黎明の軌跡 Break the Nightmare   作:テッチー

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第48話 虹の橋を越えて

 元々長距離の飛行を想定した設計ではない。8000アージュ以上もフルスピードで飛行したせいで、フライトユニットから軋むような異音がしていた。

 それでもあと少しもてばいい。

 《レイゼル雷閃式》のコックピットで、アリサは正面モニターに映る高度計と速度計に注意を向ける。続けてスタビライザーの状態を確認しようとしたところで、スカーレットからの通信が開いた。

『フライトユニットの出力が低下してる。今のところ機体との同期は正常だけど、ガタつきが大きくなった気がするわ。そっちはどう?」

「同じような感じですね。機甲兵の重量を抱えながら飛行に耐え得る時点で、急造品にしては上出来ですよ」

『そうは言っても、こんな状態で《ニーズヘッグ》の気を引きながら飛び回るなんて自殺行為でしかないでしょ』

「そうですけど……そこはトワ先輩たちも承知の上だったと思います」

『はぁ……なるほど。だから“腹をくくれ”ってことね。なかなかスパルタな先輩たちじゃないの』

「私たちトールズを率いて、《十月戦役》の空を駆けた艦長と副艦長ですからね。あなたなら知っているでしょう、スカーレット教官(・・)?」

『そうだったわね。じゃあ彼女らのご期待に応えようかしら』

「ええ。まずは《ニーズヘッグ》への着地を目指しましょう」

 あのドラゴンブレスは規格外だ。《カレイジャス》から発艦した今の状況で、もっとも攻撃を受けない場所は接近――ではなく最接近。すなわちその背に乗り移ることだった。

 さらに速度を上げる。接触距離まであと5000。《ニーズヘッグ》がこちらに向かって羽ばたく。

 《ユグドラシル》から離れてくれた。だがヴァンたちの突入ルートを確保するには、まだまだ足りない。

 距離2000。相手は300アージュ越えで、《パンタグリュエル》に匹敵する巨躯だ。

『この距離からでも十分すぎるくらいに大きさがわかるわね』

「それだけに乗り移れる範囲は広いでしょう。もっと近づければ――」

『前方警戒! 何か来る!』

 《ニーズヘッグ》の周りの空間が湾曲し、そこから無数の空戦用機械人形が姿を見せた。

 ああやって増援を召喚できるのか。私たちを徹底的に潰しにかかる気だろう。

 敵機からおびただしい量のミサイルが発射された。

『上等……!』

 アリサとスカーレットの気勢が重なり、《レイゼル雷閃式》と《ケストレル・レギンレイヴ》がさらに加速した。

 弾道、弾速予測。ブースターペダルを踏み込み、スティックレバーを弾く。

 アリサは手に馴染んだ操縦で、アクロバティックに機体を躍らせると、弾幕のわずかな隙間を絶妙なコントロールですり抜けていく。

 スカーレットは回避行動を取らずに直進。《ケストレル・レギンレイヴ》に接近したミサイルは、勝手に進路がねじ曲がって明後日の方向に飛んでいった。

「ずるいんですけど、それ」

『そっちもそっちでチート装備があるでしょうが』

 機械人形はまだ増え続けている。

 フライトユニットのバーニアの一つが火を噴いた。同期プログラムエラー。すぐにマニュアル操作で持ち直す。まだ飛べる。距離あと1000。

 アリサは正面モニターにマルチロックを走らせた。

 複数の照準レティクルが画面を走り、高性能の演算システムが敵機の群れを捕捉する。

 右腕部に装着していたショートシールドが展開し、開いた扇のような形状へと変じた。

 突き出した《レイゼル雷閃式》の右腕に、青白い光が収束されていく。

「リアクティブブラスター、出力18パーセント。――サンダーネイル発動」

 

 

《★第48話 虹の橋を越えて★》

 

 

 リィンが騎神を召喚したという報告が入った。

 あれは呼び出せないのではなかったのか? 疑問は持ったが、そうなら願ってもないことだ。

 空に先行したアリサとスカーレットは、すでに《ニーズヘッグ》と交戦中だ。ここに最大戦力を投入できる。

 上空の状況はいったん置き、地上の戦局に思考を戻す。

「リベール防衛チーム! カシウス先生のミストマータが出たのよね? やれてるの!?」

 《モンマルト》に設えられた臨時指令所。シェラザードはグランドリンクシステムに接続した自前の《ARCUS》に問い質す。ノイズと騒音の向こうから、エステルの返答があった。

『ブライト一家大激戦よ! 父さんの暴れっぷりがやばいわ! レンとヨシュアの三人がかりでもキツいかも!』

「応援を回すわ」

『まだいい。シェラ姉は大局を見ておいて!』

「了解。応援要請は限界の二歩手前でしなさいよ!」

 生意気言うようになってまあ。

 だがエステルの言う通りだ。戦いはまだ序盤。迂闊な人員配置をしてしまうと、戦いが進むに連れて最終的には自分たちの首を絞める。

 各地から報告が入った。

『こちらノルドエリア防衛、ジンだ。監視塔にヴァルターのミストマータが出現した。俺がやる。応援はいらん!』

『ヴィータよ。転移先のユミル地区にて緋のローゼリアと交戦中。さすがの強さだけど、エマとセリーヌの三人で押し切るつもりよ』

 続けてリーシャからの報告。切迫した声だ。

『東方人街にてシャーリィ・オルランド、ツァオ・リーと交戦中ですが、さらに《キリングベア》ガルシア・ロッシ、《閃撃》のガレスも出現! 本部に応援要請。遠距離に対応できる方を希望します』

「本部了解。すぐに派遣する」

 待機メンバーの一人に素早く指示を出すと、シェラザードは再びマップに視線を移した。

「工房エリアの報告遅いわよ! どうなってるの!?」

『すまん! 人形兵器が大挙してきやがる! ティータが隠し玉の準備に入ってるが、まだ時間がかかるらしい。それまで工房の中に敵を入れるわけにいかねえ。俺とノエルだけじゃ厳しい。近、中距離で立ち回れるやついねえか!?』

 アガットが言った。

 ほとんどのエリアで戦いが始まっている。ミストマータは最警戒だが、人形兵器も厄介だ。

 主には結社が運用していたものが再現されており、二足歩行型、戦車型、飛行型、探知型に加え、小回りの利く小型タイプから重火器タイプと、とにかくバリエーションが多いのだ。

「本部了解。工房エリアにも応援の手配をするから、どうにか持ちこたえて!」

 また待機メンバーに派遣の指示を出す。

 次はどうする? 相手はどう出る? このペースで持つのか? 

