ガノンドロフが到着してすぐ、マルドルは武田中将が抱える研究チームと協力してガノンドロフの解析と、ナイトメア設計データの複製を行った。
しかしブリタニアと日本の技術力の差が激しく、ブリタニアの最新鋭の機器がそろったペンドラゴン大学の研究所とは違い、ガノンドロフの解析と設計データの複製が難航した。
いくら博士でも作ったシステムのプログラムコードをすべて暗記しているわけではない。だからガノンドロフのデータを解析して設計図を再構築する必要があった。
「ミヤビちゃん、駆動システムのデータとれたかしら?」
「はい、あとちょっとで...っと、完成!できました!」
「すごい、一つのミスもない...、あなた、よかったらうちの大学で...って、もう教授じゃなかったの忘れてたわ。」
マルドルがガノンドロフの解析を初めてから5日が経っていたが、未だに設計図の再構築率は40%に満たなかった。
ガノンドロフが格納されている七尾要塞から富山全域に広がるかつての巨大地下鉄網を改造して作られた通路。その中にある格納庫でガノンドロフの解析は行われていた。
「よし、とりあえずこれで半分は終りね。一旦休憩にしましょうか。」
マルドルとその助手としてつけられていた東京大学の大学院生である上原ミヤビは、二人でお茶を飲みながらどら焼きを頬張っていた。
「あんまり食べ過ぎて作業に支障がでないようにね。」
「わかってまふよ…、でも私...、どらひゃき好きなんでふ...。」
「お前ら~、作業は進んだかぁ~?」
そこへ上半身は裸の清十郎がやってきた。今まで男に興味すらわかなかったマルドルだったが、なぜか清十郎の身体を見てなんとなく恥ずかしくなった。
「てめぇわかっとんのか清十郎!こちとら毎日殆ど休みなくあくせくと働いてんだぞコラぁ!」
「ミヤビ、今でこそド真面目に働いてるみてぇだが俺は知ってるぞ...、お前が大学にも行かねぇで部屋に引きこもってゲームばっかりしてた頃をな!」
「うっ...、それに関してはなにも申し開きできませんなぁ...。まぁ、過去は過去、今日が良ければ全てよしってことで...。」」
「まぁ勘弁してやるが、この仕事が終わったらちゃんと就活しろよな。それじゃ俺はこれからやる事があるから、二人とも頑張れよ~!」
「え、手伝いにきたんじゃなっかたの…?」
清十郎はミヤビの頭をぐりぐりして立ち去ってしまった。
二人の様子を見ていたマルドルはふと気になったことがあった。
「二人は随分仲良いみたいだけど、ミヤビちゃんと清十郎はどういう関係なの?」
「あれれ~、もしかして博士焼きもち焼いてます?」
「なっ、別にそういう訳じゃないわよ...。」
「安心してください、あいつとはただの幼馴染ってだけですよ。恋愛感情は一ミリもありませんから。あいつ、清十郎とはまだ物心つく前からの付き合いなんですよ。あいつんち公家っつう日本の貴族みたいなのの一族で、私の家系は代々その護衛の武士だったんで、たまに会う機会があったんですよ。」
「へぇ、あまり貴族には見えないような感じだけど、意外ね。」
「あいつ今だからこそあんな強情なやつですけど、小学校の時は泣き虫で、よく私が泣かしてやってたくらい気が弱い奴だったんですよ。でも...、中学の時にあいつの両親が死んで、それから人が変わったかのように荒れたんです。両親が死んで親戚のところで暮らしてたみたいなんですけど、手に負えないって清十郎の親戚が根を上げて、清十郎は親戚中から厄介者扱いされちゃったんです...。でもそんな時に私のお父さんの同僚だった武田中将が清十郎を引き取ったんですけど、そしたら急に海外に行っちゃて、帰ってきたと思ったらすごい頭よくなってて、私と同じ大学に入学して、またまた1年もしない内に大学やめて海外いっちゃて...。長い付き合いの私でも知らない事が多いんですよねぇ~。」
「同じ大学って...。」
「ああ、おなじ理工学部でKMFの研究をやってましたよ。あいつああ見えても私なんか目じゃないくらい頭いいんですよ。ま、うちのKMF研究室は金なしでもうとっくに潰れちゃいましたけどね。」
「清十郎が...。」
「昔話もここらへんで、作業やりましょうか。」
「あ、ええ、そうね...。」
マルドルの中で、清十郎があそこまでガノンドロフをすぐに乗りこなせたのもなんとなく合点がいった。
