嶋「ここが…オラリオ…」
嶋義貞がたどり着いた都市は、まさに天を貫かんとする程の高い塔が建っていて何処からでも確認できる。
道ゆく人々は見慣れぬ姿形で、獣の格好をして歩いていた人もいた、毛皮の耳を付けるとはどんな趣味なのだろうか。
ただ、道ゆく人々もまた嶋を見ていた、黒い面頬に美しい朱備えの甲冑、半月を模した兜、左右には二振りの刀が装備されている、間違いなくレベルは高く、高貴なファミリアの団員に違いないと皆そう思いながら嶋を見ていた。
しかし当の本人は文字も読めず、無一文の流浪人だ、金を稼ぐ術を知らない謂わば初めてオラリオに来た冒険者のようなものだ、まずは情報集めから始める。
嶋「そこな老人、尋ねても良いだろうか」
「おや、冒険者様ですか?」
老人はこの質問はさも当たり前の如く話し出す、しかし嶋にとっては聞き馴染みのない言葉だった。
嶋「ぼ、冒険者?いや、某は卑弥呼様に使える者だ」
「はて、卑弥呼…ヒミコファミリア…聞いたことがありませんな、最近できたファミリアなのでしょうか?であるならばギルドへ行けばと言いたいのですが。今日はもうギルドも閉まっております、明日尋ねると良いでしょう」
まただ、またふぁみりあという言葉が出てきた、頭が痛くなる。
何一つ分からない。
嶋「しかし、この街もまた異様な連中ばかりだ…」
この都市は何とも異様である、小さい子供でさえも槍や剣を所持しており、人の生活が流れている、しかしどこか張り付いた空気が流れておりその冒険者同士とやらにも諍いはあるのだろう。
嶋「どこへ向かうか…」
不死の戦士、嶋義貞は幸か不幸かその足は豊穣の女主人の方へと向けられていた。
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『豊穣の女主人』
ヘスティア「ではでは!諸君の無事の帰還を祝って!かんぱーーーい!!!」
「「「「「かんぱーーーい!」」」」」
シル「ベルさん、遠征お疲れ様でした!たくさん飲んでたくさん食べて下さいね♪」
ベル「はい!」
ヴェルフ「しっかし!遠征後の酒は格別に美味いなぁ!ベルも飲んでみろよ!」
リリ「いけません!ベル様はまだ子どもなのですから!」
ベル「はは…リリと一つしか違わないんだけどなぁ…」
ヘスティア・ファミリアの宴会は大いに盛り上がっていた、元々ベルの人気も相まって、ヘスティア・ファミリアの宴会は関係の無い者まで混ざり始める、ミア・グラント思惑通り、今が稼ぎ時である。
ベル「リリ、今回は本当に助かったよ」
リリ「いいえ、これがリリの役目ですから…それにベル様が強くなってくださればそれで…」
小人族の女の子の上目遣いは破壊的と祖父から聞いたことがある、大人びた風格、何度受けても慣れるものではない。
ベル「リ、リリ…///」
特段それ以上進展することのない仲ではあるが、甘い空気が二人を包み込む。しかし酒が入ったためか空気の読めない男が一人いた。
ヴェルフ「ベル、リリスケ!なにしんみりしてんだ!この料理うめぇぞ!!」
リリ「…うにぃぃいいい!!!良いところだったのにぃ!!」
ヴェルフ「な、なんだぁ?!」
当然の報いとヴェルフの料理が掻っ攫われて行った、しかしそれもまた
この宴会の醍醐味でもある。
アーニャ「ご予約のお客様、ご来店ニャ!!」
アーニャがエプロンを翻しながら客を迎えた、
その後ろには先陣を切ってベート・ローガが入店してきた。
ベート「おーおー今日は繁盛してんじゃねぇか」
続いてロキ・ファミリアの幹部、リヴェリアとティオナ、ティオネが歩いてくる、ロキ・ファミリアの主力メンバーが勢揃いだ。
リヴェリア「ベート、今日は飲みすぎるなよ」