 敵を倒すのが目的ではない。ミストマータをこの“夢の綻び”に侵入させないこと。

 そしてヴァンたちを《ユグドラシル》に向かわせる隙間を作ることが作戦の第一目的だ。

 慎重かつ迅速な判断を。大丈夫、今まで幾度となく繰り返してきた。

「一人で抱えなくていい」

 オリヴァルトがシェラザードの肩に手を添える。それだけで、わずかに緊張が解けた自分がいた。

「僕もいる。安心したまえ」

「あんた、今のところ何もやってないけどね」

「手厳しい……」

 シェラザード補佐はオリヴァルトとクローゼだ。クローゼはスタンバイ中のカルバードチームへの情報共有をしてもらっている。

「まあでも、オリビエはあたしのそばにいてくれれば、それでいいわ」

「役得だ。君だけに負担がかかるのは望まないし、そうなるとお腹の子も心配だからね」

「それがさっきからやたらと動きまくってるのよ。この局面に興奮してるのかも。もっと攻めてけって主張してる感じ」

「君に性格が似てるのかな。はは、末恐ろしいね」

「何か言って?」

「すみませんでした」

 

 ●

 

 ノルドエリアは範囲が広すぎる。

 この区画の防衛に関して言えば、ガイウスの主格者としての探知能力は必須だ。

「たとえ幻影だとしても、この地で暴れられていい気はしない」

 草原の土くれを跳ね上げる二足型の人形兵器を、ガイウスの槍が貫く。

「僕が隙を作る。君が仕留めろ!」

「言われるまでもない」

 マキアスがショットガンで敵の体勢を崩し、そこにすかさず飛び込んだユーシスが魔導剣《スレイプニル》を切り上げた。

 駆動させたのは風属性のアーツだ。ブーストアップされた烈風が、人形兵器の装甲をズタズタに切り刻む。一撃の破壊力はセドリックの魔導剣より高い。

「やっちゃえ、ガーちゃん! パワー全開ー!」

 ミリアムの傍らからアガートラムが《ライアットビーム》を半円軌道で照射する。複数体の敵が融解し、爆発に飲まれた。

 向こうは問題なさそうだ。戦力も連携も申し分ない。さすがはトールズというべきか。

『よそ見してる余裕があンのかよ!』

「っと。悪い悪い」

 ヴァルターの蹴りを捌くと、ジンは指をバキバキと鳴らした。

 ガイウスたちが戦っているのは高原だが、こちらはすこし離れた監視塔付近だ。

「俺たちはチームで戦ってるもんでな。状況把握はしとくもんだろ?」

『相変わらず気に入らねェ態度だ』

「そいつはお互い様だろうに」

 闘気が揺らめき、二人は拳を構える。

 一触即発の空気の中に別の殺気が放たれていた。鋭利な刃が宙を滑るように舞い、とっさに身を逸らせたジンの鼻先をかすめて過ぎた。

 円月輪だ、今のは。

「げ」

『ごきげンよう、ジン』

 手元に戻ったそれを鮮やかにキャッチしたのは、キリカ・ロウランだった。

 ジンは迷いなく通信を繋ぐ。《Xipha》なので、事務所エリア待機のエレインに直通だ。

「応援要請! ノルドエリアに一人くれってシェラザードに伝えろ! 大至急な!」

『え!? だってジンさん、さっき『俺がやる。応援はいらん』ってかっこ良く決めてたじゃないですか! 聞こえてましたよ!?』

 エレインが戸惑っている。

「キリカのミストマータが出たんだよ!」

『人手不足なんですから、二対一くらいやって欲しいんですけど!』

「実力うんぬんじゃなくて、俺はキリカに勝てないんだよ、色々とな!」

『そんな力強く宣言されても困ります!』

 

 ●

 

