黎明の軌跡 Break the Nightmare   作:テッチー

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第23話 神託の火砲

 ベルザンディフロアの最奥。何重ものセキュリティに守られた先に、アリサの私室はあった。

 そこに案内されたリィンは、視線をそれとなく室内に巡らせる。

 整然とした家具の配置。おしゃれな化粧台。センスのいい小物類。高そうな調度品。おそらくラインフォルト本社ビルにある、アリサの現実の部屋が再現されているのだろう。

 自分が座らされているベッドも、天蓋付きで豪奢なものだった。

「ん、失礼するわ」

 リィンの真横にアリサが座る。

「久しぶりね。元気にしてた?」

「アリサは……俺の事がわかるのか?」

「当たり前でしょ。変な事を言うのね」

 おかしそうにアリサは笑った。厳格なフロア長としての顔ではなく、柔らかい表情だった。まるで学生の頃に戻ったみたいに。

「他のⅦ組メンバーにも声をかけたか? ラウラも心配していたぞ」

「ラウラ? みんながいるの?」

 気づいていないのか? 俺の周りには全員がいたはずだが。

「飲み物はどうする? あなたの好きなドリンクを用意するけど」

「あ、いや。大丈夫だ」

「元気ないの?」

「そういうわけじゃないが……」

 なんだかアリサが優しい気がする。

「わかってる。士官学院の教官を解雇されたんだもの。それは気落ちの一つもするわよね」

「え、俺クビになってるのか」

「だから働き口を探して《ノルンの工房》に来たんでしょ? 慣れない仕事で大変だと思うけど、ここには私がいるから心配いらないわ」

 アリサの中で辻褄が合うように、認識が改変されているのかもしれない。

 どういう理由で俺が解雇処分を受けたのか、その経緯の設定は気になるところだが。

「ねえ、元気になって。いいえ、私が元気にしてあげる」

 アリサが腰を寄せてきた。ベッドのスプリングがぎしりと軋む。ふわりと漂う香水の匂い。とても甘い声が耳元で囁かれた。

「楽しいことしましょう。二人きりで……ね?」

 ア、アリサさん……!

 

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《――★第23話 神託の火砲★――》

 

 

「ティータ!」

 昼休憩で自由に動けるようになった途端、エステルは彼女のところに飛んで行った。

「わっ?」

 作業場の進捗を確認していたらしいティータは、驚いた表情でエステルを見返した。

「新人スタッフの方ですよね? あの、どうかしましたか?」

「エステルよ。あたしのことわからないの? ここにはリベールのみんながいるし、レンだって来てるわよ!」

「レンちゃんが……? えと、エステルお姉ちゃんのことはもちろん知っていますけど、あなたは?」

「だからあたしは――」

「やめておこう、エステル」

 ついてきたヨシュアが、エステルの肩を引く。

「だってティータが……」

「夢に囚われてるんだ。僕らの記憶はちゃんとあるみたいだけど、ここにいる僕らのことは認識できてない。今はどうやっても無理だよ」

「主格者の望みを叶える……か。フロア長の三人の中の誰かが主格者って見込みなわけだけど、つまりティータである可能性もあるってことよね?」

「まあ、そうだね」

 ティータはおずおずと言った。

「あの……わたし、もう行ってもいいですか? 見回りがまだ残ってて……」

「ダメよ」

 エステルは、わしっとティータを抱きすくめる。

「あうぅ!?」

「ああ、この抱き心地よ。たまんないわー」

「な、なんか絡み方がお姉ちゃんに似てる……? ひゃうう」

 なでなで、すりすり、ぽにぽに、わちゃわちゃ、ぎゅー。

「ふふふ、逃がさないわよ、ティータ。休憩時間でいっぱいお話しましょ。望みがあるなら聞いてあげるから」

「へ、変な人がー! 助けて、エステルお姉ちゃん、ヨシュアお兄ちゃーん!」

「ざーんねん、その本人たちよ!」

 

 ●

 

