【ヒト息子ソウル】原作・競馬ミリしらなので安価で進むしかないウマ娘生【転生】   作:やはりウマ娘二次創作界隈は魔境

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 送れましたが夏合宿の1/2です。

 そしてかげ様からの素晴らしいFAが疾う疾う五件目に……ありがてえ……ありがてえ。


夏合宿1/2

・帰省

 

 

「あー、身体が……」

 

 バスから降りてひと伸び。ばきぼきと歓喜の叫び、長旅で固まった身体が凄絶な音を立てた。

 青々とした空の下、ざわざわと清涼な風が吹く。周りには点々と家や田んぼが在るだけで、視界のほとんどが草原と森の緑。トレーナーという仕事の都合上、それなりに都心を離れることはあるが、ここまでの僻地にはそうそうお目にかかれない。

 

 夏合宿を翌週に控えた六月のある日。

 私は電車を何度か乗り継いで、更にローカルバスを二回乗り換えるという長旅の末に、ミタマの実家にやって来ていた。

 切っ掛けはミタマのお母さんから送られてきた、今どき珍しい達筆な筆字の手紙だ。

 曰く、無敗の三冠に手を掛けた今、トレーナーである私に一言礼を言いたいとのこと。あまりそういうのは得意ではないのだが、思えば未だに一度も顔を見たこともなく、せっかくの誘いを無下にするのもまた気が引けて、結局私は頷いてしまったのであった。

 それに、もうひとつ、聞いておきたいこともあったし。

 

 打ち合わせ通りバス停で待っていると、予定の時刻より十分早く彼女は現れた。

 

「……こんにちは、“とれーなー”さん」

「こんにちは、ミタマ」

 

 薄らと赤みを帯びた黒の紬。そういうのに疎い私から見ても仕立ての良さが伺えるそれは、一着でも私の一月の給料くらいは軽くしそうに見えた。それでも着られているという感じはどこにもなくて、まるで在るべき姿とでも言うかのように着こなしているのは流石と言うべきか。普段の無表情も相俟って、どこか作り物めいて和風人形のようにも見えてしまう。

 私を迎えに来たのは他でもない、昨日一足先に実家へと帰っていたミタマだ。

 

「もしかして、それが私服なの?」

「……はい。何か、違和感でもありますか?」

 

 道すがら気になったので聞いてみると、彼女はこくりと頷いた。

 古風な家であるとは聞いていたけど、まさか子供の私服まで着物とは。今更ながら、そう言えばこれから訪ねるのはミタマの家なんだなと気を引き締める。

 

「ううん。むしろ似合い過ぎって感じなんだけど、学園では何を着てるの? 流石に着物は着ないでしょう?」

「……ヤエノさん達に見繕ってもらったものが、二着ほど」

「他は?」

「……制服です」

「……帰ったら、私服を買いに行きましょ」

「……分かりました」

 

 流石にそれは無いわ。

 

 

 

 石畳で舗装された道を歩くこと十数分。

 特にこれといった会話も無く、私達はそこにたどり着いた。

 

「……着きました」

「うわぁ、すご」

 

 私はただ感嘆の声を零すことしかできなかった。

 目の前には重厚な漆塗りの門構え。奥には大きな屋敷が見える。正に武家屋敷か、恐ろしく立派な家がそこにあった。

 

 この屋敷が実家であることに加え、節々から窺える洗練された所作と言い、お母さんに負けず劣らずの達筆と言い、やはりミタマは良い所の出であったらしい。

 

 気圧されている私を他所に、引き戸を開いて中に入っていったミタマに慌てて続く。

 

「……ただいま戻りました」

「お帰りなさい、ミタマさん」

 

 私達を出迎えたのは、誰に言われなくてもミタマの家族だと分かるような容姿の美人なウマ娘の女性だった。ミタマに姉妹はいないと聞いているから、この人がミタマのお母さんに違いない。

