住めば都のツブラヤ荘 作:タッコング
【1】
町の片隅にあるアパートで、人知れず陽輔が第5種接近遭遇を果たしている頃。
北川町にある飲み屋通り『どんとこい横丁』は、赤ちょうちんに誘われて集まった人々で、今夜も普段通りの盛況を博していた。
「~~♪」
うろ覚えな流行りの歌を上機嫌に口ずさみながら。
仕事の接待を含めて二軒のハシゴを終えた会社員の田中さんは、足元もおぼつかない千鳥足で、ふらんふらんと通りを歩いていた。
頭にしめたネクタイ、片手には寿司屋のお土産。
由緒正しい、酔っ払いサラリーマンのオールドスタイルである。
「──……おんやぁ?」
何気なく夜空を見上げた田中さんは、間の抜けた声を上げた。
町の明かりで星も見えない真っ黒なそのスクリーンに、突然、不可思議な光点が現れたからだ。
その光の点は三つあり、まるで重力を無視したかの様な軌道を夜空に描いていた。
「んんんん……!」
赤ら顔の田中さんはゴシゴシと顔を擦ると、もう半分も開いてなさそうだった目を見開き、あらためてその光点を見つめた。
目を見張る田中さんの前で、三つの光点は幾何学的な模様を描くと急に一つとなり──そのまま、流れ星の様に頭上を走って消えていく。
その一連の動きをぽかんとして見送った田中さん。
そのまま視線を飲み屋通りの雑踏に戻すと、自らの火照った頬をぺちぺちと叩いた。
「……飲み過ぎたかな?」
【2】
──田中さんが見たものは、酔っ払いの見間違いなどではなかった。
北川町の外れにある奥深い山中。
その生い茂る木々の合間へと吸い込まれる様に、その巨大な光の塊は落着した。
凄まじい爆発音。
恐るべき質量を持つその落着物によって山肌の土は爆ぜ、周囲の木々は引き裂かれて砕け散る。
綺麗な円形を描いた焦土。
その中心部。
巨大な『人影』が、そこにうずくまっていた。
大気圏での摩擦によって赤熱化したその体は、未だに膨大な熱量を放出しており、残骸と化した木々を燃え上がらせていく。
──その鮮やかな炎に照らされながら。
不快な機械音を響かせ、ゆっくりと。
その巨人は立ち上がった。
光沢の無い山吹色の金属が全身を覆い、両胸の光板は怪しく色とりどりの光を明滅させている。
一見して無機物の──否、高度な機械の塊である事を知らしめる姿。
これこそ、ペダン星が生み出した驚異のスーパーロボット。
キングジョーだ。
《──マスター。予定座標へ着陸しました》
キングジョーの内部。
その大きな外見からは想像もつかない程に狭苦しいコックピットに、女性型AIの無機質な音声が流れた。
その声に対して──。
「あいたた……『着陸』じゃと?『墜落』の間違いじゃろ……」
多種多様な計器類や用途不明の機械装置群に囲まれた人物が、ぐったりとシートに座ったまま不満そうな声を返す。
キングジョーと同じく金色の装甲が施された戦闘スーツと、同じく金色に輝くフルフェイスのヘルメット。
外見だけでは性別を窺えないが、ヘルメットから響く声は老齢男性のものだった。
「E4! もっと穏便に丁寧にできんのか!」
《E4よりマスターへ異議を提示します。着陸がこの様な予期せぬ形となったのは、降下中にもかかわらず、無意味かつ無理な変形と合体をマスターが手動で行った結果です》
自身が『マスター』と呼ぶペダン星人に対して。
キングジョーの女性型AI──E4は、己の言い分が正しい事を証明するデータを「これでもか」とばかりに、コックピットにある全てのディスプレイにデカデカと表示していく。
「ぐぬぬ! 無意味とはなんじゃ! こういう大事の前には景気づけと言うものが必要なんじゃ!」
これをやられると「ぐう」の音も出ないところなのだが、それでもペダン星人は造物主たる尊厳を守るために声を張り上げた。
《また、そんな不条理な事を。この星の防衛システムに探知されたらどうするのですか?》
「心配いらんわい。費用不足で少々ケチって作ったとは言え、こんな未開惑星の技術力でワシのキングジョーが捉えられるわけがなかろう!」
鼻を鳴らすペダン星人。
その言葉通り。
このスーパーロボットは日本だけでなく、全世界のありとあらゆる天体・防空を司るシステムに探知される事なく──酔っ払いのサラリーマンには見とがめられていたが──侵入を果たしていたのだ。
「それに、例え発見できたとしても……このキングジョーには太刀打ちできまい! ぬわぁーっはっはっは!」
マッドでサイエンティストな笑い声を上げるペダン星人。
「──さて……ここはひとつ町に出て、この星の原住民どもに挨拶してやるかのう」
それはもちろん、キングジョーによる破壊と恐怖を伴った最悪の『はじめまして』だ。
「行くぞ、E4! キングジョー発進──」
《E4よりマスターへ、現在地周辺における消火活動の承認を要請します》
前のめりになっていたペダン星人は、AIの場違いなその言葉に、そのまま前面のディスプレイに顔面をぶつける。
「な、なにを言うとるんじゃお前は」
ヘルメットのバイザーを擦りながら、ペダン星人が外の光景を確認する。
そこには先程の着陸の余波でメラメラと燃える木々の姿があった。
「なんじゃ、これの事か。別にええじゃろ。これから町を破壊して目にもの見せてやろうと言う時なんじゃぞ、ワシらは」
《…………》
「……E4?」
聞くからに面倒くさそうな様子を見せるペダン星人だったが、E4からの返答が無いことに首を傾げる。
それから数回、名を呼んでみるが返答がなく──かわりにディスプレイと言うディスプレイに、美しい森の映像や可愛らしい動物達の映像が物悲しげなメロディーと共に流れ始める。
それで思い至ったのか。
ペダン星人はまるで己の髪を掻き回す様に、がしがしとヘルメットの表面を掻いた。
「あー! もう好きにせい!」
《有り難うございます、マスター。それでは直ちに消火活動を開始します》
先程と打って変わって一瞬で反応を返したE4は、キングジョーの体を動かして周辺一帯の消火を開始する。
《消火弾、発射》
キングジョーが伸ばした両手の指先から、猛烈な勢いで消火液が発射されていく。
「…………むう、ワシが作ったとは言え。優秀すぎるAIと言うのも考えてものじゃな」
ペダン星人はシートに深々と背をあずけると、呆れた様子で呟きをこぼしながら。
自身が開発したAIとキングジョーが猛烈な勢いで火災を鎮圧していく様を、ディスプレイから眺めるのだった。
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元祖スーパーロボット!(´・∀・`)