黎明の軌跡 Break the Nightmare   作:テッチー

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第39話 クロス・オブ・リターンマッチ

 この声、この雰囲気。

 シズナ・レム・ミスルギであることは間違いない。

 高位猟兵団《斑鳩》の副長を務め、《白銀(しろがね)の剣聖》の名を持つ女性。

 ヴァンとは龍來(ロンライ)で遭遇している。決して友好的な出会いではなく、散々に場を引っ掻き回してくれたものだった。

 いや、彼女にしてみれば、あれが“友好的”だったのかもしれないが。

 いずれにせよ、どんな人物なのかは知っている。

「本人でも“幻影”でもねえ! だがミストマータにしてもコイツは……!?」

 主格者候補である四人のいずれもがシズナと知り合いだったとは思えない。だから彼女の“幻影”を創れるわけがない。かと言って、これまで遭ってきたミストマータとも違う。

 姿が定まっていないのだ。一応は人の形をしているものの、不定形な霧の集合体のようだ。顔の輪郭もぼやけている。

 今のところミストマータなる存在は、俺たちの認識や記憶から作られているという推察だ。さらにはベースとなった思念の保持者のもとに現れやすい性質があるのでは、とも。

 それが正しいのだとすれば、俺かシュバルツァーの思念がベースになっているということだ。しかし姿を知っているはずの俺の記憶は、どう見ても反映されていない。

 待てよ、そもそもだ。

「弟弟子って呼ばれていたが、シュバルツァーはあいつと面識があるのか? あのシズナ・レム・ミスルギと」

「そういう名前だったのか……。いや、一合の手合わせをした程度だ。しかも暗がりの中だったから、姿をはっきり見たわけでもない」

「その手合わせの結果は?」

「俺が刀を折られた」

「なるほど」

 つまりミストマータの容姿が判然としないのは、シュバルツァーがシズナを目視していないからだ。

 しかし“強い”という認識が元になって生み出されている以上、実力がオリジナルに劣るということはない。

『あれ? 中途半端な形だなぁ。そちらの御仁は私のことを知っているらシいね。なら容姿の補填をさせてもらおうか』

 シズナらしき影が手をかざすと、光の線が高速で伸びてきた。しかしその光はヴァンに到達する寸前に弾けて消える。

『おや……ああ、そウか。君が“霧を晴らすもの”か』

「俺からは思念を吸えないらしいな。下手にこれ以上強くなられても困るし、ラッキーと思わせてもらうぜ」

『姿の写し、記憶の移し、力の映し。どれも届カない。不思議だね。理が違うのかな』

 今の無効化に関して察しはつく。

 ジョルジュが開示した《幻夢の手記》の新たな条項も含めると、《ロア=ヘルヘイム》のあらゆる事象に《ARCUS》が絡んでいることは確定的だ。

 であればミストマータを構成する思念の抽出は、リンク機能が転用されている可能性が高い。

 今シズナから放たれたのはそのリンクラインの光だ。そして俺に届かなかったのは、俺が《ARCUS》を持っていないからだろう。

 見えてきた。ミストマータの成り立ちが。

『まあいっか。姿形はなンでも。弟弟子と、武術の心得がある様子の御仁。二人同時の立ち合いも悪クない』

 黒い大太刀がゆらりと持ち上がる。

「ったく、シュバルツァーが出くわしてなければ、シズナのミストマータはこの場には現れなかったんだろうな。一体いつやり合ったんだ」

「今年の一月だ。家族旅行で龍來に行った時に」

「共和国に来てたのか。つーか俺らの時もそうだが、旅行者に絡んで来るのがお決まりなのか、あいつは」

 シズナが跳躍した。空中で身をひるがえしながらの斬撃が空気を裂く。紙一重で避けたヴァンの耳元を刃鳴りがかすめた。

「余計な横やり入れてきやがって。もう少しでスウィンを連れて行けたのによ……!」

「あの時のリターンマッチだ。最初から全開でやらせてもらう!」

 火花を散らす太刀と太刀。激突する二人の剣聖。

 ヴァンは後方について、追撃の機を窺った。

「まさかあいつらに因縁があったとはな。しかも今年って最近じゃ――あ?」

 おかしくないか。

 《ARCUS》持ちは1207年から呼び込まれている。そうでないカルバードチームの人間だけが1208年だ。

 もう少し厳密に言うなら、俺が雇用したアークライド事務所メンバーと、俺との縁で召喚されたエレイン、レン、ジン、ベルガルド師父の四人が同行者枠ということで、1208年の容姿と記憶を保持している。

 だからそこに属さないシュバルツァーの記憶は、当然1207年までしかない。具体的にはクロスベル再事変解決まで。これは今までに何回も確認しているから間違いない。

 だが1207年の一月は、エレボニアの状況が落ち着いていない。戦後処理のど真ん中で、とても共和国に旅行などできる状況ではなかったはずだ。

 とすれば彼が言った“今年”は、1208年の一月。彼にとっては、まだ到達していないはずの時間軸。

「何がどうなってる……!?」

 

