住めば都のツブラヤ荘 作:タッコング
【5】
──気が付くと。
陽輔は再び、ちゃぶ台の前へ戻ってきていた。
いや、実際にはここから一歩も動いてはいなかったのかもしれない。
対面にはメビウスがちょこんと座っているし、ちゃぶ台の上の湯飲みからはまだ湯気がのぼっていた。
「なんと言うか……。数百万光年先の宇宙から、2DKの一室に引き戻されると違和感が凄いな」
ジェットコースターじみた環境の落差である。
まるで小箱の中に押し込まれた様な圧迫感さえ覚えるようで、思わず陽輔は襟元を指先で弛めていた。
「──と、そんな話は置いといて」
しかし、ようやく本題を思い出した様子で。
律儀に何かを横に置く仕草を挟むと、陽輔はちゃぶ台の上に勢い込んで身を乗り出した。
「こ、この町が狙われてるって!?」
「……陽輔さんって面白い方ですよね」
ころころと様子を変える陽輔を微苦笑で眺めていたメビウスは、そこで「こほん」と気をとりなおす様に咳払いする。
「光の国にはボクも在籍する『宇宙警備隊』と言う、この銀河の平和を守るための組織があるのですが。実はごく最近になって我々は、一部の不逞宇宙人達がこぞって地球……それもこの神奈川県北川町を目指して移動を開始したと言う情報をキャッチしたのです!」
力説するメビウスを前に。
顔が真横になりそうなくらいの勢いで、陽輔はこてんと首を傾げた。
「なんでまた、こんな町に? 上京してきた俺が言うのもなんだけど、そんなに大層なもんなんてないぞ?」
強いて言うなら大根が特産品なくらいだ。
しかし、わざわざそれを求めてやってくる悪い宇宙人なんてものがいるのだろうか?
もちろん陽輔も宇宙人の趣味嗜好を理解しているわけではないので、中にはそーゆーヤツもいるのかもしれない。
「万が一、そーゆーヤツが来るのなら、俺がミドリさんの八百屋に案内してやるよ。若いですねって言ってあげるだけで、けっこうオマケしてくれるから」
「なんで八百屋さんの話が急に出てくるんですか……」
一瞬の内に思考を明後日の方向へ飛躍させる地球人に、メビウスは呆れた様子で半眼になる。
「現在、その理由は調査中です。ですが、すでに不逞宇宙人の一部はもうこの町に到達しつつあると推測されています」
そこでメビウスは頬に手を当てると、ほうっと溜め息をついた。
「本来であれば、これは宇宙警備隊が対処すべき案件なのです……しかし、実は現状、我々はこの星の防衛に当たる事が出来ない状態にあります」
その言葉に、陽輔はぎょっと目を丸くする。
「ええっ?! それはひじょ~~~~~に困るぞ!?」
「はい! ひじょ~~~~~に困った事になってるんです!!」
二人は顔を突き合わせると、困った困ったと強調し合った。
──再び、メビウス曰く。
この銀河には『銀河連邦』と言うものが存在すると言う。
それは知的生命体の統治する多数の星々によって構成され、光の国もまた、その連邦に含まれるらしい。
「不逞宇宙人達の北川町侵攻が察知される直前、銀河連邦で『未開惑星保護法案』と言うものが可決されました。それは文明や技術が発展途上にある星に、他の宇宙文明がコンタクトする事を禁止し、あくまでその星の自発的な進化による宇宙進出を尊重する……と言うものなのですが」
その理念は素晴らしく、共感できるものである事は間違いない。
しかし、タイミングがあまりにも悪すぎる。
「いや、でも悪い宇宙人が動いてるのは分かってるんだから。なんとかその銀河連邦に説明してだな──」
「……連邦議会は『不逞宇宙人』の存在を認めませんでした」
申し訳なさそうな顔で、メビウスがその言葉を遮る。
当然、宇宙警備隊はその情報を提出したが、議会はこれを受け入れなかったと言う。
「もとより銀河連邦も一枚岩ではないのですが、今回のこれはあまりにも理不尽な決定です」
これを受けて、宇宙警備隊は単独での地球防衛を決定したと言う。
しかし、光の国も銀河連邦の一部。
さらに銀河の秩序を維持する存在である以上、未開惑星保護法案を表立って破るわけにもいかない。
