純狐が親バカになる話   作:迦羅

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十三話

 ある朝、彼女こと純狐は目覚めた時に視界に映った光景に困惑を隠す事が出来なかった。

 先日は客人などは訪れなかった為、適当に読書でもして退屈ながらも一日を過ごし、何時ものように床に就いた。そこまでは明確に憶えている。

 しかし何故今視界には、自分へ身を寄せる様にして布団で丸くなっている伯封の姿があるのだろうか。

 彼は純狐が起きようと布団をめくったせいで寒いのか、温もりを求めようとさらに彼女の方へとすり寄って来る。

 純狐は朝から伯封の仕草に途轍もない萌えを感じ、何ならこのまま彼を抱き締めて一緒に寝たいという衝動に駆られたが、彼の事情を聞かねばという理性がギリギリ勝利した。

 

「伯封…伯封…起きなさい」

 

「ん…んぅ…」

 

 軽く体を揺すってやるとそれを嫌がるように体をモゾモゾと動かしながら顔を顰める。しかしそれを暫く続けるとやがて観念したかのようにゆっくりとその瞼が開かれる。

 

「んぁ…おかあ…さん?」

 

「おはよう、伯封。起きてすぐで悪いが、上半身だけでもいいから起きてくれないか?」

 

「なんでここに…」

 

「ここが私の家だからだ。お前こそどうして私の家に?いや、お前がいる事は嬉しいし何ならずっと一緒に過ごしたいし、お前と同じ空間にいるというだけで幸せ過ぎてどうにかなりそうなんだが、先にここにいる理由を聞きたい」

 

 最早怖いくらいに言葉をまくし立てる純狐であったが、幸か不幸か寝起きの伯封の頭は彼女の言葉を処理しておらず、彼は言われた通り体を起こし、眠い目を擦りながらキョロキョロと周囲を見渡していた。

 

「ここ…仮眠室じゃない。どうして…?」

 

「む、お前も理由がわからないのか。この私に気づかれずお前を仙界に送り込むとは…ん、なんだそれは?」

 

 そこで純狐は伯封の着ている着物の胸元の部分に一枚の折り畳まれた紙が挟まっていることに気が付く。先程モゾモゾと動いたが故か妙にはだけている着物に思わずエロいという感想が頭をよぎったが、特に手を出すなどのことはせずにその紙を引き抜く。

 

「んぁっ…」

 

「伯封、挟まっていた紙を取っただけだからそんな声を出さないでくれ。妙な気分になってしまう」

 

 未だに意識が覚醒しきっていない伯封を撫でた後、純狐はその紙を開く。そこには見知った字が書いてあった。

 

「なになに…『伯封ちゃんが明日一日暇らしいから、貴女の下に送ってあげる。映姫ちゃんの下に用があったついでだから、特に気にしないで良いわよ。ヘカーティアより』」

 

 ヘカーティアお前…神か?彼女に言えば何を今更と言われそうな感想を、純狐は抱かずにはいられなかった。

 強いて言うのならば起きたらいきなり隣に自分の子どもが眠っていると言うのは尊さが凄すぎて心臓に悪いが、文句を言う理由にはならないし寧ろありがとうございますと言いたい。

 

「というか伯封、この手紙によるとお前は今日一日暇らしいが…休暇でも取ったのか?」

 

 漸く意識がはっきりとしてきたのか少し恥ずかしそうにしながらも自分の方へとすり寄って来る伯封に純狐は問いかける。

 

「いえ、そういう訳では無いのですが…ちょっと地獄の方で問題が発生しまして…今日一日は恐らく死者を裁くどころでは無いんです」

 

「問題…何があったんだ?あの閻魔の下で問題が発生するとは…」

 

「実は――」

 

 伯封は純狐に畜生界の者が異変を起こし、動物霊達が一斉に現世へと侵攻し始めたこと、自分や閻魔がそれを黙認したことを話した。一瞬だけ機密事項なのではという考えが頭をよぎったが、映姫に何も言われていないから大丈夫かと考えを改めた。

