人形師の使い魔   作:アスラ

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お気に入りが前日の倍以上になり、UAが10,000超えていて腰を抜かしました。
やっぱランキングの力ってやべーですね。

次の目標はお気に入り1000越え。
これからも精進していきます。


8:初めての弟子

 突然だが、ここで一つ告白しようと思う。

 なんと、俺にはひとりJKの弟子がいるのだー!!

 ……おふざけはここまでにして、真面目な話をしよう。

 今年の六月、橙子のところに押しかけ弟子入りを迫った猛者が現れたのだ。

 その猛者の名は、黒桐(こくとう)鮮花(あざか)

 名字から察することができるように、わが社の社員第一号黒桐幹也くんの妹だ。

 彼女との縁は、遡ること一年前。

 橙子と久しぶりの旅行の際、逗留先で俺たちはおかしな猟奇的事件に巻き込まれてしまう。

 その事件は問題なく解決した。俺と橙子にかかれば、お茶の子さいさいというやつだ。

 しかし、その道中俺たちはとんでもないうっかりを犯してしまう。

 黒桐鮮花に正体がバレてしまったのだ。

 もちろん、口外しないよう厳重注意して彼女とは別れた。

 そこで、彼女との縁は切れた──―はずだったのだが、何の因果か前述したとおり再び縁が繋がってしまった。

 もちろん、最初は断った。必死に弟子入りを懇願する鮮花に、弟子を取るつもりはないと宣言した。

 それでも食い下がる彼女に、なぜそこまでして弟子入りするかを問いただした。

 すると、彼女は真っすぐな目で、隠すことなく弟子入り志願の理由を明かした。

 今のままでは対抗できない、力がいる、と。

 敵討ちかと聞けば、それは違うと彼女は答える。

 なんじゃそりゃ、と頭にはてなマークが浮かんだものだ。

 これはどう角が立たないように断ろうか……と頭を抱えていると、それまで沈黙を守っていた橙子が口を開いた。

 

『いいぞ。弟子にしてやろう』

 

 黒桐くんを社員に誘ったときのように、あっさりと橙子は鮮花の弟子入りを認めたのだ。

 もちろん反対した。神秘とは一切関係ない一般人を弟子にするなんて前代未聞だ。

 しかし、鮮花のことを気に入ったのか、橙子は意見を翻すことはなかった。

 結局、橙子の鶴の一声で黒桐鮮花の弟子入りは決定事項となってしまったのだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「アルスさんって、なんで師匠になってくれたんですか?」

 

 講義の休憩中、わたしは以前から気になっていたことを問うてみた。

 

「ん?いきなりどうしたんだ、そんな質問するなんて」

「だって、わたしがここに弟子入り志願しに来たとき、頑なに拒否していたじゃないですか。だから、橙子さんが弟子入りを認めてくれたときも、てっきり師匠はあの人ひとりだけだと思って」

「……そうだなぁ」

 

 カチャリ、と手にしたティーカップを皿に置き、橙子師と並びわたしの師匠ということになっている蒼髪蒼眼の偉丈夫──―アルス師は困ったように眉をひそめた。

 

「理由はいろいろあるけど、一番は鮮花が一生懸命だったことかな」

「一生懸命?」

「そ。今だから言うけど、俺は鮮花が一週間も持たずに逃げ出すと思ってたんだ。だって、君には魔術の才能が欠片もないからね」

 

 さらりと爆弾発言するアルス師。ちょっと、そんな失礼なこと思ってたんですか!?

 魔術の才能がないことはどうでもいいけど、逃げ出すと思われていたことは心外だ。

 

「でも、鮮花はめげずに橙子に食い下がった。それどころか『発火』の才能を開花させたんだ。ここまでされれば、認めざるを得ないだろう?俺は頑張り屋さんには優しいんだ」

 

 そう嘯いて、アルス師はカップに口を付ける。

 ……むぅ、なんだか美辞麗句で誤魔化された気がしてモヤモヤする。

 アルス師の言葉を疑っている訳ではない。わたしを弟子にした理由の一端であることは確かだろう。

 しかし、わたしの勘は、アルス師の回答は一番の理由ではないことを確信している。

 チラリと時計を盗み見る。幸い、講義開始まで時間はまだある。

 わたしの疑問を乗り切ったと油断しているアルス師の化けの皮を剥いでやる!

