黎明の軌跡 Break the Nightmare 作:テッチー
ヘイムダル、ガルニエ地区。
「――ええっと、“一緒にいて楽しかったり、安らいだりする人”ですかね……?」
恥ずかしがりながらも、ユウナはそう答えてくれた。
「んー、私はそうですね。“包容力があって、ちょっとのいたずらは許してくれて、でも時々はいじめてくれてもよくて、でもでも私を一番大事にしてくれる人”でしょうか。Sっ気のあるリィン教官というのが理想かもしれません。きゃっ、言っちゃいました!」
頬を染めるミュゼの脇腹を「自重しなさいよ!」とユウナが突っつく。「あん、ユウナさん的確っ!」と悶える彼女の横から、ちょこんとアルティナが顔を出した。
「まだ私にはそういう感情はよくわかりませんが……相性なんかは重要じゃないでしょうか?」
「アルティナさんの言う通りです。体の相性は大切ですよね」
「私がしたのは性格の話ですが」
「自重しなさいって言ってんでしょーが!」
ユウナがまたミュゼを突つき回し、「ユウナさんのテクニシャン!」とミュゼが艶めかしく身をよじらせた。
「はあ……お見苦しいところをお見せしてすみません。こんな感じでいいですか?」
「ありがとうございます。十分参考になりました」
セドリックはユウナたちに頭を下げた。
「でも急にどうしたんですか? あたしたちの恋愛の価値観を教えて欲しいだなんて」
「えっと、それは……」
「最重要ミッションの遂行中だ。すまないが、僕たちには秘匿義務がある」
ユウナに問われて言いよどむセドリックの代わりに、クルトが口を開いた。
「どんなミッションよ……」
聞きたいことはありそうだったが、皇族が絡む案件と押し切った以上、彼女たちも無用な深入りはしてこなかった。
街エリアを巡回中のグループを見つけては、手あたり次第に恋愛に関わるエピソードや体験を聞いていく。
エリゼに誤爆したまま、明確な落としどころを見いだせていないセドリックの選択肢を広げるため、ヴァンの方針にエレインが具体性を加えた結果だ。
急ごしらえではあるが、約束の17時までにできる唯一の策だった。
「では僕が今の話をメモにまとめておきます。あとで見返しましょう」
「ありがとう、クルト。じゃあお願い――」
「ダメです」
きっぱり止めたのはエレインだった。
「メモなんて取らなくていい。耳で聞いたことは忘れるけど、心に刻まれたものはいつまでも残るわ。セドリック殿下が真に感じ入る言葉にこそ意味がある。雑多なメモの羅列では、それが薄れてしまう。わかるかしら?」
『イエス・マム!』
姿勢を正す二人。
恋の鬼教官と化したエレインに異議を唱える者などいなかった。彼女がしゃべり出したら、ヴァンさえ口をつぐむ。
「おう、お前さん方。あまり見ない組み合わせだが、どうしたんだ?」
彼も街中巡回なのだろう。ジンが歩み寄って来た。
《ロア=ヘルヘイム》に取り込まれた中では、ベルガルドに次ぐ年長の男性。大人の意見が聞けるかもとセドリックは前のめりになったが、
「ジンさんはダメです」
と、エレインに一蹴された。
「え、どうしてですか? ジンさんなら参考になるご意見や実体験を多く持っていそうなのに」
「殿下はそう思うでしょう。でも実際は違うんですよ。ジンさんは妙齢の女性に弱く、例えばCIDのキリカ室長には頭が上がらなかったりするんです」
いきなりの責め口調に、ジンはたじろいだ。
「い、いや、なぜキリカの名前が出る?」
「任務においては洞察力も判断力も高い準S級遊撃士。しかし恋愛においては何事でもイニシアチブを取れないD級恋敗士。特に実のある話は聞けないと思います」
「声をかけただけなのに、なんでここまでコキ下ろされにゃならんのだ。つーか恋敗士ってなんだよ……」
がくりと落ちたジンの肩に、ヴァンはポンと手を置く。
今日のエレインは止まりそうになかった。
●
ヘイムダル、サンクト地区。
大聖堂の膝元で、エリゼたちはジュディスとリーシャをつかまえていた。
「――あたしが思うに“受け身になり過ぎないこと”が大切だと思うわ。ほら、どうしても倍率高い相手っているじゃない。でも周りに遠慮しちゃって踏み込めないまま、時間だけが過ぎてさあ。いつか昔を振り返って、『ああ、あの時行動しとけばよかったな』って詮無い後悔をするわけよ」
「……それ私に向けて言ってない?」
朗々と語るジュディスに、リーシャは不満気だ。
「じゃあなに? ジュディスは今まで異性に告白したことあるの? 恋人できたことあるの?」
「な、ないけども。でもシミュレーションは頭の中で何百回としてるし、あとは実戦を待つだけのエリートよ!」
「私だっていつ本番が来てもいいように、シミュレーションは寝る前に欠かさずしてるわ」
「ロイドとどこにデートに行く想定?」
「それはやっぱりミシュラムで二人手をつないで――はっ! ジュディス!」
「聞いちゃったー、リーシャの恥ずかしいの聞いちゃったー、どうしようかしらー」
「誰かに言ったら爆雷符を枕に仕込むから」
「目がマジなんだけど!」
仲の良さの裏返しなのだろう、二人は小競り合いを始めた。
