黎明の軌跡 Break the Nightmare   作:テッチー

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第16話 ハートのエースは砂時計

「少しは落ち着いたか?」

「ええ、だいぶ。まだちょっと頭がふらつくけど。……迷惑をかけちゃったみたいね?」

「気にすんな。そういう世界だ」

 ヴァンはレンの向かいのソファに腰を下ろした。アークライド事務所のリビングだ。

「どうぞ、レン先輩」

「あら、ありがとう」

 アニエスが水を注いだグラスをレンの前に置く。

 彼女以外は巡回中だ。カルバード組以外のメンバーも学校エリアから撤退して、いったん自分たちの待機場所へと戻っている。

 今回のエリア解放で、新たに“囚われ”から解かれたのは、リベール組はエステル・ブライト、ヨシュア・ブライト。クロスベル組はロイド・バニングス、エリィ・マクダエル、ノエル・シーカー。エレボニア組はエマ・ミルスティン、マキアス・レーグニッツ、ユーシス・アルバレア、エリオット・クレイグ、ユウナ・クロフォード、クルト・ヴァンダール、ミュゼ・イーグレット。総勢十二名にもなる。過去最多だ。

「ねえ、ここって夢の世界なのでしょう? 水を飲む意味ってあるのかしら?」

「私も最初はそう思っていましたけど、“水を飲まないと喉は乾くもの”という認識を不意に持ってしまいまして。それ以降は水分摂取しないと脱水症状になっちゃうんですよね」

 同様の理由で食事も睡眠も必要になった。要するに現実世界と同様の生命活動を余儀なくされている。

「つまり今、説明を受けた私もその認識を持ったから、水を飲まないままだといずれダウンしちゃうわけね。実際には脱水が起きるのではなく、そういう認識の元に脱水症状が再現されるだけなのでしょうけど。……難儀な世界ねえ」

「すみません、わずらわしい認識を植え込んでしまって」

「構わないわ。この手の認識を持つのは遅かれ早かれでしょうし、私が戸惑わないように先に説明してくれたんでしょ。相変わらず気の利く後輩だこと」

「理解が早すぎるんですけど……」

 ヴァンはレンに《幻夢の手記》を差し出した。

「これは?」

「《ロア=ヘルヘイム》のルールブックみたいなもんだ。ひとまずは現時点での条項を読んでみてくれ」

「ふーん……」

 ぱらぱらと興味深げに手記をめくるレン。44項目中、25項目が開示されている。

「気になるのは⑧番だ。【《ロア=ヘルヘイム》に囚われし者たちの姿と記憶は、各々が広範囲に、かつ同時に縁を繋いだ時期――クロスベル再事変の年代(七耀暦1207年)に固定される】ってあるだろ? だがお前はなんでか一年後――1208年の姿をしてる。多分、記憶もあるよな?」

「そうね。曖昧なところもあるけど、割と最近のことも思い出せる。バーゼルで会ってるわよね?」

「ついこないだじゃねえか」

 当たり前のように言ってしまったが、“この前”というのは記憶の拡張による認識の話であって、実際はまだ起きてすらいない出来事のはずだった。

 ということは、レンは俺にとって数か月後の未来から来たことになるのか? 相変わらずややこしいな、この時間のずれは……。

「私が1208年の姿である理由ね。とりあえず今ある情報を整理しましょうか。こういうのは共通項と傾向、そして相違点を用いたカテゴライズで解を絞るものよ」

「アニエス。レンに紙とペンを渡してやってくれ」

「え? 別にいらないわ」

「お前の頭の中だけで完結されても困るんだよ。俺ら一般人を置いてけぼりにすんじゃねえ」

「もう。じゃあ書くけど」

 レンはアニエスから受け取ったメモ紙をテーブルに置くと、そこに《ロア=ヘルヘイム》に呼び込まれた人間のグループ分けをした。

 

♥①カルバード組の仲間と認知される者は、ヴァンが雇用契約書にサインをさせた人間で、1208年の姿と記憶がある。1208年である理由は今のところ不明。

 

♥②リィンたち他国の者は、1207年のクロスベル再事変時の姿と記憶で固定されている。1207年である理由はその時期に広範囲に縁を繋いだから。何をもって縁を繋いだとされるのかは、今のところ不明。

 

♥③エレインはアークライド事務所に雇用されていないが、ヴァンと縁があったという理由で《ロア=ヘルヘイム》に呼ばれている。多少の記憶の混濁がある程度で、ベースとなる姿と記憶は1208年。

 

 いったんペンを止める。

「まあ、こんなところかしら。私は♥②の可能性もあるけど、1208年の姿であることを考えると分類されるのは♥③でしょうね」

「なんでハートマークを……まあいいが。だが♥③のエレインとは同じじゃねえ。お前が主格者だったことだ。どういう理屈か知らんが、カルバード組はなぜか霧にまとわりつかれない。つまり最初から《ロア=ヘルヘイム》に囚われずに行動できるはずなんだ」