二人が作業に戻り、少ししてマルドルはある事を思いついた。
「ミヤビちゃん、ちょっと清十郎を呼んできて貰える?」
その頃、武田中将は七尾から離れて富士で行われる御前会議に出席していた。御前会議に出席しているのは枢木ゲンブ首相をはじめ、陸軍から、本土守備軍の総司令、原松大将、中国地方方面軍司令、片瀬少将、東北方面軍司令、武田中将、そして各方面軍の陸軍司令。
海軍からは、太平洋艦隊総司令の竹本康生大将と副指令の内村少将。
軍部以外から、内閣官房長官の澤崎敦、外務大臣の太田一朗太、京都六家の桐原泰三、皇神宗一郎。
御前会議は上記のメンバーによって開かれ、会合の議題は専らブリタニアに関する議題であった。
ブリタニアに対するサクラダイトの輸出制限がなされて1年、EUや中華連邦は日本に対しブリタニアに対抗するための国際同盟を提案していたが、歴史的に中立立場を保っていた日本は、ブリタニアに対抗するよりも、むしろブリタニア側につくことで、高い技術力を日本に持ち込もうとも考えていた。特に京都六家のメンバーである桐原と皇神は、サクラダト輸出によって高い利益を得ていたため、1年前から続く輸出制限を快く思っていなかった。
また、陸軍総司令の原松大将一派によるブリタニア中立路線の主張が軍部では多数を占めており、枢木内閣内の多数派もブリタニアとの対話を主張する派閥だった。
そんな派閥に対し、陸軍の武田中将一派と海軍らの開戦派閥は御前会議で頻繁に、ブリタニアに対して徹底的に対抗する姿勢をとるべきだと主張した。
元々今の多数派である中立派は謀略を駆使して前首相と当時大将だった武田を陥れ、前内閣解散と同時に力をつけた派閥であった。京都六家の元筆頭で、アジア地域の植民計画を主導していた足利征一朗、清十郎の父も謀略によって殺されていた。
「では、御前会議をはじめる。今日は官房長官の澤崎から議題があるそうだ。」
澤崎は指名されると席を立つ。
「えー、これから読み上げるのは外務大臣の太田がブリタニアの外交特使から受け取った書状です。」
そして書状を読み始める。内容は、ブリタニアが日本を侮辱し、挑発するような内容だった。それも、直接的表現を避け、EUや中華連邦と結託し、ブリタニアを陥れようとしているといいたいような内容だった。
「やはりブリタニアは我々に戦争を仕掛けようとしている。これも全てブリタニアに対して経済制裁など敵対するかのような姿勢をとるからにほかない。中華連邦やEUと足並みを揃えたところでやつらは有事の際我々に味方せんでしょうな。ここは以前から言う通り、ブリタニアとの戦争を避けるためにサクラダイトの輸出制限を解除すべきではないでしょうか。」
御前会議出席メンバーにそう主張する澤崎に対し、賛成する声が多数上がる。
「この文章に対する返答を誤れば間違いなくブリタニアとの戦争に突入する。世界唯一の大国相手に我々が勝てるでしょうか?噂ではブリタニアは新型のKMFなる兵器を実践投入できる用意があるらしい。少なくとも技術力で劣る我々がそのKMFに対抗できる兵器をいまから準備する事はほぼ不可能でしょう。この書状に対する返答は現在輸出制限を行っている流体サクラダイトの全面解禁を...。」
澤崎の発言に、ほとんどのメンバーが支持する声を上げる中、海軍のメンバーと武田中将は気に食わない様子だった。
そして中でも武田中将は澤崎の言う事を聞かず腕を組んで目を閉じていた。それを見た澤崎は、武田中将に話を振った。
「武田中将はどうお考えですかな?軍の方にも意見を伺いたいのですが?」
「ふんっ、私は一方面軍司令に過ぎない。聞くなら総司令の原松に聞けばよかろう。」
「と、言っておりますが...、原松大将?」
澤崎が原松の方に目を向けると、原松は言った。
「いつまでも意地を張るな武田。戦争を嫌っていたお前が開戦派についてしまって私は残念だよ。」
「原松っ...。」
「よく考えてみろ、我々には人質がいる。ブリタニアの皇子がいる限り我が国とブリタニアが戦争になる事はない。ブリタニアは取引したのだよ。皇子と我が国の資源を。」
「愚か者め、やつらが皇子をよこしたのは取引などではない。聞くところによると皇子が日本に来る少し前、皇子の母、マリアンヌ皇妃が何者かによって暗殺されたと聞く。恐らく皇子はこちらに送られる前に廃嫡され、国内では手に余すと考えて送ってきたのであろう。そうでなければ皇位継承権をもつ皇子を友好国でもない我が国に送るはずなかろう。」
