことを確認した俺は、茶化すように橙子に語り掛ける。
「彼女も身内となったのだ。ならばこそ、それ相応の対応をしているだけだよ。それより、彼女は仕事できるのか?ずっと入院生活で社会人経験なんて欠片もなかろう?」
「その点については安心しててもいいんじゃないか?彼女は仕事に必要な必要最低限の知識と技術をわずか一日で習得した。なにより教育係は黒桐くんがやってるんだ。彼なら安心して任せられる」
「ま、お手並み拝見と行こうじゃないか」
◆
目が覚めると、見慣れない天井が目に入る。
(ここは……)
眠気により靄がかかった頭を必死に回転させ、今いる場所がどこか思い出そうとする。
……そうだ、ここはアルスさんの部屋だ。いや、正確にはわたしの部屋。
ここに居候する身になったわたしのために、わざわざ引き払って用意してくれたのだ。そのせいで彼は事務所のソファーで眠ることになり申し訳なく思うが、慣れているから気にしなくてもいいと彼は笑っていた。
ベッドから身を起こし、スリッパを履く。
病室にいた頃とは違い、しっかりと床を踏みしめ扉を開ける。
時刻は午前七時。わたしはある期待をしながら、事務所へと歩を進める。
そこには期待通り、彼がいた。
「おはよう霧絵ちゃん」
「おはようございます、アルスさん」
今回は、わたしの一日を紹介しようと思う。
時は流れ午前八時。この時間帯になると、伽藍の堂の主が目を覚まします。
「おはよ~。相変わらず二人は早いわねぇ」
蒼崎橙子さん。わたしを救ってくれたアルスさんの上司で、この会社の所長さんでもあります。
橙子さんは起床直後にもかかわらず足取りはしっかりしていて目も冴え渡っています。目を覚ましたあとしばらくぽやぽやしている自分とは違って、これがデキル大人の女性なのかなと少し尊敬してしまいます。
「今日の朝ご飯は?」
「鮭と白米に味噌汁だ」
今日の朝ご飯担当はアルスさん。というか、朝昼晩三食全て彼が作っています。
橙子さんも作れるには作れるらしいのですが、彼女曰く「使い魔がやれるのであれば任せるに限る」とのことで、やる気ゼロ。
アルスさんも「俺がやりたいからやってるんだ」と気にする様子もありません。これが、割れ鍋に綴じ蓋というやつなのでしょうか?
思考に耽っていると、食卓に朝ご飯が並べられていきます。
つやつやの白米に、脂の乗った鮭、そして味噌汁。
これぞ日本の朝ご飯とも言える光景に頬が緩みます。長らく病院食のみ食べていたわたしにとって、この朝食は未だに刺激が強すぎます。さすがに、初めて食べた時のように涙を溢すようなことはもうありませんけど。
朝食に舌鼓を打ち、後片付けを終えると、わたしは掃除用具を持って日課となる表の掃き掃除に赴きます。
アルスさんたちは、人通りは滅多にないし毎朝やる必要はないとおっしゃってますが、今のわたしはここに居候させてもらっている身。これくらいやらないとバチが当たると言うものです。
「巫条さん、おはようございます」
「おはようございます、黒桐さん」
しばらく掃き掃除をしていると、黒桐さんが出勤してきた。
黒桐幹也さん──―わたしが入院していたとき、唯一憎まなかった男の子。
伽藍の堂に連れられ、彼と対面したときは驚いたものです。もう会うことはないと諦めていましたから。
でも、残念ながら彼にとってわたしは初めて会う人という扱いでした。ちょっぴり残念でしたが、彼とは一度も会話したことがないのでしょうがないと納得します。
「式さ……式も、おはようございます」
続けて、黒桐さんの隣にいる式さんに挨拶します。
未だに呼び捨てには慣れていないけど、努力するので心の中ではさん付けするのを許して欲しいです。
「……おはよう」
ぼそりと一言挨拶すると、式さんはさっさと伽藍の堂へと入っていきます。
わたしはもっと仲良くしたいのだけど、彼女にはその気があまりないようで必要最低限の会話しかまだしたことはありません。
でも、無視されていた最初に比べたら改善されています!わたしの当面の目標は、彼女とおしゃべりすることです!
