【ヒト息子ソウル】原作・競馬ミリしらなので安価で進むしかないウマ娘生【転生】 作:やはりウマ娘二次創作界隈は魔境
カイチョーはともかくテイオーはここのオリ主相手じゃ曇らないでしょ多分(解釈違い)
追記
いつも感想、お気に入り登録、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。
本日の感想返しはゆっくりやらせてもらいます。
・帝王と餓者
「来たね」
「……はい」
夕暮れ。
市内の大きな公園の一角で、二人のウマ娘が対峙していた。
片やメイクデビュー、京都ジュニアステークスとどちらも大差で勝利した今トゥインクルシリーズ期待のウマ娘ミタマガシャドクロ。
そしてもう一人は、明るく快活な雰囲気を纏った鹿毛のウマ娘。いまだ幼い風貌ではあるが、それでも見る者が見れば並外れた才気に目を見張ることだろう。少なくとも、既にジュニアクラスも終わりに近付き本格化が始まっているミタマガシャドクロが同じ年の頃と比べれば、彼女は何倍も強かった。
彼女の名前はトウカイテイオー。
あの皇帝以来、誰も成し遂げていない三冠、それも無敗の三冠を夢見る少女だ。
二人は場所を変えるために歩き出す。目指すはランニングコースだ。
この時代、ウマ娘専用のランニングコースが付いた公園など珍しくもない。幼いウマ娘は勿論、現役のウマ娘や一線を遠のきながらも走ることを忘れられないウマ娘なども足を運ぶ場所だ。
だが、時刻は既に日没。
昼間とは一転してコースには誰もいない。街灯もあるにはあるが、それでも暗い中を走るのは、時速六十から七十キロメートルで走るウマ娘にとってあまり好ましいことではない。必然、夕方からは人も少なくなる。
トウカイテイオーは、誰も走っていないコースを独り占めできるこの時間が好きだった。
「……っ」
ぶるり、少女はスタート地点に立って身震いする。
今日はいつもと様子が違った。
彼女にとってそこそこ馴染み深いはずの公園が、いつもとは違う雰囲気に感じられた。
ちらりと隣のミタマガシャドクロを見遣る。
彼女は平然とコースの先を見据えている。
「……本当に、2000メートルで構いませんか?」
「え、あ、うん。いいよ! ボクが誘ったんだし、キミの得意な距離でやってあげる!」
2000メートル、それはミタマガシャドクロが得意な最低距離だ。
未だG1の一つも勝利していないのだから当然かもしれないが、極端にメディアへの露出が少ない彼女について、トウカイテイオーが知っている数少ない情報の一つである。
だからトウカイテイオーは彼女の土俵での勝負を望んだ。
「ねえ、キミは、本当に無敗の三冠を取れるって思ってる?」
「……獲りますので」
「……ふーん」
そもそもどうして、彼女がミタマガシャドクロに目を付けていたのか。
それは一部例外はあるものの、メイクデビューを果たしたウマ娘がほとんど必ず受けるインタビューでのこと。
『────……ワタシは、無敗の三冠を獲ります』
同期達の中でただ一人、そう宣言した彼女の記事を見た。
そして先日、彼女が走った京都ジュニアステークスをたまたまテレビで観戦して。
何より、大好きな皇帝へのインタビュー記事にクラシック有力候補の一人として彼女の名前を見付けてから。
それ以来、トウカイテイオーはどうしてか彼女から目を離せなくなった。
本当に無敗の三冠を成し遂げてしまうのではないか。テレビ越しに伝わる気迫に、トウカイテイオーはたじろいだ。
「ボクは、キミに勝つよ」
「……そうですか」
自分を鼓舞するように宣って、鹿毛の少女はポケットからコインを取り出す。
結局、無敗の三冠の為に彼女と競うことがあるわけじゃない。
極論、彼女が無敗で三冠を獲得したとしてもトウカイテイオーには関係の無いことだ。