 雪が散る白銀の景色の中で、魔術によって生成された幾重もの剣が縦横無尽に舞う。

『中々やるのう』

 宙に浮かぶローゼリアが両腕を広げると、さらに追加で黒霧の大剣が生み出された。

 高速で襲い来るそれらを、エマとヴィータは転移術を駆使しながら回避する。

 シュバルツァー邸の屋根の上から、人間形態のセリーヌが無数の光弾でローゼリアを狙う。しかし全弾、魔術障壁によって防がれてしまった。

『セリーヌはまだまダ弱いの。そんなことで妾の跡を継げるのか?』

「うるっさいわね! なめてると痛い目見るわよ!」

 さらに光弾の乱れ撃ち。エマもヴィータも、セリーヌの攻撃に合わせるように魔術を放つ。

 家屋が潰れ、足湯場も崩れ、ユミルの郷は半壊していた。

「リィンさんとエリゼちゃんには申し訳ない気分です……」

「え、なんで? どうせ本物じゃないのに」

「姉さんはそうでしょうけど」

 ローゼリアが高く浮き上がった。その手の魔杖を振るうと、ユミル一帯の空が赤く染まりゆく。血のような紅だ。

『ちまちまとやるのは性に合わん。まとめて一手でひねり潰しテくれよう。運命の廻る工房では止められたが、今回はそうはいかんぞ』

 あれはまずい。ここで撃ってくるのか。

「姉さん!」

「打ち破るわよ」

 魔女たちの詠唱が雪郷に響く。

『宵闇に潜む、紅キ月影よ。妾に力を貸すがよい――』

 ローゼリアが統べる灼熱の空に、太陽とも思える炎の塊が生み出された。

『其は堅牢、我らを守る唯一の盾。其は流麗、昏黒を照らす無二の鏡――』

 銀光を散らす幻の宮殿がその巨像を押し広げ、エマを中心に広範囲を包み込んだ。

『人は皆、誰もが枷ある咎人。怒り、嘆き、苦しみ、恨み。深淵はすぐそばに――』

 エマの生み出す宮殿のさらに中から、幻想に彩られたオペラ劇場までもが立ち昇る。

 エマとヴィータの瞳が金色に輝いた。魔女の術を行使する際の、特有の瞳の色が発現する。

 終極魔法《紅月》が降り落ちた。ユミルに積もる雪が一瞬で蒸発して消える。

 生命を根絶する太古の焔を、《パレス・オブ・エレギオン》の絶対守護領域が防ぐ。

 魔力の圧に押される結界。砕け散ってゆく虚構の宮殿。そのエマの霊力の残滓を全て吸い取りながら、《深淵の蒼き冥歌(アリア)》が力を放った。

 《紅月》を押し返し、上空で大爆発を引き起こす。三人分の威力がローゼリアに直撃した。

『まだじゃああ!!』

 渦を巻く爆炎を押しのけて、翼を備える猫型の巨獣が吼える。《灼獣》ローゼリア。彼女の真の姿だ。

 牙をむいて地上に突撃するローゼリアを、蒼き巨鳥が真正面から受け止めた。

「やってみせなさいよ、グリアノス!」

 ヴィータの魔力を受け、一時的に実体化した《グリアノス=アウラ》が、ローゼリアと取っ組み合う。騎神の戦いもかくやと言わしめる激しさだった。

『妾の生んだ使い魔が、親も同然の存在に勝テると思うてか!』

「子供は親を越えていくもんでしょーが!」

 グリアノスの足の間をセリーヌが駆け抜けた。黒猫の形態に姿を変え、ローゼリアの腹の下まで滑り込む。

「言ったでしょ! なめてると痛い目見るってね!」

 全てを込めた炎の一撃を叩き込む。その衝撃はローゼリアの体内にある黄金の歯車を撃ち抜いた。

『がッ……! やリおる……』

 心臓部を穿たれたローゼリアは、瞬く間に形象崩壊を起こして黒い霧に戻っていった。

 一息つく間すら惜しみ、エマはすぐに《ARCUS》を取る。

「緋のローゼリアのミストマータを撃破! 応援が必要なエリアの指示を願います!」

 

 ●

 

 投げ放った爆雷符が空中で撃ち落とされる。

 リーシャは爆発する寸前のクナイの弾かれ方から弾道を逆算した。

「そこ!」

 民家の陰に《閃撃》のガレスがライフルを構えていた。遠い。150アージュくらいか。よくあんな位置から投擲中のクナイに当てられるものだ。

『あたしに集中しなよ、リーシャ!』

 シャーリィ・オルランドのミストマータが大型チェンソーを振り回し、リーシャに襲い掛かった。

 高速回転するノコギリ刃が唸りを上げる。彼女の専用武器《テスタ=ロッサ》だ。あれを剣では受けられない。リーシャはシャーリィの一撃をかわすと、東方人街の入り組んだ街路に逃げ込んだ。

 この辺りの地形は把握している。相変わらずの雑多さは身を隠すのに適しているが、おかげで敵のスナイパーも景色に紛れやすい。せっかく見つけたガレスだが、もう同じ場所にはとどまっていないだろう。