表の掃き掃除を終えると、始業時間がやってきます。
私が担当する主な仕事は書類整理や帳簿の作成など、主に黒桐さんのサポートに回ることが多いです。
年齢では彼の方が年下ですが、仕事はわたし以上にてきぱきこなしています。彼には教育係としてつきっきりで指導してもらっており、式さんにはちょっと悪いけど、独占したようでちょっと気分がいいです。
……その内心を見透かされたのか、たまにものすごい目で睨んでくるのは税金だと思って我慢します。
十二時を過ぎると、キッチンの方からカレーのいい匂いが漂ってきます。
その匂いを合図に、全員作業の手を止め、テーブルの上を片付け始めます。
全員が片付け終えると、見計ったかのようにお盆に料理を載せアルスさんがキッチンから出てきます。
はい、実は先ほどのいい匂い、お昼休憩の合図なのです。
アルスさんに、なぜこのようなシステムにしたか訊いたことがあります。
すると、彼は懐かしむかのように昔話を聞かせてくれました。
『昔はな、橙子は食生活に関して無頓着だったんだ。好きなものしか食べないし、腹が減ったら何時だろうが食べる。身体を壊さないか心配で、食生活改善のためにわざと美味しそうな匂いを朝昼晩決まった時間に橙子がいる部屋に流し込んだんだ。最初はなんとか我慢してたが最終的には匂いを嗅ぐだけで食事の準備をするパブロフの犬になったよ』
聞かせてくれた直後に『犬はおまえの方だろうが』と橙子さんに頭をフルスイングされたのには苦笑いするしかありませんでした。さすがに女性を犬扱いするのは擁護できません。
今日の昼食はカレーリゾットでした。なんでも、複数の香辛料を使い一から作った秘伝のカレー粉を使用したのだとか。その味は高級レストランにも引けを取らず、いつの間にか着席していた式さんが無言で味を堪能するほどです。
昼食後、食器の後片付けを終えると、わたしは屋上に向かいます。
扉を開けると、そこには巨大なビニールハウス製の屋上庭園が鎮座しています。
入口を開き中に入ると、見たこともない花や草がたくさん生えています。
ここは、アルスさんが自作した霊草栽培所。
日本では入手できない貴重な薬草などを安定して供給するために設置したそうで、中には一枚千円もする高級な種類もあるそうです。
そんな貴重なものを任せられる重責をしっかり受け止め、懐からメモを取り出します。
そのメモには、イラスト付きで各種薬草や花のお世話の仕方が網羅されています。これを見ながらお世話するのもわたしの仕事の一つです。
幸い、ここにある物は比較的お世話が簡単なものばかりなので、わたしでもなんとかできます。栽培が難しいものや危険度の高いものは工房で栽培してるのだとか。
丁寧に、愛情込めてお世話をします。アルスさんのお話だと、わたしの治療に使用した薬草もあるそうです。
「元気いっぱいに育って、アルスさんの役に立ってね」
お世話を終え、書類作成などを行っているとあっという間に就業時間がやってきます。
「お疲れさまでした」
「はいお疲れ~」
「お疲れ~」
「お疲れ様です」
黒桐さんが退社する時間です。名残惜しいですが、手を振ってお見送り。
彼の背を追うように、式さんも事務所を出ていきます。
……毎回思うんですけど、式さんって猫みたいですよね。事務所にいるときはマイペースに過ごして見向きもしないのに、帰ろうとすると追いかけていく。機嫌がいいときなんて、猫耳としっぽが見えちゃうくらいです。
終業後は、プライベートの時間。皆さん、思い思いの時間を過ごします。
橙子さんはどこからか仕入れた古い本を読み、アルスさんは晩ご飯の支度に。
わたしはテレビを観ています。入院生活では見る機会も視力もなかったので、放送されている番組全てが新鮮です。
チャンネルをコロコロ変えながらテレビを観ていると、あっという間に晩ご飯の時間。
「仕事には慣れた?」
ブリの照り焼きに舌鼓を打っていると、アルスさんから気遣うように質問が飛んできます。