 お前は相変わらずいつもやらかすよな。《ロア=ヘルヘイム》の秘密にも関わってるらしいじゃねえか。

 夢から覚めたらみんなに謝れよ。俺もとなりでフォローしてやるから。

「な、ジョルジュ」

 ベルザンディフロアから他フロアに繋がるエレベータ前。昇降機に乗り込もうとしていたフードの後ろ姿に声をかける。

 彼はゆっくり振り返ると、クロウに焦点を合わせた。

「やあ、僕に何か用事かな」

「一応の確認だ。俺が誰なのかわかるか?」

「うん? 今日やってきたばかりの新人さんだろう。聞きたいことでもあるのかい」

「聞きてぇことだらけだ。この世界のこととかな」

「それは難題だ」

 ジョルジュは困ったように笑う。

 雰囲気はいつものままだ。“囚われ”を演じているようにも思えない。

「《バルドルの箱》って知ってるか?」

「初耳だよ。何かの容れ物かな」

「《ロア=ヘルヘイム》は?」

「聞き覚えはないね」

「わかった。足を止めさせて悪かった」

「気が済んだようで良かったよ。それじゃあ、オラクルトーナメントで」

 ジョルジュは昇降機に乗った。

 淡々と答えやがって。あっさりした態度に腹が立つ。クロウの拳に力がこもった。

「ダチの顔も認識できねえとはよ……! トワやゼリカのことも忘れたりはしてねえだろうな! 戻ってきたら仕置きだぜ!」

「トワにアン……? 君はまさか――」

 ジョルジュは何かを言いかけ――しかし言葉として発さないまま、エレベーターの扉は閉ざされた。

 

 ●

 

「あー……もう休憩終わりか」

 腰をトントン叩きながら立ち上がるヴァンに「オッサンくせえぞー」と横からアーロンが茶々を入れる。

 生意気小僧の尻を蹴ってやりつつ、ヴァンは憐憫の目を車に向けた。

 川底からサルベージされたみたいにクレーンに吊り下げられ、車体を構成するパーツはことごとく解体されている。

 ああ、俺の愛するピックアップトラックよ。こんなのあんまりじゃねえか。

 たとえオーバルギアなんぞに変貌したとしても、全てが終わったら必ず元に戻してやるからな。

 俺の心が折れない限り、何度でも復活できるんだ。そう、心が折れない限り。

「ヴァンさん、そこ取り外して下さい。わたしが支えてますからっ」

「ははは、ありがとう、フェリちゃんサン」

 鬼め。

 あろうことか俺の手で自らの愛車の解体作業を強いてきやがるとは。

 負けるんじゃねえ、ヴァン・アークライド。感情を殺せ。無の境地に至れ。波に揺られ、流れに逆らわず、あるがままを受け入れろ。そうとも。俺は海藻。波間にたゆたう意志持たぬ海藻だ。

 あれ、目からしょっぱい水がこぼれてきてる。当然だよね。海藻だもんね。海の中にいるんだもんね。塩水くらい出ちゃうよね。

「……お?」

 現実から背けた視線の先に、ラウラとエリゼが見えた。工房の隅で何やら話し込んでいる。

 少し気になったので近づいてみる。

「あら、ヴァンさん」

「うん? 少々やつれたように見受けるが」

「人は傷つきながら生きていくもんだ。生きるから傷つくとも言える。ま、そんなことはいい。いったい何してんだ。二人はチームも違うだろ?」

 ラウラとエリゼは顔を見合わせると、深く吐息をついた。

「なんと言いますか、言葉に表せない胸のざわつきがありまして……」

「だな……こう……強い悶気を感じるのだ」

「ふむ、なるほどな」

 いや、悶気ってなんだよ。

 

 ●

 