 

《――★第39話 クロス・オブ・リターンマッチ★――》

 

 

「なんでもかんでも取り上げやがって……気に入らねえな」

 カジノフロアの一角。バーカウンターによりかかるランディは機嫌が悪そうだった。

 カジノが《パンタグリュエル》に接収されたことに納得いかないのだろう。

「私としてはちょうど良かったですが。やはりミシュラムにあるべき施設ではありませんので」

 対するティオはふふんと満足げに鼻を鳴らす。

「あ? なんだ、ティオすけ。ずいぶんと余裕じゃねえか」

「カジノ撤廃を喜ばないわけないでしょう。そもそもが不法占拠でしたけど」

「《ロア=ヘルヘイム》に法律なんかねえよ」

「ミシュラム法は異世界でも有効です」

「ミシュラムにも法はねえだろ!」

 カジノの是非を巡る二人の争いは続いており、メインエリア攻略中にも関わらずこの調子である。

「あなた達、いい加減にしなさい。ランディも、ティオちゃんも。ロイドからもそう言われているでしょう?」

「だってよ、お嬢。ティオすけが融通の聞かねえ堅物で――」

「聞いて下さい、エリィさん。元はと言えばランディさんが無許可で公序良俗に違反する建築物を――」

「聞きません」

 エリィはぴしゃりと遮る。特務支援課におけるこういう時の統制役は、ロイドではなく彼女が務めることが多かった。

「すまない、エリィ。もう一度俺が言おうかと思ったんだが」

 ロイドが頭をかきながらそばにやってくる。

「リーダーの補佐は私の役割みたいなものよ。……大丈夫? 艦に上がってきてから、少し考え込んでいるようだけど」

「そんなことないさ。いよいよ最後のエリアだから、らしくもなく緊張してるだけだ」

「そうじゃなさそう。当てるわ。ルーファスさんのことでしょう」

「……驚いたな」

「何年あなたのとなりにいると思ってるのよ」

 ロイドは何かを思い詰めているみたいだった。このタイミングでそうなるということは、ルーファスのこと以外には思い当たらなかったのだ。

「わかるわ。すぐには割り切れないわよね」

「まあ……そうだな」

 どこか煮え切らない態度というのも、ロイドにしては珍しかった。

 ルーファス・アルバレアはクロスベル占領時の総督だ。彼の辣腕によって、自分たちはもちろんのこと、クロスベルの人たちは長く自由を奪われた。土地を、発言を、文化を――誇りを奪われた。

 ただ後に続くクロスベル再事変は結局ルーファス本人の仕業ではなかった。最後には身を犠牲にする覚悟で《逆しまのバベル》を止めもした。

 それは彼の印象を大きく変えるものではあったが――それでもクロスベル人としては簡単にリセットなどできない。

 ルーファスが入院中、ロイドは彼に会いに行っていない。そしてその間にルーファスは行方をくらましている。

 だから二人には、話をする機会がなかった。

「複雑な気持ち?」

「そこまでややこしい感情じゃない。ただ落としどころはどこだろうなと思って。第七エリアの主格者、エリィはルーファスだと思うか?」

「正直わからないわ。あの四人の中ではリーダー格でしょうけど、それぞれが強い望みを抱いているようだし、主格者のアイテムの特定もできていないから」

 ルーファスは船倉で《オーディンの左目》をよく使っているらしく、一方でエステルが《エインヘリヤルの霊珠》とやらを手に入れたそうで、さらにラピスが時計らしきものを持っているとの情報もある。

「今さらだが、エリィは特務支援課のブレインだよな。全体のことをよく見てくれてる」

「頭脳というならロイドでしょう」

「俺は意見のとりまとめ役で、リーダーとして皆の前に立つだけだ。俺たちを効率的に動かすのは、もしかしたらエリィの方が向いてるのかもしれないな。案外カジノとかやったら強いんじゃないか?」