 

「成程異変か。しかし動乱が起きたのにも関わらず静観を貫くとは、あの閻魔も中々思い切った判断をする。そういった大胆な策を取る者は嫌いじゃないぞ」

 

「まぁ、今回は私達が八千慧さん――畜生界の組の長に借りを作ってしまったのが事の発端でもありますからね…映姫様が言うには博麗の巫女という解決策があるうちに借りを返しておこうとのことらしいです」

 

「あぁ、博麗の巫女か…確かにあの人間ならば、可能性はあるな」

 

「でも、八千慧さんもかなりの実力者ですよ。私は博麗の巫女という人物をよく知らないのですが、そんなに強い人なのですか?」

 

「うーむ…あくまで人間という範疇に収まってしまうが、少なくとも幻想郷のルールに乗っ取った場合は強者の部類に入るだろうな。この私を退けた程だ」

 

「・・・お母さんって強いんですか?」

 

「当然だ。お前のお母さんは凄く強いんだぞ?ヘカーティアに聞けばわかるさ」

 

 ふふんと自慢げに胸を張る純狐。伯封は彼女が褒めて欲しそうなオーラを出していたので感嘆の声を漏らしながら手を叩いた。撫でられた。

 

「なら、伯封は今日一日は私と過ごせるという認識でいいのか?」

 

「えっと…ヘカーティア様がそう認識しただけで、実際は死者を裁くことが出来なくても別の仕事があるんですよね。それに映姫様も心配していらっしゃるでしょうし…ですから昼頃には帰なければなりません」

 

 因みにヘカーティアが伯封を暇だと判断したのは自分が映姫の下を訪れた際に既に眠っていたからだ。判断基準がもの凄く大雑把である。

 

「そうか…それは残念だが仕方がないな。また休日の時にでもゆっくり来てくれ」

 

「はい。お母さん、今の時間ってわかりますか?」

 

 伯封の問いかけに純狐は近くにある時計を見る。出来れば息子と長い時間過ごしたいので朝早い時間帯がよかったのだが、どうやら現実は非情らしい。

 

「午前十時…お互いとんだお寝坊さんだな。きっと伯封の温もりが心地よかったが為に、普段よりも長く眠ってしまったのだろう」

 

「私も…久しぶりにお母さんと一緒に眠れて安心したのかもしれません。普段はこんなこと無いのに…」

 

 照れくさそうに言いながら顔が見られないように母の胸へと顔を寄せる伯封を、純狐は思いっきり抱き締める。伯封も突然の行動に驚いた様子ではあったが、嫌では無いのか暫くの間母のされるがままであった。

 

「(結婚したい…)」

 

「お母さん、そろそろ朝ご飯を食べましょう。僕久しぶりに、お母さんと一緒に料理がしたい…」

 

「あ、あぁそうだな。私も丁度腹が空いてきたころだ。一緒に朝食を作ろうか。今日は伯封の好きな物をなんでも作ってやろう」

 

「うーん、嬉しいですけど…朝から好きなご飯はちょっと重いです…」

 

 その後、伯封は生前に戻ったかのように、母親と久しぶりに共に朝食を作り、仕事の話では無い適当な雑談を交えながら朝食を取り、やがて地獄へと帰って行った。

 時間にして三時間にも満たない程の僅かな時間ではあったが、二人は久しぶりの親子としての交流を目一杯楽しんだのであった。

 一方で伯封の方は純狐の力で地獄へと帰ったら案の定映姫が滅茶苦茶心配しており帰って早々抱き着かれた。そしてヘカーティアに連れ去られたと伝えると頭を抱えていた。近頃もしかしたら、地獄の女神が部下である閻魔に叱られるという世にも珍しい光景が見られるかもしれないと、母との一時を過ごしたおかげで幸せいっぱいの伯封はそんなことを思った。

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