近くにユーシスとミリアムが連れだって歩いていた。なんだかんだであの二人も仲が良い。あくまで兄妹のような感じだが。
ジュディスたちはさておき、エリゼたちはそちらに声をかけた。
「――恋愛の形ですか。そのような問答は不得手なのですが……」
事情は伏せたまま、先頭切ってアルフィンが聞きたい質問だけをユーシスにする。
他の者なら取り合わなかっただろうが、皇女の問いかけを不意にできるはずもなく、ユーシスは渋々と答えた。
「あくまで個人的な考えですが……常にそばにいなくとも、心が繋がっていればそれでよいと思います。支え合う形は人の立場や環境によって様々でしょうから」
「にしし、誰のことを思い浮かべながら言っているのかなー? あ、痛い! 鼻つままないでー!」
茶化したミリアムが、ユーシスの制裁を受けた。
「お前も言え。大した話はないだろうがな」
「ふーんだ。ボクはね、お菓子をくれる人が好きだな!」
「どうせそんなものだろうとは思っていたが、やはりそんなものだったか」
「なにをー!」
現金な性格なのもあってか、愛やら恋やらは彼女には少々早いらしい。
ひとしきりの話を終え、その二人とも別れる。
広場の端っこで、エリゼ、アルフィン、アニエス、レンは小さな円になって集まった。
「レン先輩、メモのまとめは追いついていますか?」
「私を誰だと思っているのよ。抜け落ちはないわ」
レンは書き連ねられたメモ紙をアニエスに見せた。要点が押さえられていて、非常にわかりやすい。
「皆さんからの意見はあとで整理して、取りまとめましょう。エリゼさんに必要な言葉が必ずどこかにあるはずです」
「ありがとうございます、アニエスさん。……落ち着きませんね、やはり」
セドリックからの呼び出しを受けて、改めての告白が想定される中、エリゼの気持ちもまた定まっていなかった。
好意を寄せられて嬉しくないわけがない。けれど自分の心を見定めるには、あまりにも準備不足。ノーガード状態でタックルを食らったようなものだ。
あとの限られた時間でできることは、できるだけ多くの人の話を聞き、自分と照らし合わせたりして参考にするしかなかった。
それでも最後に決めるのは、エリゼ自身に他ならない。
「ねえ、エリゼ。ここは思い切ってリィンさんに聞くのはどうかしら? 核心を突いたアドバイスを頂けるような気がするけれど」
「それは……しません。別に兄様に思うところがあるからって意味じゃないですよ」
以前にもアルフィンには伝えた。
リィンに対する想いは憧れに近いもので、思慕の感情のそれとは紙一枚を隔てて違うものだろうと。しかし妹としての独占欲はあるから、みだりに絡んではくれるなと。
まあ身勝手で我儘なことを言った。彼女は呆れ半分で笑っていたが。
「身内だからこそ話しづらいことってあるじゃないですか。ちょっと気恥ずかしいのもありますし」
「そういうものかしら。私はオリヴァルトお兄様とよく恋愛のお話はするけど。……ああ、でも言われてみればセドリックとその手の話をしたことはなかったかもしれないわ」
アニエスが自前の腕時計を見た。《ロア=ヘルヘイム》に時間の概念が生まれて以降、時計も正常に針を刻むようになっている。
「約束の時間まで二時間を切りました。……まだあと何人かは見つけられそうですね」
《――★第35話 恋歌の軌跡(後編)★――》
「……味気ねえ街に見えてきちまうな」
緋色の街並みは健在で、幻影の通行人もそれなりにいるのだが、どうにも生活風景として感じられない。生活していないのだから当たり前ではあるが。
街エリアの主格者はシュバルツァーだから、ヘイムダルにはたくさんの人間が住んでいるという認識の元の再現なのだろう。
住人の日々の暮らしまでを想像して創造するというのは、さすがの彼でもキャパオーバーだったらしい。
ヴァンクール大通りを適当にぶらつく。
ミストマータがどこに出現するかわからない現状、なるべく一人で行動しないようお達しは来ていたが、アッシュは今一人になりたかった。
「剣帝レオンハルト……ね」
顔もほとんど覚えていない。
今さらそいつがミストマータとして出てきたって、関わりの深かったヨシュアほど動揺するわけでも、心が揺らぐわけでもない――はずだった。
おぼろげだが、わずかに残っていた思い出もある。
小さかった俺はよく三つの背中を追いかけていた。一番幼かった自分の面倒を見て、よく遊んでくれた近所の兄ちゃんたち。
ヨシュア兄ちゃん、レーヴェ兄ちゃん、あとはそう……カリン姉ちゃんだったか。
《黄昏》の時でさえ、ここまで思い出さなかったのに、今になって心の底に沈んでいた記憶が浮かび上がってくる。
ヨシュアは俺以上にレーヴェを慕っていた。
袂を分かってから何度も戦ったというし、彼の死に対して折り合いもつけたと聞いている。
それでも、そういう相手だからこそ、もう戦いたくはないだろう。
ローゼリアはエマとヴィータ。アリアンロードはセドリックとエリゼ。リオンとセリスはベルガルド。
どうもミストマータはベースとなった人物と縁の深い相手のところに現れやすい傾向がある。
ならばレーヴェはリベール組――中でもヨシュアの前に再び姿を見せる可能性が高い。
