元、馬の怪人。現、怪ウマ娘。(副題:グリーンスズカがチームの皆にツッコみきれなくなったらしいので、悪堕ちさせてみたった) 作:K氏
ウマソルジャーV所属、グリーンスズカ。本名をサイレンススズカという彼女がこのヒーローチームに入ったのは、全くの偶然出会ったと言ってもいい。
――アンタの速さから正義を感じる! なぁ、アタシ達とヒーロー、やらないか!――
ある時、いつものようにトレセン学園のグラウンドで走っていた彼女をそんな風に勧誘したのが、リーダーのレッドペガサスこと、ビコーペガサスだった。
最初は、スズカも困惑していた。ヒーローをやらないか、などと、今日聞くような勧誘ではない。そもそも、走る事が主な目的な自分がヒーローなどとは……と、思っていたのだが。
――なら、一緒に走ろうぜ! アンタと一緒に走れたら楽しいだろうなって思ったんだ!――
ビコーの言葉に、スズカの心は大きく揺れた。
今までずっと一人で走り続けてきた彼女にとって、誰かと共に走る事は、未知の体験だったのだ。
その日から、スズカの世界が変わった。
一人ではなく二人。二人より三人。そして、五人。
隣を走る存在がいる事で、彼女の心の中にあった『速くなりたい』という思いが『もっと楽しく走りたい』『皆と一緒に正義のロードを突き進みたい』というものへと変わった。
故に、彼女なりに積極的な交流をしてきた。元々別口で加入していたアイドル……もといウマドルユニットでも、然程社交的という訳ではなかったので、会話には苦労したが。
そして、ウマソルジャーとしての訓練を重ねて、ようやく来たデビュー戦。
黒の科学者、Dr.マッドタキオンが送り込んできた怪ウマ娘、ダークマンハッタンCとの戦いだ。
――よぉし、行くぞ! みんな!――
――おおー!――
そうして、彼女達は変身してスーツを着装し、悪に挑む……筈だったのだが。
「……はぁ」
ひとしきり走った後、スズカは立ち止まった。
彼女は思う。私は、何をやっているのだろう、と。
デビュー戦は、散々なものだった。いや、戦いが、という訳ではない。色々とツッコミどころが有り過ぎて、だ。
迂闊だった。まさか、チームの全員が、あそこまで……あそこまでボケ担当だったとは!
あれじゃ、チームらしい連携なんて取れたものじゃない。何せ、まともに戦闘になったのは最初の一度っきり。後はもう、流れて必殺武器を使って倒してしまったのだから。
「……何か、違う」
ヒーローって、こんなものだったの? いいや、違う。私が考えていたのはこう、もっと友情とか悪とのチームファイトが熱いものであって、決してあんなコメディではなかったはず……。激走戦隊? 知ってる気がするけど知らないわね。機界戦隊? まぁ別の世界だから……。あら、私何言ってるのかしら?
そんな風に自問自答を繰り返している時だった。後ろから何やら自分を呼ぶ声が聞こえてきたのは。
******
ぬ、ぬぅ……なんという足の速さなのだ……改造されている我ですら追い付くのに必死とは……アポカリプスにもあんな速さで走れる戒人はそういなかったぞ……。
しかし、だ。その速さ、ますます気に入ったのである。奴には間違いなく、素質がある!
そうして我は、ようやくグリーンスズカに追い付いたのであった。
「待たれよ、そこの……あー、グリーンスズカで合っているか?」
「……! 怪ウマ娘の新手!?」
我の姿を見るなり、グリーンスズカが構える……って、ああ、そうか。我今、社会潜入用のボディじゃなかったのか。というか怪ウマ娘って何? 怪人じゃなくて? ……まぁ、良い。では交渉開始だ……。
「いやいや待て待て。我はさっきの連中とは無関係。というか怪ウマ娘って何ぞ。我はただちょっと、お主に興味があって追いかけて来ただけだ」
「興味?」
「うむ。単刀直入に言うが、我が仲間にならないか?」
…………沈黙が流れた。
「お断りしま「間違えたァ! 今の無し!」えぇ……」
いやいやいやいや、今の勧誘は我ながらないわぁ~~~……。なんかノリと勢いだけでやっちゃったよガッデム。
「あのー……」
「な、なんだ?」
「もう帰っていいですか? 暴れたりするつもりがないんなら、私も無かった事にしますので……」
「い、いやいや、今のは……そう! ちょっとした癖なのだ! ホラ、お主にだって自然とやってしまう癖とかあるであろう!?」
「それは……そう、なのかしら……?」
ははーん? こやつ、さては自覚ないタイプであるな? 我の経験が言うておるぞ。
「それで、だ! 改めてなのだが、お主に聞きたい事があって来たのだ!」
「聞きたい事、ですか?」
「――お主、飢えておるであろう?」
我のその問いに、グリーンスズカは肩をビクリと震わせた。
クク、お見通しであろう、そうであろう! 我の信者を見抜く目、伊達ではないのだよ! 我、飢饉を司る者だからな!