「そうかもしれないが、ブリタニア皇帝は皇帝である前に一人の親だ、実の子をそのようなぞんざいな扱いするはずがないではないか。」
「お前にはあの皇帝がそんな風に見えているのか?貴様の考えは甘すぎる!あの皇帝が皇子ごときにそのような気遣いするはずがなかろうが。」
「先ほどから聞いていれば...!!わしはお前の同期かもしれんが上官だぞ!口の使い方に...!」
二人が言い争うのを見かねたのか、終始沈黙を続けていた枢木首相が口を開いた。
「二人ともやめんか。」
武田中将と原松大将は熱くなってしまった事を謝ると、枢木首相が意見を聞いた上で自分の考えを述べた。
「武田の言いたい事は分かっている。もしブリタニアと戦争になるならば、先制攻撃しかないというのだろう。だがな、戦争などという手段を安易にとってはいかん。武力による解決ではなく、まずは外交の場で対話せねばならない。前首相の犬上先生は随分強引な考え方の持ち主だったが、私は先生とは違う。だがもし、ブリタニアが刃を向ける事があれば、私は最後の最後まで戦うつもりである。その覚悟は武田も原松も同じく持ち合わせているはずだ。」
武田は今一つ納得していないようだったが、その場は大人しく話を聞き入れた。
そして澤崎が一旦中断していた話を続ける。
「では、枢木首相もこうおっしゃっている事ですし、この書状に対する返答は、流体サクラダイトの全面輸出解禁でよろしいですかな...?異論なし、全会一致という事で決定させていただきます。」
御前会議によって輸出制限が掛けられていた流体サクラダイトの全面解禁が決定された。桐原や皇神は不敵な笑みを浮かべ、武田や海軍のメンバーは唇をかんでそれを見ていた。
御前会議が解散した後、武田中将は片瀬少将と廊下で話ていた。
「武田、あそこまで原松に絡まんでも。」
「お前もやつと同じだ。ブリタニアという国をまるでわかっとらん。」
「俺にもお前の言い分は分かる。だが考えてもみろ、やつらにとってこの国は資源以外なにもない。サクラダイトさえ手に入れられれば敵対する理由もやつらにはなくなる。それにな武田。お前は戦の才能は卓越しているかもしれんが、昔から世渡りが苦手だろ。今や俺たちにとっての戦場はこの国の中にある。戦の上手い下手よりも世渡りの上手い奴が生き残る世界なんだよ。」
「軍人としての誇りを忘れたか?」
「まてまて、そうはいってないだろ。お前も戦争は嫌いだろ?俺ももう太平洋戦争の時のような経験はしたくはないだろ?」
「機関銃中隊で大暴れしていたやつが良く言うわ。」
「昔の事じゃないか。俺と原松とお前、今思えばあの時からお前たち二人はいつも衝突ばかりしていたな。どちらかと言えば俺はお前の味方だったろ。あいつは無茶苦茶をいう奴だったからな...。だが、今回ばかりはあいつの方が正しい。戦争の悲劇を繰り返してはならない。ブリタニアと戦争にならないで済むならそれが一番だ。じゃあ、俺はこの後用事があるから先に失礼するよ。」
片瀬少将は武田に挨拶をして廊下を歩いて行った。
片瀬少将がいなくなってからすぐ、京都六家の桐原が現れた。
「さっきは随分と熱くなっておったのぅ、武田。」
「桐原殿...、例の件ですが...。」
「目途は立っておるのか?」
「いえ、まだなんとも...。」
「設計データさえあればすぐにKMFの生産ができたというのに...。」
「わしはナイトメアの設計データを盗んで来るよう言ったはずだが...。」
「...。」
「まぁそれはいいとして、なんといったか、ガノンドロフとかいうKMF...、あれについてなんだが、向こうにおるわしの手の者が情報を掴んだらしくてな。あの機体、なんでも、元々皇妃マリアンヌの専用機になるはずだったらしいのじゃが、知っている通り皇妃マリアンヌは死に、計画は白紙になった...、と公にはなっているが...。どうも皇妃マリアンヌが一年前に討たれてからも開発が進んでいたらしいのだ。」
「では、あの機体がその皇妃の専用機だと?」
「どうやらそうらしいな。向こうじゃ亡くなったマリアンヌ皇妃の周りの連中が幻の機体だとか呼んでいるらしいが。」