「どうかしら。ギャンブルはともかく、ボードゲームは得意な方だと思うけど」

 エリィはカジノフロアに目を向けた。スロットマシン、ルーレット、ポーカーテーブルなど、ランディこだわりのラインナップが潤沢にそろっている。

「第一、私たちは従業員の役割を与えられているじゃない。スタッフ同士で遊んでるところを見つかって、エリアのルールに違反していると認識されたら大変だわ」

「それはその通りなんだが……」

 ロイドが視線を送った先では、ワジとアルフィンがポーカーに興じている。そこそこ盛り上がっているようだ。

 カジノフロアの担当メンバーはノエルとリーシャをのぞくクロスベルメンバーで固められているが、その中にはなぜかアルフィンも入っている。

「カジノの配置にして欲しいって、ご本人が強く要望されたそうね。ミシュラムエリア攻略の時にカジノゲームにはまっちゃったらしいけど」

「セドリック殿下やエリゼから、彼女はギャンブル依存症の気配があるから注意してくれって依頼を受けてるんだよな……」

「セドリック殿下とエリゼさんと話したの? お二人の様子はどうだった?」

「ん? 特には。普段通りだったと思うが」

「……こういう時にあなたの観察眼を発揮できたらいいのにね。今さらかもしれないけれど」

「俺、責められてるのか?」

「正解」

「なんで?」

「そこは推理パートよ」

 あの二人が今、普段通りなわけがないでしょうに。あえて言うなら、普段通りを演じているだけだ。

 お互いに微妙な距離感にはなっているはずで、でもなんだか意識して照れて恥ずかしくて――そんな甘酸っぱい青春の一ページを刻んでいる。

「うらやましいわ」

「なにが?」

「推理どうぞ」

 社会人として仕事をしているけれども、青春に年齢は関係ない。

 私だって胸がときめく思いはしたい。そういう話をアリサさんともよくする。

 とはいえ、それどころじゃなかったというのが、時代に翻弄され続けたクロスベルに身を置く自分の状況でもあった。でもこれからは、私も。

「なあ、ロイド。お嬢がつれねえんだ。ちっと俺のグチに付き合ってくれや」 

「ロイドもポーカーやらないかい? ロイドが欲する僕の全てを賭けるよ」

 まただ。ワジとランディがロイドを取り合う最中、私がいつも蚊帳の外になる謎の現象。

 それにしてもカジノに誰も来ない。ヒマだ。

 

 ●

 

 船倉ドックのヒマは終わりを告げた。

『――つーわけで回転式の床の造設に、三色照明の作成を頼むわ。それと奈落からの昇降機がうまく動かねえ。技術者を一人派遣してくれ』

『あー、カトル君? 自動開閉式のカーテンに作り換えたいのよ。あと音響設備もいまいちだし、スピーカーの構造から変更した方が早いかなって』

 アーロンとジュディスからのオーダーは留まることを知らなかった。

 舞台の最前線で結果を出し続ける一流の役者だけあって、二人とも一切の妥協がない。

「あの人たち、僕を何でも屋と勘違いしてる……!」

 幸い資材は山のようにある。認識による物品召喚と合わせれば大体のものは作ることができる。問題は自分たちの手が回らないという一点だ。

 カトルが要り用になりそうな部品を物色していると、《Xipha》に通信が入った。

『清掃班Aのエレインよ。モップが折れちゃったわ。もういっそ掃除機に変えたいのだけど。カトル君なら作成できるかしら?』

「え……作るんですか、僕が」

『導力掃除機って翠耀石を組みこんでるのよね。なるべく出力は上げて欲しいわ。広すぎるのよ、この艦』

 話を全然聞いてくれない。結局押し切られてしまった。

「もう手一杯なんだけど! アリサさん、申し訳ないんですけど、掃除機を作ってもらえますか!?」

「ごめん、カトル君! 大浴場のお湯が温まらないみたいだから、ボイラー室見てくるわ!」

 アリサが離れていく。

「だったらティータさん! 掃除機を――」

「すみません、キッチンのコンロの配線が焼き切れたとかで、急いで修理してきますっ!」

 ティータも離れていく。

「ノエルさん、掃除機!」

「スロットが全然そろわないらしくて、アルフィン殿下が不穏だそうです! 確認してきます!」

「それ絶対後回しでいい案件!」

 ノエルも行ってしまった。

 ついさっきまで時間を持て余していたのに、こんなに一気に人員不足に追い込まれるとは。ティオかトヴァルを船倉チームに加えていれば良かった。

「カトルさん」

「わっ、フェリちゃん。どうしたの?」

 フェリに袖を引っ張られる。彼女はフリーだ。各部からの連絡の繋ぎ、船倉の調査、FIOとXEROSの相手、ピックアップトラックの見守りなんかを任せている。

「あの銀色の扉なんですけど」

 微妙に位置が変わっている扉だ。しかも“囚われ”には認識できないらしい。

 開かないのも相変わらずで、さっき見た時は艦後部の端に移動していた。

「うん、その扉が?」

「今カトルさんの真後ろにあります」

「ううぇええ!? もう何この扉!?」

 

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 ●

 

