【ヒト息子ソウル】原作・競馬ミリしらなので安価で進むしかないウマ娘生【転生】 作:やはりウマ娘二次創作界隈は魔境
そしてかげ様からファンアートがたくさん……ありがてぇ……。あらすじに載せさせていただきましたので、是非ご確認くださいませ。パンクミタマすこ。ネイル含めて多分シチー先輩のコーデだと思うんですけど(名推理)
・インタビュー
無敗三冠。
当事者たるトゥインクルシリーズ・クラシッククラスで走るウマ娘だけでなく、ウマ娘の走りに夢を見て、その走りに夢を託す大勢にとって、それは正しく夢そのものだ。
強いウマ娘だけが成し遂げられる三冠の、更にその上。本当に強いウマ娘だけにしか成し遂げられない領域の走り。
三冠は分け合うものという認識も少なくはないほどに、そこに集う者達の実力が伯仲しているのがクラシッククラスであり、一冠を取れるだけでもこの上ない栄誉。三冠の時点で夢物語のように感じている者もいるだろう。そこまで無敗で駆け抜けると言うなら尚更に。
だが、今、そんな無敗の三冠に手を掛けるウマ娘がいた。
「と、ミタマガシャドクロさんには大いに期待が寄せられていることと思います」
「……」
無言で己を見詰めるウマ娘、ミタマガシャドクロ。
勝負服姿で姿勢良く座る姿は良家の令嬢を思わせる。しかし、その左前の死装束じみた着付けからは不吉なものを感じざるを得なかった。まるで空虚で人形のような応対からは尚のこと。
想定通りに過ぎる彼女の反応に内心で苦笑を零しながら、今回運良くインタビューの席を勝ち取った記者の男は兼ねてより予定していた質問に入る。
「三冠路線における手応えは如何でしょうか?」
「……」
なんとも無難な質問ではあるが、こういったオーソドックスな質問は必須だ。
ファンも、そうでない者達もその答えを欲している。
「……」
「あの……」
しかし、尚も無言を貫く彼女に記者は面食らう。
長い沈黙を破って解禁された、今をときめく三冠候補ウマ娘のインタビュー。
これまで一度たりともインタビューに応じない姿勢から界隈では様々な憶測が飛び交う中、最も有力であったのは彼女がインタビューを苦手とする説だ。そんな中での待望のインタビュー解禁ともなれば、予想される質問に対しての回答を幾つか用意してきているだろうというのは当然の見立て。
それでも無言でいるということには意味があるのだろう。
記者の男がそう判断するのは極々自然なことで。
「それなら、質問を変えましょう」
「……」
「三冠に懸ける想いは?」
男はベテランで、優秀な記者であった。
ゆえに求められているものを理解していて、その為ならば予定に無い質問を繰り出すことも厭わない。
だからこそ、記者の男はそこに
『────勝利ヲ、タダ勝利ノミヲ……!』
「っ!?」
息が詰まる。
なんだこれは。
そこに何が居る。
何が話し掛けてきているのだ。
視界には映らず、存在感すら曖昧なのに、確かにナニカがそこに居る。そのナニカが彼女の代わりに想いを答えた。
『ウマ娘デ在ルカラニハ、負ケラレナイ想イガ、踏ミ躙ラレタ願イガ有ル。ソレヲ叶エタイノ』
そこに在るナニカは一転して流暢に言葉を連ねる。それは男が望んでいた答えであり、予期しない答えだった。
その時、ゆっくりとミタマガシャドクロが口を開く。
「……ワタシは、三冠を獲れなければ、死んでも構いません」
「っ」
確かに死んでも構わない程の熱意を三冠に向けるウマ娘は多い。誰も、獲れたら獲るなどといった考えでは臨まないだろう。
でも、これは書けない。こんなものを記事にするなど正気の沙汰じゃない。
「……あの……」
「あ、え、あ……す、すみません。次の質問に行きましょう」
この子は危うい。
絶対に良くない存在であるこのナニカがこの子を、ミタマガシャドクロという一人のウマ娘を狂わせている。そう思えてならない。
それでもまだ、まだ戻れるはずだ。きっと。誰かがこの子を引き戻してやらなければならない。
そして、それはライバルのウマ娘や彼女のトレーナーだけにしかできないことだ。自分のような記者の役目じゃない。
だからこそ、望みを託せるウマ娘を知らなければ。
男は一縷の望みを懸けて次の質問へと移る。
「それでは、少し気は早いかもしれませんが、今後の展望は?」
誰だ。オグリキャップか、ヤエノムテキか。タマモクロスやイナリワンでも良い。
誰か────。
『オデ、先輩、ミンナ喰ウ』
総身が泡立つような感覚に襲われた。
今、何と言った?