「ふふ……私のテクニックはどう? もう耐えられないかしら」

「ア、アリサ……それ以上は……くうっ!」

 二人して座るソファーの前には大きなモニターがあって、その画面の中で色とりどりのポムが上から降ってくる。同じ色が三つそろうと、ポムは光のエフェクトと同時に消えた。

 導力ネットが導入された初期、遊びを兼ねたゲームプログラムとして名を馳せ、今なお根強いファンがいる《ポムっと》である。

 アリサによる必殺の十二連鎖が決まり、リィンのゲーム画面が大量のポムに埋め尽くされた。

「はあ、負けたか……」

「ね、楽しかったでしょう?」

「ああ、楽しかったよ」

 いや、別にわかってたから。俺は最初から《ポムっと》をやりたかっただけだから。

「少しは元気出た? あなたって昔から落ち込み癖というか、自分が悪いって思い込むところがあるものね」

「そうだな。前にも言ったかもしれないが……アリサは俺以上に俺のことをわかってるんじゃないかって感じるよ」

「そ、そう?」

 照れたようにそっぽを向かれる。

 俺が士官学院をクビになってここに働きに来ているという認識だから、アリサは俺を元気づけようとしてくれているのだろう。

 見た目の態度から誤解されやすいが、彼女は元来優しく気立ての良い、周囲を気遣える人間だ。

 侵入者のジュディスに対して強硬姿勢だったから、攻撃的な性格にねじ曲げられているのかと少し不安ではあった。

 しかし夢に囚われていても、やはり根本の気質までは変わっていないのだ。

 だったら、なんで……。

「なあ、アリサ。君は――君たちはオーバルギア・ギガントなんかを作って、いったい何をしたいんだ」

 他を圧倒する強大な戦闘力を持つ機体。あるいは災害救助等で最大の運用ができる機体。コンセプトが統一されていない気がする。

 しばらく沈黙が続いたあとで、アリサは《ポムっと》の画面を消す。

 そして一言だけ口を開いた。

「私たちはみんな、誰かに認められたいのよ」

 

 ● ●

 