 黒霧をまとう大太刀が、淀みのない剣筋を空間に刻む。

 迂闊な間合い詰めは命取りだ。つま先にまで神経を尖らせて、踏み込んではならない一線を見極める。

『へえ? そちらの御仁も中々いい見切りの目をしてイる。いや、()かな?』

「小賢しい立ち回りは得意でな。危険の匂いには敏感な方だ」

 なんて強がってみるが、間合いの距離を普段の倍は開けている。一秒の油断もしていない。一瞬の意識の隙間を突いてくるのが、このシズナ・レム・ミスルギの剣技だ。

 その斬撃を真っ向から受けるのは、やはりこの男。

「肆ノ型――紅葉切り」

 刹那の連撃。目にも止まらぬリィンの太刀捌きの全てを、シズナは一呼吸の体捌きでいなす。

『手数の速さで押ス気かい?』

「攻め手を教える気にはなれないな」

『あはは、そレはそうだ。っと、次は緋空斬か』

 リィンの放った剣圧が、かわしたシズナの後方まで飛ぶ。切っ先の初動より早く、彼女は技を読んでいるとしか思えない。

 これは筋肉の稼働から察する先読み――だけじゃない。

「らあっ!」

『おっ』

 死角からのヴァンのスタンキャリバーを、シズナは当然のように打ち払う。

 ここは根性。弾かれる前に踏ん張り、無理やり鍔迫り合いに持ち込んだ。

「お前、八葉の技を知ってんだな。そうじゃなけりゃどんだけ先見の明を持ってても、そんなふうには対処できねえよ」

『だから彼は弟弟子だって。師が同じなのさ。流派はまあ、同じとも言えるし、違ウとも言えるけど』

 一方、リィンにも事情はよくわからないらしい。

 確実なのはシズナとリィンの流派に何かしらの繋がりがあって、シズナはリィンの技を知っていて、リィンはシズナの技を知らないことだった。

 本家から分派した流派が八葉という線もあるが、そういうのは大抵開祖の弟子が作るもので、開祖本人が分派を作るとも思えない。

 疑問点はもう一つある。

 シズナはリィンの思念から作られたであろうミストマータなのに、リィンが知り得ないことも記憶として構築されているものなのか?

『余計なことを考えてるヒマがあるのかい? 今はどうでもイいことだよ』

「戦いの最中に色々思い悩んじまうのは俺の悪い癖でな。今後の参考にさせてもらうぜ」

『君は切り替えらレるタイプに見えるけど。こんな接敵の最中に会話をするのは、私の意識を君にとどめておキたいからだろう』

「やりにくいったらねぇな」

『お褒めに預かリ光栄だ』

 回り込んできたリィンの一刀を、シズナはヴァンのスタンキャリバーも止めながら絶妙の角度で受ける。

 注意の逸らしも看破されていた。まだもう一手足りない。

「おいスウィン! いつまで傍観してんだ! 俺たちに加勢しやがれ!」

 ぎりぎりと刃を押し返されながら、ヴァンはリング外のスウィンに叫んだ。

「は? 一緒に戦えっていうのか? オレが、アンタたちと? そんなことをする意味がないだろう」

「いいや、意味ならある。お前の望みに近づけるぜ」

「なに……?」

 余計な自己主張をしないくせに、お前が一番わかりやすい。

 知ってたさ、お前の望みなんて。数年前に逃走の手引きをしてやった時から。

 俺の車の後部座席に乗って、やっと休めるタイミングだったのに、一睡もせずに一人で見守っていたもんな。

「ナーディアを守り切る力を身に付けたいんだろ! だから闘技場から離れようとしねえんだ」

「なんで、それを……」

「いいか? 相手の《白銀の剣聖》は格上も格上。剣士の最高峰だ。そんでこっちにも《灰の剣聖》がいる。超一流との立ち合い、間近で実践できる連携。闘技場で闇雲に戦い続けるよりも遥かに中身の濃い修練だと思うがな。こんな絶好の機会をみすみす逃すのか?」

「……! 乗ってやるさ、その口車に」

「上等」

 双剣を携え、スウィンがリングに立つ。高速で接近し、彼はシズナを狙った。

 

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『この実力の三人を捌くのは至難だ。いいね、楽シくなってきた』

「卑怯とか抜かすなよ」

『まさか。仕合と死合は違ウからね。闇討ち、乱戦、罠仕掛け。ルールの縛りなどないのが本来の戦いだ』

 シズナは飛び退き、距離を取った。身を屈めた居合の構え。

『零の型――双影(ふたえ)

