元、馬の怪人。現、怪ウマ娘。(副題:グリーンスズカがチームの皆にツッコみきれなくなったらしいので、悪堕ちさせてみたった)   作:K氏

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うっかりサブタイ入れるの忘れてたでござる...


変貌! その名はグリーンライダー! -スズカさん、闇堕ちするってよ-

「……あの、落ち着きました?」

「あ、ああ……」

 

 嘘です。全然落ち着けてません。いやマジでどういう事なんだってばよこれ。なんで我、女になってるの?意味が分からんぞ……。……そうか、これは夢であるな。うむ、きっとそうだ。だから目が覚めたら男に戻っているはず! そうと決まればさっさと目を覚まそうじゃないか! というわけで仮面をずらしほっぺたをつねると痛かった。後、絶妙に柔らかかった。

 現実は非情である。

 

「……我は言ったな? 残された道は一つ、逃げる事だと」

「えっ!? あ、はい、そうですね」

「――現実から逃げる、今がその瞬間よ!」

「嘘でしょッ!?」

 

 お主には分かるまいよ。この絶望感と虚無感は誰にも理解できぬわ! 我だって自分がこんな目に遭うとは思ってもみなかったんだもん! もうヤダ帰りたい!!

 というわけで、我は走り出した。この現実から逃げ出す為に。

 

「ま、待って下さい!」

「うおおおお!!! HA☆NA☆SE!!! 我には帰るべき場所があるのだー!!」

「せめて事情を聞かせてください!!」

 

 必死に引き留めようとするグリーンスズカの言葉を振り切って駆け出す。そしてそのまま全速力で逃走する。

 背後からグリーンスズカの声が聞こえるが無視だ。

 今はとにかく一人になりたい気分だった。

 

 ……の、だが。

 

「待って、下さい!」

「嘘ォ……!?」

 

 馬鹿な、我のスピードに追い付いてくるだと!? 並のF1カーですら我に追い付けないというのに!

 そして、気づけば我はグリーンスズカに強引に捕まってしまっていた。

 

「話、だけでも、聞かせて、下さい!」

「アッハイ」

 

 鬼の形相で言われてしまったら断れる訳ないじゃないですかーヤダー。という事で大人しく連行されます。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「……それで、何があったんですか?」

「はい、実はかくかくしかじかなのです」

「まるまるうまうま……って分かりませんよ!」

「すいません……」

 

 あるぇ? なんで我、年下の小娘に敬語になっちゃってるの? おかしいね、なんかいつもより頭が回らない感じだよ。

 

 それにしても本当にどうしよう。まさか我が女になってしまうなんて……。

 いや、女になったから何か不都合があるのかって言われると無いけど、我、アイデンティティが元々男だからなぁ……。

 

「……ええい、構わんか。実は――」

 

 もう思い切って、グリーンスズカに事の顛末を話す事にした。

 元々、アポカリプスという組織の幹部だった事。

 幹部として目的の為に邁進していた事(目的の事はあえて話さなかった)。

 そして、ヒーローに敗れ、気づいたら此処にいた事。

 全てを包み隠さず話す。

 

「……その、つまり元々は男だと?」

「そういう事であるな」

「そ、それは大変ですね……」

「まったくである」

 

 はぁ、と二人で溜息をつく。

 しかし、そうなるとますます疑問が残る。

 何故、女になってしまったのか。

 これが謎である。

 一応、考えられる理由としてはアポカリプスの技術で作られた仮の身体、という事なのかもしれない。

 まさか、上層部の温情か? にしては随分と雑な処置のような気がするが……。道のど真ん中に放置されてるし……。

 まあ、考えても仕方ないか。

 それよりも今後の事をどうにかせねば。

 

「ところで、貴方はこれからどうするつもりなんですか?」

「ふむ、正直言ってどうするべきか判断がつかぬところがある。本来なら体内に埋め込んだ通信装置で通信が出来る筈なのだが、それも通じんしな」

 

 実際何度か本部や支部に通信を試みたが、全く通じなかった。ただの戒人ならともかく、我らのような幹部級には相応の通信装置が内蔵されているから、世界のどこにいても通信ができるのだが……まさか、ヒーローにやられたのか?