ベート「うるっせえ」
ティオナ「ベートこの前なんか店のトイレで寝てたもんね〜」
ティオネ「弱い癖に飲み過ぎよ」
ベート「っ誰が弱えってぇ?!」
フィン「ベート、今日はロキも居ない、あまりはしゃぎすぎない様にしてくれよ」
ヴェルフ「うわぁ、ロキファミリアの幹部連中が続々と…」
春姫「ロキ様のお姿が見えませんね、今日は眷属同士の懇親会でしょうか?」
ロキ・ファミリアの幹部が続々と入店してきた、その中にはもちろんアイズ・ヴァレンシュタインの姿もあった。遠征にかち合った訳でもない、ただの飲み会だろう。
ベル「あ、アイズさん…」
アイズ「…!ベル、来てたんだ」
ベル「はい、遠征の打ち上げを…」
アイズはベルの姿を見るなり嬉しそうに近寄り、当然のように席へと座る。女性陣は当初は乗り気ではないが酒の席であり、自然とロキ・ファミリアとヘスティア・ファミリアの眷属達は方々に集まって話し始める、ヘスティアも今回は見逃してくれるようだ。
アイズ「今日ベル達がダンジョンから出てくるの見たよ、お疲れ様」
ベル「ありがとうございます、と言ってもまだ中層までしか行けませんが…」
かたや小声で話し始める眷属もいた。
フィン「どうかな、いつかの縁談の話は」
リリ「まだ覚えてたんですか?答えは変わりませんよ」
フィン「そうか、良い話だと思うんだけどな」
宴会も中盤となり酔っ払いも気持ちが最高潮になる時がきた。
ベートとヴェルフはいつの間にか飲みの対抗レースが始まり、次々と
運ばれる大ジョッキの酒を飲み干していた。
ベート「うぉらぁ!鍛冶野郎もうギブかぁ?!」
ヴェルフ「んだてめぇ!?おい!酒じゃんじゃん持ってこい!」
シル「あらら、また始まっちゃいましたね」
ベル「すみません…」
ガチャ
アーニャ「お客様!申し訳ないのニャ!今日は満席で…」
嶋「…尋ねたいことがあるのだが」
ミア「…」
一瞬、ほんの一瞬だけミア・グラントに怖気が走った、この男見てくれはただの人間だが、何か壮絶な力を持っている、嫌な予感というのは稀に悪いタイミングが重なり、史上最大に最悪な事態で始まる物なのだ。
アーニャ「道ならギルドに聞くニャ!ここは飲んで食べる場所ニャ!」
たしかにこの酒場では道を尋ねるのはお門違いである、嶋は今一度考え直し、別の策を考えた。とにかくこの店に用はない。
嶋「…ふぅむ、相分かった、無礼を…
ベート「クソォ!負けねぇぞ鍛冶野郎!」
酒酔ったベートが暴れ出し、中の酒が飛び散り、嶋の甲冑に掛かってしまった。
リヴェリア「ベート!申し訳ない、仲間の無礼を…
すると酒に酔った獣人が此方に目線を切ってくる、酒を引っ掛けてしまった事に気が付いていないようだ。
嶋「…何用か?」
ベート「あぁ?何こっち見てんだゴラァ!」
リヴェリアは気がついた、段々男を取り巻くオーラが強くなっていっている、幽霊を見てしまった類の怖気が走り出した。
ベート「答えろてめぇどこのファミリアだ?!まさかご主人が弱小すぎていうのも恥ずかしいかぁ?」
フィン「ベート、やめろ」
嶋「貴様…今なんと申した」
嶋が両腰に備えていた刀をゆっくりと引き抜いた、右手の本差と左手の脇差は鈍く光っており、この男は歴戦の古強者だと誰しもが確信した。
ベート「あ?んだてめ…
アイズ「ベートさん、気をつけて」
アイズも愛剣デスペレートを引き抜く、その場にいた者達も一同に武器を手に取った。
店内に生温い風が吹き、どこからか鼓の音と、面妖な女性の歌声が響いてくる。
嶋「我こそは女王卑弥呼に使えし『嵐の防人』嶋義貞、そこな野良犬、我が主人を侮辱する発言、取り消して貰おう」
リヴェリア(なんなんだこの力は…!震えが止まらない…!)