一番強くて、一番速くて、一番すごい皇帝の背に追いつくためにも余計なことに割く時間も無い。
「(……ボクの方がすごい……!)」
だが、だからこそ彼女はミタマガシャドクロに負けたくはなかった。
皇帝の次に三冠を成し遂げるのは、この帝王だ。彼女にはそんな強い自負があった。
それが叶わないとあれば、己より先に成し遂げるかもしれない存在に勝つ。それで一先ず溜飲は下がる。
そこまで明確に考えていたわけではなかったが、凡そ彼女の考えはそうだった。
「地面に落ちたらスタートだからね!」
「……わかりました」
きんっと弾かれるコイン。
それが地面に落ちた瞬間。
トウカイテイオーは駆け出した。
「(ミタマガシャドクロがステイヤー向きの追い込みウマ娘っていうことは知ってる。だから、追い付かれないくらい前を走る!)」
世代が上の相手でも、ステイヤーの追い込みウマ娘が相手なら2000メートルくらい前を走り切れる。
トウカイテイオーにとって世代が上であることなど怯む理由にはならなかった。それくらい、自分の才能を理解していた。
だから逃げが苦手であっても、走る。バ身はみるみる開いていった。
「(やっぱりね。このまま勝って、ボクの方が無敗の三冠ウマ娘に相応しいって見せてやる!)」
恐らく、トウカイテイオーは掛かっていたのだろう。
それは今回の作戦においても、またその前、ミタマガシャドクロのことを意識し始めてからも。
それに気が付くことなく、トウカイテイオーは夜のコースを駆け抜ける。
「(なんだろ……変だな)」
ふと、1400メートル辺りを通過して残り600メートル。
トウカイテイオーはなんとも拍子抜けした心持ちになって後ろのミタマガシャドクロに目を遣った。
そして瞠目した。
「っ!?」
まず感じたのは息苦しさ。そして倦怠感。
彼女の後ろから迫り来るのはウマ娘でもなければ、生ける者でもない。
怨念が突き動かしているかのような白骨の巨人。
有り得ないと、そうは思わなかった。
トウカイテイオーには、この現象に思い当たる節がある。
皇帝シンボリルドルフの栄光を見たあの日、彼女が見せた玉座と稲光の幻想。皇帝の意思、レースへの想い。
きっとこれは、その類だ。
でも、だとしたら、
「(これが、ミタマガシャドクロのレースへの想い……?)」
それを考えた時。
トウカイテイオーはどうしてか、胸が締め付けられるような思いに駆られた。
理由は分からない。それでも、その在り方は嫌だと思った。
その一瞬、スピードが緩まったその時。
「ぁ」
髑髏の巨掌が前を往くトウカイテイオーを
その後のことを、トウカイテイオーはほとんど覚えていない。
結果は八バ身差の完敗。気が付けば勝負は終わっていた。
ただただ、切なさと苦しさに胸中を焦がされていた。
「……それでは、これで」
「……」
去り行く背中。
脳裏にフラッシュバックするミタマガシャドクロの想いの具象。
考えるより先に、彼女は声を上げていた。
「ねえ!」
「……どうかしましたか?」
振り向いたその深紅の眼に貫かれて、言葉に詰まる。
それでもトウカイテイオーは必死に言葉を紡いだ。
「キミは、レースをしてて楽しいの……?」
「……楽しい、ですか……どうでしょう」
その答えは何よりも彼女の心中を物語っていた。
だからこそ、トウカイテイオーにはそれが何よりも許せなかった。悔しかった。
けれども、それ以上に高揚した。
「……来年、ボクはトレセン学園に入学する」
「……仰っていましたね」
何の感慨も抱いていない応答。
今しがた走った仲だとしても、彼女には関係の無いことらしい。
誰も眼中に無い。
故に、それは僥倖とトウカイテイオーは笑みを浮かべる。
「────首を洗って待っててよ、ミタマ。ボクが、キミのレースを楽しくしてあげるから」