……もしもそうなったなら、代わりに俺が戦ってやる。俺ならきっと、ヨシュアよりは迷いなく戦える。
「しかしまあ、とても敵う相手とは思えねえな……いっそシュバルツァーにでも稽古をつけてもらうか?」
らしくねえとは自分でも思うが、仕方ねえ。
とりあえずぶらつきはこの辺で切り上げて、さっさと学生寮に戻るとしよう。
そう考えていたら、ちょうど前方からリィンが歩いて来ていた。
真面目で真面目な教官殿のこと、それはそれは真面目に巡回中なのだろう。こいつは渡りに船だ。
「よう、シュバルツァー。いきなりでワリぃんだが、ちと頼みたいことが――はっ!?」
声をかけかけて、踏みとどまる。
リィンは体中から黒いオーラを噴出させていた。なぜか神気合一状態だ。
道路の舗装が一歩ごとに踏み割れていく。
戦闘中なのか? いや、敵の気配はない。にもかかわらず、このむき出しの敵意――いや殺意。
ただごとではない。アッシュは咄嗟に横道に入って身をひそめた。
通り過ぎていくリィン。死神の葬列を引き連れるがごとき重圧の足取りだ。
空に暗雲が立ち込め、雷鳴が轟く。
そう、この街エリアの主格者はリィン・シュバルツァー。
ミシュラムエリアのティオほど露骨には行使していないが、リィンも主格者権能を有している。
彼の心の写し鏡のように、天候が荒れに荒れていく。
「な、何が起きていやがる……!?」
アッシュは《ARCUS》を取り出した。こういう時に連絡するのは、なんだかんだでやはり同期だった。
「ああ、クルトか? 俺だ。なんかシュバルツァーの様子が変でよ――」
●
「どうしたんだい、クルト?」
通信を終えたクルトは《ARCUS》をしまうと、青ざめた顔をセドリックに向けた。
「い、いや、なんでもない。気にしないで欲しい」
「それならいいけど、体調が悪いとかなら遠慮せず言ってくれよ」
「はは……はは、は」
乾いた笑い。急にクルトの様子がおかしくなった。緊急の連絡だったのだろうか。それなら自分たちにも共有しないはずはないが……。
「なんか街路を抜けたら林道に入っちまったみてえだな。相変わらず区画間の繋がりがややこしいぜ。ここから先に何かあるとは思えねえし、一度引き返すぞ」
「待って、何か聞こえる」
ヴァンが踵を返す横で、エレインが耳を澄ませた。草葉を揺らす柔らかな旋律。林道の奥から聞こえてくる。
四人は慎重に進んだ。少し道なりに歩いた先に開けた敷地があって、木々に囲まれたそこに一件の民家が建っていた。
木造の二階建て。こじんまりとした外観で、落ち着く雰囲気を醸している。家の裏には池もあるようだった。
旋律は家の中からだ。警戒しながら、まずはヴァンが先頭で扉を開く。
「……ヨシュアか?」
「ヴァンさん? 他の皆さんも……連れだってどうしたんです?」
ヨシュアはハーモニカを口元から外し、テーブルに置いた。リビングには彼だけだった。
「そりゃこちらの台詞だ。こんなとこで何やってんだ。一人か?」
「エステルとは一緒にいましたけどね。今はロレントに行っています」
「ロレント……?」
「リベール北東の地方都市で、僕らの故郷。クロスベル区画に隣接して創造されていて、巡回の範囲を広げていたところ偶然見つけたんです」
「てことは、この家は?」
「僕とエステル、あとレンの実家ですね。現実世界ではロレントの街のはずれにあって、もしかしたらと思って探してみたら、この通りです」
図らずもお宅訪問、ブライト家である。
「それで皆さんはどうしてここに?」
「俺たちも巡回みてえなもんだが――」
セドリックはヴァンにちらりと視線を向けられる。
ここに来るまでにヘイムダルを経由し、クロスベル区画も抜けて来た。
その中で出会ったアーロンとエリオットには“色恋は考えるより動くもの”、“欲しいと思ったなら奪え!”とアドバイスを受けた。エリオットの言葉はアーロンが代弁していたが。
次に会ったエリィとワジには“寛容な心で受け入れること”、“こうあるべきという形に囚われないこと”と言われた。
その後のアンゼリカには“愛とは示すこと”と告げられ、証拠を見せるとばかりにトワに襲い掛かっていた。
参考になるならないはともかく、それぞれの考えは聞かせてもらうことができた。
時間的にもそろそろだ。最後は彼に聞きたい。
ヨシュアがエステルと恋人関係にあることは周知の事実。そこに至るまでには紆余曲折の物語があり、二人で数多の障害を乗り越えた先の結果が今。
なんというかドロドロしてない。清々しい愛なのだ。
セドリックたちは詳細を伏せ、他の人たちにもしてきた質問をヨシュアにする。
「――うん。なんだろう。最初は、そうですね……近くにいすぎていて、気持ちが伝わらないことはありました。けれど一度離れることで見えることもあって、それがきっかけだったように思います」
それは短いフレーズだったが、不思議と心に残る言葉だった。
一応は侍女と皇族という立場ではあったが、エリゼとは幼馴染の関係だ。
近くにいるがゆえに届かないものがある……か。
「はは、このくらいで勘弁してもらえますか」
「いいえ、詳しく話してもらうわ」
エレイン教官はヨシュアを逃がさなかった。
