【ヒト息子ソウル】原作・競馬ミリしらなので安価で進むしかないウマ娘生【転生】   作:やはりウマ娘二次創作界隈は魔境

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 待たせたなッ!(五体投地)
 学生身分なのでこの時期書く時間がですね……お待たせして申し訳ねえ……。
 本当はサブストーリーを入れたかったんですけど、その前にこっちの筆が進むという事故……。

 PS
 またまたかげ様よりFAをいただいてしまいました……!
 遂にミタマちゃんもパカプチに……!それはそれとして、どう見ても呪いのアイテム。


夏合宿2/2

・命さえ 僅かばかりの 光かな

 

 

「“とれーなー”さん……あーん、です」

「え、ちょ、ミタマ……!?」

 

 夏祭りの喧騒をビージーエムに、差し出されるプラスチックのスプーンに載ったかき氷。

 私は慌てふためきながら、ミタマを見遣る。

 

「……駄目、でしょうか」

「そ、そんなことないわよ! はむっ!」

 

 流石に可愛い担当の上目遣いには勝てなかった……。

 口の中に広がる抹茶味を感じながら、私は地獄のように甘いこの時間の発端を思い返した。

 

 

 □

 

 

「テイオー、下がってきてるわよー! ミタマ! ラスト、ペース上げて!」

 

 七月の後半、そろそろ合宿も折り返し地点という頃。

 ミタマとテイオーに指示を出しながら、私は手元の資料とにらめっこしていた。

 いくつもの項目には問題無しの羅列。

 

 未だ、ミタマの脚の脆さに対する打開策は考え付いていない。

 焦ってはいないはずだ。まだ。それでも、夏合宿の間にどうにかしなくてはいけないというのに、もう半分ほどの時間を無為に過ごしてしまった。

 八方塞がり。照り付ける太陽のせいではない嫌な汗が流れる。

 

「おうおう、やってるなぁ」

「あ、シリウスのトレーナーさん」

 

 ふと、背後から掛けられた声に私は慌てて振り向いた。

 ハンチング帽子を被った壮年の男性は不敵な笑みを浮かべながら、遠くの二人を見遣って目を細める。

 彼はあのオグリキャップが所属する大手チーム〈シリウス〉のチーフトレーナー。今回、彼とたづなさんに無理を言って彼のチームと同じ場所で合宿をさせてもらうことになったのだ。

 

「どうだ、お前さんの担当は」

「まだ、駄目ですね」

「検査じゃ異常はなかったんだろ?」

「はい。でも、彼女の親御さんの言う脚の脆さっていうのは、やっぱり無視しちゃいけないと思うんです」

 

 私の直感が、とは言うべきではないし、言わない。実際問題、精密検査で異常は無いというのは本当のことであり、私なんかよりも医師の方がよほど正確なのだから。

 

 それに、菊花賞は純粋に未知数の距離だ。

 これまで中距離からクラシックディスタンスで走ってきたミタマでも、三千メートルという完全にステイヤーの領域の距離は走ったことがない。もしかするとこの距離だからこそ、私の危機感が働いているという可能性だってある。

 

 それに、そんなことは彼女の夢、無敗の三冠を応援しない理由となるはずもないのだが。

 

「まあ、良いさ。今回の合同練習、お前さんなりに考えがあるんだろ?」

「……はい。よろしくお願いします」

「おう。オグリも感化されてるみたいだしな、こっちとしてもありがたい」

 

 オグリキャップ。

 地方から中央へと戦いを挑んだ異端の挑戦者。

 芦毛の怪物。

 そんな彼女にすらマークされていると思うと、改めて、私の担当の凄さを実感する。

 

 だが、それも考えてみれば当然だろう。

 彼女は強い。

 たとえ、心無き人々から不作の一強などと呼ばれていても、彼女の無敗三冠に懸ける想いは本物で、その為の努力を彼女は惜しまなかった。

 私は胸を張って、彼女こそ無敗の三冠に相応しいのだと言える。

 

「にしても、お前さん、よくもまああれだけ強いウマ娘を勧誘出来るよなぁ。しかも二人も」

「まあ、そうですね……ミタマもテイオーも、二人とも妙な縁があって担当になれたって感じもしますけど……」

「そういうのが大切なんだよ。どんな出会いでも、どんな経緯でも、構わない。俺たちがやるべきことは、そうやって担当になった彼女達を全力で導いてやることだけなんだからな」

 

 ……やっぱりこの人は凄い。

 そう思わされる。

 なら、私も。ミタマとテイオーに恥じないようなトレーナーにならなければ。

 

「ありがとうございます、シリウスのトレーナーさん。後、合同トレーニング、よろしくお願いします」

「おう。それに、俺のオグリはもっと強くなる。他の奴らだってそうだ。このトレーニングで貰えるもんは全部貰うぜ」

 

 そう言って、シリウスのトレーナーさんは獰猛に笑った。

 

「あ、それとな。来週から休みだろ? うちも休みにしてるんだが、トウカイテイオー、借りても良いか?」

「え? 別に大丈夫ですけど」

「うちのマックイーンがな、テイオーを意識してるみたいでよ。くっ付けたら良さそうな気がしてな」

「な、なるほど……」

 

 しかし、ライバルというのはウマ娘にとって無くてはならないものだ。

 そして得難いものでもある。

 特にミタマのような強いウマ娘にとっては。無敗で三冠を獲る、というのはすなわちそういうことでもあるのだ。

 

 テイオーもまたそういった強いウマ娘の一人だが、まだデビューもしていないこの時期から共に切磋琢磨できるようなライバルがいてくれれば彼女はもっと先に進めるかもしれない。