「そこに関して気になることがあるわ。アニエス」

「は、はい」

 急に話を振られて、アニエスは姿勢を正した。

「ここに至るまでの大まかな経緯は私も聞かせてもらってる。1207年の状態で固定されているはずのジンさんが、1208年にしか存在しない《Xipha》をなぜか持っていたのよね?」

「そうです。学校エリアでのゴールデンカブトムシとの戦闘中に発覚しました。ご本人にも確認したんですけど、“何かおかしいか?”くらいで流されちゃいまして……」

「うん……うん? ゴールデン、なに?」

「ゴールデンカブトムシです。カブトムシ一族の族長で、人型をしていて、人語を話すんですけど、エステルさんがヨシュアさんのために捕獲したいって言って戦う羽目になりまして」

「……そう。よくわからないけど、姉が迷惑をかけたのね。ごめんなさい」

 珍しくレンが殊勝に謝っていた。

「話を戻すわ。ジンさんが自分でそこに違和感を持っていないなら、答えは一つよ。彼は♥②番じゃなくて♥③番。リィンさんたちとの縁じゃなくて、ヴァンさんとの縁でこの世界に呼ばれている。だからジンさんも1208年の人間よ。私のようにね、ほら」

 そう言って、レンは《Xipha》を取り出してみせた。

「いや、おかしいだろ。本人も含めて、誰もそこに気づかなかったってのは」

「エレインさんと同じで、ジンさんにも記憶の混濁があったからでしょう。1207年と1208年の記憶の差とか、言われなきゃ自分じゃ案外気づけない。それと手記の開示条項はしっかりみんなと共有して、その都度全員で検証しているの?」

「ミシュラムエリア攻略辺りから人数が一気に増えたからな……。それに待機拠点を開放済みのエリアにばらけさせたし。全員でってわけじゃ……」

「それはヴァンさんの落ち度ね。メンバーを分散させる時は、情報伝達の連絡網と指示系統を整えてからやらなきゃ」

「う……」

 ぐうの音もでねえ。

 そういえばジンやアガットが加入してすぐ、全員をアークライド事務所から追い出したんだった。

 さらに思い出す。

 遊撃士チームを率いて、サラ・バレスタインが囚われている酒場に案内した時のやり取りだ。

 アガットはエレインに『A級昇格間近か』と言及していたが、ジンは『エレインもA級か。立派になったなぁ』などと発言していた。

 今考えれば、あの会話は噛み合っていない。エレインへの認識が、アガットはA級昇格前で、ジンはA級昇格後だった。あまりに些細な会話だったので見過ごしていた。

「けど、だったら姿はどうなんだ? 1207年と1208年の違いがあんだろ?」

「たかが一年よ? 私みたいな成長期なら一年の違いはわかりやすいと思うけれど、三十過ぎた大の大人の見た目なんてそうそう変わらないわよ」

「す、すげえ説得力だ」

「そうなってくると、エレインさん、ジンさん、私の三名が、ヴァンさんとの縁でここに呼ばれたことになるわ。そこで最初の疑問に戻るけど、エレインさんは《ロア=ヘルヘイム》に囚われてなくて、私とジンさんは囚われた。やっぱりこれがおかしいのよ。ひどく引っかかる」

 近づいていく、真相に。

 共通点。相違点。エレインにあって、ジンとレンにないもの。

 逆もあり得る。エレインになくて、ジンとレンにあるもの――

「……《ARCUS》だ」

 唐突に繋がった。

「《ARCUS》? 戦術オーブメントの?」

「そうだ。遊撃士になってからのエレインの主な活動域は共和国だった。カルバードでは帝国色の強い《ARCUS》は普及してない。《Xipha》の前に《RAMDA》が一瞬出回ったが、そのさらに前の主流は《ENIGMA》だった。少なくともエレインは《ARCUS》をこれまで使ってねえ。けどお前はそうじゃないだろ?」

「確かに私はエレボニアにいた頃は《ARCUS》を使ってたけど、じゃあジンさんは?」

「同じだ。《黄昏》の時は帝国入りできなかったらしいが、ブライト姉弟や他のリベール組なんかと連携を取っていたとは聞いてる。つまり導力通信をしたってことだ。こっちの世界でも悩まされたことだが、《Xipha》は《Xipha》と、《ARCUS》は《ARCUS》としか、通信波数を合わせられない。諸外国での活動も多いし、間違いなく《ARCUS》持ちだぜ、あいつは」

「ようするにカテゴリーとしては♥④があるということかしら。ヴァンさんとの縁でこの世界に呼び込まれることはあるけど、それが過去現在問わず、《ARCUS》持ちだった場合は“霧”に囚われる……と。私とジンさんはこの♥④ね」

 手記の文言から、《クロスベル再事変》に深く関係した人間が“縁”と見なされて、この異世界に取り込まれているのではと予想していた。クローゼでさえ“逆しまのバベル”突入作戦にはカレイジャスに乗艦するなどして関わっているくらいだ。