「“一度離れることで見えることがある”という辺りを特に。その時の心情の推移も合わせて、時系列順に説明してもらえるかしら。ああ、勘違いしないで。あくまでも殿下のためにね。ヴァンもよく聞いておきなさいよ」
「いや、あの……もう」
「ダメよ。早く」
●
赤で統一されたヘイムダルのように、白い街並みはリベール特有のものらしい。白ハヤブサが国鳥なので、そのイメージカラーを継いでいるのかもしれなかった。
「この時計塔は、あたしの今日に至るまでの始まりの場所。良い思い出ばかりじゃないけど、とても大切な場所なの」
時計塔の最上層。ロレントの街を一望できる小窓から顔を出し、エステルは何かを哀悼しているかのような表情を浮かべた。
底抜けに明るい性格なのに、こんな顔もする人なのか。エリゼにはそこに映る感情の全てを汲み取ることはできなかった。
「どう、リベールの雰囲気は?」
「どこか牧歌的で、柔らかい風が頬を撫でて……。初めて来ましたけど、どうしてか懐かしさも感じます」
「ふっふーん、そうでしょう。北部のマルガ鉱山では翠耀石を採掘してるから、その影響で良い風が吹くんだって。いつか現実の世界でも遊びに来てね!」
エステルはアニエスに得意気に笑った。
「――で、あたしの恋愛観だっけ? なんでそんなこと聞きたいの?」
「後学の為に」
「あはは、含みがありそうだけど詮索はやめておくわ。そうね……あたしの場合はやっぱりヨシュアとのことになるのかな――」
宝箱から大切なものを取り出すみたいに、彼女は一つ一つの思い出を語ってくれた。
彼が初めてブライト家にやってきた日のこと。初めて笑顔を見せてくれた日のこと。遊撃士の道に踏み出した日のこと。《ゴスペル》を巡り、リベールを駆け抜けた日々のこと。
別れの日。
再会の日。
そして想いが通じた日のことを。
「――まあ、なんていうか。姉弟みたいに育って、距離が近かったからお互いの好意に気づけなかったのはあると思う。あたしの方が鈍感みたいに言われたりもするけど、ヨシュアだってあたしの気持ちをちゃんと受け取ってないこと結構あったし」
仲は良くて絆もあった。
でもそういう対象として思っていなかったから、相手が抱えている感情に気づくのに回り道をしてしまった。
身につまされる話だった。
「こういう感じでいい? ちょっと照れちゃうわ」
「初耳のことがあって興味深かったわ。エステルお姉ちゃん?」
レンは茶化すようにエステルにすり寄った。
「ヨシュアには言わないでよ。本当に言わないでよ。シェラ姉ともあまりしないような話なんだから。あ、そうそう、あたし達の家も再現されてたから後でレンも行ってみたら? 今ならヨシュアいるわよ」
「うーん、そうしたいのは山々なんだけど、時間がねえ……」
レンはそれとなくエリゼを見る。エリゼもうなずきを返した。
ここに来るまでに、たくさんの話が聞けた。
シェラザードの“周りの目を気にせず、自分の気持ちに従うこと”というのも、実際の経験が反映しているようだった。
オリヴァルトも似たようなことを言っていた。“立場に左右されないことが大事”であると。
クローゼの“敗れたあとは見守るポジション”発言には、言葉の裏に小さな闇を感じなくもなかったが。
「エリゼ、そろそろ……」
アルフィンが気づかわしげに言った。約束の17時まで、もうまもなく。
エリゼはエステルにぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございました、エステルさん。とても参考になりました。では行ってきます」
「役に立ったなら良かったわ。気を付けて行ってきてね! ……どこに?」
●
鐘楼塔は壊れているらしく、時刻を告げる鐘を鳴らさない。
太陽の傾きかけた17時。トールズ士官学院本校の屋上で、セドリックとエリゼは向かい合う。
「殿下サイドの見届け人はこの俺、ヴァン・アークライドが務めさせてもらう」
「エリゼさんサイドはこの私、レン・ブライトが承ったわ」
二人の中間、鐘楼塔の前にヴァンとレンが並んで立つ。
「まさかお前らも動いてやがったとはな。変に引っかき回してねえだろうな?」
「失礼ねえ。乙女たるもの他人の恋にも全力応援よ? それにこの件を主導で請け負ったのは、ヴァンさんのところのバイト二号なんだから」
「アニエスが……?」
あいつが俺を通さず、自分から依頼に首を突っ込むことはそうない。何か思う部分があったのかもしれない。
「それはそうと進行役お願いね」
「俺がやんのかよ」
「だって私、あがり症だもの」
「嘘つけ。まあ別に構わねえが」
ヴァンはコホンと咳払いして、
「続けてセコンドの紹介だ。セドリック殿下側にエレイン。エリゼ嬢側にはアニエス。介添人としての意思の宣誓を」
すっと前に出たエレインとアニエスは、互いに右腕を掲げた。
「宣誓。私、エレイン・オークレールと」
「アニエス・クローデルは」
「空の女神の御名の下、両名が一切の虚偽の弁を発することなく」
「その結果に対し、異議不服申し立てをしないことを」
澄んだ声が重なる
『誓います』
いや、お前らが二人の弁明を誓ってどうする。公平に見届けることを誓うんだろうが。