我の問いにグリーンスズカは、しばし考えこむ仕草をすると、ようやく口を開いた。
「……私、スペちゃん程一杯食べないので……」
ズコーッ! と、見事なまでにずっこけてしもうた。いやいや、違うわ! その飢えではない、我が言うとるのは! まぁ飢饉ってそういうものではるが!
あれか!? こやつ思ったより天然なのであるか!? もうちょい常識人……人? だと思っておったのに!
「そ、そういう事ではないのだ! ほれ、何か悩みはあるのではないか? こう、何か心に引っかかるものが」
うむ、我、ちょっと回りくどい言い方をしてしまったやもしれぬからな。もう直接こう言う方が早かった。いや、シリアス的な空気醸し出すならさっきので正解ではあるんだが。
しかし、我の問いを聞くと戸惑うような反応をしたのを見る限り、どうやら当たりだったようである。
「……貴方には、関係ないでしょう」
おっと、どうやら我の事が信用ならないといった感じじゃな。分かるよ。大体勧誘受ける人って、こういう反応するから。我、下積み時代で慣れてる!
「ふむ。確かに、関係はない。だがな、我は困っている人が居れば手を差し伸べずにはいられない性分でな。それが例え、ヒーローであろうと」
「…………」
「それにな、グリーンスズカよ。これは我の勘であるが、お主は何か大きなものを抱えておる。それこそ、己一人で抱えきれなくなる程のものを」
「っ!!」
「そう……それは――ツッコミ不在の恐怖!」
何言ってんのって思うじゃん? 我も正直不思議なんだけど、此処だとこれが正解な気がして来るのよね。
「……そうなんです。皆……皆何故か、おかしい事を自覚してなくて……」
そう言いながら、グリーンスズカは崩れ落ちてしまう。うんうん、分かるよ。ありゃどう見てもツッコミどころ満載過ぎて、最早自分がおかしいんじゃとか思っちゃうよね。我も仲間に戦争バカとか不謹慎バカとかいたもん。まともなの我と勝利至上主義のホワイトライダーぐらいだと思ってたし。
「そうであろう、そうであろう! なればこそ、我が話を聞こうというのだ! そうすれば、少しは気晴らしにもなるであろ?」
すると、グリーンスズカはこちらをチラチラ見ながら少し逡巡するような様子を見せる。
そんなに我の見た目が気になるか? なら、今からでも人間の姿に変じて……あら? なんか、上手く行かない?