 一足飛びで建物の上に登る。

 五軒ほど離れた家屋の屋根にワジを見つけた。ツァオ・リーと戦っている。空中で蹴り合い、わずかに競り負けたワジが地面に落とされた。

 着地したワジを狙って、ガルシア・ロッシが突進からのラリアットを仕掛けに行く。

「ワジさん!」

 爆雷符を敵の進路上に投擲。石畳の路面が爆ぜ、ガルシアの勢いが弱まる。その隙にワジはリーシャのとなりまで戻ってきた。

「助かったよ、リーシャ。《白蘭竜》と《キリングベア》の相手を同時にするのは、さすがにしんどいね。そっちは?」

「こちらも《血染め(ブラッディ)》のシャーリーと《閃撃》のガレスですからね。余裕はありませんよ」

「連携を取りたいんだけど、敵のスナイパーが厄介だ。遮蔽物に隠れても、ガルシアがその遮蔽物を破壊してくる」

「どこかの一角だけでも落とせれば――」

『見ッけ』

 屋根を貫き、足元からノコギリ刃が突き出てくる。同時に遠方からの狙撃。

 リーシャとワジはまた分断された。崩れ落ちる建材の中から、シャーリィの獰猛な笑みが迫る。

『アハハ、殺った!』

「っ!」

 大振りの《テスタ=ロッサ》がリーシャの首に届く寸前、その刃が別の銃撃に弾かれた。軌道を狂わせた斬撃が下にずれ、接触した地面を激しくえぐる。

 無数の鏡面装置が円を描くように、戦闘フィールドを包囲していた。

「お待たせしました。建物の配置を理解するのに少々時間を要してしまいまして。これよりサポートメンバーとして参戦します」

 《龍老飯店》の屋根の上で、クレア・リーヴェルトが銃を構えた。

 いつもの導力銃ではない。物々しい銃身のレーザーライフルだった。

 斜め上に発射。白光色のレーザー弾が一枚のミラーデバイスに反射、次の鏡面に反射、さらに反射を繰り返し、東方人街の中空に幾重もの光軸が結ばれ――

『がはッ!?』

 射角外に潜んでいたガレスの胸を完璧に撃ち抜いた。遠くに黒い霧が散る。

 ガルシアがクレア目掛けて突進。それを真正面からワジが組み合って止めた。しかしその勢いに、ワジは足を滑らせながら押し込まれる。 

『甘ェな、優男が! てめぇじゃ役者不足だ。バニングスを出セよ!』

「君こそ僕を甘く見ない方がいい」

 ワジの背に聖痕が顕現した。青い輝きを拳に宿し、ガルシアに連打を叩き込む。

『ぐッ!』

「守護騎士第九位《蒼の聖典》、ワジ・ヘミスフィアだ。僕がいるのにロイドに近づけるなんて思わないことだね」

 蹴りの乱舞を存分に食らわせ、フィニッシュブローの踵落としが炸裂する。

 《ファントムラッシュ》からの《デッドリーヘヴン》がガルシアの黄金の歯車を砕き割った。

 そのままワジはツァオに肉薄した。まとう輝きが右腕に集中する。光が結晶化し、さながら鎧と化した歪な右腕が前に突き出された。

 

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『異能の力ですか。ずいぶんと面白いモノをお持ちで――!』

「面白くはないよ。この腕にいい思い出はないからね」

 ツァオの渾身の勁が、しかし激流のごとき力に飲み込まれる。

「霧人形ごときを屠るには過ぎた力だ。それと君の飄々とした態度は昔から好きじゃない」

『あなたがそレを言いますか』

 《アカシックアーム》がツァオの歯車も握り潰した。

『ガレスをやらレただけで、一気に形成逆転されちゃうとはね!』

 シャーリィはクレアの多角射撃を《テスタ=ロッサ》で防ぐ。

 その彼女の周りをリーシャのワイヤーと鍵爪が囲んだ。

「爆雷符も至るところに仕掛けておきました。もう逃げ場はありませんよ」

『そレはどうかな?』

 《テスタ=ロッサ》をライフルモードにして滅茶苦茶に乱射する。

 いくつかのワイヤーが撃ち抜かれた。包囲にできた隙を突いて、シャーリィは離脱する。

『リーシャも楽しいんだけど、なんか物足りないなぁ。セドリックはどこなンだろ? 本気、出せるようになったかなァ』

「あ、待ちなさい!」

 シャーリィはどこかに消えてしまった。嫌な予感がする。

 彼女を追おうとしたその時、地響きがした。

「な、なにが……?」

 腹の底から揺らされるようなこの振動は、同じ街エリア――ヘイムダル区画から届いているようだった。

 

 ●

 

「埒が明かねえな!」

 双刃剣を豪快に振り回し、クロウは周囲の人形兵器を切り払う。倒した先からまた敵機が現れる。

 その横でフィーと背中合わせになり、ラウラが大剣を構え直した。

「ここまでの物量で来るか。ミストマータを叩けば霧はひとまず収まるはずだが……」

「人形兵器は霧を吐き出さないみたいだね。ただ街を壊し回ることで霧が広がる速度を助長してるっぽい」

 三人に襲い掛かる敵機。それらの集団を、蛇のようにうねる水流がまとめて押し流す。エリオットの発動させたアーツだった。

 街エリア、ヘイムダル区画の防衛メンバーであるクロウ、ラウラ、エリオット、フィーは、ヴァンクール大通りで戦闘を繰り広げる。

「広範囲の攻撃アーツは僕だけじゃ厳しいよ。せめてエマがいれば――」

「お待たせしました」

 転移術で現れたエマが光の剣を撃ち、エリオットが討ちもらした敵を串刺しにする。

 さらに重ねて、セリーヌも無数の火球で人形兵器たちを牽制した。

「はー、中々の軍勢ね。ユミルとは大違いだわ」

「向こうは主要な地じゃなかったのかもしれない。やっぱり主格者のエリアを霧に沈めたいんだと思う」

 ひび割れた路面に降り立つエマ。その肩に猫形態のセリーヌが乗る。

 初期の作戦ではエマ、セリーヌ、ヴィータの三人がローゼリアと戦う手筈だった。

 彼女らが加勢に来てくれたということは、そのミストマータを倒したのだろう。さすがはうちの魔女チームだ。

「って、ヴィータがいねえぞ?」

「姉さんは他のエリアのサポートに回りましたよ」

「まあ、そうか。戦力的にはこっちも欲しいところだが、どこも厳しい状況だろうしな」

「あ、意外と残念そうですね」

「あれで一応、俺の導き手だからな、一応」

 とはいえエマとセリーヌが加わるなら、殲滅力は格段に上がる。ここで一気に反転攻勢を――

「な、なんだっ!?」

 地響きが視界を揺さぶった。道路に面した家屋や店の窓ガラスが次々と割れていく。

 大通りの前方から、山と見まがうほどの巨体が前進してきた。大型機甲兵《ゴライアス》だ。

 しかもそいつを先頭に、《ドラッケン》や《シュピーゲル》といった機甲兵部隊まで後続に見えた。

 ラウラは大剣を納めて、即座に踵を返す。

「クロウ、いったん下がるぞ! あんなものまで出てくるとは想定外だ。まともにやり合うなら、レイゼルかケストレルのどちらかを回してもらう必要がある――はっ!?」

 進みかけたラウラの足が止まる。固まった彼女の視線を追って、クロウは歯噛みした。

 後方から黒霧をまとうヴィクター・S・アルゼイドが歩いてくる。《光の剣匠》のミストマータだ。

 最悪だ。くそ。逃げるか? いや、ダメだ。さっきから辺りの霧が濃くなってきた気がする。ここで撤退すれば形勢は傾き、“夢の綻び”への侵入路が開いてしまうかもしれない。