 ええい、こんなところで考えていたところで答えが出ん!

 

 そんな風に悩める我を見て、グリーンスズカは「悪の組織の人も、大変なんですね……」としみじみと噛み締めながら呟いていた。

 

「……まあ、我の事はいい。こんな事で取り乱していては、幹部など勤まらぬというもの。……そう言うお主こそこれからどうするのだ?」

「私は……」

 

 とりあえず一旦問題を保留しておく事で落ち着きを取り戻そうとする我に対し、言い淀むグリーンスズカ。

 なんだ、歯切れが悪いな。何かあったのだろうか。

 

「……私も、これからどうするか考えようと思ってた所です。貴方が言うように逃げるか、チームに戻るべきか……どうしようか、決められないんです」

「ほう、ならば丁度良いではないか。折角だ。我の話の続き、聞いてゆかんか?」

 

 そう促してやれば、グリーンスズカは居住まいを正し、我の話を聞く姿勢を取る。

 ふふ、此処からが正念場よ……。

 

「我がお主に会った最初の方で、お主にこう言うたな。『お主、飢えておるであろう?』と」

「言われ、ましたね」

「何故そんな事が分かるのか? それは、我が飢饉、ひいては飢えに纏わる事象を司る騎士であるからだ」

 

 我の言葉を聞いて、「……どういう事ですか?」と首を傾げるグリーンスズカ。

 当然の反応だろう。

 だが、我は構わず続ける。

 

「飢えとは即ち空腹感の事。だが、飢えるという事は、何も腹が満たされぬ事だけにはとどまらぬ。そうだな……」

 

 そう言いながら、我は己の能力を行使する。

 我が能力、それは相手の欲求を見抜く力。この力で、我は多くの人間を信者に変えてきたのだ。

 欲求、それ即ち飢えているという事。そして、人間の欲求は果てが無い。故にこそ、四騎士の中でも我が信徒はトップクラス。全幹部含めても一、二を争う数であった。だからこそ、気づけたのである。

 目の前の少女が抱える欲望に。

 彼女の持つ、渇望に。

 

「――見えるぞ。お主、走りたいのであろう? それもただ走るのではない。速く、もっと速く走りたい」

「ッ!?……な、何を根拠にそんな事を」

 

 動揺したな? つまり、図星だ。

 

「根拠か。言ったであろう? 我は飢えを司る者だと。人の心を読み取るくらい容易い事」

 

……とはいえ、我の力はそれだけではないがな。

 

「さぁ、認めるがよい。お主の心の奥底にある欲望を。何、それは恐れる事ではない。寧ろ、これはチャンスなのだ」

「チャンス?」

「そうだとも。成長に必要な事、それは飢える事。それもただ飢えるのではない。もっと、もっと飢えねばならぬ。飢えれば飢える程、お主の肉体はそれに応え、より強く、より速い肉体を形成するであろう」

「……」

 

 沈黙するグリーンスズカ。しかし、その目は真っ直ぐにこちらを向いており、話を聞き逃すまいとしている様子が伺える。

 ふむ、やはり素質はあるようだな。

 ならば、もうひと押しといこうか。

 

「お主、よもやこのままあのチームにいて、それで満足できるとでも?」

「……それ、は」

「満足というものはな、人生の最期に果たされておればそれでよい。だが、お主はまだ最期を迎えるには早すぎるのだ。なればこそ、飢えが必要なのだよ。お主が今後、生き続ける為にもな」

「……私は、まだまだ速くなれるんですか?」

「無論である。お主はまだまだ走れる筈だ。足りぬのは、お主の飢えようとする心。お主にはまだ、飢えを毛嫌いする心が、逃げる事を拒絶する心が残っておる。だから、この際お主の欲望のままに生きてみるが良い。その為の手助けなら、喜んでしてやろうではないか」

「私の、欲望のままに生きる……」

 

 そう呟きながら俯くグリーンスズカ。

 その姿は、まるで何かを決心しているかのように我の目に映った。

 

「……どうすれば、いいんですか?」

「簡単だ。我の力を受け取ればよい。そして、我が信徒となるのだ。といっても、そんな堅苦しいものではない。ただ、我を――飢えによって得られる力を信じれば、それで良い」