ミタマガシャドクロが言ったのではないことくらい分かる。今、この場で会話の主導権を握っているのはオカルトチックなナニカである。
問題は、その答えだ。
この化け物は、全てを喰らうと宣った。
「……」
男はどうすれば良いのか分からなくなった。
この化け物からすれば、名だたる先達も全て等しく喰らう餌でしかないと言うのか。
長年の経験から、ウマ娘は闘争心だと、勝利への飽くなき希求を秘めた者達だと男は理解していた。
なるほど確かに彼女は勝利のみを求めているのだろう。
だが、空虚に過ぎる。闘争心がまるで無い。
望まれたから、背を押されたからそこに立っているかのような、そんな在り方。
男は記者ではあるが、世の中に一定数が蔓延る悪質な者ではない。むしろその逆で、URAやトレセン学園の運営側から大きな信頼を得ている所謂善良な記者だ。
穿ち過ぎた見方のスキャンダルではなく、ありのままの真実を。飯のタネではなく、あくまでもウマ娘達の在り方を遵守するウマ娘のファンだ。
「……ありがとうございます。では、三つ目の質問に移ってもよろしいですか?」
「……」
もしかしたら、もう既にこの子に自我と呼べるものはないのかもしれない。そんな有り得ない考えが浮かぶ。
意気消沈と次の質問へ移る記者の男に、ミタマガシャドクロはこくりと頷く。
きっと、この質問にも、彼女は答えてはくれない。
「ファンの方に向けて、何か一言お願いします」
少女は俯く。
先までと違う反応に、男は未練がましくも期待した。
「……ワタシは自身を器と規定しています」
「器?」
ぽつりぽつり、少女は語り始める。
そこに確かに少女の意思が感じられて。記者の男は、嫌な予感を覚えながらも一言一句聞き逃すまいと耳を傾ける。
「……ターフに散っていったウマ娘達の宿願を受け止める器です」
なんだ、その在り方は。
それがウマ娘だと言うのか。そんな想いでターフを走っているのか。
それではまるで、彼女は彼女自身の意思ではなく、その他者の宿願に走らされているみたいではないか。
ウマ娘がそんなモノに走らされていて良いわけがない。それがたとえ自分の理想の押し付けであっても、男は、少女をそんな風にした環境に、そしてそれを甘受する少女自身に憤りを覚えずにはいられない。
「ほ、本当にそんなモノの為に走っているのか……!? 無敗の三冠は、君が望んだことじゃないのか!?」
気が付けば、あまりにも悲し過ぎるその在り方に、男は声を荒らげていた。
自分の中にあるウマ娘への夢が、ミタマガシャドクロという、たった一人のウマ娘の存在によって壊されようとしていたから。
やめてくれ。その先の答えを言わないでくれ。男は無責任にも願った。
「……彼女達がそう望むのでしたら、ワタシは無敗の三冠を獲りましょう」
嗚呼。
少女の背後で赤い眼が爛々と光る。怨霊が、髑髏の姿となって少女を骨腕にて抱き締める。
「────この身は、その為のモノです」
男は目の前が真っ暗になった。
後日、彼は己の記事に当たり障りの無い答えを書き、長年親しんできた記者の職を辞した。
・トウカイテイオー
「先輩方を全員倒したい、ねぇ」
ミタマが本当にそんなことを言ったのか。私はなんとなく違和感を感じながら、ミニトマトを口に運びつつ雑誌のページを捲る。
それは己の担当するウマ娘、ミタマガシャドクロの記事を眺めながら、食堂で少し遅めの昼食を摂っていた昼下がりのこと。
「ねぇねぇ、キミ!」
「?」
ふと、快活な声に呼ばれて私は振り返る。
そこにいたのは、明るい鹿毛のウマ娘。たしか、名前はトウカイテイオーだ。
今年入学してきたウマ娘の一人で、今年度首席のメジロマックイーンに次いで優れた素質を持つウマ娘。トレーナー室でもまだまだデビューは先だと言うのに話題になっていた。
「トウカイテイオーよね? どうかしたの?」
「キミってさ、ミタマガシャドクロのトレーナーだよね?」
「? ええ、そうだけど」
今一要領が掴めない。私がミタマガシャドクロのトレーナーだとして、それがどういう用件に繋がるのか。
そんな私の内面を直感したのか、トウカイテイオーは悪戯っぽく笑うと直球に用件を告げた。
「じゃあさ、ボクも担当してよ」
「え?」
固まった。フリーズ。
いや、固まるしかないでしょ、こんなの。
「だーかーらー、ボクの担当になってって言ってるの」
「……参考程度に聞かせて。なんで私なの?」
そうだ。どうして私なのか。
私でなくとも、トレーナーは沢山いる。優れたトレーナーを探しているなら、新人の域を出ない私などより適したトレーナーはここにはわんさか居るだろう。
私の疑念に答えるように、トウカイテイオーは口を開いた。
「だって、キミはミタマのトレーナーでしょ? それなら、ミタマについて沢山知ってるはずだし、トレーナーとしての能力もちゃんとあるはず。だから、ね?」
いや、えぇ……。
全く分からない。つまり彼女はミタマを倒したい、ということなのだろうか? それならやっぱり私よりも他のトレーナーの所に行った方が良いに決まっている。
「ほら、キミって流され易そうだし。それに、ボクはミタマに勝ちたいけど、ライバルとして勝ちたいわけじゃない」
「?」
「ボクはね、カイチョーみたいになりたいんだ。カイチョーみたいに強いウマ娘になりたい。でも、きっと強いだけじゃなれない」
その言葉には万感の念が込められているように思えた。
会長、シンボリルドルフみたいになりたい、その言葉に嘘偽りは無く。それでもどこか違う意味合いが、彼女自身も知らない内に含まれているように感じられた。
「ボクはカイチョーを超えて、カイチョーでも無理だったことを成し遂げる。
ボクがミタマを幸せにしたら、それはカイチョーよりも凄いってことでしょ?」
私は、彼女の言葉に何一つ返すことができなかった。
その真っ直ぐで力強い面持ちに、私はミタマと出会った時のような、何か運命のようなものを感じていたのだろう。
だから、きっと、彼女が私の二人目の担当ウマ娘になったことは、必然だったのかもしれなかった。
PS.
トウカイテイオーいつ入学したの?
トウカイテイオー初遭遇(ミタマジュニア期)→トウカイテイオーとミタマ初レース(ミタマジュニア期末)→トウカイテイオー入学(ミタマクラシック期、四月)