【ヒト息子ソウル】原作・競馬ミリしらなので安価で進むしかないウマ娘生【転生】   作:やはりウマ娘二次創作界隈は魔境

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 年相応なミタマちゃんが見れるのは今だけ!!!(
 そして、かげ様からありがた過ぎる漫画?挿絵?風FAまでいただいてしまいました……!ありがた過ぎる……ありがた過ぎるよ……。


見えない。

「酷なことを、お伝えしなければなりません」

「……覚悟は出来てます」

 

 沈痛な面持ちで医師は口火を切る。

 覚悟ができているなんて、嘘だ。でも、トレーナーとして聞かなければならない。

 

 一人、私はかかりつけの医師からミタマの容態を聞いていた。

 菊花賞から二日、未だにミタマは目を覚まさない。

 その理由も、ミタマのこれからも。

 

「これが前回、九月の診察結果、そしてこちらが今回のです」

「っ、これって……!」

「はい。両足ともに……」

 

 提示されたレントゲン写真には、目を背けたくなるような惨状。

 たとえ完治したところで、選手生命継続は難しいと言われても納得してしまうような、そんな有り様。

 確かに、予想はできていた。それでも受け入れ難いのは事実だった。

 

「どうして走れていたのか、不思議なくらいです。この脚のダメージは菊花賞の一走だけが原因とは思えない」

「でも、異常は無かったって……!」

「ありませんでした。確かに、なんの前兆も無かった。それでも、これは……あまりにも……。覚醒も、いつになるか……無念です」

 

 医師の顔には、自責の念がありありと浮かんでいた。よく見れば目の下には隈も。

 私は到底彼を責める気にはなれなかった。

 

 だが一つ、なによりも聞いておかなければならないことがある。

 からりと酷く乾いた喉で、声を絞り出すようにして問い掛けた。

 

「ミタマは……また、走れますか……?」

「それは……今はなんとも言えません。ですが、最善を尽くします」

 

 彼の悲痛な面持ちと、不自然なまでの間が何よりの証拠であった。

 これ以上、何も、何一つ、私は言葉を発することができなかった。

 

 

 □

 

 

 重く、重い心と身体を引きずるようにして、気が付けば私はミタマの病室へと訪れていた。

 するとガラリと目の前で扉が開いて、中から見知った顔が出てくる。

 

「あ、ヤエノムテキ……」

「……こんにちは、ミタマさんのトレーナーさん」

「えぇ、こんにちは。お見舞い?」

「はい」

 

 どこか寂しそうな顔で出てきたのは、ミタマと同室のヤエノムテキ。あまり、というかほとんど同年代の知り合いがいないミタマに、彼女やオグリキャップといったひとつ上の世代の子達はとてもよくしてくれている。

 彼女はあの日、トウカイテイオーと共にすぐさま駆け付けて意識を失ったミタマを医務室にまで運んでくれた。

 その上、こうして病室に見舞いにまで来てくれて、本当に頭が上がらない。

 

「ありがとうね、ヤエノムテキ」

「いえ、自分は何も」

 

 良い子だ。とても。

 ミタマには、たくさんの味方がいる。

 それに比べて、私は。トレーナー失格だ。私なんか……。

 そんなふうに考えてしまうことが増えた。

 

「大丈夫ですか? 顔色が悪いですが」

「え、あ、ううん。大丈夫よ。引き留めて悪かったわね」

「……いえ、問題ありません。トレーナーさんこそ、ご自愛ください」

 

 ヤエノムテキはそれだけ言うと、律儀に一礼してから踵を返して去っていった。

 年下の、本来なら私たちが心配する側であるべきウマ娘の少女に心配させてしまった。情けない限りだ。

 

 ……はぁ。駄目だな。しっかりしないと。

 私は沈んだ気持ちを切り替えるためにぱしんと両頬を叩いて、病室への扉を開いた。

 

 病室には他の患者さんは居らず、ミタマの為だけの個室が宛てがわれている。

 設備も最新鋭でかなり大きな病院だというのにこの対応、流石は無敗三冠を成し遂げた私の愛バだななんて感心してしまった。

 そんな資格はないというのに。

 

「……ごめんね」

 

 身動ぎ一つせず、死んだような風に目を瞑って眠るミタマを前にして、ふと漏れ出た言葉。

 反吐が出る。謝れば良いなんて、そんなことあるはずも無い。これは、ただの責任逃れだ。

 私はミタマをこんな状態にしてしまった張本人だ。

 私がもっと、もっとしっかりしていれば。過ぎ去った日々の中で、打開策を見つけ出せていたのなら。こうはならなかったかもしれない。

 私は逃げた。彼女のトレーナーという使命から、逃げたのだ。

 

