純狐が親バカになる話   作:迦羅

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十五話

「・・・で、思いの外時間が余ってしまい、今に至る訳です」

 

「だからって私の下に来ないで欲しいんだが」

 

 場所は変わらず畜生界。その理性の無い悲鳴や雄叫びがそこらで聞こえる小さな世界に陣取る一際大きな建物の最上階に彼はいた。

 事の顛末を説明しながら出されたお茶を楽しんでいる彼の目の前には、呆れた様な視線を向ける友人の饕餮尤魔がいた。

 

「あのなぁ…一応私とお前は今異変を起こす側である私と、本来粛清すべき側であるお前で立場上敵対しているんだぞ?しかも三途の川での一件で部下もそれを認知しちまったんだ。それをわかっているのか?」

 

「えぇ、ですが…どうしても貴女に会いたくなってしまって」

 

「誤解される言い方はやめろ。私が閻魔に殺される」

 

「映姫様に?何故ですか?」

 

「はぁ、あのなぁ…お前って奴は…」

 

 心の底から疑問だという様子で首を傾げる伯封には、狡知な彼女も頭を抱えるらしい。

 しかし伯封のこの鈍感ぶりはある意味仕方の無い事なのだ。何故なら彼は齢にして十もいかない内に自らの親に殺されてしまった為に、恋とは何かを知ることが出来なかったのだ。彼が知っているのは父親に幾度となく向けられた軽蔑と死の間際に見た狂気、そして純狐の愛だけだ。理由が一々重い。伯封の鈍感さへの文句は彼を殺した父親に言ってくれ。

 

「どおりで下にいるオオワシ霊達の落ち着きが無かった訳だ。吉弔も驪駒もいないこの時に何事かと少し焦ったぞ」

 

 そう言って尤魔はチラリと窓の外を見る。一見普段と何ら変わりのない景色であるが、時々その窓を一瞬だけオオワシが通り過ぎる。霊達にとっては監視のつもりなのだろうが、プライベートの空間を害されている様で少し――いやかなり不快だ。後で文句を言ってやろう。

 

「折角来てくれたとこ悪いが私はこれから所用でここを出る。お前に長居をさせるつもりは無いぞ」

 

「えぇ、知っていますよ。旧地獄の方へ用があるのでしょう?」

 

「!」

 

 何気なく放たれたその一言に、尤魔は彼がここを訪れた時以上の衝撃を受ける。三途の川でのやり取りから自分が何かを企んでいることは気づかれていると想定していたが、まさかそこまで具体的に知られているとは思わなかったのだ。

 全く彼もその上司も揃いも揃って、見た目通りの頭脳をしていない。

 

「・・・なんでお前がそれを知っている」

 

「是非曲直庁の情報網を侮らないでください――と、言いたいところなのですが、わかっているのは貴女が旧地獄で何かをしようとしているということだけ。加えて確固たる証拠も無いので我々は手を出す事が出来ませんがね」

 

「ふぅん、それは一安心だ。流石に閻魔とお前に出てこられると少し話が変わって来るからな。それで一つ聞きたいんだが、お前の持つ閻魔の力はかつてお前達の管轄だった旧地獄でも通用するのか?」

 

「それ、現在進行形で悪だくみをしている人に教えると思いますか?」

 

「・・・だよなぁ」

 

「ま、精々頑張ってください。応援だけはしますよ。そして博麗の巫女にやられてください」

 

「お前それ応援する気皆無だろ。冷たい友人だな。というかお前には私がただの人間に負ける程弱く見えるのか?」

 

「普通に戦えばあり得ないでしょうが向こうではちゃんと幻想郷のルールに乗っ取って戦わねば異変とは判断されません。怒られますよ?」

 

「怒られるだけで済むなるやるぞ私は」

 

「ですが面倒ごとを避けるのなら下手な動きはしないことを薦めますよ。貴女は元々面倒ごとは嫌いでしょう?八千慧さんや早鬼さんに散々言われても絡め手第一優先の方針を変えないんですから」

 

「あいつらの言葉に従うのが癪だからって理由もあるけどな。まぁ、お前がそこまで言うんだ。確かに面倒ごとは私は嫌いだし、大人しくそのルールとやらに従ってやるとするか」

 

 というか伯封に言われずともそんなことは百も承知だ。畜生界と同じように殺し合いなんてすれば、それこそ八雲紫が放っておかないだろう。自分がかの賢者に劣っているとは微塵も考えていない尤魔ではあるが、流石にやり過ぎると八雲紫だけで無くかの秘神とやらも加わる可能性がある。複数の賢者を相手するのは、流石の彼女でも勘弁願いたいらしい。

 

「ほら、私の事情を知ってんならさっさと帰れ。閻魔様と大人しく仕事でもしてな」

 

「そんなつれない事言わないでくださいよぉ。こっちは久侘歌さんを呼ぶという仕事を終わらせてしまって、他の仕事は全て私がいない間に映姫様と部下の鬼さんが片付けてくださったんで一日暇なんですよ。休暇を取って無いのに休むのが初めてなんで不安になるんです」

 

「病気かお前は。お前の事情なんか知らん。さっさと帰れ」

 

「やだぁ…!」

 

 まるで赤子がするように、伯封は顔を歪ませながらイヤイヤと首を横に振る。彼がこうなっている理由は、簡単に言うのならば不安だからだ。

 そのあまりにもブラック過ぎる職場故に、彼は閻魔の下で働くようになってから今まで暇というものを得たことが一度も無かった。それ故に暇という未知を突然与えられて、何をすればいいのかわからずソワソワしたり、不安を感じたりしている。休暇を自分の意思で取ったのならば割り切って行動出来るのだが、今日の様に全く予定していない予想外に生まれた暇を前にしたことは無かった為に、どうにも彼の臆病さが出てしまっている。

 だから出来るだけ知っている人と一緒にいて話すことで暇への不安を忘れ、同時に暇を潰したい。彼はそう考えて頑なに帰ることを拒んでいるのだ。地獄に帰っても映姫が会話に付き合ってくれる保証など何処にも無いのだから。

 しかし剛欲同盟同盟長の饕餮尤魔も、彼のその我が儘に付き合ってやれる程今は暇ではない。

 

「お前…今日は普段からは信じられない程我が儘だな。いい年してみっともない。そんなに暇なら愛しの閻魔様と楽しくお喋りでもしてろ。無理なら他を当たるんだな。少なくともどれだけ駄々をこねようが私は無理だ。諦めて帰ることを強く勧めるぞ」

 

「うぅ…尤魔さんが冷たい。わかりましたよ。大人しく帰る事にしますよ…」

 

 最近尤魔さんが私に冷たいです。反抗期でしょうか…そんな真面目に言っているのかそうで無いのか訳のわからないことを呟きながら、伯封はトボトボと部屋から出ていく。

 

「地獄に戻っても変なこと言うなよな…じゃないと私が面倒ごとに巻き込まれちまう…」

 

 くわばらくわばら。尤魔は神に祈るという普段滅多にやらないことをした後、先程の目障りであったオオワシ霊達に文句を言いに自分も部屋を後にするのであった。勿論伯封に遭遇しないように時間を少し空けてだが。

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