 突進するシズナの姿が二つに分かれる。写し影と共に交差する二重の閃撃が駆け抜けた。

 まるで烈風。目で追うことはできず、ヴァンは反射で身を逸らす。

 空気が揺らいだと思ったら腕に裂傷ができていた。

「切り結びは俺が請け負う! ヴァンとスウィンは陣形を維持したまま、多角的な攻撃を続けてくれ!」

 リィンが最前衛でシズナを相手取る。

「あいよ、弾なら余るほどあるからな!」

 ヴァンはコインを指弾で弾く。カジノのゼムリアコインをくすねていたのだ。両手を使って計十枚を弾丸のごとくばら撒く。

 その隙間を縫って、スウィンが切り込んだ。素早い連撃を目くらましにしながら、シズナの懐までスライディング。体全体をバネにして跳ね起き、えぐるように蹴り上げる。

『おッ、やるね』

「クイックストライカーが止められるのか……!」

 スウィンの靴裏を、シズナは柄頭で防いでいた。しかもリィンの太刀も受けながら。

 その間にヴァンは高く跳躍。空中前転の勢いを加えた《レイジングバスター》を叩きつける。リングの床は砕けるも、シズナには当たらなかった。

『三人がかリでも、ここらで頭打ちか。霧払いをヤめるなら降参も認めるよ。その代わり《夢の綻び》の在りかは教えてモらうけどね』

「言っただろう。俺にとってのリターンマッチでもあると。刀を折られた借りは返させてもらう」

『意外と根に持つタイプかな。食えナい兄弟子たちと違って、可愛げのある弟弟子だよ』

「――無想神気合一」

 リィンの全身から闘気が噴き上がる。

 ヴァンが最初に見たものとは質が違っていた。禍々しいオーラの気配がなく、髪も白く染まらない。だが遥かに洗練された気の波動。

『内気功の一種か。こんな感じかい。――神氣合一』

 太刀を正眼に構えるシズナに、同様のブーストがかかる。

 溢れ出た力はリィンとは似て非なるものだが、闘気の上昇は彼に勝るとも劣らない。

 ちりちりと空気が戦慄(わなな)く。

 相対する二人の姿が消えた。同時、虚空に斬撃の閃きだけが幾重にも爆ぜる。《九十九颯》と《裏疾風》の衝突だ。

 残光と剣戟がずれて聞こえてきた。切っ先の動きが音速を越えている。わずかでも手の内を狂わし刃筋を乱せば、空気抵抗だけで刀身がへし折れる世界だ。

 これが剣聖と呼ばれる者同士の戦い……!

「スウィン、命かけて踏み込むぜ。覚悟決めろよ」

「あれに割って入るのか……!? 拮抗してるんだぞ」

「だからだ。拮抗したままじゃ永遠に勝てねえ。シュバルツァーの渾身の一撃を確実にシズナに命中させる必要がある」

 ごくりと息を呑んだのも一瞬、スウィンは双剣の片方を順手に、もう片方を逆手に持ち替える。

「さあ、ぶちかますぜ!」

 スタンキャリバーを掲げ、出力全開の電撃をシズナとリィンの周囲に発生させる。

 その雷の檻に二人同時に飛び込んだ。

 初手から放った《ヴァンダライズレイド》はシズナに届かなかった。だが関係ない。さらに電撃を放つ。コンマ一秒でも動きが鈍ればいい。

「ビビんなよ!」

「誰が!」

 二つの剣がギミックで合わさり、一振りのブレードとなった。赤い光を刃に宿して、スウィンは石の地面を削りながら切り上げる。

 ヴァンの雷の後押しも得て、ほとんど特攻で繰り出した《スリー・オブ・ソーズ》が、漆黒の大太刀と打ち合った。

「うっ、ぐ!」

『悪クないけど、脇が甘い』

 (しのぎ)の上を滑らされ、ブレードがいなされる。周囲の温度が急激に下がり、氷結した大気中の水分がスウィンの足元を凍てつかせた。

「――嵐雪」

 即座に割って入るリィンが、太刀にまとう炎を巻き上げた。《螺旋撃》が《嵐雪》の威力を相殺する。

 一足一刀の間合いで、シズナとリィンが流れるように太刀を納めた。

 急激な静寂。音が消える。空気の振動が遮断されていた。まずいのが来る。ヴァンはスウィンのパーカーを引っ掴んで離脱する。

「八葉一刀流、奥義」

『黒神一刀流、皇技』

 

《無仭剣》

《零月一閃》

 