 だがジンは《クロスベル再事変》には深く介入していなかった。だからその仮説が立証できなかったのだ。

 しかし彼が別の条件の元に《ロア=ヘルヘイム》に囚われていたと判明した今、ようやく相違点と共通点の仕切りが正しくできる。

「《ロア=ヘルヘイム》に囚われる条件は“《クロスベル再事変》の解決にあたり、《ARCUS》での導力通信、及びリンク機能を使用した人間”だ。逆に俺たちカルバード組が囚われていないのは、《ARCUS》を使っていないからだ!」

 《幻夢の手記》が強く輝いた。

 

⑤【故に《ロア=ヘルヘイム》に囚われている者は、かつて《ARCUS》のリンク機能を用い、縁で繋がれていた者たちである】

 

⑥【《ARCUS》を介した縁に繋がれていないヴァン・アークライドとその仲間たちは、《ロア=ヘルヘイム》に囚われることなく行動できる】

 

「よっしゃ来たぜ! 重要な情報開示だ。ここまで長かったな……」

 ということは学校エリアにいたユメ。《ARCUS》を使ったことがあるわけがない彼女は、やはりイメージで想像された幻影の人間ということだ。

 あのR15禁の映画を、ユメたちが何のためらいもなく演じている時点で変だとは思っていた。よかった。ビクトルのおやっさんに殺されずに済む。まあ、俺じゃなくてアーロンがだが。

 アニエスが手記をのぞき込んだ。

「あれ? ⑤番の最初、“故に”って書いてますよ」

「本当ね。これって、どうして《ARCUS》が関係しているかの言及が④にあるんじゃない? だから⑤番で“故に”って続けてるんだと思うわ」

「なるほど……④と⑤はセットって感じですか。せっかく謎が解けたと思ったのに、まだまだ残りがありますね……」

「それでも進んではいるんだから、気長に行きましょう。ところで、そろそろ本題に入っていいかしら?」

「今までの話が本題じゃなかったことに驚きです……」

 レンは一口水を飲んで、

「私が滞在する拠点なんだけど、ここにしようと思うの。いいでしょう、ヴァンさん」

「えー!?」

 アニエスが驚愕し、ヴァンは首をかしげる。

「部屋はまだ余ってるが……けどせっかく旧知のメンバーと再会したんだろ。ブライト姉弟と一緒の方がいいんじゃねえのか?」

「アツアツの二人を邪魔するのもねえ。それに私はヴァンさんの近くにいた方がいいと思うわ」

「どういう意味ですか」

 食い気味に身を乗り出すアニエス。

「自分で言うのもなんだけど、私って気づきはある方よ。でも何かに気づいたとしても、ヴァンさんがそばにいないと《幻夢の手記》の判定システムが働かないんでしょ?」

「うっ、うぅ、それはそうかもですけど、でも……」

「アニエスに不都合が?」

「ない……です」

「結構」

 封殺される後輩の意見。アニエスは大人しくソファに座りなおした。

「それに、エレインさんもここを待機拠点にしてるんですって?」

「囚われから解けたばかりだってのに、本当に良く知ってんな……」

「アニエスがいて、エレインさんもいるのに、ここに私が参戦しないってあり得ないもの。意外と尽くすタイプだから期待していてね?」

 参戦って何と戦うんだ。期待って何をだ。

 レンはくすくすと笑う。アニエスは重たげに頭を抱えていた。

 正直、確かにレンがいたら助かる。まだ不明なことも多いのだ。

「《幻夢の手記》……か。こいつが一番の謎なんだけどな」

 手記を胸ポケットにしまう。

 ㊱の霧人形(ミストマータ)についてだ。学校エリアでの戦闘のあと、情報が明かされるのかと思いきや、すぐに文章が黒く塗りつぶされてしまった。

 だがそうなる前に、ヴァンだけは見ていた。

 何者かが“それはまだ、お前たちが知らなくていいことだ”と謎のメッセージを浮かび上がらせたのを。

 

 

《――★第16話 ハートのエースは砂時計★――》

 

 

 本来、この第三学生寮はトリスタという帝都近郊都市に存在しているらしい。

 トールズⅦ組が在学していた頃の寮だそうだが、和気あいあいと語らっているところを見るに、彼らにとってはリラックスできる空間なのだろう。

 居心地の良い場所。オレにとってのアークライド事務所みたいなもんか?