「お前らが後ろの相手をしろ。俺が前をやる」

 クロウは迫りくる機甲兵に向き直った。

「一人でですか!? 一体何をどうやって……あ」

 エマは気づいたようだった。

「おう。そっちは巻き込まれねえように場所も変えとけよ。頼んだぜ、委員長」

「わかりました。やはりここには姉さんが来るべきでしたね」

「どうだかな」

 エマはラウラたちとヴィクターを術の範囲内に入れると、どこかへと転移した。おそらく最近見つけたあの区画だろう。

「さて、と」

 クロウは大通りの中央で、《ゴライアス》と対峙した。

 なんとなくわかる。《ドラッケン》や《シュピーゲル》は無人だ。だがそいつ(・・・)だけは、きっと違う。

「……乗ってるのは、お前か?」

 《ゴライアス》が止まった。わずかな間のあと、

『ああ』

 短い返答があった。

 クロウはうつむき、かすかに口元を緩める。

 太く威圧的な声。閉ざされたコックピットハッチの向こう側に、あの傷だらけの強面が想像できてしまった。ヴァルカンだ。

「懐かしむような話はできねえんだろうなぁ。お前も霧を晴らすものは許さねえって、そう言うんだろ?」

『まあな。全力でテメェを潰さなきゃならねえ。《王》のためッてやつだ』

「そうかよ」

 クロウは顔を上げて、《ゴライアス》を見上げた。

「俺、二十歳越えたんだぜ。もう酒だって飲める」

『二十歳前から飲んでタだろうがよ。だがまあ、そうか。ちゃんと生きて、成人してんのか』

「ちゃんとと言われると耳に痛いことばっかだけどな。せっかくの機会なのに、酒が酌み交わせないのが残念だ」

 静かに拳を掲げる。それは鎮魂の墓標の代わりだった。

 力を呼び出せ。意思を尖らせろ。確かな目的をもって引き金を引いた、あの頃の自分のように。

 できるだろ。リィンにできるなら、俺にだって。

「こういう場所で、こういう状況で出会っちまうのが、俺のツキのなさなのかね。いや、ツキがあるのかどうなのか」

『あ?』

「なあ、ヴァルカン。俺は……俺はな。お前に聞きてぇことがあるんだよなぁ!」

 辺り一帯が鳴動する。周囲に生じた輝く霊力(マナ)が拡大し、蒼い光陣が虚空に渦を巻いた。

 

【挿絵表示】

 

 

 ●

 

 爆ぜる稲妻が爪と化し、飛来する敵機の集団をまとめて引き裂いた。

 左右、正面。三面モニターの全部が破壊の噴炎に埋め尽くされ、防眩フィルターでも減殺できないほどの爆光に塗り込められる。

『相変わらず馬鹿げた威力ね……。今ので出力18%とか規格外にも程があるわ』

 通信で聞こえるスカーレットの声は、呆れも半分という感じだった。

 まあ、わかる。一機甲兵が単体で持っていい火力ではない。艦の主砲レベルだ。

 かつて《レイゼル》の基本装備だった可変式電磁加速砲《オーディンズサン》と四連ストリングススライサー《アサルトライン》、さらには防護障壁《リアクティブアーマー》すら撤廃し、その代わりとなる武装がこの右腕の《リアクティブブラスター》だった。

 武器を持ち変えるのではなく、武器そのものが用途に応じて可変するというコンセプトの元に設計されたマルチウェポン。

 要するに、攻防全てがこれ一つで事足りる。

『来たわよ、《ニーズヘッグ》が!』

 黒竜が向こうから接近してきた。そしてフライトユニットが限界を迎えた。左右両方のバーニアから火の粉混じりの黒煙を噴いている。

 アリサとスカーレットは機体を思い切り上昇させた。可能な限り高度を上げて、《ニーズヘッグ》の上を取る。

 フライトユニットを切り離し。同時にオーバーロードして爆発。その残骸と炎を背に浴びながら、《レイゼル雷閃式》と《ケストレル・レギンレイヴ》は眼下の目標に向かって急降下した。

 《ニーズヘッグ》が羽ばたき、上空に突風が巻き起こる。落下位置が大幅にずれていく。

「くっ、この……っ!」

 落下しながら《レイゼル雷閃式》が左腕を突き出す。左のショートシールドからワイヤーアンカーが射出され、《ニーズヘッグ》の尾骨辺りに突き刺さった。

 前機から採用されていた《ブレイズワイヤー》だ。

『エスコートよろしくね』

「こう見えてリードはされたい方なんですけど」

 《ケストレル・レギンレイヴ》の腰を横から抱くと、ワイヤーを巻き取りながら振り子のように使って、二機は《ニーズヘッグ》に接近した。

 あと少し。ヴァルキリーブースト発動。《レイゼル雷閃式》の背部ウイングユニットから圧縮空気が弾け、瞬間加速した機体がぐんと前進する。

 勢いよく着地。《ニーズヘッグ》の尾の付け根付近だ。足裏のフックを竜の表皮に食い込ませて、一応の姿勢制御を保つ。

「ふう、我ながらよく辿りつけたものね……。でもこれでブレス攻撃を受けずに済むわ」

『翼の片側だけでも落とせたら上々よね。狙ってみる?』

「やりましょう」

 でもここからでは遠い。背の中部くらいまで進まなくては、翼に攻撃は届かない。あと100アージュは背中を伝って進む必要がある。

 コックピットに警告アラート。アンノウンの接近を感知。すごい速さだ。

 敵機をモニターに表示。飛行用戦闘機……?