 二人の口元が技名を重ねた刹那、視界に映る全てが裂けた。闘技場のリングが粉々に崩壊し、斬光が縦横無尽に入り乱れる。もはや何が起きているかもわからない。

 リィンの最後の一刀がシズナの左胸――黄金の歯車を捉える。しかしそれより早く、シズナが防御の構えを取った。

『急所狙いなのはわかっていたよ。見込みは外レたね』

「いや、狙い通りだ」

 丹田を絞り、締め込む手の内。全身で生み出された力が、淀みなく刃に通る。

 リィンの上段からの切り下ろしが、シズナの大太刀の中腹を両断した。

暁鴉(あけがらす)が……!?』

 砕けた刀身に赤い刻印が輝いていた。

 ヴァンに引きずられながら、スウィンが言う。

「オレの武器は特別製だ。一撃目でマーキングした位置に寸分違わず二撃目を入れると、その威力が倍加する」

「シュバルツァーの全力のさらに倍か。そりゃ切れねえはずがねえな」

 リィンが狙っていたのは、さっきの《スリー・オブ・ソーズ》でスウィンが仕込んだ刻印だった。

 刃の破片が地に落ちるより早く、リィンはシズナに切っ先を突き付ける。

「これにて勝負ありとして欲しいが、どうだ」

『つれないなぁ。これからだよ、楽シくなるのは――と言いたいところだけど、時間切れだね』

 カランと床に何かが落下した。黄金の歯車の欠片。ミストマータの心臓部だ。

『私の技の衝撃に、私自身が耐えられなかッたらしい。そもそもが不完全な体だったからね。残念ながら、ここで幕引きだよ』

「そうか、個人的には釈然としないが」

『弟弟子の君とはまたどこかで会うだろうさ。この私ではナいだろうけど。その少年も見込みがあるし、そちらの御仁――ヴァンと言ったかな。君も良カった』

 崩れかけた黄金の歯車が回り、そこから発した光がヴァンに向かい、そして弾けた。

『やっぱり君からは何も吸い取れないか。霧を晴ラす招かれざる客人。いや、本来なら招かれようもない客人か。……なるほど』

 シズナの目が細まった。

『“夢の綻び”の正体がわかったよ。これは見逃セないね』

「なんだと……?」

 しまった。“観の目”も使うのか。

 何を見通したのかは知らないが、今あいつは“夢の綻び”とやらに関する重要な何かに気がついたらしい。

 情報を先に握られることは、こちらの対策が後手に回るということだ。

「そいつはなんだ。教えろ」

『いいよ? 当てられたら教えテあげる』

 招かれざる客人。夢の世界にできた綻び。推測できるのは――

「“夢の綻び”は……俺自身だ」

『はずれ』

 くそ、恥ずかしいぜ。シズナはクスクスと笑う。

『あ、そうだ。“夢の綻び”のことは、私のお仲間たちに共有シておこう。《王》の役に立たなきゃね』

「待て!」

『じゃあ、さようなら。本当に楽シい一時だった。クロガネもいたら良かったのになぁ……』

 完全に砕ける黄金の歯車。シズナの体は塵のように崩れ、形を失った黒い霧がどこかへと散っていった。

 

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「はあぁ……」

 三人そろって瓦礫の上に尻を落とす。

 ナーディアの元にスウィンを連れて行く気力は、もう残っていなかった。

 

 ●

 

「うぅ、疲れましたね……」

「ホント、立ちっぱなしで足がむくんじゃったわ」

 アニエスとレンは第五層の甲板に出てきていた。

 ラピスは満足していないが、休憩するとのことでレストランから離れた。そのタイミングで二人も小休止に来たのだった。

「はあ、風が気持ちいいです。もう夕方ですね」

「ノルドエリアと違って、今回は攻略に時間制限はなさそうね。慎重に進められるのはいいことだけど」

 従業員が寝泊まりできる詰め所が二層に用意されていた。

 もっとも機関室の真上という配置なので、ガタガタと騒音は響いてくるのだが、そこはあくまで従業員扱いということなのだろう。アーロンは客間を使わせろと文句を言っていた。

 地平に沈みゆく夕日が滞留する霧に乱反射して、延々と広がる大空を朱に染めている。

 このまま真っ直ぐ飛んだらどこまで行けるのだろう。そんな疑問はあったが、《パンタグリュエル》はゆったりと旋回飛行を続けていた。

「あ、知ってました? 従業員でも夜なら鳳翼館の温泉に入っていいそうですよ。これはテンション上がっちゃいますよね!」

「そういう時はテンションアガットっていうのよ」

「なぜアガットさんが」

「それはそうと鳳翼館は大浴場よね。アニエスが成長したか見て触って測って確認してあげるわ」

「百歩譲ってそれを了解したとしても、測るだけで事足りますよね?」

「事足りても物足りないでしょ。それともなに、混浴でヴァンさんにでも測って欲しかった?」

「話が測って欲しい前提にすり替わってるんですが……あれ?」

 アニエスは甲板の船首近くに人影があることに気づいた。特徴的なピンクのツインテールは、確かナーディア・レインという少女だ。

 彼女は第四層の温泉やら劇場やらのリラクゼーションフロアで、主に行動していると聞いていた。

 アニエスたちは近づいて声をかける。

「あの、ナーディアさん?」

「あ、従業員二号と七号だ」

 振り向いたナーディアは困り顔だった。

「あら、ナンバリングで管理しているのね。効率的だわ」

「人道的ではないですけどね……」

 一号は多分ヴァンさんで、フェリちゃんが三号なんだろうな、とアニエスは思った。

「ナーディアさんは何をしているんですか?」

「なーちゃんは困っているのです」

「もう少し具体的に教えてもらえると……」

「あれだよー」

 甲板から身を乗り出して、下を指さすナーディア。

 二人が首だけ出して確認すると、数十アージュ下方の外壁に、クマのぬいぐるみが挟まっているのが見えた。

「なーちゃんのクマ男爵……前に失くしちゃって。ようやく見つけたんだけど、どうやっても届かないんだよ」

「任せて、ナーディアさん。私の後輩がきっちり取ってくるから」

「私ぃ!?」

 声が裏返った。

「だってあんな場所に引っ掛かってるのよ。いつ風に飛ばされるかもわからないじゃない。そうなったら、また《オーディンの左目》とかを使われて、地上ごとぬいぐるみを回収しようとするかもしれないわ」