「あの……ヴァンさん、これってどういうことなんですか」
「私も聞いておりませんが……どうしてこんなことになっているのでしょう……」
セドリックとエリゼは、真っ赤になった自分の顔を両手で覆ってしまっている。
メインとなる二人を広く取り囲むような形で、各チームほとんどのメンバーが集結していた。
セドリック、エリゼ両陣営が恋愛に関することを訊き回った結果、何をしようとしているのか嗅ぎつけられたらしい。
手練れの遊撃士や警察官も多いし、本気を出した彼らに秘密を隠し通すのは至難の業だ。
だとして、そっとしておくという発想はなかったのかよ。もはや全動員してのイベントの一つと化している。
しかしなぜかその集団の中に、最初から二人に同行していたはずのクルトとアルフィンの姿はなかった。
レンが囁いてくる。
「こうなってしまっては下手に人払いもできないわよ。余計な邪推や妄想も生んじゃいかねないし」
「わかってる。このまま押し切るしかねえだろ」
「マイクパフォーマンスに期待しても?」
「任せろ。盛り上げてやる」
仕切り直しは当事者たちのメンタルが持続しない。
それにしんと張り詰めた空気よりも、この騒がしい雰囲気の方に助けられるかもしれない。
「ご来場の皆様方、ようこそお越し下さいました。これより始まりますのは、青春真っただ中の感情のぶつけ合い。俺たち私たちにもこんなことあったなあ、それともこれからこんなことあるのかなあ、なんて想いを巡らせながらご刮目下さい。あ、ドリンクコーナーは左手でーす」
いきなり煽り始めた司会者の乱心に、セドリックとエリゼは“なにやってくれてんだ”と言いたげな非難の視線を飛ばしてきた。
そう責めてくれるな。これでもアンタたちのことを考えてんだ。
「――では改めて。赤コーナー、セドリック・ライゼ・アルノール。青コーナー、エリゼ・シュバルツァー……ファイッ!!」
●
屋上から歓声が聞こえて来た。こんなことになるのは正直予想外だった。セドリックは大丈夫だろうか……。
「気になるならお前も上に行ったっていいんだぜ」
アッシュが見透かしたように言ってくる。
クルトはかぶりを振った。
「こちらも――というかこちらの配置こそ重要だ。君こそ、ここにいなくてもいいんだぞ?」
「水くせえこと言うんじゃねえ。なんだかんだでお前との付き合いも長くなった。もうすぐ卒業だし、最後まで付き合ってやるよ」
「変わったな、君も」
「お前もだろーが、堅物」
事態に気づくことができたのはアッシュの通信のおかげだ。
二人はトールズの正門前に陣取っている。
「時間をかけて育まれた男同士の友情、いいですね。はかどりますわ、色々と」
「誰かの青春を支える、また別の青春。うんうん、熱くなるシチュエーションだよ」
彼らの後ろに、アルフィンとオリヴァルトが現れた。
「殿下方……なぜこちらに?」
「クルトさんが屋上からそっと抜けた時に、わたくしもなんとなく察しまして。お兄様にも事情を話して、ご協力頂けることになった次第です」
「し、しかし危険です」
「承知しています。ですがセドリックのために、わたくしとお兄様が尽力しないなどありえません。どうか意を汲んでは頂けませんか」
どうあっても退いてはくれなさそうだった。
だが皇族が援護してくれるなら、荒事を避けられる目算も出てくる。
「わかりました。ではお二方は後衛でフォローを――ッ!?」
視認するより先に恐怖を感じた本能が、全身に鳥肌を浮き立たせた。
暗黒のオーラを身にまとうリィンが、ゆっくりと正門に向かって坂を上がってくる。
クルトもアッシュも知っていた。過去エリゼに手を出そうとしたり、迂闊に近づいたりした者がどうなったのかを。
一番ひどかったのはパトリックで、ヴァリマールに握られたまま小一時間空の旅に連れて行かれたこともある。ユミルの寒空を二巡りして戻って時には、彼はまつ毛まで凍って静かになっていた。
「ず、ずっと神気合一状態を維持してやがんのか……!?」
「大丈夫だ。こちらに皇族がいる以上、リィン教官もいきなり強硬手段には出て来ない。まずは説得を――」
リィンの足元が小さく爆ぜた――と思った時には彼の姿は消えていた。黒い気配がクルトの背後で揺らぎ、同時にオリヴァルトが吹っ飛んでいた。
「え、え? あ――――ッ!?」
クルトは顎が外れんばかりに驚愕した。勢いよくコンクリートブロックに顔面から突っ込み、石の破片を被りながらオリヴァルトは声もなく倒れた。
あまりの衝撃に反応が遅れたクルトに代わり、アッシュは即座に攻撃に転じていた。ギミックを解除した鎖鎌をリィンの体に瞬時にして巻き付ける。
「呆けんな! シュバルツァーの野郎、相手が誰だかまるで認識してねえぞ!」
「くそっ! どうにか無力化する!」
時間稼ぎさえできればいいと思っていたのに。
《ARCUS》でアッシュとリンクしたクルトは、彼の《ヴォイドブレイカー》に繋げて《レインスラッシュ》を放った。パワーとスピードの波状攻撃だ。
リィンは合金製の鎖を素手で引きちぎると、緩慢な動作で柄に手をかける。
刹那、体感時間が狂ったような錯覚に陥った。景色がゆっくりとずれていく。何をされているのか思考が追い付かなかった。