「その幻の機体を取り返すためにブリタニアは間違いなく動くと思いますが?禁輸措置の件もあります、必ずブリタニアは近いうち日本に宣戦布告を...。」
「安心せい。重要なKMFを奪われたとはいえ所詮は鉄の塊よ。禁輸さえ解けば後はうやむやにしておけばよいだろう。」
「桐原殿までそのような事を...。」
「言っておくが、戦争になっても負ける事はありゃせん。仮に量産型のKMFをブリタニアが使おうとな...。」
「特イチ号作戦...。」
「元々はお主と海軍の竹本が考案したブリタニアへの奇襲作戦。万が一の備えはある。それに、例の機体、一機で戦局を変える力がある。操る者もおる。特イチ号作戦が成功すれば太平洋におけるブリタニアと我が国の力関係はひっくり返る。」
「しかし…。」
「なぜそこまで慌てるのだ。特イチ号作戦はブリタニアの油断の隙をつく作戦でもある。こちらから仕掛ければ警戒されることはお主が一番わかっておろう。それなのになにがお主の中で引っかかっておるのだ。」
「いえ...、申し訳ありません。疲れが溜まって考えすぎていたのかもしれません...。」
「うむ。来週には外務大臣の太田が向こうに行くらしい。さらに来月は枢木首相のブリタニアでの会談も控えておる。お主と原松は御供するのであろう?それまでにしっかり休息をとると良い。」
「格別のお計らいいただき感謝いたします。では、私は七尾に戻るとします。お先に御免。」
二人が解散し、武田が廊下を歩いていくのを陰で見ていたのは官房長官の澤崎だった。そして不敵な笑みを浮かべると、どこかへと姿を消した。
武田は桐原の所を後にして帰りの車に乗り込むと、いら立ちのあまり車の後部座席で発狂した。
「あの老害め。結局は保身に走っているだけではないか!」
武田の腹心であり、七尾要塞司令の織田は、そんな武田をなだめる。
「中将閣下、少し抑えて...。」
「抑えられるかっ!!あの老害爺さんはこの国を憂いてるように見せかけて本当はブリタニアへのサクラダイト輸出で利益を得ようとしているだけではないかっ!KMF設計データの奪取も、わが国の備えとするため等綺麗事を言っていたが、本心はKMFの生産で利益を得たいだけではないかっ!ええいっ、京都の連中だから甘んじて受け入れているがもう我慢の限界だ!御前会議など澤崎と原松の独壇場ではないかっ!!そもそも原松も片瀬も昔から考えが甘いんだ!海軍の竹本も黙りこくっていないで私に加勢ぐらいすればいいものを...。それに澤崎の野郎め、反論できないのをいいことに私に話を振りおって...、首相も首相だ、口が開いたと思えば.........。」
「…、運転手さん、出していただけますか...?」
武田は七尾に戻るまでずっと御前会議での不満を車内でぶちまけた。七尾に戻るころにはすっきりしたのか普段の様子に戻ったが、織田は上司の前で耳を塞いで眠る事も出来ないので、ずっと同じような不満をずっと聞かされて、抜け殻のようになっていた。
「あれ、武田中将随分お帰り早かったですね...、って織田っちぃぃぃ!!何があったんだぁぁ!!」
七尾の入り口にはミヤビの姿があった。抜け殻のようになっている織田のところによって生き、往復ビンタで蘇生した。
「うぁぁぁぁぁっ、もうこれ以上聞きたくないぃっ...!!」
「おー、生き返った。」
「...、あれ、私は一体なにを...。」
武田は戻り次第そのままガノンドロフの格納庫に向かった。するとガノンドロフの姿がなかった。
近くにいた兵士に聞くと、博士が屋外でデータを取りたいと言ってガノンドロフを外に出したようだった。
武田が外に出ると、マルドルがコンピュータを見ながらなにやら指示を出していた
「そのままゆっくり5000メートルまで高度を上げて。高度を上げたらその場で停止。その場で基本攻撃動作を行って...。」
博士はやってきた武田に気が付くと、適当に挨拶だけして指示を続けた。
「次は更に1000メートル高度を上げて、6000に。6000に到達したらその場で停止してさっきと同じことを...、システムエラー...?」
なにやらまずい雰囲気になったと思えば、空からなにかが降ってくるのが見えた。よく見るとそれはガノンドロフだった。
「まずい、脱出を...!」
武田が思わず叫ぶと、博士はなぜか脱出を指示せず体勢を持ち直すように指示した。