 

「以前から気になってたんですけど、アルスさんと橙子さんってどんな関係なんですか?」

 

 まずばジャブだ。二人の関係性を問いただして、そこから本命の質問をぶつける!

 

「……今日の鮮花は知りたがりなんだな。そんなこと聞いてどうする?」

「だって、わたしと幹也の関係性を一方的に知ってるのに、当の師匠たちは全くの謎ですから。これって不公平だと思いません?」

「まぁ、そう言われればそうだが、聞いて面白いような関係じゃないぞ。俺と橙子は、主と使い魔。ただそれだけだ」

「はいそこ嘘ですね」

 

 ビシィ!とアルス師の異常性を突き付けるように指さす。

 

「アルス師が人型の幻想種や境界記録帯(ゴーストライナー)ならともかく、魔術師なんですよね?」

「その通りだ」

「魔術師同士で使い魔契約すること自体が異常です」

 

 うぐっ、と呻き声を上げるアルス師。

 

「目的を達成するためのごく短期間の契約ならともかく、アルスさんと橙子さんの契約期間は長すぎます。今まで聞いた話を統合して判断する限り、少なくとも五年以上。実力に絶望的な差があれば無理やり従えることは可能かもしれませんが、アルスさんと橙子さんは同格の魔術師なんでしょう?」

「いや、橙子は俺より一枚上手だよ」

 

 むっ、この考察は間違っていたか。しかし、なんら問題はない!

 

「絶望的な実力差がある訳ではない。かといって、弱みを握られている訳でもない。そんな関係性なら、橙子さんが常に傍に置いているはずがありませんもの」

「あ~、鮮花?そこまでにしておいた方がいいんじゃないか?」

 

 ふふふ、焦ってますねアルス師?真実に近づいているから話を終わらせようとしてもそうは行きませんよ!

 

「では、師匠と弟子という関係性ではどうでしょう?弟子入りする際の契約の一部として使い魔になることを了承したのであれば、ありえなくもない話かもしれません。しかしこれも違う!アルスさんが橙子さんの弟子ならば、わたしの師匠にはなれません」

「鮮花、本当にやめた方がいいぞ。これは君のためを思──―」

「──―ならば!アルスさんと橙子さんの関係性はいかなるものか!わたしが推察するに、お二人の関係性は、ずばり──―」

「──―ほう」

 

 本命と思われる関係性を切り出す直前、聞こえるはずのない声が聞こえた。

 その声は、わたしの脳髄に直接氷柱を差し込んだかのように、強制的に頭を冷やす。

 

「私とアルスがどんな関係性か、ぜひとも聞かせてもらいたいですね。名探偵鮮花さん?」

 

 ギギギ、と壊れたブリキ人形のように振り返ると、そこにはもうひとりのわが師である蒼崎橙子が旅行鞄片手に立っていた。

 

「あの~橙子さん。なぜここにいらっしゃるので?お帰りは夜のはずでは?」

「予想以上に予定が早く終わってしまってね。手持無沙汰になったものだから可愛い弟子のために講義してあげようと早めに帰ってきたって訳なんだけど……」

 

 プルプルと震える手で、橙子師は眼鏡を外す。

 あ、これダメなやつだ。助けてアルス師!!

 振り返って助けを求めるが、アルス師は「だから言ったのに」と言わんばかりの顔で手を合わせていた。

 ちょっと!無事を祈るなんて縁起が悪すぎますよ!!

 

「魔術の研鑽ではなく人のプライベートを暴き立てることに熱中する莫迦弟子には、お灸を据えてやらねばなぁ!」

 

 ズンズンズン!と橙子師が近づいてきて、首根っこをムズと掴まれる。

 

「私の私室に来い!今日という今日は徹底的に鍛えてやる!!感謝するんだな、私の長時間マンツーマン指導なぞ時計塔のロードでも受けられない!!」

 

 そのままズルズルと引きずられながら、橙子師の私室へと連れ去られていく。その様はまるで屠殺場に連れていかれる豚のようだ。

 くそー!いいところで邪魔が入ってしまった!