「違う、あれは……!」

 戦闘機が人型に変形した。赤紫色の装甲。放射状に開いた八枚のウィングスラスター。

 空域制圧用高機動型、ゴルディアス級の戦略人形。神機《アイオーンTYPE-β》だ。

『黎明の樹には近づケさせんぞ、霧払い共め! この天空の守護神、ギルバート・スタインがねっ!』

 哄笑を響かせながら、機動機雷をばら撒いてくる。

「こんな時に! あの時にちゃんと撃墜しておけば良かった……」

『とにかく移動を! ここで落とされたら助からないわよ!』

 近づいてくる浮遊機雷に銃撃を重ね、至近距離で爆発させてくる。

 《ニーズヘッグ》も巻き込んでの攻撃だが、3000度に耐え得る強靭な黒い皮膚はほとんど傷つかなかった。

 敵に追い立てられながら、竜の背の上をとにかく走る。

『邪魔なのよ!』

 《ケストレル・レギンレイヴ》が二つの剣を両腕で振るった。

 連結を解かれた法剣が炎熱を帯び、変幻自在の軌道を描きながら虚空に踊り狂う。

 《レーヴァテイン》というケストレル専用武器だ。従来の間合いよりも、かなり遠くまで届く仕様らしい。

 《アイオーンTYPE-β》に追随する多くの飛行型人形兵器を捉え、不規則な斬撃で細切れに変えていった。

『やあってくれタなァ! こいつで沈め!』

 敵の八つのウィングスラスターからレーザー光が照射された。拡散光子砲《レインボウ・レイ》だ。

「ライトニングアーマー、起動」

 リアクティブブラスターを中心に力場が生まれ、《レイゼル雷閃式》と《ケストレル・レギンレイヴ》の全方位を青白い障壁が覆った。

 二機に降り注ぐレーザーの豪雨を、稲妻の防護陣で残らず弾き散らす。

『助かったわ。ケストレルのアーマーは導力を使いすぎるからね』

「もう一発行きます」

 アリサが《アイオーンTYPE-β》に狙いを定めると、リアクティブブラスターが180度転回した。いわゆる扇の持ち手が相手に向く形だ。

 七段階の収束リングを通って、先端に莫大なエネルギーが充填されていく。

「リアクティブブラスター・トールズアロー、発射」

 激震する大気。雷神の一撃。亜音速に達する雷光の矢が一条の軌跡を刻んだ。

『お、おああアあッ!?』

 必殺の威力だったが、《アイオーンTYPE-β》から際どく逸れた。《ニーズヘッグ》の背は安定性が悪く、アイオーンの機動力も高かったせいだ。

 その代わりに他の敵機はまとめて貫き、団子状の爆光を連続させた。

「外れた……! こうなったら最大出力のサンダーネイルで――きゃあ!?」

 《ニーズヘッグ》が急旋回をした。自分たちをわずらわしく思ったのか、振り落とそうとしてくる。さらにうねり、宙返りする巨体。しがみつくので精一杯だ。

『くそっ、クソッ! 僕は強いんだよォ!』

 《アイオーンTYPE-β》のウィングスラスターに再び熱反応。

 今こちらは反撃も防御もできない。《レインボウ・レイ》を撃たれる。

『落ちろよ、霧払いィ!!』

 粘着質な声音が外部マイクにノイズを走らせた時、煌めく閃光が駆け抜けた。

 胴体から真っ二つに両断され、生き別れになった《アイオーンTYPE-β》の上半身と下半身が落下していく。切断面から噴き上がる火花の向こうに、大太刀を振り抜いた騎士人形の影が見えた。

「……待たせすぎよ。心配したんだからね、リィン」

『遅くなってすまない。カレイジャスに群がる敵機を先に掃討していた。次はこっちだ』

 灰の騎神ヴァリマールがゼムリアブレードを閃かせる。

 一気に《ニーズヘッグ》の首元まで飛翔すると、八葉の太刀筋が竜の鱗を裂いた。血のような黒霧が噴き出す。

『さすがに硬いか。一息で刃が通り切らない。……アリサは今、なんのマスタークオーツを付けているんだ?』

「《ソフィア》だけど」

『なら、あれが使えるな』

「……仕方ないわね、この状況じゃ」

 アリサは《ARCUS》に意識を集中した。

 《レイゼル雷閃式》のコックピットから伸びた光の線が、ヴァリマールの核へと届く。リンクラインが繋がった。

 《ソフィア》の特性を宿した灰白の装甲が黄金色に輝き、ヴァリマールは手のひらを上空にかざす。

 天上に巨大な魔法陣が描かれ、鳴動と共に七色の大剣が顕現する。

『これが本家本元の騎神リンクだ』

 天変地異に匹敵する強大な力《セヴンス・キャリバー》が、《ニーズヘッグ》に降り落ちた。

 

 ●

 

「上空の陽動班から連絡が来ました! カルバードチームの皆さん、発進願います!」

 連絡役のクローゼが、《モンマルト》の戸口から叫ぶ。

 ついに来た。

「いよいよだ! 各自準備はいいな!」

 ヴァンは突入班に最終確認を取る。既に全員が機体に乗り込んでいた。

 オーバルギアΣ(シグマ)はアークライド事務所エリアの端に横並びになり、《ロア=ヘルヘイム》本土を見据えている。

 リィンたちのおかげで《ニーズヘッグ》が少しずつ《ユグドラシル》から離れつつあるそうだ。

 本来は《カレイジャス》でギリギリまで近づいての発進だった。

 それが《パンタグリュエル》をミストマータに襲撃されたせいで、この場所からになってしまった。

 最大速度で飛んでも、《ユグドラシル》に到着するまで一時間はかかるだろう。

 果たしてリィンたちはそれほどの時間、《ニーズヘッグ》を引き付けられるのか。

 その間、《夢の綻び》の防衛のために地上でも戦い続けなくてはならない。

 よしんば自分たちが《ユグドラシル》にスムーズに到達できたとしても、そこからの攻略時間も加わってくるのだ。

 焦る気持ちはある。だがそれでも今できる最善を尽くすしかない。

「ごめんなさい、ヴァン。少し、ほんの少しだけ時間をちょうだい」

 出発間際、事務所エリア待機のエレインがやってきた。

 

 