「そんなダイナミック回収されたら確かに困りますけども……そこじゃなくてですね! どうして私が降下役なんですか!」

「アニエスにとって私はなに?」

「それは……先輩ですが」

「じゃあ私にとってアニエスは後輩よね。可愛い後輩は敬愛する先輩のお役に立ちたいものよね。その機会を与えてあげると言ってるの。存分に役立ちなさい」

「論理がひどい…」

 とはいえ“囚われ”の望みは叶えていくのが鉄則だ。知った以上、見過ごしはできない。

 落ちていたロープをアニエスは自分の腰にしっかりと括りつける。次にそのロープの先端を近くにあった金属の輪っかにきつく結んだ。

「はあ……じゃあレン先輩。絶対にロープが外れないように見ててくださいね」

「ねえ、聞いてくれる? 今日の昼に外壁掃除で同じようにアガットさんがロープで降りたらしいんだけど、エステルったら命綱の固定を忘れちゃったみたいでね。普通に落下しかけたらしいのよ。我が姉ながらおっちょこちょいなんだから」

「このタイミングでその話題を出す意味あります……?」

「緊張感を持ってもらおうと」

「不安感だけが煽られました」

 入念に何回も何回もロープをチェックしていると、横からナーディアが言った。

「大丈夫だよ、万が一落ちてもなーちゃんが助けてあげるから。糸と針を組み合わせて二号さんの体に巻き付ければ、即席の命綱代わりにはなると思うし」

「あ、だったら私の鎌に糸を結んだ方がいいと思うわ。ほら、なんだかこう、引っかけやすい形になるでしょ?」

「そこに引っ掛かった場合、もれなく私の体が真っ二つになりますけども……」

 この二人には武器以外で助ける選択肢がないのだろうか。

 アニエスは慎重に降下を始めた。風が強くてロープが揺れる。なるべく下を見ないように、少しずつ下がる。もう少しテンポよく行きなさいとか上から指示が送られてきたけど、私は何も聞こえていない。

 しばらくすると、二人の談笑の声がするようになった。ロープが解けていないか、ちゃんと見てくれてますよね?

 苦慮しながら、どうにかぬいぐるみに到達。ぷるぷると指先を伸ばし、クマ男爵なるそれをたぐりよせる。

「お、重っ!?」

 ぬいぐるみの重量じゃない。絶対中に何か仕込まれてる。

 暗器の類が飛び出してこないことを祈りつつ、アニエスはクマ男爵を抱えた。

 甲板に合図を送り、引き上げてもらう。

「二号さん、ありがと~」

「ど、どういたしまして」

「名前聞いておこうかな。なんていうの?」

「アニエスです」

「だったら、あーちゃんだね。アーちゃんじゃないよ、これ重要」

「よくわかりませんけど、お好きにどうぞ」

「なーちゃんのことも可愛く呼んでいいよ?」

「ではナーディアちゃんで……」

 緊張しっぱなしで、足がガクガクだ。甲板に戻ってから改めて恐怖が去来する。

「そちらの七号さんは?」

「私はレンよ」

「レンちゃんかー。実は知り合いに同名の人がいるんだよね」

 それはおそらくレン本人のことだ。しかし名前を聞いてなお、ナーディアは目の前の彼女を“知り合いのレン”とは認識できていなかった。

「あ、そうそう。アニエスが降下中に話してたんだけど、ぬいぐるみに近い下層に降りて、艦内の窓から回収した方が安全だったわよねって」

「……談笑の内容はそれでしたか……」

「顔が怖いよ、怒らないでよ。がんばってくれたあーちゃんには、これをあげるから」

 渡されたのはクリスタルのバッジだ。

「はーい、《エインヘリヤルの霊珠》の一つ。大切に持っててね」

「何か効果があるんですか?」

「内緒だよ。それじゃあ明日もお仕事よろしく~」

「待って」

 艦内に戻ろうとするナーディアを、レンが呼び止めた。

「あなたの願いは何かしら? 従業員として雇用主の希望は知っておきたいの」

「なーちゃんの望みは昔から変わらないよ。すーちゃんと二人でまったりハッピーライフを送ること」

「そうだったわね」

「でも」

「?」

 ナーディアは小さな声で付け加えた。

「今はそこに、ラーちゃんとルーファスが入ってもいいと思ってる」

 

【挿絵表示】

 

 

 ●

 