その宣言にキョトンとして首を傾げたミタマに踵を向けて、トウカイテイオーは歩き出した。
未だその憧れは遠き皇帝の背中。無敗の三冠ウマ娘。
だが、今日。
それとは別に、帝王の胸に新たな目標が刻まれた。
ミタマガシャドクロにリベンジして、彼女をレースで楽しませてみせると。
「次は絶対に負けないからねー!」
トウカイテイオーは初めての敗北に燃えた。
・ヤエノムテキの見たホープフルステークス
「散り候え、ですか」
栗毛の生真面目そうなウマ娘が神妙な面持ちで呟いた。
彼女ヤエノムテキは、トゥインクルシリーズ年末最後の大一番、希望に満ち溢れたウマ娘達が集うG1レース・ホープフルステークスに盛り上がる中山の観客席でふと思いを馳せる。
少し前、同じ場所で同期のオグリキャップと先輩のタマモクロスが鎬を削ったばかり。
再び己を見つめ直すために出走回避を決断したヤエノムテキにとっては複雑な場所だ。
思い返すのは数週間前。
無事にメイクデビューを終え、続く京都ジュニアステークスも難なく勝利した同室の後輩ミタマガシャドクロ。彼女への祝いを兼ねたウマ娘らしい休日の一幕で、当のミタマガシャドクロが解散際に宣った一言。
入学当時から不思議な子だと思ってはいたが、しかし根はウマ娘。競うことを是とする種族なのだから、当然と言えば当然の宣言であった。
何より、ライバルであるオグリキャップと己を同列に見て、己にも宣戦布告をしてきたことが嬉しかった。
そして今日、その後輩がG1レースに出走する。
ヤエノムテキにとって可愛い後輩であり、同時に将来のライバルである彼女の応援をすることに否はなかった。
聞けば彼女の目標は無敗の三冠。
言い方は悪いがこの程度のレースで躓くようでは、無敗以前に三冠すら怪しいだろう。
紹介が終わり、ファンファーレ。
続々とゲートインしていくウマ娘達の中に、漆黒の勝負服に身を包んだ後輩の姿を認めた。
赤と黒の不吉さを感じさせる色合いに、左前の着付け。
まるで悪霊のようで不謹慎だと思いながらも、なるほど、ヤエノムテキは納得もしていた。
これが、これこそが彼女の覚悟なのだろう。
『各ウマ娘、ゲートインが完了』
『どの子も気合十分といった感じですね』
緊張はしていないらしい。いや、そもそもしていたとしても一切合切顔には出ないだろうが。
一年は短くもそれなりに長い付き合いだ。彼女がよくぼうっとしていることも、生活能力が壊滅的なことも、その割りには所作が洗練されていてしっかりとした教育を受けているのだろうこともヤエノムテキは知っている。
そして、彼女が強いということも。
『ホープフルステークス、スタートしました!』
ゲートが開き、ウマ娘達が一斉にターフへと足を踏み出す。
それぞれウマ娘には得意な戦法があるわけだが、ミタマガシャドクロは追い込み以外の走りをしない。
今回はほとんどのウマ娘が前寄りの戦法を取った為、固まったバ群と一人離されたミタマガシャドクロという構図が出来上がっていた。
『おっと、八番ミタマガシャドクロ、バ群から離れたところに一人。追い付くでしょうか!』
今回、ミタマガシャドクロは三番人気だ。
いつも人気は高くないと本人も言っていたが、恐らくそれは彼女の独特な勝ち方によるものだろう。
事実、ヤエノムテキも初めて彼女と併走した時は己の感覚を疑った。
そして負けた。
連敗こそ阻止したものの、気構えていても掻き消すことの叶わないあの感覚は慣れる気がしなかった。
時にG1に勝利するような強いウマ娘は、共に走るウマ娘や、観戦している感覚の鋭いウマ娘、トレーナーにはっきりと知覚させる幻想を生み出す。
それは個々のウマ娘の力の具象であり、ウマ娘達の想いの具現なのだと言うが、もしもそうなのだとしたら彼女は……。
