純狐が親バカになる話   作:迦羅

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十六話

「伯封、今日は宴会に行きましょう」

 

 突然の映姫の言葉に、伯封はキョトンとした表情で首を傾げる。

 最後に尤魔と話してから三日程経過した今日、どうやら八千慧達が引き起こした異変は無事に博麗の巫女によって解決されたらしい。らしいというのは伯封があまり事の顛末に興味がなく、噂に聞いた程度の情報しか持ち合わせていないからだ。

 伯封は三途の川を渡る動物霊達を止めず間接的にとはいえ異変に加担した訳なのだが、その事に関して十王からは一切のお咎めが無かった。曰く、『罰は与えてもいいんだけど、幻想郷の地獄は君がいないと成り立たないでしょ?』とのことらしい。ならば貴重な人員を引き抜くのは止めて欲しいと、当時の伯封は声を大にして言いたくなった。

 因みに十王というのは是非曲直庁のトップを務め、様々な世界の地獄を管理する十人の王のことだ。ヘカーティアとどっちが偉いのかは知らない。

 

「宴会…ですか?珍しいですね、映姫様は今までそんなこと一度も仰ったこと無かったではないですか。それにどうして今日なんですか?」

 

 トントンと書類の角をそろえるのに悪戦苦闘しながら、伯封は映姫に問いかける。映姫は彼の隣でその様子を眺めながら、さらに言葉を続ける。

 

「実はつい先日八雲紫から聞いたのですが、今日は畜生界の霊達が起こした異変の解決を祝う宴会が行われるらしく、私達も全くの無関係という訳では無いので出席してはどうかと誘われたんです」

 

「成程、しかし私達二人共が抜けては業務に多大なる支障が…今日は休暇届も出しておりませんし」

 

「それに関しては心配無用です。既に小町が勝手に宴会に向かったせいで死者が揃わず、我々がいなければ成り立たない死者の裁判は行われません。それに勝手ながら貴方の休暇届は先日私が出しておきましたので。宴会というのもまた幻想郷で欠かす事の出来ない行事の一つです。貴方にもそれを体験して欲しいと前から考えていましたので」

 

「映姫様…わかりました。それで、その宴会とやらは何処で開かれるのですか?」

 

「場所は博麗神社です。貴方も名前くらいは聞いた事はあるでしょう?博麗の巫女が住む神社です」

 

「・・・私、博麗の巫女に何か言われたりしませんかね?」

 

 一応異変を止めることが出来たのに丸投げしたので。不安げな表情を浮かべる伯封に対し、映姫はポンッと肩に手を置き優しい笑みを浮かべる。

 

「大丈夫です。私が守ってあげますよ」

 

「何かされるのは確定なんですね!?」

 

 先程まで少しだけ上がっていた伯封の期待値がグーンと下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…ってことはアンタは今回の異変の発端の一人って訳ね。態々倒されにここを訪れるなんて、その心意気だけは褒めてあげるわ」

 

 その言葉は今より少し前に、彼女の口から放たれた言葉であった。

 地獄にいた時から時間は少し経って博麗神社の本堂の中。今回の異変解決を祝って開かれた宴会に参加した者の多くの視線は、ある一点に注がれていた。

 そこには見惚れる程綺麗な体勢を保ちながら体を折り曲げ――所謂土下座の体勢をする伯封と、そんな彼の所作など一切気にせずに冷たい目線で見下ろす博麗の巫女、博麗霊夢の姿があった。

 こんな状況になった原因は至って単純。映姫と共に博麗神社へと辿り着いた伯封が、どうせ何かされるのならばせめて自分から謝っておこうと考え、博麗の巫女相手に今回の異変で自分がどんなことをしたのかを全て明かすという命知らずな行為をしたが故である。

 因みに何度も言っているが伯封は映姫から閻魔の持つ力の一部を貸し与えられている。しかしそれらは幽世でのみ効果を発揮するものだ。現世における伯封の戦闘力は普通の人間と何ら大差ない。つまり実質的に言えば今の状況は博麗の巫女がただの人間相手に手を出そうとしているのだ。ヤバい。

 しかし今彼を見下ろしている霊夢は既に冷たい目などしていなかったし、手を挙げることが出来ない状態にあった。そして周りからの視線を集める原因になったのは霊夢なのに間違いはないのだが、今現在大衆の視線は彼女では無く、彼女の近くに立つ二人の人物に注がれていた。

 

「今一度問います、博麗の巫女。貴女は私の部下に何をしようとなさったのですか?」

 

「私からも問おう。貴様は私の息子に何をしようとしたのだ?」

 

 霊夢には訳が分からなかった。今自分の目の前にいる伯封とか言う人物は、自分に面倒ごとを押し付けた人物である。それ故に一言二言文句を言ってやろうと思っていたのだが、気が付けば彼女の右肩には四季映姫の手が置かれていた。