 少しだけ時間を。

 そう告げたエレインは、ヴァンの前を素通りしてアニエスの前に立った。

「こんな時に――いいえ、今だからこそアニエスさんと話しておきたくって」

「え、私にですか? ヴァンさんじゃなくて?」

「そうよ」

 エレインは二人だけにしか聞こえない声で言った。

「私はあなたをうらやましく思っていた」

 この一言目を発するのは、やはり勇気がいることだった。

 アニエスは一瞬驚いた顔をしたが、何の話をしたいのか察してくれたらしい。周りに悟られないよう、すぐに平静を装う。

「それは私も同じです。ずっとエレインさんをうらやましく思っていました。私にないものを持っているから……」

「似ているのね、私とアニエスさんは」

「そうでしょうか? 私なんか全然ダメで、まだまだ子供で、けどエレインさんは凛としていて格好良くて、大人の女性で……」

「大人ってあなたが思うほど大人じゃないわ。失敗を繰り返すことに臆病になって、足を前に出せなくなるものなの」

「エレインさんはそう見えません」

「そう見せないのも大人の見栄でね」

 彼女とこんなふうに真正面から話すのは初めてかもしれない。

 戸惑っているようだが、ちゃんと私の言葉に耳を傾けてくれている。

「アニエスさんと私で、何が違うのか考えていた」

「違い?」

「ヴァンが私から距離を取った時、私は追いかけることをしなかった。彼が自ら帰ってきて、私に声をかけてくれるのを待っていた」

 イーディスで裏解決屋を始めたことを知った時、私は彼を訪ねなかった。会ってきたらどうだとルネに促されても、態度を硬化させるばかりで応じようとしなかった。

 ヴァンから会いに来て欲しかったから。

 たった一言、事情があったのだと吐露してくれれば、それだけで元の関係に戻れていたかもしれないのに。

「けれど、あなたは自分からヴァンに踏み込んでいる。私たちを置いていくなと、声にして伝えている。それがきっと一番の違い。私とあなたの差を分けるもの」

「でも私はヴァンさんの過去を知りません。だから根柢の部分で支えることができない……かも」

「それでも今この瞬間に必要なのはアニエスさんなのよ。進んで。今まであなたがそうして来たように。《ユグドラシル》に何が待ち受けているかわからない。ヴァンのことをお願いね」

 アニエスの気持ちは――その自信のなさは理解できていた。

 自分の知らない時間を共有していることの嫉妬にも似た羨望。

 それは私だって一緒。

「とはいえ、これから先に必要になるのは私かもしれないけどね」

「さあ、それはどうでしょうか」

 小さく笑い合う。

 過去は私がとなりにいて、今はあなたがとなりにいて、だとしてもここから続く未来では、まだ誰がとなりにいるかなんて、何一つ決まっていない。

 ようやく全部のわだかまりが解けた気がした。

「お前ら何話し込んでんだ。もう出るぞ?」

『少し黙っててもらえます?』

「え、ごめんなさい」

 空気を読まないヴァンを二人で追い払う。

「ところで今さらなんだけど、あなた達って個人でもオーバルギアの操縦ができたの? 工房エリアの時とはまた種類が違うじゃない」

「アリサさんやティオさんのスパルタ訓練がありまして……仮想シミュレーションフライトを相当やりこまされたんですよ。基本コントロールは問題ないと思います」

 その時だった。事務所エリアの七か所に存在していた《虹の影橋(ビヴロスト・シャドウ)》が光に包まれた。

 まばゆい七色の光が結集し、眼前に幅広の大きな橋が生み出される。

 《虹の影橋(ビヴロスト・シャドウ)》は《虹の架橋(ビヴロスト)》となり、その名の通り《ロア=ヘルヘイム》本土へと虹色のアーチを描いていた。

 アーロンが言う。

「ヴァン! これはつまりそういうことだろ!」

「新エリアへの移動はこの橋を使う。それが《ユグドラシル》にも適用されるってんなら、かなりの時間短縮が見込めるぜ!」

 ヴァンも自機のオーバルギアに飛び乗った。

 アニエスから離れると、エレインは最後にヴァンの元に歩み寄った。

「気をつけて。《バルドルの箱》を回収したら、すぐに戻ってくるのよ。全員で元の世界に帰らなきゃ意味がないんだから」

「だな。きっとあの場所には《メア》と《ゲネシス》もある。その予感がするんでな。それも持ち帰らねえと」

「《メア》って消失したホロウコアでしょ? 《ゲネシス》って?」

「おっと、それは……」

「また秘密なのね? まあいいわ。いずれあなたの全てを暴いてみせるから」

「おっかねえな」

「本気よ。それじゃ」

「おう」

 エレインがその場から下がると同時、八機のオーバルギアΣが地面から浮き上がった。

「あいつらが開いてくれた道を無駄にすんな! カルバードチーム出るぞ!」

 ヴァンの号令を合図に、《虹の架橋》を通って、一斉に最大速度で飛び出していく。

 あとは無事に帰ってくることを信じて、私はこの場所を死守するのみ。

 鮮やかな光の軌跡を引いて遠ざかる彼らを、エレインは剣を手にして見送った。

 

【挿絵表示】

 

 

 ――つづく――

 




《話末コラム①》【《レイゼル雷閃式》】

左腕部装備:ブレイズワイヤー改
右腕部装備:リアクティブブラスター
背面部装備:ヴァルキリーブースト・ブリュンヒルデ
特殊型能力:フルストームモード雷閃

解説:十月戦役の最終戦で大破した《レイゼル》のリビルド機。グエン、イリーナ、アリサのラインフォルト三世代による共同開発となった。
最大の特徴は前機から引き続き、連立式オーバルエンジンを採用していることと、それに伴う翠耀石(風・雷)の特性を宿しているという二点である。
片刃ナイフ《レヴィル》、可変式電磁加速砲《オーディンズサン》、四連ストリングススライサー《アサルトライン》は撤廃し、代わりに可変式マルチユニット《リアクティブブラスター》を備えることになった。
《リアクティブブラスター》は用途に応じてその性能を変質させ、近中距離を殲滅する雷の鍵爪《サンダーネイル》、長距離貫通雷撃砲《トールズアロー》、自機を中心に味方をも守れる範囲型守護障壁《ライトニングアーマー》を発動できる。
ウィングユニットであるヴァルキリーブーストは小型化が図られたが、出力はさらに増大しており、0から100への殺人的な加速は健在。
既存のあらゆる機甲兵を凌駕するハイスペックも度を越え、とうとうアリサ以外に操縦できるパイロットが皆無となってしまった。