「……いや、急ぎ過ぎる事はないな。なんか変なウマの耳が生えているとはいえ、女子供が我の戒人態としての恐るべき姿に委縮するのは当然の事。ならば……」
「い、いえ!大丈夫です! 普通にその、綺麗な方なんじゃないかとは思いますから!」
「そ、そうであるか? 無理はせぬ方が良いぞ? ……それで、まずはどういう状況なのか教えてくれぬか? お主の話を聞き、その上で我が出来る事があれば力を貸そうではないか」
何やら引っ掛かる物言いをされて気になって仕方がない我の言葉に、グリーンスズカはポツリポツリと語りだした……。
******
「……それで、私、もうやっていけないような気がしてしまって……こんなのが毎回続くんじゃ……」
「うーむ、確かにそれは辛いよなぁ」
なるほど、つまりはシンプルにツッコミに疲れてしまった訳であるな。それだけ? と思うやもしれんが、ボケが続く奴を相手にするのってホント疲れるんだよ……戦争バカとか、赤いのとか、レッドライダーとか。
それにまぁ、あの調子だとずっとツッコミやらされるような気がせんでもない。本人は天然ボケっぽいところがあるのにな。
「うむ、話は分かった。では、その状況を打破するにはどうすればよいと思う?」
「え? そ、そうですね……やっぱり、他の人に助けてもらうしかないんじゃないかと」
「ふぅむ。確かにそれも一つの手ではあるが、根本的な解決にはならないだろう」
「ど、どうしてですか!?」
「……ボケという奴が何故ボケるか、お主に分かるか?」
「え? それは……なんでなんでしょう」
考え込むグリーンスズカに、我は我なりの考えを示す。
「ボケというのはな、安心できる環境があるからできるのだよ」
「安心……」
「うむ。例えば、お主の周りにいる者はお主の事を信頼している。だからこそ、ボケはボケとして安心してボケ続けられるのだ」
「そう、なんでしょうか」
「ツッコミがおらんのにボケ続けたら、それはただの愚か者よ」
「で、でも、そこでどうして助けて貰うのが駄目という事に?」
そう訊いてくるグリーンスズカに、我は一呼吸おいて答える。
「……お主に自覚は無いと思うが……敢えて言おう。お主の根源は、天然ボケであると!」
指を突きつけながら我がそう言うと、何故かグリーンスズカの背後に稲妻が迸るのが見えた。なんだ今の。
「……それなのに助けに来た奴がツッコミをしてみろ。お主はそれに安心し、根っこのボケの部分が現れ……お主も周りの仲間入りしてしまうだろうよ」
「そ、そんな……」
ショックを受けているグリーンスズカだが、こればかりはどうしようもない。天然ボケというものにはそういう性質があるのだ。
「だから、助けを求めるという事は悪手なのだ。己が忌み嫌うボケに回ってしまっては、今度は助けに来たものに負担が行くのだから。お主とて、それは心苦しかろ? ならば、自分でなんとかしなければならない。さもなくば、己の天然ボケを治すしかあるまいが、まぁそれは無理じゃろうな。何せ天然だし」
「そ、そんな……じゃあ、どうすればいいんですか……!?」
涙目になりながら詰め寄ってくるグリーンスズカに、我はここぞとばかりに畳みかける。
「ならば、残された道は一つ。それは――」
「そ、それは?」
「――逃げる事よ」
「に、逃げる……!?」
「左様。逃げるのは恥ではない。生きる為、生き残る為の術だ」
我の言葉に、グリーンスズカは俯いて黙り込んでしまった。
「……その、逃げるって、脚質の逃げとは、違います、よね?」
「そんなウマじゃあるまいし」
「あの、ウマ娘ですけど……というか、貴方もウマ娘なんじゃ?」
「は? なんぞやウマ娘とは。我は誇りあるアポカリプスの上位戒人ぞ? そんな戒人かミュータントかも分からんものでは……」
「怪人? 怪ウマ娘じゃなくて?」
「さっきからその怪ウマ娘とはなんなんだ」
どうも話が嚙み合わない。そう思いつつも、我の中に一つの疑念が浮かぶ。この、妙に視線が低く感じる現象……それに妙な身体の違和感……。
よくよく見返せば、我の手に腕、こんなほっそりしておったか?
「……グリーンスズカよ」
「な、なんでしょう?」
「鏡、持っておらんか?」
「え、えぇと……そこの建物のガラスなら反射して映るんじゃ」
そう聞くなり、我は衝動的に近くのビルへと駆けよる。
そこに映り込んだ我の姿を見て――愕然とした。
――頭部には、以前から被っている二本の捻じれた角が生えた馬の頭蓋骨。その上に、グリーンスズカのようなウマの耳が生えている。
――そこからはみ出るように、黒く、艶やかな長髪が腰辺りまで伸びている。
――そして、屈強だった筈の戒人の肉体はどこへやら、首から下にあるのは、やけにほっそりしたボディーライン。それから、微妙に太股とかが露出してる装飾やら衣装。
そう、我は――誇り高き黙示録の四騎士、飢饉のブラックライダーは、女になっていたのである。
……
…………
………………
「あ、あの? 大丈夫、ですか?」
「……あ」
「あ?」
「あんじゃごりゃあァァァァ!?!!?!?!」
そらもう叫ぶよね。
次回、グリーンスズカ、遂に悪堕ちする!