「はっ、ただの仮住まいだっつーの」

 談笑の光景を眺めながら、アーロンは隅っこの壁際に背中を押しつけた。リビングにはリィンたち初代Ⅶ組が集まっている。

 彼らには自分のことは気にしなくていいと言ってある。ただのエリア散策の一環で立ち寄っただけだと。

 本当の目的は確認だ。

 霧人形(ミストマータ)。桁外れの戦闘力を有していたが、あれが一体しかいない保証はどこにもない。

 そしてその存在について推測できる程の情報も、ほとんどない。

 唯一手がかりになりそうなのが、黒い霧で構成された人型の中に、実在の人間の姿が見えたことだ。

「エリオット・クレイジーだったか」

 あのミストマータは消滅する直前にそう名乗った。

 学校エリアで、ヴァンが教官として受け持ったⅦ組の生徒に、その名前の者がいるという。

「あいつか? どんなイカレ野郎かと思ったが、想像とずいぶん違うな……」

 談笑の輪に加わる、橙色の髪をした温和そうな青年だ。いかにも文化系な容貌で、見た目通りと言うべきか、音楽活動で生計を立てているらしい。

 聖アストライア女学院をめちゃくちゃに破壊した挙句、今わの際に『太ももムッチムチ』発言をするような荒れ狂ったヤツには見えないが……。

「あれ、アーロンさん?」

 セドリックに声をかけられた。

「皇子サマじゃないっスか。エリア転移で来たんで?」

「ええ、たった今。気を遣わず普通にしゃべってもらっていいですよ。僕もその方が楽なので」

「じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。一国の皇子サマにしては気取らない感じでいいねぇ」

「あはは、そこまで一瞬で切り替えられる人も珍しいですけどね」

「悪いが性分なもんでな。ちゃんと公の場での態度は弁えてっからよ。で、何しに来たんだ?」

「挨拶ですよ。Ⅶ組の皆さんは僕の先輩ですから。こういう状況とはいえ、しばらくぶりに会う人もいますし」

 律儀なことだ、と思う。オリヴァルトやアルフィン、そしてセドリックと話していると、エレボニア皇族のイメージがずいぶん変わる。

「むしろアーロンさんは何をしに……ああ、当てましょうか。エリオットさんを見に来たんでしょう? ミストマータ絡みで」

「まあな。正体を探るヒントになるもんはねえかと。今んとこ本人が取り込まれてたって線はなさそうだが」

 そういえばセドリックはミストマータと最初に交戦した人物だ。加えて、先輩後輩の仲ならエリオットのことも詳しく知っているだろう。

 彼に聞く方が手っ取り早いかもしれない。

「どんなヤツなんだ。エリオットってのは」

「そうですね。一言で言えば猛将です」

「猛……将? そんな二つ名が似合うような男には見えねえが。なよっとした感じじゃねえか」

「ふふ、そう見えてしまいますか。いえ、最初は仕方ないことかもしれませんね」

 急にセドリックは不敵な笑みをこぼした。

「エリオットさんがエレボニアで何と呼ばれているかお教えしましょう。“獣の皮を被ったケダモノ”です。十月戦役の頃でしたか。命乞いをする敵兵に、頭部へのハイキックで応えたのはあまりにも有名」

「うっそだろ……」

 しかし直に見てきたかのような、セドリックの迷いのない弁舌。

「はあ、殿下。なんの話をなさっているかと思えば……」

 会話を聞き留めたらしく、件のエリオットがアーロンたちの元までやってきた。

「ご無沙汰しております、猛将」

 セドリックは即座に片膝を床について(かしず)いた。一国の皇子が一瞬で頭を下げるとは。それほどまでの男なのか、このエリオット・クレイジーは。

 彼を見るセドリックの瞳には、尊敬と畏怖、羨望の色が映っていた。

「で、殿下、お止めください! もう、いつまでケインズさんとミントの話に引っ張られているんですか。ああ、えっと……」

 エリオットの視線がアーロンに向く。

「オレか? アーロンだ。アーロン・ウェイ。アークライド事務所所属のカルバードチームってことになる」

「初めまして。僕はエリオット・クレイグ。殿下から変な紹介を受けたと思うけど、気にしないようにお願いしたいよ。ちょっと誤解されちゃっててね。もう何年も……」

「クレイグ? クレイジーって聞いたが」

「クレイグ」

 強めの口調で言われる。

 ようやくセドリックが立ち上がった。その手には一冊の本があった。エリオットの顔面が汗まみれになる。

「な、なんでここにそれが……っ!?」

「エリオットさんはまだこの世界の仕組みにそこまで詳しくありませんよね? “当たり前に所有しているという認識”があれば、色々な物を呼び出すことができるんですよ」

「なんでそれを当たり前に所有してる認識なんですか……」

 セドリックはその本をアーロンに手渡した。

 

【挿絵表示】

 