「あー、体が痛え……」

 ハードな戦いだった。三人がかりでどうにか押し切ることができたが、底の知れない本物のシズナなら、そう易々とは行かなかっただろう。

「大変だったな。背中でも洗わせてもらおうか」

「剣聖様にそんなことしてもらった日には、あんたのファンから目の敵にされちまう」

 リィンの申し出を遠慮すると、ヴァンは桶の湯を頭から浴びた。

 鳳翼館の露天風呂――湯船脇の洗身場だ。

 従業員がここを使えるのはありがたい限りだった。露天といっても、霧の夜空では星も見えないが。

 しかしシズナとの戦闘で疲弊した体を癒すには打ってつけ。あとは温泉の効能まで再現されていることを祈るばかりだ。

「これでサウナがありゃ言うことなしなんだが……」

「残念ながら鳳翼館にはないな」

「シュバルツァーはユミル領主の子息なんだろ。その権限でどうにかしてくれ」

「貴重なご意見感謝だ。前向きに検討してみるよ」

「そりゃ貴重なご意見を流すときの常套句じゃねえか」

 他にも何人か浴場に来ていた。

 アーロンとエリオットが湯につかっている。

「猛将、何も言わなくてもわかるぜ。女湯を――」

「のぞかない」

「飲み干すんだろ」

「もっとひどかった!」

 アーロンはエリオットをリスペクトしているそうだ。オレ様一番タイプのあいつが、穏やかな音楽家のどこに感銘を受けたのだろうか。

 少し離れた洗身場では、ランディとワジがロイドを挟んでいた。

「ロイド、背中流してやるぜ。たまには裸の付き合いもいいもんだ」

「待ちなよ、ランディ。ロイドの背中は僕が洗う」

「はっ、ここはどうあっても譲れねえな。事と次第によっちゃスタンハルバードを出すぜ」

「へぇ、そこまで言うなら見分させてもらおうじゃないか」

「いい度胸じゃ――いやそっちじゃねえよ!」

「おっと、これはベルゼルガー」

「やかましいわ!」

 争う二人の間で、ロイドは黙々と自分の体を洗っている。

「……俺も(なら)うかね」

 ヴァンはタオルを手に立ち上がると、別の洗い場にいるベルガルドの元に向かった。

師父(せんせい)。お背中を流させてください」

「ん? おお、おぬしに背を洗われるのは久方ぶりだ。よろしく頼む」

「強さは?」

「岩を削るくらいで良い」

 ジョークかと思ったが、ベルガルドの背中はまさに岩石のごとくだった。俺が生まれる前から、ずっと戦い続けてきたのだろう。深い古傷ばかりだ。

「ふう……ヴァンよ。仲間たちから慕われているようだな」

「押しかけバイトがほとんどですよ。人件費ばかりが嵩んで困ってます」 

「はっはっは、人徳と経費が比例するのは皮肉でもあるな。なんなら私も雇うか?」

「えぇ……冗談でしょう」

「七割くらいは本気だったが」

 もし師父がうちの事務所に来たら、俺が全力で気を遣っちまう。雑務なんか絶対頼めねえ。

 ノルドエリアで師父がメンバー加入した際、記憶の拡張が起こらなかったところから見るに、アークライド解決事務所に雇用するという未来はなさそうではあるが。

「信頼にも思慕にも誠意をもって応えるのだぞ。これは師からではなく、先駆者からの助言と思うがいい」

「はい。ん? 思慕……?」

「よいな」

「わ、わかりました」

 なぜか言葉に含みと圧がある。

 その時、浴場の扉が開いた。

「おや、賑わっているようだ」

「一気に従業員が増えたからな」

 ルーファスとスウィンだった。ここで彼らが入ってくるとは。

「我々のことは気にせずくつろぎたまえ。湯あみの場でかしこまる必要はない」

 ルーファスは洗身用の座椅子に腰かけた。スウィンはその横に座る。

「まだ体が動かしにくいんじゃないか? オレが背中流すぞ」

「お言葉に甘えようか。ではスウィン君、悪いが――」

「俺がやる」

 そう言って、湯から上がって来たのはユーシスだった。彼はスウィンに割り込み、ルーファスの前に立つ。

「あなたの背中は俺が流します。聞きたいこともありますので」

「君は?」

「従業員十七号ですよ、ルーファスさん」

 

 

 ――つづく――

 

 

 

 




《話末コラム①》【おさらい 《ロア=ヘルヘイム》に取り込まれる法則と特徴】

♥①ヴァンが雇用契約書にサインさせ、アークライド事務所で雇った人間。
特徴:1208年までの容姿と記憶を有している。《ロア=ヘルヘイム》の中でも霧に囚われることがない。段階的に記憶の拡張が発生する。
人物:アニエス、フェリ、アーロン、リゼット、カトル、ジュディス

♥②クロスベル再事変の解決にあたり、《ARCUS》での戦術リンクや個別通信を行った人間。
特徴:1207年の容姿と記憶しかない。《ロア=ヘルヘイム》に入った時点で、例外なく霧に囚われる。
人物:いっぱい(①③④以外の人たち)

♥③雇用はしていないが、現実世界でヴァンと縁があり、かつクロスベル再事変時点で《ARCUS》を使用していない人間。
特徴:1208年の容姿をしていて、《ロア=ヘルヘイム》に呼び込まれた前後の記憶にはやや混濁がある。ヴァンたちと同様に、霧に囚われない。
人物:エレイン、ベルガルド

♥④雇用はしていないが、現実世界でヴァンと縁があり、かつクロスベル再事変時点で《ARCUS》を使用していた人間。
特徴:1208年の容姿をしていて、《ロア=ヘルヘイム》に呼び込まれた前後の記憶にはやや混濁がある。リィンたちと同様に、霧に囚われる。
人物:ジン、レン

以上が判明した《ロア=ヘルヘイム》に呼び込まれるルールである。

そしてリィンは♥②に該当するため、1207年から呼び込まれているはずだが……。
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