なんとか持ち直したのか、地面すれすれをガノンドロフは滑空し、着地した。
博士と武田中将は急いでガノンドロフの元へ向かうと、コックピットから出てきたのは清十郎だった。
「ったく、危なかったぜ...。脱出できる機能ぐらいつけとけよな。」
「え?」
清十郎の言葉に思わず武田は唖然としてしまう。
「忘れていたわ、脱出機能が付いていない事を…。」
「とんでもねぇ野郎だな。それなのにフロートシステムの実験をやるなんざサイコパスだな。」
「悪かったわねサイコパスで。あいにく人の心ってものがまだ分からないもんでね。」
「あのぉ、マルドル博士...、これは一体なにを?」
「ああ、フロートシステムの耐久実験を...。」
「よく分からないんだが、そのフロートシステムの耐久実験とやらはデータ解析と関係あるのかね?」
「...。」
「…。」
マルドル博士はうっかりしていたと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「最初はデータ解析をやっていたはずなんですが、気が付いたらつい...。」
「気が付いたらついって博士...。」
二人の間で気まずい空気が流れた。マルドルは頼まれているKMFの基本設計データの再構築を忘れ、まったく関係ないフロートシステムの耐久実験を行ってしまっていたわけだが、それを武田中将も頼んでいる手前、叱る訳にもいかないし、なんともいえない空気になった。
「ま、いいじゃねぇかじじぃ。こいつもこっちに来てから働き詰めだったんだ。少しくらい好きにさせてやれよ。」
「たしかに、清十郎の言う通りだな。むしろ私はもっと君に感謝せねばならんのかもしれない。」
武田はそう言うと、深く頭をさげてマルドルに礼を言った。
「本当にありがとう。」
「そんな、お顔を上げてください中将閣下。まだ頼まれた仕事も終わっていませんし...。それに私は自分の意思でやっているだけですから...御礼など。」
武田は礼を済ませると、あまり急がなくてもいいとだけ言ってその場を立ち去った。
「本当に優しい方なのね、武田中将閣下は。」
「おいおい、お前の目は節穴か?」
「え…?」
「あの人はストレス抱えると急に人に優しくなるんだよ...、ただ一人の例外を除いてだが...。ありゃ東京でなんかあったな。多分今日は一日中やけ酒だろう。」
それから数時間、日が暮れるまでマルドルはフロートシステムのバグ探しをしたが、結局問題を発見するまでには至らなかった。
その後ガノンドロフを格納庫に戻して、指令室にデータを転送していたマルドルのところへ、ミヤビがやってくる。
「あ、博士ぇ~。」
ミヤビが手を振りながらマルドルに駆け寄ってきた時、ミヤビの手には何やら買い物をしたような大量な荷物があった。
「あ、博士~、じゃねぇだろミヤビ。お前どこほっつき歩いてたんだ?」
「ちょっと野暮用よぉ~。それより二人とも、晩飯まだでしょ?アウトレットの帰り道にうまそうなラーメン屋見つけてさ~みんなで行かない?」
ミヤビにラーメンと言われてきょとんとするマルドル
「あ、もしかし博士はラーメンはじめてですか?」
「ええ、初めて聞くわ。」
「おお、ならちょうど良かった。博士が来てからまともに日本の案内できてなかったから、これが第一弾という事で...。」
ミヤビが博士のせなかを押してラーメン屋に行こうとした時だった。この時博士は感じていた、ミヤビが横から獣に睨まれているのを。
「そりゃ名案だな...。ところでミヤビ、アウトレットで何買って来たんだ?」
「いやもう安かったから服やら鞄やらなにからなにまで...って、あれ私何言って。」
「お前やっぱりさぼってやがったな!」
「ひぇぇぇぇっ、おたすけぇぇっーー!!」
清十郎がミヤビを捕まえようとすると、ミヤビは博士の周りをぐるぐる回って逃げ回った。
マルドルは二人の様子を見て、どこか懐かしさを感じていた。
大学で同じような光景を見た日を思い出し、少し寂しく感じた。決心はついたはずだったのに、まだどこかであの3人に会えたらと思っていた。
それから程なくしてどうにか和解した二人は、マルドルを連れて武田中将の腹心である織田に送ってもらい、ミヤビのラーメン屋に訪れていた。
「では、私も車を止めてすぐにきますので…。」