「あ? 《猛将列伝・上巻》……なんだこりゃあ」

「猛将の実録記です。エリオットさんのことを知りたければ、それ以上の物は存在しません。どうぞ、ご一読を。そして元の世界に戻ったら、ぜひカルバードでも広めて下さい」

「つ、ついに東まで……」

 エリオットがうなだれる。

 たかが本がそんな大層なものかよ。とはいえミストマータの正体に迫れる可能性があるなら、試しに読んでみてもいいか。

「失礼します。エマ様はおられますか?」

 新たな来訪者が転移で現れた。メイド服。シャロン・クルーガーだ。

「あ、シャロンさん。私が何か?」

 彼女がエマらしい。落ち着いた雰囲気の三つ編みの女性だった。すげえ、なんだ、あの胸は。あれが噂に聞くエレボニアの列車砲か。

「ミシュラムエリアでヴィータ・クロチルダ様を発見しているのですが、霧に囚われていまして。エマ様のご協力が必要なのです」

「姉さんもこの世界に!? わかりました、すぐに行きます。望みを叶えればいいんですよね。姉さんの望みは判明しているんですか?」

「エマ様を心ゆくまでいじめたいそうです」

「えぇ……」

 

 ●

 

 緋の帝都と言われるだけのことはある。

 どこに視線を巡らせても、色彩は赤で統一されている。幻影とはいえ、圧巻の街並みだ。帝国の赤色には古い意味があるそうだが、そういえば調べたことはない。

 エレインはヘイムダルの一区画を巡回中だった。地理把握も情報収集も、遊撃士ならば自らの足を使う。それはこの《ロア=ヘルヘイム》においても変わらない。

 ふと、とある建物からラウラが出てくるところを見かけた。店構えからして武器屋だ。みっしぃ同盟の件もあって、彼女とは気安い仲になっているので、さっそく声をかけに行く。

「こんにちは、ラウラさん。武器の新調を?」

「おお、エレイン殿か。いや、ただの手入れだ。少し出向きたい場所があって、念のために」

「出向きたい場所?」

「うむ。所用で――ん?」

 エレインを見るラウラの瞳が細まる。

「浮かない顔だ。どこか元気がない。悩みがあるのなら、私で良ければ聞くが」

「ありがとう。でも別に悩みはないわ。普段通りよ。今日は夕飯当番だから、何にしようかと考えていただけ」

 じーっと見つめられる。なんてまっすぐに人を見るのだろう。この視線でははぐらかせない。

「ごめんなさい。悩みと言うほど、大層なものではないのだけれど」

「ヴァン殿のことか」

「……武道を修めている人にはそういうの見抜かれちゃうのね。“観”って言うんでしょう?」

「剣士の観ではなく女の勘だ。学生時代よりは女子力も向上したと自負している」

「その女子力の項目には口の堅さも含まれているのかしら?」

「無論」

「じゃあ話すけど」

 二人は近くのベンチに場所を移した。

「私の今の滞在場所、アークライド事務所なの知ってる? 遊撃士グループじゃないのよ。ジンさんに無理やりそうさせられて」

「フィーも遊撃士ではなくⅦ組のグループにいるから、そこは特に問題ないとは思うが」

「まあね。でも同じ場所で過ごすようになって、ヴァンから微妙な壁を感じることがあるの。……壁というよりか、気遣われてるって感じ」

「お二人は旧知の間柄だったか。……ふむ」

 関係を知らないから、ラウラにはこれ以上の言いようがないのだろう。

「私たちね、実は幼馴染で――」

 彼女は信用できる。エレインは自らの過去を語った。

 子供の頃に別れ、アラミス高等学校で再会し、そしてまた別れるまでの話を。

「――なるほど。ヴァン殿とは《ロア=ヘルヘイム》で出会ったばかりだからそこまで深く人となりを知っているわけではないが、少なくとも筋の通った御仁だと思う。ちゃんとした理由も告げずに黙っていなくなるのは考えにくい」

「わかってる。言えないくらいの事情があったんだろうって。でも、それでも……私には――私にだけは相談して欲しかったって思うじゃない」

 私だけは特別なんだって、そう示して欲しかった。そうだと信じたかった。せめて直接会って、たった一言でもくれたなら、何かが変わっていたかもしれないのに。

 それから数年経って彼が旧市街で裏解決屋を始めたと聞いた時、私は会いに行こうとはしなかった。

 まだ怒っていたから? 悲しんでいたから? 多分、違う。

 きっと、あなたから会いに来て欲しかったから。

「エレイン殿は今でもヴァン殿のことを?」

「さあ、どうなのかしら。自分ではわからない」

「私はそう思わない。出ている答えを認めたくないだけのような気がする」

「案外いじわるなのね」

「嘘がつけないだけだ。優しい嘘であっても」

「そこも女子力のカテゴリーよ」

 エレインは苦笑した。

「ミシュラムに一緒に行こうって約束があったの。学生の頃よ。結局は叶わないまま、こんな異世界で行くことになってしまったわ。それはそれで嬉しいのだけど……でも」

「ヴァン殿もその約束は覚えているはずだ。だから罪悪感があって、エレイン殿に妙な気を遣っているのかもしれない」

「そんな細やかな人じゃないわよ。もう忘れてるでしょうし」

「女のして欲しい気遣いを、男はことごとく外すものだ。でもそれはちゃんと気にかけている裏返しでもある」

「女子力の高い発言だわ」

「そうであろう」

 むふーっとラウラは得意気だ。

 気にかけている? 私を? 本当に? できるなら、私だってもう少し素直になりたいわよ。怒っているわけじゃないけど、どうしても態度がトゲトゲしくなってしまう自覚はある。でも――