 十日が経った。

 《オラクルトーナメント》の出場者たちが、ベルザンディフロアに集結している。

 幻影のトールズ学院生チームが十機、ヴァンたち各国連合チームが六機である。

 計十六チーム。すなわち十六機のオーバルギア・ギガントが揃い踏みだ。さすがに壮観の光景だった。

「トーナメント会場は上層のスクルドフロアじゃねえのか? フロア長たちの姿も見えねえが……うお!?」

 ヴァンが辺りを見回した時、唐突に足元が激しく揺れ動いた。ベルザンディフロアの床全体が昇降機のように上昇し始める。

 みるみると迫りくる天井が二つに分かれ、中心から開かれていく。

 二階に到達すると、床の上昇は止まった。

「ヴァンさん、また天井が開いていきます!」

 アニエスが見上げた先、《ノルンの工房》のドームになっていた天井部分がスライドして開放されていく。

 霧に覆われた空が視界いっぱいに広がった。

「ここがスクルドフロア……まんま競技場って感じだな」

 全方位を観客席に囲まれる形で、フィールド面積は圧倒的に広い。ベルザンディフロアがそのまま上がってきたわけだから、当然ではあるが。

 フロアの至るところに設置されていた作業用の重機、固定具類はいつの間にか全て消え失せていた。

「フロア長はまだ出てこないか。よし、搭乗準備にかかるぜ」

 各チームのオーバルギアは等間隔で距離を開け、スタンバイモードに入っている。

 幻影の敵陣も、ヴァンたちも、機体に乗り込んでいった。 

「操縦席には俺が座る。つーか俺以外には座らせねえ。サブシートはアーロンとリゼットだ」

「ちっ、サブかよ。日和(ひよ)った運転しやがったら、すぐオレが変わるからな」

「承知しました。ウェポンコントロールはお任せを」

 オーバルギア・ギガントは三人で扱う仕様だ。

 スターティングメンバーは主操縦がヴァン、副操縦がアーロン、火器管制がリゼットである。

 そして常に機体状況をフィードバックしてくれる遠隔オペレーターがカトルだ。

 この辺りのシステムは機体によって差異が大きい。

 ピックアップトラックを魔改造したヴァンたちのマシーンは、スピードと操縦性能を追求したスペックをしている。

 カラーリングを始め、随所に車だった頃の名残があるのが何ともいたたまれない。

「どうしてわたしは控え要員なんですか? わたしも乗りたいです」

 無邪気な表情でフェリちゃんサンが訊いてきた。

「お前はうちの秘密兵器だ。そう簡単に出すわけにはいかねえよ。ここぞの時まで温存させてくれ」

「秘密兵器で温存……なんだかカッコいいですっ」

「はは、そうだろ」

 永遠に温存してくれるわ。絶対にコイツだけは乗せねえ。何やらかすかわかったもんじゃねえからな。

 ギガントと大仰な名がつけられているとはいえ、基本設計はオーバルギア。装甲車のように全面を覆われたコックピットがあるわけではない。

 あくまでも機能拡張型のパワードスーツで、操縦者が外装フレームの内側に収まるような構造なのだ。

 カトルが最終調整をしてくれる。

「ニュートラルハンドル位置、及びフットペダル稼働問題なし。続けて体を固定するよ。関節が動かしにくかったら言って」

「なあ、カトル。オーバルギアって空中戦も想定されてるだろ。結構派手に動くことになると思うんだが」

「うん、それがどうしたの」

「主操縦席の固定具がシートベルトだけっておかしいよな? しかもこれ車の座席についてたやつそのままだよな?」

「ヴァンさんのオーダーに応じて、ピックアップトラックの部位はなるべく転用したんだけど」

「セーフティ面はしっかりめにしとけよ……」

 そこについては副操縦席のアーロンも抗議した。

「つーか待てよ。オレとヴァンは安っぽいシートベルトなのに、リゼットの席は安全バーとかエアバッグとか衝撃吸収材とかてんこ盛りじゃねえか!」

「リゼットさん、座り心地はどう?」

「上々です。クッションもふかふかですね」

「はァ!? ざけんな、オレらの座席は金属板のままだぜ!」

 アーロンの怒りはもっともだ。

 だがリゼットだけ特別扱いされているというよりは、FIOとXEROSを生贄にした俺とアーロンへの反抗の意思を感じる。

 リベールチーム、クロスベルチーム、エレボニアチーム、それぞれの発進準備も進んでいく。

『そろそろいいようね』

 拡声器越しのアリサの声がスクルドフロアに響いた。

 フィールドの中央付近の床が部分的に開き、そこから一機のオーバルギア・ギガントがせり上がって来た。

 最下層のウルズフロアから運搬用エレベーターで登ってきたらしい。すでにジョルジュ、アリサ、ティータの三人は機体に乗り込んでいる。

「初お披露目となるわ。これが私たちが作り上げた最強のオーバルギア《デルタ=オラクル》よ」

 三つの搭乗員を有する複座式なのは同じだが、こちらのオーバルギア・ギガントよりも一回りは大きい。威圧的ながらも均整の取れたフォルムは、どこか甲殻類を連想させる。

 下部に二つ並んだサブシートにジョルジュとティータ、上部のメインシートにアリサという配置だ。

 黒光りする重装甲は堅牢そのもので、随所に移動補助用のバーニアも見える。わけても目を引くのが、機体を守護するように自律浮遊している花弁に似た物体だ。それが三つ。

 見覚えがあるらしいレンが言う。

「あれはリフレクトユニットだわ。用途は攻撃から防御まで様々な汎用性を実現する反射板のようなものよ。多分、ティータの技術だと思う。何度か取り扱ってるのを見たことがあるから」

 事前の対策が立てづらい兵装だ。まずは距離を取って出方を窺うのが定石か。

 アリサが言う。

「じゃあまずはルール説明からしましょうか。この場にいる十六機で勝ち残りのトーナメント戦を行うわ。上位四機が残った時点で《デルタ=オラクル》と戦ってもらう。私たちに勝てれば素晴らしいプレゼントがあるというのは、前に言った通りよ」

 四対一をやる気とは、よほど自信があるらしい。ならば目先の目標としては、各機の損傷をなるべく抑えつつ、その四枠を全て友軍で埋めることか。

「あと搭乗者の交代やメンテナンスは、ピットエリアでなら何回でも自由にしてもらっていいから」

 フィールドの一角にそのピットエリアは設けられていた。

 控えメンバーと整備クルーはそこに待機してもらうほうが良さそうだ。

 ちなみに整備クルーはトヴァル、シャロン、ヴィータ、クレアなどの搭乗メンバーではない者たちを総動員している。

「説明は以上よ。さっそく一回戦の組み分けを――と思っていたけど、気が変わったわ」

「は?」

 《デルタ=オラクル》のリフレクトユニットが煌めいた。反射板に光が収束されていき、生み出された熱によって蜃気楼のように景色が揺らぐ。圧縮されていく光が赤黒く色づいた。