 でも、わたしは諦めませんよ──!!

 いつか絶対一番の理由を解明してみせるんだからー!!

 

 

 

 ◆

 

 

 

「で、その後はどうしたんだ?」

「山盛りの資料と一問一答形式の試験で頭を茹蛸にしてやったさ。鮮花にはいい薬になっただろう」

 

 時刻は午後九時。またも俺は橙子の私室で晩酌を行っていた。もちろん、相手は橙子だ。

 

「そんな拷問まがいの講義でもちゃんと身に着かせているあたり、橙子の師としての腕は確かなんだな」

 

 ぐったりしている鮮花を実家まで車で送り届けている最中、橙子が今回教えた範囲で簡単な質問をしてみた結果、なんと全問正解しているのだ。

 

「もちろん私の腕のおかげでもある。だが、一番はやはり彼女の才能……いや、執念だろうよ」

「式になんとしても勝ちたい、か」

 

 鮮花が俺たちに魔術を習う理由。それは、恋敵である式を倒すため。

 

「全く、健気なものだ。すでに勝負は決まっているのに、それでも立ち向かうなんて」

「未だに納得しきれていないのだろうな。それほど、鮮花が黒桐に向ける感情は大きい」

 

 酒を片手に、橙子は弟子の奥底を解体する。

 

「実の兄妹なのに、兄に向ける愛が家族愛(ストルゲー)ではなく異性愛(エロース)とはな。自らの起源を『禁忌』と捉えているあたり、根は深いぞ」

「そこは時間が解決するのを祈るしかない。もしくは、他の男性に目移りするのを待つか」

「すると思うか?」

「全くないだろうな」

 

 空になったグラスに新しい酒を注ぐ。

 

「しかし、おまえも意外と格好つけたがりなのだな。素直に理由を教えればいいものを」

「そいつはできない相談だな。鮮花の前では偉大な師匠でありたいんだ」

「偉大な師匠、ね……」

 

 カラン、とグラスの氷が解ける。

 

「まさか、私達が弟子を持つことになるとはな。時計塔にいた頃には考えもしなかったことだ」

「俺もだ。しかも時計塔の才能溢れる魔術師ではない、極東の国にいる一点特化型の一般人だ。当時の俺たちに言っても一笑に付されるだけだろうよ」

「違いない」

 

 お互いに、自然と笑みがこぼれる。

 

「だが、悪くない」

「ああ、鮮花が初めての弟子で本当によかったよ」

 

 互いにグラスを掲げ、鮮花へ献杯する。

 

「「我らの初めての弟子に、乾杯」」

 

 黒桐くんを巡る式との決着が、明るいものになることを願って。

 

 

 

 

 

 

「それはそれとして、お前の一番の理由は次の講義の時にばらすぞ」

「ちょ、それだけは勘弁」

「莫迦者。いちいち探られる方が面倒だろうが」

「しかしなぁ、俺の偉大な師匠像に傷が……」

「そんなもの初めからない。とにかく、これは決定事項だ」

「そ、そんな~」

 

 橙子に逆らえないのが一番の理由なんて、カッコ悪すぎだろ~!

 




という訳で、空の境界ヒロインのひとり、黒桐鮮花の登場です。
今作では、彼女の師匠は二人になりました。
橙子さんが魔術を、アルスはその補助みたいな感じです。
しかし、鮮花のスペックの高さを見て欲が出たのか、アルスは体術を魔術修行の間にちょこちょこ仕込みはじめました。
今では『スーパー鮮花育成計画』なんてものを温めているとか(ネタバレ:橙子に見つかり却下される)

矛盾螺旋編が終わった後、忘却録音編と殺人考察(後)編と続き空の境界編が終了。続いてロード・エルメロイⅡ世の事件簿編に移行しますが、矛盾螺旋、忘却録音、殺人考察(後)、これらのエピソードの間には約1か月ほどインターバルがあります。この間に閑話を入れるかどうかアンケートしたいと思います。

  • 矛盾螺旋と忘却録音の間に閑話入れろ
  • 忘却録音と殺人考察(後)の間に閑話入れろ
  • どっちのインターバルにも閑話入れろ
  • 閑話いらねえ!早く事件簿編読みてえ!
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