「あ、ごめんなさい。ずいぶん話し込んでしまったわね。どこかに行くつもりだったのでしょう」

「構わない。食材調達だからな。皇族方の御為にこのラウラ特製のフルコースを披露するのだ」

「へえ、皇族に料理を提供って、ラウラさんはすごいのね」

 なんでも晩餐会を開きたいらしい。

 その為の食材を捕りに行くそうだが、剣が必要なのだろうか。食べ物を扱っている店ならそこかしこにあるのに。

 ラウラの《ARCUS》に通信が入った。

「――うん、うん、そうか。それは仕方ない。言われてみれば姿が見えなかったな。え? いやいや、別に軽んじてはないぞ? ただいつもそういう役回りではないか」

 通信を終えて、ラウラは立ち上がる。

「もう行くのね。私の愚痴に付き合ってくれてありがとう。どこに向かうかは知らないけど、道中気を付けてね」

「気持ちが軽くなったなら幸いだ。だが食材集めはまたの機会になってしまった」

「そうなの?」

 ラウラは肩をすくめた。

「Ⅶ組メンバーが一人、学校エリアに囚われたままらしくてな。ちょっと目を覚ましに行ってくる」

「だったら私も行きましょうか」

「ああ、大丈夫。多分大したことない」

「その人の扱い、なんだか雑じゃない……?」

 

 ●

 

 上の階からバタバタと音がする。アニエスと一緒に、レンが部屋の準備をしているのだろう。

 他の連中も、巡回やら散策からもう戻ってきて、今はそれぞれの部屋にいるようだ。

「……エレインの戻りはまだか」

 誰もいないリビングで、ヴァンはひとりごちた。

 エレインは《ロア=ヘルヘイム》には俺との縁で呼ばれた? どんな縁なんだよ。むしろまだ縁が繋がってるっていうのか?

 怒ってるよな、絶対。声をかけてもツンツンした態度を取られることの方が多いし。そりゃそうだ。全部水に流すなんて都合が良すぎる。過去は過去。もう元には戻らない。戻せない。

「でもなあ……!」

 わしゃわしゃと頭をかく。

 たまに行動を共にするくらいは現実世界でもあった。だが拠点まで一緒というのは例のないことだ。

 このままじゃアニエスたちにも気を遣わせちまう。せめてもう少し普通にだな……。

 いっそ謝ってみるか? バカ言うな。何を、どうやって、今さら、どんな顔をして。余計に怒らせるだけだ。もしくは呆れられるか。

 裏解決屋(スプリガン)を始めて数年、数多くの厄介な依頼をこなしてきた。解決案を探し出し、それがダメなら折衷案で、白、黒、灰色の落としどころをつける。

 他人のことならできるのに、自分自身が対象になった途端に上手く立ち回れないとは。まさか俺は不器用なのか? いや、そんなはずはない。ハードボイルドなだけだ。

「……考え込むのは良くねえか」

 そもそもが気にし過ぎなのかもしれない。外の空気でも吸いに行こう。

 事務所を出て、階段を降りたところで、

「ヴァン」

 帰ってきたエレインと鉢合わせた。

「今戻りか。何か収穫はあったか?」

「いいえ、特には」

「なるほど」

「部屋で待機しておくから、用があれば声をかけてちょうだい。それじゃ」

 さっきまで彼女のことを考えていたせいか、妙に意識して声をかけづらかった。

 エレインは素っ気ない態度で、ヴァンと行き違い階段を登っていく。

「なあ、ミシュラムに行かねえか?」

 その背中に言う。用意していたわけではなく、今思いついた言葉だった。ぴたりと動きを止めたエレインは、わずかに驚いた表情で振り向いた。

「今から?」

「ああ」

「二人で?」

「ああ」

「行く」

「嫌なら別に――あ、行くのか」

 

 ●

 

「ねえ、今のどう思う?」

「どうとは?」

「巡回なのか、それを口実にしたデートなのかってこと」

「エレインさんのそれは巡回にですけど、私は思いますからデートだなんてヴァンさんの」

「文法が爆発してるわよ」

 ヴァンとエレインがミシュラムに出かけた。

 その瞬間を、上階の死角からアニエスとレンは目撃していた。

「ど、どどどど、どうすれば、私は」

「落ち着きなさい、アニエス。本当にただの巡回かもしれないでしょ。確かめもせずに邪推は良くないわ」

「うぅ、ううぅ~」

「うめかないの」

 レンはよしよしとアニエスの頭を撫でる。先輩後輩の図だ。

「じゃあ準備して」

「何のです?」

「もちろん尾行の」

「ええ、ダメですよ! そんな!」

「確かめずに邪推は良くないと言ったわ。なら確かめればいいじゃない。私も気になってしょうがないもの」

「でも、でも……そういうのっていけない気がします」

「あらそう。だったら悪い子の私が一人で行くから、良い子のアニエスはお留守番しててちょうだい」

「ず、ずるい……!」

 アニエスは葛藤した。お気に入りの桃色ベレー帽をぺこぺこ凹ませたり、愛用のポーチのファスナーを何度も開け閉めしたり、無意味にその場でくるくる回ったり――とにもかくにも葛藤した。