「そこで極秘裏に。選ばれた地球人に我々の力をお貸しして、その方に戦ってもらう事で間接的にこの町を守ろうという事になりました」
小難しい話が続いた事で、陽輔の心は一瞬折れかけたが、その前にメビウスの話は終わってくれた。
「うーーむ……」
胸の前で腕を組み、思案の唸り声を上げる陽輔。
そして、神妙な顔つきで目の前にいる光の国代表の少女を見つめた。
「……それで俺は何をすればいいんだ?」
ずるっ。
そのあまりの察しの悪さに脱力したメビウスは、座ったまま器用にその場でずっこけた。
しかし、すぐにカッと目を見開いて立ち上がると、まるで時代劇に出てくる渡世人の様にして、ちゃぶ台の上にダンッ!と足を乗っけた。
「戦ってもらいます!!」
「……誰と?」
「悪い宇宙人や怪獣と!!」
「俺が……?」
「貴方が!!!」
どこかきょとんとした陽輔に対して、すっかり清楚を崩したメビウスが、まるで言葉を直接相手の脳みそに叩きつける様に言葉を投げる。
そこでようやく、これまでの引っ越し騒動やメビウスの説明やらが、陽輔の中で一つに繋がっていく。
分かりやすく、彼の表情が引きつった。
「いやいやいや! この町の平和の為に戦うことには一切文句は無いが、物理的に無理があるだろ!?」
先程、彼女から見せられた映像。
あれがこれから襲来するモノ達の実寸サイズであるならば……到底、陽輔の太刀打ちできる相手ではない。
しかし、その言葉に対して。
再び清楚を纏ったメビウスは、にっこりと笑顔を返した。
「安心してください。ボク達が力をお貸しすると言ったじゃないですか」
そして、ちゃぶ台の上から足を下ろすと。
傍らに置いてあった鞄の中から、蒼色の腕輪の様な物を取り出す。
「これは今回の事件に対処する為、光の国で造られた『ブレイズブレス』です。この小さな腕輪の中に疑似プラズマコアが内蔵されていて──」
フンフンとちょっぴり鼻息を荒くしていたメビウス。
しかし、陽輔の「なーにも分かりまへん」と言いたげな表情に気が付くと、ぽりぽりと頬をかき。
「ごくごく簡単に言うと、これを使うことで『デミ・ウルティノイド』──
「ブレイズ……」
なるほど、と陽輔は頷く。
──このブレイズブレスが変身アイテムであり、これを使って陽輔がブレイズと言う名のヒーローに変身して戦う。
子供の頃からずっと憧れてきたシチュエーションだし、そう考えるとすんなり理解できる。
「ちなみに、これって人体に何か影響があったり……?」
手渡されたブレイズブレスを指でコンコンと叩きながら。
陽輔はおそるおそると言った感じで、メビウスへと視線を向ける。
「大丈夫です! ちゃんとディファレーター光線に適性のある方を選出していますし、それ以外にも身体能力や思想諸々いろんな面で、陽輔さんは高い適合性をお持ちなんです!」
「ああ……やっぱり出るんだ、ディファレーター光線」
「極めて微量ですから、人体に影響は無いとの事です!」
笑顔でさらっと重大事項を口にするメビウスに、ちょっぴり小悪魔めいたものを感じる陽輔。
「ちなみにですが、ブレイズブレスのデザインはボクが担当しました」
「その情報はいらないかなあ……」
メビウスが「どやっ」とばかりに無い胸を張る。
ブレイズブレスへと視線を落としていた陽輔が、今度は半眼になる番だった。
「宇宙警備隊なんて物々しい組織が造ったと言うわりに、なんだかおもちゃっぽい見た目をしてるとは思ってたが……」
どうやら彼女の趣味嗜好によるものらしい。
しかし、陽輔が演じていたクルーガーと一緒で、これにはこれで男の子受けする格好良さがあった。
「とりあえず、しばらくはこのアパートの一室を拠点として、不逞宇宙人達の侵略に備え──」
陽輔から受け取ったブレイズブレスを、彼の腕へと取り付けてあげながら。
メビウスが今後の予定を語ろうとした──その時。
轟音と震動が、ツブラヤ荘を震わせるのだった。
メビウス「ちなみに別売りのブレイズライザーって言うのがあって、それがあると別売りのウルトラメダルって言うのが使える様になるんですけど」
陽輔「そういう商法かな?」
ブレイズブレスの見た目は、蒼色のメビウスブレスっぽい感じです(´・∀・`)