住めば都のツブラヤ荘 作:タッコング
【7】
突き上げられる様な震動に、揺れるツブラヤ荘。
「じ、地震か?!」
思わずそう口走って身構える陽輔だったが、すぐに彼自身もそれが単なる自然現象の類いではないと気付いた。
揺れは断続的で、一向に鎮まる様子を見せない。
「まさか……!」
メビウスがハッと顔色を変える。
そして、弾かれたようにベランダに続く窓へ駆け寄ると、カーテンを勢いよく開いた。
窓の向こう──。
遠くに見える町の夜空が赤色に染まっている。
「やはり、もうこの星に……!」
「は、話に出てた宇宙の悪人が来たって言うのか?! ……って、おい、待てよ──」
きゅっと唇を噛むメビウス。
そんな彼女の様子に困惑しながらも、陽輔は傍らに並んで同じ方向を見やる──しかし、その時、陽輔は恐ろしい事実に気付き目を見開いた。
「あっちはニコニコ通りがある方じゃないか!」
そこは陽輔が、今日まで居を構えていた商店街だ。
つい数時間前に顔を合わせ、話をした恩人達だっている。
「皆は──」
ガラス戸に反射して映る室内。
陽輔の目に、台所に置かれた野菜のつまったビニール袋が写った。
──もう、立ち止まっている理由は無い。
「陽輔さん!」
玄関へと向かって駆け出そうとする陽輔。
そんな彼の手をメビウスが掴む。
「本当に良いんですか? 戦いを始めれば怪我をするかもしれないし、恐ろしい目にあうかもしれない。最悪、死んでしまうかもしれないんですよ?」
──メビウスはそう言いたかった。
陽輔に戦いを勧めたのは彼女自身だが、それでもやはり、それまで普通の生活を送っていた星の住人に戦いを強いる事には少なからず抵抗があった。
この土壇場で、それが口をついて出かけていたのだ。
「メビウス……」
そんな真摯な眼差しにのせられた想いは、察しの悪い陽輔にも伝わったのだろう。
陽輔は表情の険しさをほどくと、わずかに微笑み。
今は自分よりもずっと背の低い少女の頭へと、静かに手を置いた。
「俺、行くよ。皆が危ないんだ」
その言葉と繋いだ手から感じる力強さに、メビウスは気付く。
彼はすでに覚悟を決めている。
それも、自分と出会うずっと前から──この春日 陽輔と言う青年は、ヒーローとして生きる準備をずっと行ってきていたのだ。
──ふっ、と。
気がつけば、メビウスの口元にも微笑が浮かんでいた。
「……ブレイズブレスの使い方も聞かずに、ですか?」
「ああっ! そうだった!!」
オーマイガッ! と頭を抱える陽輔。
そんな彼の前へとメビウスが進み出る。
そして、儚い膨らみを感じさせるその胸の前で、グッと拳を握って見せた。
「変身しましょう! 陽輔さん!」
「……ああ!」
力強い頷きを陽輔は返す。
そして、メビウスは──急に陽輔の前でポーズを決め始めた。
「いいですか? まず最初にブレイズブレスを装着した腕を胸の前でこう構えます。それから水平に払う様に腕を横に大きく伸ばして、その時に空いている手は握り拳にして腰の横へ──」
「待て待て待て」
不可思議な動きを始めたメビウスの腕を掴んで、半眼になった陽輔がずいっと詰め寄る。
「非常事態なんだって! そ~~ゆ~~ボケは後にしてくれ!」
「ボケじゃありません! これは変身に絶対必要なシークエンスなんです! ブレスの誤動作と悪用を防ぐ為に、この変身ポーズを速度や腕の角度まで完璧にこなさないと作動しないようになってるんです!」
「だーー! なんてめんどくさい事を!!」
渾身の変身ポーズを『ボケ』扱いされた事に、かわいらしく頬を膨らますメビウス。
そんな彼女とは対象的に、陽輔はその場で再び頭を抱えていた。
「面倒でもこれをやらないと変身できないんです! 一発で覚えてください!」
そんな無茶苦茶な。
そう思う陽輔であったが、自分でも言った通り、この非常事態の最中。
無駄にしている時間なんてありはしないのだ。
「くっ! やるしかない……!」
「それでは、先程の続きからいきますよ?」
陽輔はその場で正座すると目を見開いて、メビウスの披露する無駄に手順の多い変身ポーズを見入っていた。
端から見てると変質者だが、これに北川町の平和がかかっているのだ。
──そして、陽輔はそれを見事に一発でマスターした。
彼の必死さもさることながら、ヒーローショーでポージングしてきた経験が、ここで遺憾なく発揮されたのである。
「よし! 完璧に覚えたぞ!」
「さすが陽輔さんです! さあ、最後にブレイズブレスを掲げてください!!」
誇らしげに教え子を見守るメビウスの前で、陽輔は万感の想いを込めてブレイズブレスを頭上へ掲げた。
「今こそ皆を守る力が欲しい──ブレイズ!!」
願いを込めて、その名を叫んだ時。
ブレイズブレスから眩い閃光が迸った──。
【8】
「くそっ! 俺は夢でも見てるのか?!」
ニコニコ通りの住人を避難させていた立花さんは、迫る巨人の姿を睨みすえる。
常人なら我先にと逃げ出してもおかしくないところ、それでも己の職責を放棄しなかったのは、彼が生粋の警察官だからであろう。
そして、己が警察官であると誇る以上に、立花さんはこのニコニコ通りに強い思い入れがあった。
「この化け物がぁぁ!!」
腰のホルスターから拳銃を引き抜くと、立花さんは連続で引き金をしぼった。
──戦車よりも重厚に見える怪物の装甲は、いとも容易く弾丸を弾く。
一瞬の内に弾倉は空になり、カチカチと金属音だけが空しく響いていた。
「くそったれめ……これで少しは気がひけたか?」
はじめから、こんな拳銃の小さな弾に期待はしていなかった。
立花さんの目的は、この怪物の気をひく事にあったのだ。
その狙い通りに。
立花さんへと向かって、鋼鉄の巨人が近付いてくる。
どこへ逃げようか? いや、逃げられるのだろうか?
そんな事を考えながら駆け出そうとする立花さん。
しかし、そんな彼の思考は──。
頭上を越えて飛来した巨大な光球の前に、あっさりと霧散してしまうのだった。
《──高エネルギー体の接近を確認。正面へ降ります》
「来おったな……!」
キングジョーのコックピット。
E4の電子音声が警告を発すると、小癪な地球人を黙らせようとしていた手を止めて、ペダン星人は待ってましたとばかりにディスプレイを睨む。
そこに見えるのは、青く輝く光球の姿。
まるで光がほどける様に。
その消えゆく光球の中から現れた巨人が、閃光を纏いながら大地へと降り立つ。
その超重量に、降り立った地面が捲れ、土砂が舞い上がる。
巨人は雄々しく顔を上げるとキングジョーを睨み据え、全身に力を漲らせながら戦いの構えを取っていた。
空の色を映したかのような青を基調としたカラーリングに、炎に煌めく白銀の装甲。
デミ・ウルティノイド『ブレイズ』
──これこそが陽輔に与えられた姿であった。
ブレイズの姿は、アニメのグリッドマン(覚醒前)みたいな感じでイメージしております(´・∀・`)