 その結果。

「ヴァンさんってああ見えて抜けてるところがあるんですよ」

「ええ」

「巡回中にエレインさんに迷惑をかけてしまわないか心配です」

「そうね」

「リスクヘッジの意味でも、第三者の視点でしっかりと観察する必要があると思うんです」

「だから?」

「行きます」

「悪い子ねぇ」

 

 ――つづく――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――another scene――

 

 解放された学校エリア――そのトールズ士官学院“区画”だ。

 おなじみのⅦ組の教室に、リィンたちは集まっていた。

「なあ、マキアス。いっしょに学食にでも行かないか? 限定のコーヒーを出してくれるそうなんだ」

 リィンが声をかけてみるも、マキアスに反応はない。教室のいつもの机で教科書を開いている。

「サラ教官が授業に使う資料を運ぶのを手伝って欲しいそうです。副委員長として手伝って頂けませんか?」

 エマが促してみるも、うんともすんとも言わない。ちなみにサラはヘイムダルエリアの酒場にて、絶賛囚われ中である。

 ここで満を持してユーシスが登場した。こいつのことは全てお見通しだと言わんばかりに、自信たっぷりに彼の正面に立つ。

「俺がチェスの相手をしてやろう。どうだ、お前のために時間を空けてやったのだ。心ゆくまで存分に――」

「なんだ、ユーシス。黒板が見えないぞ。やれやれ、チェスは休み時間にな?」

「くっ、この……っ!」

 ちょっと顔が赤くなるユーシス。マキアスはすんっとして、再び教科書に目を落とす。

 エリオットがため息をついた。

「僕たちのことを認識はしてるんだけどね。素っ気ないというか、心ここにあらずで勉強に集中しているというか」

「ねえ、もう放っておいてもいいんじゃない? なんかもう……いいんじゃない?」

 にべもなくフィーは言う。

 学校エリアに囚われていた人は解放され――しかしマキアスだけが囚われたままだった。

 旧知の友を救うべく、ここはやはりⅦ組メンバーが赴いて、彼の望みであろうことをアレコレ試してみたのだが、まるで手ごたえがなかった。二時間はかけた。

 フィーの“もういいんじゃない?”的な気持ちはもっともで、仲間たちもその空気になりつつある。

 そうだな、もういいかもな、とリィンも喉まで出かかって、やっぱりそれはダメだと首をぶんぶん横に振る。

「待つんだ、みんな。マキアスに薄く白い霧がかかっているのがわかるだろ? 放っておいたらこの霧が拡大して、新たなエリアができる――かもしれないんだ。考えてみてくれ、マキアスエリアがどんな感じになるのかを」

 かもしれない、というのは《幻夢の手記》にそう書かれているからだ。なぜかこの項目は手記も断定していない。

 皆が上を向いて、マキアスエリアとやらを想像してみる。

 ネチネチとした謎解き要素。無駄な知識を要求されるインテリ系の攻略方法。考えるだけでも面倒くさい。

「このままエリアの外まで引きずってみてはどうだろうか? 案外一発で目が覚めるのではないか」

 ラウラの案は武闘派だった。だがそれは良くない。何が起こるかわからない。

「お待たせ! 連れてきたよー!」

 エリア間転移でミリアムが現れた。解放済みのエリアなので、転移が可能になっている。

 ミリアムが手を繋いで連れてきたのは、クレア・リーヴェルトだった。ばっちりメイド服である。

 事情を説明し、クレアをマキアスの前に立たせる。

「あの、もちろん協力させて頂きますが……Ⅶ組の皆さんで無理だったものを、私がどうにかできるとは思えませんが――」

「あれっ、クレア少佐じゃないですか!」

 教科書は一瞬で閉じられ、マキアスは頑として座り続けた椅子から軽やかに立ち上がった。

「驚きましたよ。どうしたんです? こんなところで」

「えっと。たまたま通りがかりまして」

「すばらしい偶然だ。いや必然かもしれない。女神に感謝ですね」

 窓際に移動したマキアスは、前髪を風になびかせた。カッコイイ男のポーズらしい。

「……困りましたね。カジノエリアとかに囚われていたら何となく望みもわかるのですが、学校エリアだと望みの範囲が広いような気がします。マキアスさんの望みをどう特定すれば……」