 見れば見るほどミタマそっくりだ。というか、若過ぎる。私より優に十歳以上歳上だろうに、なんなら私よりも若く見えるとはどういうことか。母親ではなく姉にしか見えない。

 ウマ娘の不思議な生態に驚愕していると、ふとミタマのお母さんと目が合う。

 

「ようこそ、おいでくださいました。ミタマさんの“とれーなー”さん」

「……あ、あの、頭を上げてください」

「いいえ。感謝を、伝えさせてください」

 

 そして唐突に正座のまま深々と頭を下げ、綺麗な最敬礼をしたではないか。

 何に対する感謝なのかは言われなくても分かる。これまで一年ほどミタマと共に居たからこそ、彼女を育てた環境、その中心であったミタマのお母さんのトゥインクル・シリーズへの並々ならぬ想いは薄々理解していた。

 あたふたしていると、思わぬ所から助け舟。

 

「……まだです、お母様。まだ、最後の一冠が残っています」

「分かっています。この方に、最後まで導いてもらいなさい」

 

 違った。確かに少し話が進んだけれど、助け舟じゃなかった。

 この母にして、この娘だな。なんて思いながら、私はおずおずと口を開いた。

 

「あの、ミタマのお母さん「ただ、お母さんとお呼びになってください」……それで、お母さん。少し、お話ししたいことがあるのですが」

「そうですか。ミタマさん、席を外しなさい」

「……分かりました」

 

 奥に見える居間の方へと歩いて行ったミタマの背が見えなくなって、外に出たミタマのお母さんに続き私も外に出た。

 

「……あの子の脚のことですか?」

「はい」

 

 やはり私よりもミタマと付き合いが長いだけある。

 私は真剣な面持ちで続ける。

 

「昔、ミタマは何か怪我をしたことはありますか?」

「いいえ。……ですが、あの子の脚は生まれつき脆いのです。いえ、代々脚の弱さに脅かされてきた家系なのです」

 

 つまり遺伝か。

 去年のジュニア・クラスでの一年間、そして先日の日本ダービーまで、私はミタマのことだけを見てきた。だからこそ、日本ダービーを終えてから、彼女の実体を現さない異変にすぐさま気が付くことができた。

 結局、これも私の直感に過ぎないのだが、それでも恐ろしい程に、寒気を感じるくらいにそれは訴えかけてきた。

 

 

 これ以上は危険だ、と。

 

 

「あの子を“じゃぱんかっぷ”に連れていった時のことです。その時があの子にとって初めての“れーす”場でした」

「……その時からですか?」

「はい。それ以来、あの子は走れるようになった」

 

 そのレースになんらかの原因がある。だが、その原因は分からない。

 ……いや、なんとも非現実的な事だが、目星は付いていた。もし本当にそうだとしたら、やるせない気持ちでいっぱいになるというだけで。

 

「お願いします。あの子はきっと、最期まで走れます」

「……ですが」

「あの子には、それしか無いのです。お願いします……」

 

 再び深深と下げられる頭。

 返答に窮する。

 確かに危険だと直感が働いているというだけで、精密検査でも何も異常は無かった。あくまでも私がこれまで信じてきたものが、今度も私を正しく導こうとしているだけだ。

 でも、それは私にとって正しいというだけのこと。ミタマや、ミタマのお母さんにとって、それが必ずしも正しいとは限らない。

 

 返事に悩んだ末に、私は───。

 

「……分かりました。菊花賞には出走させる予定で行きます」

「ありがとう、ございます……何とお礼を言えば良いのか……」

「ですが、難しいと判断したら躊躇なく回避しますのでそのおつもりで」

「分かっています。あの子が選んだ“とれーなー”さんを信じます」

 

 

 私は、初めて自分の道標を裏切ったのであった。

 

 

 

・夏合宿(2年目)スタート!