視界の中に幾重もの閃光が刻まれ、ゆらりと刃が鞘に納められて――
「灰ノ太刀――滅葉」
鍔鳴りと同時に、周囲全てが細切れの残骸と化す。崩れ落ちた正門の瓦礫にアッシュが巻き込まれた。
「アルフィン殿下……お逃げを――」
すまない、セドリック。
意識が途切れる寸前、クルトはそれだけを思った。
●
いや、もうなんなの、この状況。こんな衆人環視の中で、何が言えるっていうんだ。恨むよ、ヴァンさん。
「え、えっと……」
「……ええ、はい」
エリゼさんもずっとこんな感じだ。それはそうなる。どう話を切り出せばいいのかわからない。
押すも退くもできず、セドリックが硬直していると、セコンドのエレインが言った。
「セドリック殿下。殿下の今のお気持ちを伝えればいいんです。言葉を飾る必要はありませんし、周りを気にする必要もないでしょう」
「そ、そうですよね」
アニエスもエリゼに言う。
「ここまで色々な方の話をお聞きし、エリゼさんも思うところがあるはずです。それを口にするだけですよ」
「わ、わかりました」
しかしそれでも二人は固まったまま動かない。
重ねてエレインが言った。
「思い返してください。二人が幼馴染として積み重ねてきた時間を。これは誰にも踏み越えることができない最大のアドバンテージ。幼少期からの思い出に勝るものなどありません」
続けてアニエスが言う。
「トールズ入学以降で共に苦難を共有し、乗り越えたからこそ今の関係があります。経験は時間に負けません」
エレインが一歩前に出る。
「形成された人格も人間関係も全ては繋がりの累積。一つ一つの出来事に紐づいた感情や気持ちは、そうそう後から上書きされるものじゃないわ」
アニエスが前に踏み出る。
「過去は過去として区切るべきだと思います。終わった過去に囚われてしまっては、未来に踏み出せないから。大切なのは、今、誰が、誰を、どのように見ているかではないでしょうか」
じりじりと前に出ていく二人。
ちょっと待って。僕たち一言もしゃべってないんですけど。というかこれ、僕たちのことに絡めているようで、微妙にあなた方の私情が入ってませんか。
僕とエリゼさんを介して、エレインさんとアニエスさんの代理戦争みたいになってませんか。
なんかズレた言い合いしてんなって顔でヴァンさんが首をかしげてますけど、多分これあなたの話ですよ。
そして全部わかってるらしいレンさんは、クスクス笑うだけで軌道修正しようともしない。
ギャラリーもギャラリーでざわつくだけ。これがカオスか。
もうダメだ。今日この場所で、これ以上エリゼさんとは話せない。
「あ、あの、いったんここは解散して日を改めて――」
「逃げて、セドリック!!」
仕切り直しを提案しかけた時、屋上の扉からアルフィンが駆け込んできた。
逃げるって何から。そう問う前に、足元にヒビが入った。
轟音と共に床面をぶち抜き、銀髪赤眼のリィンが屋上に現れる。
「なんでリィンさんが……!? アルフィン、これはどういうことなんだ!?」
「説明は後よ! 今のリィンさんにはセドリックが誰かもわかってないの! でも間違いなく標的にされてるわ!」
「……!?」
意味がわからない――わけじゃない。リィンさんはエリゼさんを大切に想っている。彼女のためなら、忘我の鬼ともなるほどに。
僕を敵と見なしているのか。
「シャアアアア!」
「来い、フレスヴェルグ!」
襲ってきたリィンの斬撃を、召喚した魔導剣で受け止める。なんて剣圧。踏ん張った踵がコンクリートの足場にめり込みそうになる。
この異常事態にギャラリーの反応も早かった。ヴァンを始め、全員が武器を構えて臨戦態勢に入っていた。
「正気に戻って下さい、リィンさん!」
声掛けは意味をなさなかった。
下段からの螺旋撃、円の体捌きを使った
シングルドライブでは手数に押される。セドリックは《フレスヴェルグ》の二段階目を開放し、デュアルドライブを放った。
0.7掛けの威力のアーツを二連撃。火炎と旋風が組み合わさり、爆炎の壁となる。
鬼の影が揺らめき、炎が切り裂かれた。カウンターの斬月から見舞われた飛空斬が肩をかすめる。刃の摩擦が大気を焦がし、虚空に火閃が走った。
息もつけない。瞬きもできない。これが剣聖の太刀。
「できれば別の形で仕合いたかったですけど……!」
リィンが低く構えた。
横一線の神速の居合抜き。無想覇斬だ。
結晶回路をスイッチして属性変更。雷光をまとった刀身で正面から迎え撃つ。
相殺。波動が弾け、ビリビリと手の内がしびれた。
エリゼが叫ぶ。
「まだです、セドリックさん! この技の並びは!」
わかっている。次に来るのが極限の一撃。
セドリックはシングルドライブに切り替え、《フレスヴェルグ》の威力を最大まで高めた。
ユーシスの《スレイプニル》と異なり、一戦闘中に一度だけなら上位アーツにも耐え得る。しかし駆動が間に合うか。
リィンの太刀に凄みが映る。セドリックの魔導剣に空属性の導力が満ちる。
エリゼさんの手を取ろうとするなら、いつかはあなたの背中は追い抜かさないといけない。そうでないと認めてもらえない。これが今、僕に出せる全て――!