《話末コラム②》【オーバルギアΣ(シグマ)

解説:最終作戦用に突貫作業で開発された高機動型オーバルギア。それらのパーツはノルドエリアで作った導力バイクや、《フェリちゃんの工房》の資材から転用されている。とにかくスピード重視で機体の軽量化を図るため、武装は最低限での搭載に抑えられることとなった。

《ナイトブレイカー蒼天》
搭乗:ヴァン
武装:ウィングブレード/バルカン砲
色彩:ブルー
解説:《ロア=ヘルヘイム》で様々姿を変えてきたピックアップトラックの最終形態。速度は全機体中で随一を誇る。例によって操縦はハンドル式。


《ホワイトメイデン》
搭乗:アニエス
武装:アニエス
色彩:ホワイト
解説:平均的な能力値を持ち、どのような場面にも対応できる純白の機体。武装は搭載されておらず、防御も攻撃もアニエスの戦技で補う〝武器エス”仕様。


《それいけフェリちゃん号》
搭乗:フェリ
武装:8連ミサイルポッド/マシンキャノン/煙幕弾/特殊合金スライサー/リアクティブアーマー/クルガブースター
色彩:イエロー
解説:この機体だけはティオのエイドロンギアを素体に作られた特別製。高機動型というコンセプトをガン無視し、ひたすらに攻撃力と防御力を上げた。尚、フェリ機のベースとして使ったせいで、ティオは以降の戦いでエイドロンギアを召喚できない。


《紅蓮鳳龍》
搭乗:アーロン
武装:ヒートソード
色彩:レッド
解説:近接特化のハイスピード機。熱を宿した刀身で金属を溶断するヒートソードを一対装備している。龍と鳳凰のアーマーペイントはアーロン自らが施した。


《メイルオブメイド》
搭乗:リゼット
武装:対戦車用ダガー/ステルスアーマー
色彩:スカイブルー
解説:頭部にメイドキャップを模した装飾がつけられており、高性能センサーとして機能する。カムフラージュシステムが搭載され、透明化も可能。


《ヘルマ=フロディトス》
搭乗:カトル
武装:ハッキングパルス
色彩:グレー
解説:全機中、もっとも演算機能が高い。範囲を絞った導力波を照射することで、敵が機械であれば中枢回路をハッキングできる。その為、エネルギー消費も全機中で一番高い。


《スターリンカー》
搭乗:ジュディス
武装:キャットミサイル/チェインウィップ
色彩:ブラック&オレンジ
解説:バランス型のアタッカーという位置付けで設計された。猫を模したミサイルの見た目は冗談でしかないが、何気に高性能の追尾能力がある。


《昇天獅子》
搭乗:ベルガルド
武装:打突式パイルバンカー
色彩:シルバー
解説:間合いは極小であるものの、一撃必殺の威力を有している。天翔ける獅子をイメージしたネーミングだが「ベルガルドさんが天に召されるみたいでしょうが!」とサラは憤慨していた。



《話末コラム③》【最終決戦 ―現状―】
・青文字は配置、役割変更
・赤文字は各エリアの状況

①【ユグドラシル突入班】 ―発進―
★ヴァン、アニエス、フェリ、アーロン、リゼット、カトル、ジュディス、ベルガルド

②【アークライド事務所防衛班(作戦総司令)】―指揮中―
★シェラザード

③【アークライド事務所防衛班(シェラザード護衛)】
★オリヴァルト、クローディア

④【アークライド事務所防衛班(遊撃チーム)】―待機中―
★エレイン、サラ、シャロン、トヴァル

⑤【ニーズヘッグ陽動班(騎神、機甲兵チーム)】―空戦中―
★リィン、アリサ、スカーレット

⑥【ニーズヘッグ陽動班(カレイジャス運用チーム)】―空戦中―
★トワ、アンゼリカ

⑦【ニーズヘッグ陽動班(パンタグリュエル運用チーム)】―撃墜―
★スウィン、ナーディア、ラピス(安否不明)

⑧【ユミル】―ローゼリア撃破→各地フォロー―
★エマ、ヴィータ、セリーヌ

⑨【街エリア防衛班(ヘイムダル区画)】―ヴァルカン出現―
★クロウ

⑩【街エリア防衛班(リベール区画)】―カシウスと戦闘中―
★エステル、ヨシュア、レン

⑪【街エリア防衛班(クロスベル区画)】―ツァオ、ガルシア、ガレス撃破、シャーリィ逃走―
★ワジ、リーシャ、クレア

⑫【城エリア防衛班】―アリアンロード、エンネス、アイネアと戦闘中―
★セドリック、アルフィン、エリゼ、デュバリィ

⑬【ミシュラムエリア防衛班】―マリアベルと戦闘中―
★ロイド、ランディ、エリィ、ティオ

⑭【学校エリア防衛班】―オーレリアと戦闘中―
★ユウナ、クルト、ミュゼ、アルティナ、アッシュ

⑮【工房エリア防衛班】―人形兵器と戦闘中―
★ティータ、アガット、ノエル(応援要請中)

⑯【ノルドエリア防衛班・高原】―人形兵器と戦闘中―
★ガイウス、ミリアム、マキアス、ユーシス

⑰【ノルドエリア防衛班・監視塔】―ヴァルター、キリカ出現―
ジン(応援要請中)

⑱【場所不明】―オズボーンと戦闘中―
★ルーファス

⑲【場所不明】―ヴィクターを連れて転移―
ラウラ、エリオット、フィー、エマ、セリーヌ
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