 

 私は、トレーナー失格で、それどころか大人として最低だ。

 

 

「あまり、自分を責めるものではありませんよ」

「っ、あ、こ、こんにちは。ミタマのお母さん」

「はい、こんにちは、“とれーなー”さん」

 

 唐突にかけられた声に、若干上擦って返答してしまう。

 振り向けば、そこにあったのはミタマと瓜二つの顔。ミタマのお母さんだ。

 気が付かなかった。

 

「この子は、果たせました」

「……?」

「無敗の三冠、私達の悲願を」

 

 彼女はゆっくりと、どこか恍惚として語った。

 

 ああ、確かに見た目も話し方も雰囲気だって似てはいるが、これは違う。これはミタマガシャドクロとは別物だ。

 そして、ミタマが到り得る可能性だ。素直にそう思わされた。

 

「それもこれも、全ては“とれーなー”さん。貴女のおかげです」

「っ! 私は、ミタマをこんな風にしてしまった……それなのに、私には、そんな……」

()()()()()()()()()()

「え?」

 

 その言葉が分からなかった。

 彼女が何を言っているのか、私には分からない。

 分かりたくもない。

 

「ミタマさんは、こうなるべきだった。そして、正しくそうなった」

「な、何を……」

「無敗の三冠を獲り、私達の悲願を叶えて、そして儚くも潔く終わる。これが私達の願いの結晶。血の集大成」

 

 分からない。分からない。

 この人は、何を言っている? 実の娘に何を言っているんだ?

 ミタマのトレーナーとして、何かを言わなければ気がすまなかった。

 

「そんな、まるで道具みたいな……!」

()()()()()()()()()()。この子は血の為の道具に過ぎない。それはワタシも例外ではなく、ウマ娘は流れる血のためだけに生きるモノです」

「っ!! 貴女は、それでもっ!!」

 

 私は、自分を抑えきれなかった。

 血が滲まんばかりに固く握り締めた拳が、怒りと共に放たれようとした。

 

 その時であった。

 

「“とれーなー”さん……? お母様……?」

「ミタマ……っ!?」

 

 真っ赤な瞳が、不安げに私達を見つめていた。

 その左右の耳は、珍しいことにくるりとそれぞれ違う向きに回っていた。

 

 私の知らない反応。あの日、菊花賞で見せた微笑みと同じ、私が見たことのないミタマの表情。

 

「……また来ます。ミタマさん、養生するように」

「……はい、お母様」

「“とれーなー”さんも、ミタマさんを最後までよろしくお願いします」

「言われなくてもそのつもりです」

 

 ミタマのお母さんは、一言声を掛けると病室を出ていってしまう。

 私は、このやるせない思いを努めて抑え込み、恐らく混乱しているであろうミタマに状況を説明しようと口を開いた。

 

 そして、私は再び困惑することとなる。

 

「ミタマ、あのね「と、“とれーなー”さん……」っ、どうしたの?」

「っ、あ、あの、その……っ」

 

 取り乱した顔、声音。

 いつも落ち着き払ったミタマらしくない、慌て、怯えた年相応にも見える表情。

 尋常ではない様子に、思わず息を飲む。

 

 

「導きが……、っ、導きが見えなくなって、しまいました……」

「み、導き?」

「ぁ……ぁぁ、……ワタシは、どうすれば……?」

「落ち着いて、ミタマ!」

「っ、“とれーなー”さん……?」

 

 

 ミタマは、涙を流していた。身体を掻き抱いて。

 迷子になって戸惑う幼子のように、ミタマは涙を流していた。

 その絶望にも似た感情に染まった昏い瞳が、私を捉える。

 

「ミタマ、大丈夫?」

「ぁ……っ、ワタシは……ぅ」

「ミタマ? ねえ、ミタマ! どうしたの? 気分が悪いの?」

「……」

 

 つー、と頬に涙が伝う。

 そして、それきりミタマは俯いて何も反応を返さなくなってしまった。

 

 どうしようもなく、壊れてしまった。その姿からは、そんな風に思えてしまう。

 今日はこれ以上、彼女に触れるべきではないのかもしれない。

 もう、信用すらされていないのかも。

 ……それは嫌だ。でも、仕方が無い。私が無力だったから。そのせいでミタマは……。

 

「……また、来るわね」

 

 返事は無い。彼女は俯いて、震えていた。

 私には何も出来ない。無力な私には何も。

 

 

 私はどうすれば良かったのだろう?

 どうすれば何もかもが上手く行っていたのだろうか?

 

 

 この問いに、答えは出ない気がした。

 

 

 




 
 
 
 
 しばらく続くんじゃ……。

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