 

「分かりました。テイオーをよろしくお願いします」

「ありがとよ。お前さんも、担当と二人で満喫してこい」

「そうですね、そうします」

 

 私の返事に満足したように快活な笑みを浮かべた彼は、「長話し過ぎたな」と一言詫びて踵を返して来た道を戻って行った。

 

 多分、ミタマのことで思い悩む私に気を使ってくれた面もあるのだ。それくらい分かる。

 彼にはお世話になりっぱなしだ。本当に、頭が上がらない。

 

 ならば、お言葉に甘えて一緒にお祭りにでも行こうか。

 私は予定を考えながら、再び手元のボードに視線を落とした。

 

 

 □

 

 

 そして、合宿場の近場でお祭りが開かれる当日。

 私はミタマと共に、こうしてそのお祭りに足を運んでいるわけである。

 

「……“とれーなー”さん、次はあちらのお店に行ってみませんか?」

「あれは、射的ね。良いわよ、行きましょうか」

 

 確かに生殺しのような責め苦を味わってはいるが、それでも担当のいつもより楽しそうな雰囲気は何よりも嬉しかった。

 ゆっくりとした足取りでお店を回る彼女の足に合わせて、こんな風にお祭りを回るのも悪くないなと思う。

 ミタマの担当になってから、良いことも悪いことも、気が付かされるばかりだ。

 

「あ……あの」

「……どうか、されましたか?」

 

 そんな折り、駆け寄ってきたウマ娘の少女がミタマに声を掛けた。

 どこか不思議な雰囲気の、青鹿毛のウマ娘だった。その超然的な雰囲気は、ミタマに似ていたかもしれない。

 少女はミタマを見上げ、じっと眼を見詰める。そして一言、消え入るような声で問い掛けた。

 

「見え、ますか?」

 

 その一言が、何を意味するのか。私には分からなかった。

 しかし、ミタマにははっきりと分かったらしい。

 

「……はい、見えていますよ。とても、優しい方なのですね」

「っ」

「きっと、貴女にとって、よいお友達なのでしょう。その縁を、大切にしてあげてください」

 

 まるでここに私達以外の第三者がいるかのような口ぶり。

 いつもよりも、饒舌に、柔らかく、優しげに物語るミタマと、その言葉を涙ぐみながら聞く少女。

 そこには、私には計り知れないものがあった。

 

 少女はありがとうございますと言って、足早に去って行く。

 その会話の真相を、私はとても聞く気にはなれなかった。

 

「……ごめんなさい、“とれーなー”さん。お待たせしました」

「ううん、気にしないで」

 

 私はミタマのことを知らないのだ。

 根本的に、彼女のことを私は理解できていない。無敗三冠を切望する理由も知らない。

 だけど、これから知っていけば良い。まだ時間はあるのだから。

 そのためにも最後の一冠、菊花賞を無事に勝ち抜く必要がある。

 

 改めて決意を固めた私は、ふと腕時計を見やって程良い時間であることを認める。

 

「そろそろ、花火ね」

「……はい」

 

 花火の見えやすい場所については、あらかじめリサーチ済みだ。

 まるで彼女と夏祭りデートをする彼氏のようなムーブではあるが、シリウスのトレーナーさんも担当が沢山食べられる場所を往く先々でリサーチしているらしいのでこんなものだろう。

 

 ミタマを伴って旅館の人にオススメされた人気の薄い高台に辿り着くと、手頃な場所にあるベンチに腰を下ろす。

 隣に座ったミタマに、手持ち無沙汰になった私は気を紛らわせるように問い掛ける。

 

「ミタマは花火とか好き?」

「……花火、ですか。そうですね。好き、だと思います」

 

 夏祭りという熱気から離れた静けさと、落ち着き。

 やっぱり、ミタマはこういう場所に在る時にこそある種の絵画のような雰囲気を持つ。侵しがたい、神聖さにも似た雰囲気を。

 

 ……私、愛バにベタ惚れだな。仕方ないことだけど。

 

 その透き通るような声に聞き惚れていると、ふとミタマが肩に寄りかかってくるのが分かった。

 

「……ワタシには、誰かと深く関わるという経験が、乏しいです」

 

 ゆっくりと、吐露するような。必死に紡がれたような印象の言の葉。

 掛ける言葉は無い。今は、彼女の言葉に耳を傾けるだけだ。

 

「全て、全て初めてのことなのです」

 

「ヤエノさんやオグリさん達先輩方、テイオーさん……そして“とれーなー”さん」

 

「連綿と紡がれる縁、息をすることの積み重ね、誰かに託されること。あの子とお友達のように、結ばれた絆。単なる器だったワタシでも、分かります」

 

「多分、これが人生というものなのでしょう」

 

「ワタシは、今、生きている。そう思うと、空っぽで無意味だったこれまでから、意味のある一人になれたように思える」

 

「全部、全部。“とれーなー”さんが、私の手を引いてくださったから。そう思うのです」

 

 知り得なかったミタマの感情。

 考えと想い、これまでにないほど熱の篭った言葉。

 圧倒されるような感情の波。

 それを初めてこうして打ち明けてもらうことが出来て、嬉しいことのはずだ。はずなのだ。

 ……その、はずなのに。

 

 

 それはまるで、蝋燭が灯滅する前の一瞬の強い光明にも見えて。

 

 

 

「……“とれーなー”さん、これまで────」

 

 

 

 

 ────その最後の言葉は、打ち上げられた花火に掻き消された。

 

 

 


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