 まさか――

「全機緊急回避!!」

 いち早く叫んだのはクロスベルチームのロイドだった。

 言われるまでもなかった。ヴァンはハンドルを素早く切って、待機状態のままの機体を無理やり横滑りさせる。

 同時、三つのリフレクトユニットから赤銅色の閃光がほとばしった。極太の光軸は途中で分裂し、拡散された無数のレーザーとして挑戦者たちに襲いかかる。

 一瞬で周囲が破壊された。高熱に溶けて歪む足場、噴き上がる膨大な粉塵、火の粉混じりの荒ぶ煙に視界が遮られる。

 直撃は免れた。しかしまともな状況確認はできない。シュバルツァーたちの様子もまるでわからない。

「くそっ、お前ら生きてるか!?」

「な、なんとかね……」

 咳き込みながら、カトルがオーバルギアの傍によろめいてきた。

 煙の向こうからアリサの声だけが響く。

「やっぱりエントリー数が多過ぎたから減らすことにしたわ。今の攻撃に耐えきれた機体があるなら、まとめて相手をしてあげる」

 めちゃくちゃなことをやりやがる。主格者特有のルールのねじ曲げだ。だがそれがルールだってんなら……!

「カトル!」

「わかってる!」

 肌を炙るような熱気にさらされながら、カトルは最終整備の手を走らせた。

 アニエス、フェリ、ジュディス、エレインも無事だったようで、手分けして最後の仕上げに入る。

「武装ロック解除。照準誤差修正。オールクリアです!」

 リゼットがコンソールパネルを高速で弾く。

「オーバルエンジン出力上昇、ブースター稼働域も問題ねえ!」

 アーロンが姿勢制御用の操縦桿に手を添える。

「導力圧正常値。各種メーター異常なし。リミット解除。いつでも行けるよ!」

 カトルは接続されていた端末のコードを引き抜いた。

 ブン、と駆動音がして機体がわずかに浮き上がる。

 シュバルツァーたちはやられたのか? この状況で確かめる術はない。たとえあいつらが全滅していたとしても、俺たちは俺たちだけで勝つ。

 ヴァンはハンドルグリップを両手で握りしめ、ぐっとアクセルペダルを踏み込んだ。

「カルバードギア《ナイトブレイカー堕天》、発進するぜ!!」

 浮力を地面に叩きつけ、勢いよく上方へと飛び出す。もうもうと滞留する灰煙を一気に抜けた。

 確保できた視界の中で、ほとんど同時に噴煙を突き破ってきた機体が――他に五つ。全て連合チームの友軍機だった。

「はっ、しぶてえヤツらだな!」

 こちらを捕捉した《デルタ=オラクル》が、さらなる武装を展開した。新三高弟が全てを注いで作りし、最強のオーバルギア・ギガントが浮上する。

「出し惜しみはいらねえ! かませよ、アーロン!」

「そうこねえとなァ! ターボチャージャー起動!」

 アクセル全開。スピードメーターが振り切れる。《ナイトブレイカー堕天》の加速に合わせるように、後続のリィンたちも速度を上げた。

 まばゆいスラスター光の軌跡を引いて、霧の空を彩る六機が力強く舞う。

 

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 ――つづく――

 

 




《話末コラム①》【メモリーアジャストメント】

 人を特定の個人として知覚するタイプの“囚われ”でも、何かしらの認識阻害がかかっている場合が多い。
 アリサの場合、『リィンが《ノルンの工房》で働くのは、トールズの教官をクビになったからだ』ということにして、リィンがそこにいることに矛盾を生まない理由付けをしている。
 これはアリサの意志ではなく、“囚われ”がその状況に疑問を抱かないために自動で起こる《ロア=ヘルヘイム》の仕組みである。

 ●

《話末コラム②》【メモリーアジャストメント・リィン教官の解雇理由】

 宴席でのオーレリア分校長との雑談で、
「そろそろ婿探しも本腰を入れんとな」
「分校長ならすぐに良い方が見つかりますよ」
「ふっ、なんならシュバルツァーが私の婿になるか?」
「え? ええ? いやあ、俺には荷が重いといいますか、どうなんですかね、ははは」
 と、露骨にはぐらかしたため解雇処分を受けた。
 ――という認識上の設定になっている。

 なお、ランディもリィンと同じく宴席での雑談で、
「実家が婿を取れとうるさくてな。オルランドはどうだ? 私の婿に興味はないか」
「マジっすか。いや、ちょっと……マジっすか」
 と、オーレリアのジョークに、ガチのトーンで返してしまったため解雇処分を受けた。
 ――という認識上の設定になっている。
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