「ありがとね織田っち。帰りは歩いて帰るから大丈夫!中将の相手よろしくね~。」
「え…。」
ミヤビはそう言い残して清十郎とマルドルの二人と共にラーメン屋に入っていった。
織田は一人涙ながらに要塞に戻った。戻ってから明け方まで武田中将の愚痴を聞かされていたことは、誰も知らない。
「ヘイお待ち。」
「これが、ラーメン…。」
ミヤビはテーブルの上に出されたラーメンをじっと見つめていた。
「あ、博士、日本では食べる前に、いただきますって言ってから食べるんですよ。」
「いただきます?」
「こうやって手を合わせて、作ってくれた方と命に感謝して、いただきます。」
マルドルはそれを見よう見まねでやった。
「いただきます。」
「おい清十郎いただきますはどうした!?早く言わんかこら!」
「ったく...、いただきます。これでいいか?」
「ふてぶてしいがまぁよしとしよう。」
マルドルがじっと二人を見ていると、ミヤビと清十郎は割り箸を取ると、それを半分に割った。マルドルもそれを真似して半分に割るが、なぜか綺麗に割れなかった。
清十郎はそのまま食べ始めていたが、ミヤビはなにやら謎の粉をラーメンに吹きかけていた。それをみたマルドルも真似して謎の粉を振った。
再びミヤビの方を見ると、ミヤビがラーメンを吸っていたので、自分も真似してラーメンをちゅるちゅる吸った。
箸がうまく持てなかったマルドルは、ラーメンの麺を一本ずつすくうようにして取っては吸ってを繰り返していた。
そして、十分したかしないかの内にミヤビと清十郎は完食した。
「あ~、食った食った。」
「おっちゃん、替え玉一丁!」
「あんたどんだけ食うのよ。そんな食ったらせっかくの良い体が台無しよ~ん。」
「うっせー。」
「博士~、どうだったラーメンは...、って、あれ…?」
ミヤビがマルドルに話かけると、マルドルはその横で必死にラーメンをすすっていた。
「ミヤビちゃん、ラーメンって食べるの、すごく大変なのね...。」
「「…。」」
二人はそれを見て面白いを通り越して真剣に見つめ合っていた。そして二人はマルドルから少し離れて、ひそひそ話始めた。
「清十郎、これは大問題だ。博士がド天然だったなんて、それも生粋の...。5日も一緒にいてまったく気が付かなかった。」
「いや、博士は天然なんじゃない。天才と馬鹿は紙一重と聞いたことがある。こいつは天才だが、ある意味馬鹿でもあったんだ。この際言わない方が博士のためでもある。」
「たしかにそうかも。今更食べ方違いますよなんていったら恥ずかしくて数日間こたえそう。よし、ここは何も言わないで...。」
「あの、二人とも...。」
マルドルの声が聞こえて二人が振り返ると、二人は誤魔化すように適当な事を博士に聞いた。
「おう、ラーメンはうまかったか?ブリタニアじゃラーメン屋ってねぇからな。足りなかったら替え玉頼んでやるぞ?」
「そうそう博士、折角来たんだしたくさん食べてよ。」
「全部聞こえていたわよ...。」
「「あ...。」」
博士は恥ずかしそうに下を向いてそう言った。
その頃、ザクセンとビスマルクは、エリア6での鎮圧作戦に出向いていた。
感想と誤字報告をしていただいたRKTXさんありがとうございました。
気になるところについてこの場でお返事したいと思います。
まず、ザクセンのイメージCVはMGS3の三上さんとなっていましたが、正しくはMGS3の山崎たくみさんでした。
クラウザーのCVはなんとなくガンダムのギレンザビを演じられている銀河万丈さんです。ちょっと覇気があって皇族っぽい感じにしたいと思ったので。
マルドルのイメージCVはコナンの灰原とかソードアートオンラインのアスナの母親を演じている林原めぐみさんです。どちらかというとSAOのアスナの母親に近い感じの、ちょっと冷たい感じですかね。
今回の話で新キャラを出してしまったのですが、ちょっと頭の中でCVをイメージできたのですが、声優を忘れてしまいました。
キャラクターの特徴的には気が強い引きこもり大学生って感じです。
今回はちょっと切りが悪くなってしまいました。なんとなく字数7,8千で予定していたので続きは次回にしました。
キャラクターを整理するためにも、番外編でキャラクターをまとめた話を作る事にしました。
今後ともよろしくお願いします。