「信じる、ですか」

「そうだ。我と共に歩めば、お主は必ずや満たされるであろう」

「……分かりました」

 

 そう言って顔を上げたグリーンスズカの顔からは迷いの色は消えていた。

 

「私、やってみます! 私自身の欲望の為に!」

 

 そう言って顔を上げるグリーンスズカに、我は歓喜した。これ程の器、そうそうおらんからな。そう思った時だった。

 

「……ちょっと待って下さい。力を貰う前に一つ、いいですか?」

「む? なんだ、言ってみよ」

「そういえばあなたの名前、聞いてませんでしたね」

「名前? あぁ、名乗っていなかったか。これは失礼した。……オホン! 我が名はブラックライダー。この世界における飢饉を司る者なり!」

「ブラックライダーさん、ですね。よろしくお願いします」

 

 あまりにもテンプレート的な返しで、もうちょっと感想ないの? と思ってしまったが、まぁ良い! この娘は間違いなく逸材だ。今はただ、この出会いに感謝しよう。

 

「では、行くぞ! 飢餓を受け入れよ!!」

 

 そして、我が掌から放たれる黒い瘴気が、グリーンスズカを包み込んでいき――

 

「――待て! そこの怪ウマ娘!」

 

 そんな時に限って、我の行動を邪魔しようとばかりに、例のウマソルジャーVがやってきた。

 だが――もう遅い!

 

 我から放たれた瘴気は既にグリーンスズカの肉体を包み込み、彼女の中へと入って行った後であった。

「フハハハ!! 残念だったなぁ、お前達の仲間は今、我の信徒となったのだ!」

「何ぃ!?」

 

 驚愕するウマソルジャーVの一同。

 一方でグリーンスズカの方に変化は見られない。

 だが、本番は此処からだ。

 

「さぁ、目覚めるがよい。我が新たなる信徒よ!」

 

 その言葉を合図とするように、グリーンスズカの肉体から黒っぽい緑の疾風が吹き荒れる。

 

「うわッ!? なんだ!?」

「ちょわッ!」

「あ~~~れ~~~!?」

「あらら、なんかやばそうな感じ?」

 

 なんか一人吹っ飛ばされていったが、構わん!

 

 そして、風が止んだそこに立っていたのは、もう既に先程までのグリーンスズカではなく。

 

 その身体に纏うのは、先程までの緑のぴっちりとしたスーツではなく、深緑のアンダースーツに、まるで夜空の星々が如き宝石が散りばめられた軽装の禍々しいアーマーが装備されている。頭部には宇宙服のそれをアレンジしたかのようなヘルメットが装着されており、そこには漆黒のベールが掛けられていた。更に、両腕には肘まで覆う深緑のグローブが装着され、腰元にも同色のベルト。

 脚には膝上辺りまであるブーツを装着し、蹄鉄のような意匠が施されている。

 

「……ふぅ。中々、悪くない気分です」

 

 そう言って、ヘルメットの奥に見える口元は妖艶に笑っていた。

 

「飢える事ってもっと気分が悪くなるものだとばかり思っていましたが……」

「ほう、どうやら上手くいったようだな」

「えぇ。ブラックライダー()の言う通りでした。今の私は今までよりもずっと、力が溢れてくるような感覚を覚えています」

「それは重畳。お主ならばきっと、我の期待に応えてくれるだろう」

「はい。これからよろしくお願いします」

 

 そう言って微笑むグリーンスズカ……否、グリーンスズカだった者は、正しく女神のように美しかった。

 

「おっ、おい! スズカに何をした!?」

「何、とな? 我はただ、こやつの欲望を解放しただけの事よ」

「欲望だと? ふざけるな! スズカを返せ!」

「返す? はて、一体何処にかえせばよいのか」

「貴様!」

 

 怒りの形相でこちらに向かってくる赤いの……確か、レッドペガサス、だったか。だが――

 

「――通しません」

「ッ!? はや――」

 

 一瞬にして赤いのに肉薄したグリーンスズカだった者が、更に一瞬でその場から過ぎ去る。すると、まるで突風がその場に急に起きたかのように、赤いのが吹っ飛ばされた。

 

「うわ―――ッ!?」

「リーダー!?」

 

 そのまま天の彼方へと飛んで行ってしまった赤いの。……というか、あれ? 今の感じ、もしかしなくても、我より強くね? 我の能力が地味なせい?