「……」
脳裏に過ぎった嫌な予想を振り払い、ヤエノムテキは意識をレースに向け直した。
第二コーナーを曲がって向こう正面。
恐らく、ミタマガシャドクロの前を走る彼女達も段々とあの寒気が走る感覚を味わい始めていることだろう。
「っ」
第三コーナーに差し掛かり段々と距離を詰め始めた、否、
これだ。
この感覚。
実態の無い息苦しさと、得も言われぬ恐怖。
悠々と走る彼女の背に浮かぶ悪霊のような何か。
幻想の骨腕を伸ばし、骨掌で前を往くウマ娘たちを握り潰さんとする餓者の髑髏。
無論、あれは実体が無ければ実像も無い。あくまで私達が彼女によって見させられている幻想に過ぎない。
それでも、アレは存在するのだ。
『おっと、七番ゴールドクレート、失速! ペース配分を誤ったか!』
アレに握り潰されると、不思議と力が抜ける。
いや、奇妙な話だが
それは、まるであの怨霊が私達の勝利への渇望を引き継いで大きくなるかのようだった。
『おおっと、ミタマガシャドクロだ! ここでミタマガシャドクロが来た! 怒涛の追い上げに他のウマ娘は為す術ない! 先頭に立った!』
違う。いや、間違いではないが、正しくもない。
ミタマガシャドクロもまた加速しているが、それ以上に他のウマ娘達が失速しているのだ。
ミタマガシャドクロのスピードはこの時期のウマ娘にしては随分と速い方ではあるが、決して大差勝ちできるほど他のウマ娘との間に能力の差があるわけではない。
『一着はミタマガシャドクロ! 大差で今、ゴール板を駆け抜けた! これは凄まじいホープの誕生だ!』
その証拠に、掲示板に表示されたタイムは大差とは思えないほどに凡庸なもの。
あれが分からない観客達は大盛り上がり。今までの戦法で今まで通りに勝ったのだから、まぐれや相手に恵まれただけというわけではなかったのだと。やれミスターシービーの再来だの、ルドルフ以来の無敗三冠だのとはしゃぎ立てる。
ミタマガシャドクロ本人の申し分無い能力、天才的な駆け引きのセンス、そして例のあの現象が噛み合わさって彼女の出たレースは常に大差から数バ身差の圧勝に終わる。
トゥインクルシリーズという興行に魅せられる者達は派手さや話題性、純粋な強さを重視する傾向にあるのだから、後方からのごぼう抜きを見せる彼女の姿に盛り上がるのも当然だろう。
勿論、これはあくまでもミタマガシャドクロ本人のスペックに拠るところがほとんど。何も反則は無い。
聞けば、彼の皇帝も周囲に荘厳な玉座と稲光、そして皇帝の風格を幻視させ、最終直線において驚異的な加速を見せるという。
そしてライバルであるオグリキャップもまたそうだった。
あれらは全てひと握りのウマ娘達が放つ強過ぎる煌めきに過ぎない。
ミタマガシャドクロのアレを煌めきと言うには少々おどろおどろしい気もするが、それはそれとして。
後輩のウイニングライブを待つ間、ヤエノムテキが考えることは一つ。
今ならばまだ抗えるが、彼女が成長して自身の前に立ち塞がった時。それに加えてもしも同期達に負けていた時、自分がアレに抗えるか分からない。
もしもそうなったら、同期のライバル達だけでなく、己を倒すと宣言した彼女に申し訳が立たない。何より祖父母に合わせる顔が無い。
それでも今の己に、アレに抗えるだけの自信も無かった。
ぐるぐると回る思考で導き出した結論は────
「……もっと強くならなくては」
良くも悪くも、ヤエノムテキは強く純粋なウマ娘であった。
それはそうと、ヤエノムテキは立ち尽くすミタマガシャドクロに視線を向ける。
今日は後輩の大一番を見届ける為に来たのだ。ならば見事勝利した彼女に贈る言葉がある。
「……おめでとうございます、ミタマさん」
ヤエノムテキは、慈しむような顔で後輩を祝福した。