「はい、黒桐さんも優しく教えてくださいますし、屋上庭園でお花や薬草をお世話するのも楽しいです」
「霧絵ちゃんはよくやってるわよ~」
質問に答えると、眼鏡を掛けた橙子さんが口を開きます。
「仕事は正確だし、ミスしてもすぐに修正できて二度としない。掃除は丁寧だし霊草の質も及第点。良い子拾ってきたじゃないアルス」
「良い子だなんて、そんな……」
予想外に褒めちぎられるので、顔を真っ赤にしてしまいます。
そ、そんなに褒められても~。
「それはよかった。ここ最近忙しくてあまり見てあげられなかったから心配してたんだ。あ、それとな、もし橙子になにかされたら迷わず俺に報告するんだぞ。きっちり叱ってやるからな」
「ちょっとアルスぅ~?私が霧絵ちゃんをいじめるわけないじゃない」
「いじめなくてもちょっかいは出すだろ?流行りの遊びと称して競馬教えようとしたこと忘れてないからな」
「あ、あれは冗談のつもりだったのよ……」
眼鏡を外しているときとは逆に、アルスさんが橙子さんを追いつめる。
その光景は、ぐうたらな母親を叱る父親みたいで。
本気では怒っておらず、あくまで家族の交流であって。
性別は逆だったけど、それはかつて過ごした幸せな時間にどこか似ていて……。
「って、おいおい。大丈夫か霧絵ちゃん!?」
「急に涙なんて流しちゃって……ほら、このハンカチで拭いて」
急に涙を流したわたしを気遣ってくれる二人。
その優しさに、またわたしの心は揺さぶられて。
「大丈夫です。ちょっと懐かしくなっちゃっただけで……」
「……そうか。まぁ、泣きたいときは泣けばいい。我慢はよくないことだからな」
「そうよ~。アルスは我慢し過ぎちゃって私に泣きついたことがあったもんね~」
「ちょ、おい!その話はやめろって!!」
新しくできた家族は、とても温かいものでした。
お風呂をいただき、時刻は午後九時。おやすみを二人に伝えたわたしは、自室の机に向かい日記にペンを走らせる。新しい習慣として就寝前に書くことにしたのだ。
入院中は絶対にやらなかったし考えもしなった、その日一日を振り返るための儀式。
これから先の人生を、精いっぱい頑張って生きることをわたしなりに宣言するための儀式。
その日一日記憶に残った出来事を記入し終え、日記を閉じ、眠るためにベッドへと潜り込む。
そういえば、明日は土曜日だ。屋上で日向ぼっこしながら読書をするのも楽しそうだけど、アルスさんにお願いして街に連れて行ってもらうのもいいかもしれない。もちろん、橙子さんにも声をかけるつもり。あの人はああ見えて独占欲が強いから、きっと二人きりで出かけたら拗ねちゃうと思う。
明日が楽しみだなとワクワクしながら、入院中とは百八十度変わった意味を持つ眠りへとわたしは落ちていった。
公式で、奈須さんから心が童女と明言されている巫条霧絵。
彼女がアルスと橙子さんに抱いている感情は家族愛みたいなものです。
父:アルス 母:蒼崎橙子 娘:巫条霧絵
こんな感じです。
矛盾螺旋編が終わった後、忘却録音編と殺人考察(後)編と続き空の境界編が終了。続いてロード・エルメロイⅡ世の事件簿編に移行しますが、矛盾螺旋、忘却録音、殺人考察(後)、これらのエピソードの間には約1か月ほどインターバルがあります。この間に閑話を入れるかどうかアンケートしたいと思います。
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矛盾螺旋と忘却録音の間に閑話入れろ
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忘却録音と殺人考察(後)の間に閑話入れろ
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どっちのインターバルにも閑話入れろ
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閑話いらねえ!早く事件簿編読みてえ!