怖気が店内にいる全員に走った、誰ももう手を出せない。
人の強さじゃ出せるオーラではない。
ベート「お、お前…一体…」
フィン「…偉大なる女王卑弥呼に使えし嵐の防人よ、我が仲間の無礼をお許し下さい」
小柄な子どもが一歩前へ歩み寄り、片膝をついた、その光景に皆が驚いていた。ロキ・ファミリアの団長が首を垂れている、相手が目上のフリをさせておけばいい、その場にいた皆がフィンの作戦を理解した。
嶋「小童、下がれ」
一同が驚いた、あのロキファミリアの団長相手に小童扱いをするとは、今の嶋義貞の瞳には、主人を侮辱した野良犬の如き人間にしか向いていなかった。
ベル「ちょ…ちょっと待ってください!!」
嶋「…童、2度は申さん」
初めて感じる怖気を打ち払いながら、白髪の少年が甲冑の男を止めに入った。
ベル「ここは…お酒を飲んで楽しむ場所です!なので…嶋さんも飲みませんか?」
何を言い出すかと思えば、酒の誘いであった、その場にいた全員が否定の言葉と、最悪の事態を想像した。
嶋「……ふぅむ、そこな童、なかなか肝が座っているな…相分かった、某も聞きたいこともある」
「「「「え??」」」」
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嶋「貴公ら、まさか隊の総大将あったとは…非礼を詫びる」
フィン「いや、僕の仲間が無礼な事をしたのがそもそもの原因だ」
ヘスティア、ロキ・ファミリア双方の団長であるベルとフィンに対し首を垂れる、体格の高い男が地面に膝をついて詫びる姿は中々異様な光景であった。
嶋「貴公、ベル殿と申したな、その歳で中々肝が座っている、何処で鍛えられた?」
ベル「いえ、まだまだです、いろんな人達にお世話になって…」
チラと横に座る金髪の女性を少年が見やる、成る程、強さの秘訣も強くなりたい理由も一つなのだ。
嶋「成る程な、貴公の強さはそこの女性がいてこそ…」
アイズ「え…?」
ベル「ひぃぇ!ち、ちがい…いや違いませんがあのあの…」
嶋「護るべき人や信念があると、人は自ずと強くなれる、好き女に出会えたな」
護るべき、しかし今のベルはまだまだ守られるだけだった、しかし嶋の言葉には説得力があった。
リヴェリア「嶋…と申したな、どこから来たのだ?」
嶋「来た…と言うよりも流されてきたと言った方が正しい、某は邪馬台国で女王卑弥呼を守護している『嵐の防人』だ、島の寺院に侵入した物共を殲滅するのが任務としている」
ベル「と言うことは…」
リリ「人を殺すのが仕事ですか…」
またもやその場に怖気が走った、冒険者と言えど、こちらに向けられた刃を打ち払うことはあるが、常日頃から人斬りを行う訳ではない、何よりもベル・クラネルにとっては人を殺す仕事は想像も出来ない。
嶋「左様、故郷を離れもう幾年…女王卑弥呼の力を欲する為に数多の賊が侵入してきた、それこそ異国の軍隊も、島の沖で難破して漂着してきた者も、島流しにあった者も」
ベル「全ては、その人を守る為ですか?」
嶋「そうだ、我が邪馬台国は島を常に暴風雨に囲まれ、島から出ることも入ることも叶わん、絶対の砦であるが、たまにすり抜ける輩も多いのでな」
人を殺める事に何の戸惑いもない嶋の発言に、皆は一様に唾を飲んだ。
この男が強くなれた理由は、その冷徹さがあったからなのだろうか。
フィン「流されてきた、と言う事は意図せずに来てしまったのかい?」
嶋「うむ、侵入者と揉み合いになってな、戦闘の中で首を切り落とした際に一緒に崖から…どうした?」
ティオネ「この人…なんか怖い…」
ティオナ「…」
この姉妹もまた、悲惨な過去があった者である、親友でも家族でも殺し合う世界に身を置かれた二人は、この男がまだ殺しに囚われているのだと感じた。
ヴェルフ「そんなに人を殺して…よく平気だな」
嶋「質問の意図が分からない、そのような大振りな武器を備えておるのに何故その質問を?」
ヴェルフ「なに?」
嶋「その武器は何者に振られているのだ?まさか空を切る為に持っているのではあるまい」
その質問に、ヴェルフは息を呑んだ、魔物を斬り捨てる為と言えばいいのに、なぜかその言葉は言えなかった。
そうだ、やってる事は同じ事だった。
ヴェルフ「いや…すまねぇ、忘れてくれ」
ベル「ヴェルフ…」
嶋「ふぅむ…ここの者達の信念と、某の信念は少し違うようだな」
ヘスティア「価値観の相違…そう言えば聞こえはいいだろうね、だけど嶋義貞、君の価値観はここでは通用しない事だけは理解してくれるかい?」
嶋「うむ、郷に入れば郷に従えと言う、某は早めに元いた場所に帰った方がお互いの為だな」
物憂げに出てきた嶋の言葉は、どこか寂しげに聞こえた。
ベル「嶋さん…」
ベート「Zzz…」
ティオネ「やっぱり寝ちゃったね〜」
ヘスティア「仕方がない、今日はお開きにしよう」
異国の者の訪問により、豊穣の女主人はいつもの活気は無くなっていた。
嶋「申し訳ない、某は今無一文の身でな、何かで返せれば良いのだが…」
ベル「…神様、嶋さんの事を手伝ってもいいですか??」
ヘスティア「え″っ、本気で言ってるのかい?」
命「少し怖いですが…私も賛成です、おそらく嶋義貞殿は同胞です、見捨てたくありません」
リリ「ベル様がそう言うのなら…」
嶋「ベル殿…その心意気に厚く御礼申し上げる」
ヘスティア「うーん…分かったよ、でも変な真似はしないように、いいね?」
こうして、ヘスティア・ファミリアに一時的にお世話になった嶋義貞、これはヘスティア・ファミリアの歴史の一ページに深く刻まれる出来事であった。