「あああああ!」
八葉一刀流《無仭剣》と《セヴンス・キャリバー》を宿す斬撃が激突した。
派手に崩壊する屋上。阿鼻叫喚の中、ギャラリーごと崩れ落ちる足場。強烈な余波を受けて、トールズ本校の上階の窓ガラスは全て砕け散った。
吹き飛ばされたセドリックは、瓦礫の山に体を打ち付ける。
「うっ、く……」
建材の破片をかぶりながら、セドリックはなお立ち上がる。ダメージに膝が笑っていた。
リィンは平然と歩いてきた。圧倒的だった。というか本気で容赦がない。パトリックさん、よく無事に卒業まで生き残れたな……。
太刀が振りかぶられる。
「いい加減にして下さい、兄様!」
エリゼの一喝。わずかにリィンの動きが止まる。
その隙に弾かれたように飛び掛かり、セドリックはリィンにタックルをぶつけた。
一気に押し返して掴みかかり、そのまま校舎の外側に飛び出す。屋上の床が抜けているとはいえ、それでも三階ほどの高さがあった。
「僕じゃまだ安心してエリゼさんを託せないですよね。でもいつかもっと強くなって、リィンさんの代わりにエリゼさんを守れるようになったら……」
好きな女の子一人守れないで、国なんか守れるわけがない。
何か自分の中で覚悟が決まった気がした。
「うわっ!」
「私、守られてばかりのか弱い女の子じゃないですよ……!」
エリゼがセドリックの腕をつかんで引き留める。リィンだけが落ちていった。
エリゼの助けを借りて、セドリックはどうにか屋内によじ登る。
この惨状に観客たちは三々五々に散っていて、近くには誰もいない。ヴァンらしき両足が瓦礫から突き出しているくらいだった。
「エリゼさん、僕は君のことが好きだ」
「こ、このタイミングで言います?」
「前のタイミングこそ変だったと思う。ごめん」
「いいえ。驚きましたけど、その……嬉しかったです」
目は逸らさない。
「セドリックさんが私に伝えたかったことは、そのお気持ちですか?」
「そうだけど、そうじゃない」
この先だ。ヨシュアさんの言葉に答えはあった。そう、今、僕が君に望むのは――
「僕を男として見てくれ」
●
なんて台詞を、なんてまっすぐに言うのだろう。
「まずはそれだけでいいんだ。僕はまだエリゼさんに相応しくない。いつかきっとリィンさんにも勝ってみせる。あ、いや、一太刀くらいは入れるようになってみせる」
急にハードルが低くなった。
この決意と自信のなさが交互に揺らぐのが、なんともセドリックらしかった。
エリゼは思わず笑った。
「その時は改めて……えっと、おかしかったかな」
「ごめんなさい、そうじゃないんです。……ただ、私こそセドリックさんに相応しいとはとても言えません」
「そんなこと……」
「あるんですよ」
小さく嘆息する。
「こう見えて結構怒りっぽいですし、兄様関連ではそれなりに嫉妬しますし、まあそこはあくまで妹としてですけど。それに姫様いわく頑固ですし、機嫌悪い時は部屋に引きこもりますし。私、セドリックさんの想像するようなお淑やかな女子じゃないんです」
「いや、その辺は知ってる」
「え、そうでしたか」
「それも含めてなんだ」
「め、面と向かって言うのは……」
彼にはあまり見せないようにしていたのに。
私が感じる以上に、彼は私のことを見て、理解もしてくれていた。
思い返せば、トールズに入学してから卒業するまで。私はセドリックさんの格好いいところも、格好悪いところも、たくさん見て知ってきた。
でもそれは私も同じ。情けなく泣いているところも、子供みたいに感情を荒げるところも、たくさん見られてきた。
重ねてきた信頼がある。育んできた絆がある。それは真実で本物だ。
でも。
互いに互いのことを知っているつもりで、本当に心の深い部分までは触れていなかったのかもしれない。《ARCUS》の力を借りていても、そこには届かなかった。
“近すぎたがゆえに――”というエステルの言葉を思い出す。
結局はそういうことなのだ。
「はい」
「え?」
「さっきの言葉に対する、私の返答です。これから見ようと思います、あなたのことを、ちゃんと」
「うん、十分だ」
「だからセドリックさんも私を見て下さい。怒ったら怖いんですから、もしかしたら私のこと嫌いになっちゃうかもしれませんよ」
「エリゼさんを怖がったりなんてしないよ」
今の関係は変わらず。この先どうなるかはわからないけれど、少なくとも意識はゼロから一へ。
頭上で鐘が鳴り響く。滅茶苦茶な破壊だったが、鐘楼塔の倒壊は免れたらしい。
「あら、確か鐘は不具合で鳴らなかったのでは……?」
見上げるエリゼ。傾いた鐘楼塔から誰かが落ちてきていた。
「おああああ!」
「え゛」
はためく白コートに金髪。トヴァルだった。
エリゼの視界の中で彼の尻が大きくなって、勢いよく彼女の顔面から押しつぶした。
「お、おお……エリゼお嬢さん……これには深い事情があってだな……!」