「カジノ? クレア少佐はカジノにご興味が?」

「ああ、私は別に――いえ、そうですね。トランプゲームは少し嗜みましたよ」

 マキアスが食いついた話題をとりあえず肯定する。

「知っていますか? トランプの赤色は昼を、黒色は夜を表しているんですよ」

「あら」

「それだけではありません。クローバーは春を、ダイヤは夏を、ハートは秋を、スペードは冬を象徴しています」

 マキアスのうんちくが始まった。

「トランプ一枚は一週間と同義とされます。その数字が13まであると言うことは、そのまま13週間。つまり一つの季節が13週間という解釈ですね」

「ええ」

「13週間を四つの季節でかけると計52週間。ちょうど一年です。さらに1から13までの数字をトランプの枚数分だけ足していくと、最終的に364となり、ここにジョーカーを一枚加えると一年の日数と同じ365となるのです」

「まあ」

「ふっ、他にも細かな意味はありますがね。トランプとは本来、時を表現するものなのです」

「マキアスさんは博識ですね」

「なに、雑学の範疇ですよ」

 陽光が差し込み、メガネがキラリと輝く。感情を消した眼差しを彼に注ぐⅦ組の面々。

 トランプの話くらい、クレアなら普通に知っていそうだ。しかしうんうんと興味深げに聞き入ってくれるあたり、彼女の優しいお姉さん属性を感じずにはいられない。

 マキアスが散々語りつくした果てに、クレアは柔和に微笑んだ。

「本当に物知りですね。たくさん勉強したのでしょう。すごいです」

 一億ミラの笑顔がハートの矢となり、マキアスの胸を射抜く――イメージをリィンたちは幻視した。

 自らの知識を余すことなく披露し、それを褒めてくれるクレア。ピンポイントで穿ち抜かれる望み。

「ふおおおおっ!」

 燦然とメガネが光を放ち、囚われの霧は爆散した。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 




《話末コラム①》【《ロア=ヘルヘイム》に取り込まれる法則と特徴】

♥①ヴァンが雇用契約書にサインさせ、アークライド事務所で雇った人間。
特徴:1208年までの容姿と記憶を有している。《ロア=ヘルヘイム》の中でも霧に囚われることがない。段階的に記憶の拡張が発生する。
人物:アニエス、フェリ、アーロン、リゼット、カトル

♥②クロスベル再事変の解決にあたり、《ARCUS》での戦術リンクや個別通信を行った人間。
特徴:1207年までの容姿と記憶しかない。《ロア=ヘルヘイム》に入った時点で、例外なく霧に囚われる。
人物:いっぱい(①③④以外の人たち)

♥③雇用はしていないが、現実世界でヴァンと縁があり、かつクロスベル再事変時点で《ARCUS》を使用していない人間。
特徴:1208年の容姿をしていて、記憶にはやや混濁がある。ヴァンたちと同様に、霧に囚われない。
人物:エレイン

♥④雇用はしていないが、現実世界でヴァンと縁があり、かつクロスベル再事変時点で《ARCUS》を使用していた人間。
特徴:1208年の容姿をしていて、記憶にはやや混濁がある。リィンたちと同様に、霧に囚われる。
人物:ジン、レン

以上が判明した《ロア=ヘルヘイム》に呼び込まれるルールである。
当初はヴァンたち以外は♥②だと推測されていたが、ジンがここに含まれない為、法則の特定が難航した。
ジンが早い段階で「え、俺は1208年の記憶あるぞ?」と言ってくれれば話も違ってきたのだが、多少の記憶の混濁があったために、ジン本人も自分の状態を正しく把握できていなかった。
とはいえ元をたどれば、ヴァンが手記の開示事項をその都度全員にちゃんと共有できていなかったせいでもある。
しかし、なし崩し的にジンの気づきが遅れたのが悪いみたいな感じになっている。

 ★

《話末コラム②》【クレアとマキアス】

 十月戦役で行動を共にしていた際、クレアのお姉さん気質はマキアスにクリーンヒットした。
 以降、何かと関わりを持つようになるが、同じく彼女を慕う吹奏楽部のハイベルとは犬猿の仲となってしまう。隙あらばお互いを亡き者にしようとし、卒業後もその関係は変わっていない。
 戦闘において、マキアスはショットガンの弾を使い切らず必ず一発は残すようにしている。それはいつでもハイベルに撃ち込めるようにという意思の表れらしい。

 ★

《話末コラム③》【セドリックとエリオット】
 
 かつてセドリックは自らの煮え切らない性格にコンプレックスを持っていた。ちょうど悩んでいた時期のトールズ在学中、ミントから《猛将列伝》を読まされ、彼はエリオットに心酔するようになった。
 重んじる読書性の違いから、アルフィンとは度々対立したりしている。

 ★

《話末コラム④》【ハートのエース】

 トランプの数字と絵には様々な意味があり、その組み合わせは占いにも用いられる。
 ハートのエースの正位置は『新たな始まり』
 ハートのエースの逆位置は『環境の変化。混乱した愛』
 アニエスとエレインは今、どちらのカードを手にしているのか。
 しかしそれは、些細なきっかけで砂時計のように反転するものでもある。
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