 

「くッ! スズカさん! 戻って来てください! 私達は貴方の敵ではありません!」

 

 その場に残された二人の内ピンクの方が、グリーンスズカだった者に呼びかける。……だが、無駄な事よ。

 

「…………。いいでしょう。ただし――あなた方が私の相手になってくれたらの話ですけどね」

「どういう意味?」

 

 青いのが問いかける。

 

「簡単なことです。あなた方は私達の敵――つまり、私の飢えを満たす存在だという事でしょう? なら――」

「まさか――スズカさん、貴方の食欲の為に私達を食べるおつもりで!?」

「……はい?」

 

あ、あれ? なんか話が変な方向に進んでない?

 

「スズカさん! 貴方はそんな、スペちゃんみたいな人じゃなかった筈だ!」

「えっと……」

 

困惑するグリーンスズカだった者。

 

「スズカさん! 目を覚まして下さい! 貴方が食べたいのはウマ娘じゃない筈です!」

「……? えーと?」

「まだシラを切る気ですか!? スズカさんのバカァ!!」

「あの、本当になんの話をしているんですか?……そろそろ、始めましょう」

「ッ! 仕方ありません。力ずくでも止めます!」

「はい。頑張って抵抗してみて下さい」

 

 ……うん。若干空気が怪しくはなったが、ちゃんと元通りだな!

 さぁ、戦いの始まり――と、行きたいところではあったが。

 

「まぁ、待て。貴様ら、ウマソルジャーVだったな。お主らたった二人では、我と今のこやつの相手にはなるまい。我らは、万全な貴様らとの対決を望む」

「……へぇ? 随分舐められてるじゃない?」

「初めて戦った者、の中でも怠け者の言う台詞ではないな」

「ありゃま、見られてましたか」

 

 見ておったよぉ? スヤスヤ寝ておったなぁ。見ていて逆に清々しい気分だったわ。

 飄々とした様子の青いのに対し、我はあえて、幹部故の圧を掛ける。

 

「まぁともかくだ。やる気だけは買おう。だが、未熟者が勝てる程、我らは甘くないぞ。それは、今さっきの赤いのを見てもわかるであろう?」

「ッ、それは……」

 

 言葉に詰まる二人。ふむ、どうやら少しだけ効いたようだ。我の圧もちゃんと効いておるようだ。

 

「だから、貴様らが強くなるまで、我らは待つ事にしよう。そして、その時には存分に戦ってやろうではないか」

「……いいでしょう。では、それまでにもっと強くなっておきます」

 

 そう言って、二人は去っていった。どうやら分かってくれたらしい。これで、奴らもより一層、鍛錬に励む事だろう。

 

「さてと、邪魔者も消えた事であるし、我らも退くとしようぞ」

「……? 暴れたりとか、しないんですか?」

「……お主、自覚しておらぬのか? 今さっきの移動で、体力のほとんどを持っていかれているであろうに」

「……そういえば、結構疲れているような気がします」

「ほれみぃ。そういうわけで、今日はもう帰るのだ」

「……はい。分かりました」

 

 こやつとしては不服極まりないのであろうが、こればかりは上の者として止めねばならぬ。我がアポカリプスは慈悲深い組織なのだ。

 

 ……と、その前に。

 

「そういえば、まだお主の新たな名を告げておらなんだな」

「あ、そういえばそうですね」

「うむ。では新たなる名を授けよう。汝の名は――」

 

 ――グリーンライダー!

 

 こうして、新たな我が信徒が誕生した。

 そして、我は知る事となる。此処が、我のいた世界とは異なる事を……。

 

 

 

 

「……さて、まずは最寄りの支部でも探すか……」

「あ、ブラックライダー様。お付き合いしたいのは山々なのですが、私は明日学校があるのでこれで失礼しますね」

「え、あ、うん。そうか……気を付けて帰るのだぞ」

 

 

 

 

 ……明日、グリーンライダーが学業を終えた後に。

 

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