 

 

「海だぁーっ!」

「あ、ちょっとテイオー……!」

 

 制服から学園指定の水着に着替えたテイオーが、一目散に砂浜へと駆け出してゆく。

 力には自信があるので荷物運びくらい私一人でやれるが、それはそれとして手伝って欲しいなーなんて思ったり。まあ、せっかくの海ではしゃぎたい気持ちも分かるので水を差すつもりは無いけれど。

 

「……“とれーなー”さん、この箱はどちらへ?」

「待ってね。今傘立てるから、クーラーボックスはその下にお願い」

「……分かりました」

 

 ミタマはその点、とても落ち着いている。

 去年は夏合宿には行かずに実家に帰省していたらしいので今回が初めてのはずなのだが、特に浮ついた雰囲気は感じられない。まあ、そもそも尻尾や耳が動くこと自体稀な子なのだが。

 

 パラソルの用意をしながら、ぼうっとテイオーを眺めるミタマをちらりと見遣る。

 テイオーが私の契約ウマ娘になってから、ミタマは時折テイオーを眺めることが増えたように思う。

 彼女なりに何か思うところがあるのか。

 例えば、同じように無敗の三冠獲得を掲げるテイオーへの対抗心とか、後輩ウマ娘に対する慈愛のようなものとか。仮にそういうものが芽生えたのだとしたら、きっと良い兆候なのではないかと思うのだ。

 

「……どうか、されましたか? “とれーなー”さん」

「いいえ、大丈夫よ。ほら、そこにクーラーボックス置いたら、テイオーを連れてきてくれる?」

「……はい」

 

 海に飛び込んだテイオーを呼びにぺたぺたと砂浜を歩き出したミタマを見送って、私は準備を再開した。

 

 

 

「さてと。じゃあ、ミタマは菊花賞に向けて砂浜走り込み、テイオーはまだデビューまでかなり時間があるから着実に基礎から作っていきましょう」

「はーい」

「……分かりました」

 

 前走の日本ダービーから菊花賞まではかなり間が空く。空いた分の感覚を取り戻し調子を整える意味でも、ミタマには菊花賞トライアルである二つの重賞、セントライト記念か神戸新聞杯のどちらかに出走させたかった。

 

 しかし、日本ダービーを終えてから続くあの嫌な直感が七月に入っても未だに私の中で燻っていた。

 

 ウマ娘にとって脚の不調は常に付き纏い、ほんの少しの兆候でも見逃せば致命的となる。トレーナーとしての勉強を始めてから、一番最初に覚えさせられるのはウマ娘の脚に纏わる病気や怪我などの知識だ。

 医者にもかかり、精密検査も行った。それも合宿前にもう一度、合計二回も。

 だが結果は異変のひとつもなし。健康そのもの。

 杞憂であればと思うのだが、どうしても嫌な予感は拭えていない。

 

 思い出すのは、先日ミタマの実家にお呼ばれした時のこと。

 

『あの子の脚は生まれつき脆いのです。いえ、代々脚の弱さに脅かされてきた家系なのです』

 

 ミタマのお母さんはそう断言した。

 つまり彼女の脚にはまず間違いなく問題がある。それがいつ爆発するのか、どうすればしないのか、被害を最低限に抑えられるのか。

 

 ミタマと私の目標である無敗の三冠は必ず成し遂げてみせる。その想いはずっと変わらない。

 だが、その先を私は見ていたい。私は今までも、これからもミタマに夢を見続けているから。

 

「“とれーなー”さん?」

「どうしたの、トレーナー?」

 

 それに、今はミタマだけじゃない。愛バがもう一人増えたのだ。それも同じように無敗の三冠を望む強いウマ娘が。

 まだまだ新米の私には荷が重いような気もするけれど、それでもやると決めたからにはやる。

 それがトレーナー(彼女達に夢を見る者)だから。

 

「ううん、何でもないわ。さ、始めましょう」

 

 一先ずの目標はミタマのスキルアップとテイオーの基礎作り。

 そして、この夏合宿の間にあの嫌な予感を消し去ること。

 

 私は決意を新たに彼女達に練習メニューを告げる。

 運命の夏合宿が始まった。

 

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