 ここまではまだわかる。先程彼と自己紹介をした時に自分は閻魔の側近だと言っていたから、彼女が自分の部下を守ろうとしての行動だろう。今回の異変の発端には閻魔が関わっていたことに何も感じないわけでは無いが。

 しかし問題はその後だ。何故今自分の左肩は、純狐によって握りつぶされかけているのだろうか。というかそもそも彼女は何処から出て来た。その疑問は映姫も抱いていたらしい。

 

「純狐、どうして貴女がここにいるのですか。貴女は今回の異変に関わっていない所か、幻想郷の者でも無い。宴会が開かれる事など知らない筈ですが」

 

「ふん、愚問だな閻魔。確かに私は宴なぞ知らんし興味も無い。だが、息子の危機に駆け付けない親が何処にいる」

 

「・・・ひょっとして、ストーカーとやらですか?」

 

「見守っていたと言って欲しいな。親はいつも子を見守る立場だ」

 

 言い争いは他所でやって欲しい。霊夢はミシミシと音を立てながら自分の肩を掴む純狐の手と映姫の手を強引に払いのけ、盛大な溜め息を吐く。

 

「・・・もういいわ。過ぎたことだし、今更何をしてもさらに面倒になるだけだろうしね。ただ、次面倒ごとを吹っかけてきたら一発殴らせて貰うわ」

 

「感謝します、霊夢さん」

 

「ほら、もういいからさっさと頭を挙げなさい。アンタ見た目は年下なんだから私が虐めてるみたいになるじゃない」

 

 そう言って霊夢は彼の畳に付いた手を掴み、強引に立ち上がらせる。後ろからブーブーと文句が飛んで来ているが、何もしなかっただけ感謝して欲しい。

 

「ほら伯封、こっちにおいで。母の膝の上で、可愛らしいお前の頭を撫でさせてくれ」

 

「伯封、こっちに来なさい。貴方の好物の古代魚のお刺身がありますよ。今日の朝に牛鬼が釣ったばかりですから新鮮で美味しい筈です。私が食べさせてあげます」

 

 そう言って片や畳の上に座り己の膝をポンポンと叩きながら手招きをし、片や刺身が盛り付けられた皿を手に取り満面の笑みを向けて来る。自分達の知る彼女達とは明らかに違うその様子に、事の成り行きを見守っていた野次馬達は驚いた。伯封は大好きな二人の間にバチバチと稲妻が走ったのが見えたのだろう、どうすればいいのかわからずオロオロしていた。

 

「普段地獄にこもりっきりの閻魔がこんな娯楽に興味を示すなんて何かと思ったら…まさかアンタに男が出来ていたなんてね」

 

「その言葉は訂正させていただきましょう博麗の巫女。今回私がここを訪れたのは伯封に見聞を広めて欲しいという親心の様なものです」

 

 母親がいる前で親心を語るなんて相当喧嘩売ってんなぁと霊夢は思ったが、これ以上面倒ごとは御免だとその言葉をスルーした。

 

「ま、私としては純狐の息子がアンタの下で働いていた事の方が驚きだけどね」

 

 そう言って霊夢は純狐の膝の上で大人しく頭を撫でられている伯封を一瞥する。どうやら映姫は伯封の争奪戦に負けたらしい。少し不機嫌そうであった。

 

「それに関しては私も知ったのは最近のことです。世界は狭いとはよく言ったものですよ」

 

「ふぅん…私としては親心だろうとアンタの男だろうとどっちでもいいんだけど、アイツとの取っ組み合いでこっちに飛び火したらぶっ飛ばすから。大人しく酒でも飲んでいなさい」

 

 そう言って霊夢は近くの卓に置いてあった酒瓶を一本映姫に押し付け、フラッと何処かへ消えて行ってしまう。一度胸に収まった酒を見て目を瞬かせ、再度伯封の方を見やる。彼は尤魔達畜生界の三大組織の組長に絡み酒を現在進行形で受けており、純狐が伯封を守るように抱き締めて彼女達を威嚇しているという非常に面白い構図が出来上がっていた。

 因みに言っておくが、映姫は尤魔と早鬼が嫌いだ。尤魔は映姫の嫌いな曲がった事を平気でするが、無駄に狡猾が故に証拠を一切残さない。そして早鬼はルール一切無視の脳筋で、人の話を全く聞かない。彼女達を好きになる要素が何処にあるというのか。八千慧は話が通じるだけマシだろう。なのでいつも伯封が畜生界に行くときはそこそこゴネる。

 如何に伯封大好き系閻魔である彼女でも、あまりあの場に首を突っ込みたいとは思わなかった。純狐がついているし、彼も人の対応には慣れている筈だから大丈夫だろう。そう考えた映姫は酒瓶を食卓に戻し、視界の端に映った大分羽目を外している小町の下へと歩いて行くのであった。

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