すぐさま飛び退くトヴァル。エリゼは無言でゆっくりと立ち上がった。
「鐘楼塔が調子悪いって聞いてな? ほらエマとかフィーとかにな? で、頼れるお兄さんが頼られてみたいな感じでな? 下ですんげえドンパチしてたから降りるに降りれなかったってのもあるしな? ははは……ねえ?」
エリゼの表情は筋一本たりとも動かない。怒気もない。完全なる無だ。おそらく今のエリゼなら無仭剣が撃てる。
怖がったりしないと宣言したセドリックが、秒で恐怖に震えていた。
「あ、あの、お嬢さん。なんか言って……」
「首、痛いなあ」
うわごとのようにつぶやくと、エリゼは静かにレイピアを引き抜いた。
そのエリゼの後方はるか遠く、アークライド事務所の方角から銀色の光が立ち昇っている。
トヴァルの慟哭に重なるように、最後の《
――つづく――
《話末コラム①》【リィンの神気合一】
セドリックとエリゼを巡る一連の事件で、リィンは衝動的に神気合一を使用した。
すでに無想神気合一が使えるようになっているにも関わらず、それでも“鬼の力”の方が勝手に発現した理由は推して知るべし。
なので最初はまだ自我があったが、鬼の力を長時間維持し続けたことで最終的には忘我の状態に陥ってしまった。
●
《話末コラム②》【その後のリィン】
瓦礫の中で意識を回復したが、なぜ自分がここにいて、なぜトールズが半壊しているかの記憶は残っていなかった。
他の人に何があったのか質問するも、乾いた笑みを返されるだけで誰も答えてくれない。
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《話末コラム③》【その後のクルトとアッシュとオリヴァルト】
「責任を感じるだろうから」というオリヴァルトの配慮で、自分たちをぶっ飛ばしたことはリィンに伝えないことになっている。
灰ノ太刀《滅葉》はよほど強烈だったらしく、アッシュはしばらくリィンに敬語になった。
クルトはセドリックが真っ向からリィンに立ち向かったと聞いて、感涙にむせび泣いた。
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《話末コラム④》【その後のトールズ士官学院】
翌日には元通りに修復されており、何事もなかったかのように鐘を鳴らしている。
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《話末コラム⑤》【ギャラリーたちが集まってきた経緯】
エリゼチームとセドリックチームの聞き取りから事情を察した者たちが、当初はこそっと見守るつもりで、屋上に気配を消して潜んでいた。
しかし話が広まるにつれてどんどん人が増えていき、全然潜めなくなったため、もう開き直って二人を囲むことにした。
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《話末コラム⑥》【その後のギャラリー】
校舎の半壊と同時に総員退避。一応は離れて成り行きを見守っていた。
とりあえずリィン・シュバルツァーは妹が絡むとやばいという共通認識になった。
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《話末コラム⑦》【各メンバー待機場所(サラ合流時点)】
①アークライド事務所:ヴァン、アニエス、フェリ、アーロン、リゼット、カトル、ベルガルド、エレイン、レン
②バルフレイム宮(城エリア):アルフィン、セドリック、エリゼ、デュバリィ、スカーレット、クレア
③グランセル城(城エリア):エステル、ヨシュア、アガット、ジン、クローディア、オリヴァルト、シェラザード、ティータ
④第三学生寮(ヘイムダルエリア/オスト地区):リィン、ラウラ、エリオット、フィー、ユーシス、エマ、マキアス、ミリアム、シャロン、ヴィータ、アリサ、セリーヌ
⑤第Ⅱ分校学生寮(学校エリア):ユウナ、クルト、アルティナ、ミュゼ、アッシュ
⑥特務支援課事務所(ミシュラムエリア):ロイド、エリィ、ランディ、ティオ、ワジ、ノエル、リーシャ
⑦遊撃士トラック(エリア不定):トヴァル、サラ
⑧クレイグ邸(ヘイムダルエリア):トワ、アンゼリカ、クロウ
※サラは待機拠点として第三学生寮を使うつもりだったが、すでに満室だった。
シャロンとの同室か、トヴァルの遊撃士トラックの助手席かを迫られ、シャロンとの同室だと飲酒量の制限がかかることから、彼女は後者を選んだ。
※アンゼリカはトワを連れて、クレイグ邸を二人だけの拠点にしようと目論んだ。
貞操の危機を感じたトワはクロウにヘルプを求め、結果として同期の三人で過ごすことになった。
同期としてジョルジュを信じる気持ちを忘れないために、食卓テーブルには彼の写真が飾られている。意図せず遺影みたいになってしまった。