夜叉の慟哭   作:大川原

5 / 9
5話 歪み

嶋が去ってから、ベルは罪悪感に苛まれていた。

あの恐怖に耐えられなかった、リリも嶋も何も悪い事をしていないのに、あのような言葉を、有りと凡ゆる感情が浮かんでは消えて行った。

リリも同様に、嫌われるかもと覚悟はしていても、実際に口に出してしまった罪悪感は途方もないだろう。

そして恐怖を押し殺したベルに一喝された事も心に響いていた。

 

ヘスティア「…サポーター君、今日はゆっくり休んで、明日また話し合おう、ね?命君、春姫君も先に帰ろう、無いとは思うが、嶋義貞と僕達の噂を間に受けて襲う冒険者もいるかもしれない」

 

リリ「…はい…」

 

命「承知しました、ベル殿、今日はゆっくり休んで下さい」

 

春姫「ベル様、明日もお伺いします」

 

ベル「…」

 

ヴェルフ「…すぐ追いつくから先帰っててくれ」

 

神ヘスティア一行は先にホームへ帰還して行った。

ヘスティア・ファミリア創設以来、ここまで気持ちが分離する事は無かった、異端児の件でも結局はファミリア一丸となって事に臨んだ。

しかし今回は、どちらかが妥協せねば解決策は無いのだ。

 

ヴェルフ「…ベル、俺はリリスケの言い分にも一理あると思ってる、確かに故郷に帰れるまで手助けしようとは思ったが、19階層に現れたっつ〜奴らの本拠地が嶋の故郷なら、俺はもう嶋義貞自身の足で帰ってもらうしか無いと思ってる」

 

ベル「ヴェルフ…」

 

ヴェルフ「それに異端児の件でも、ベルが行った事に不快感を示したヤツが大勢いた、それ自体の行いは間違ってはないが、今回は死者が大勢出てる…ファミリアで面倒を見たら、仲間を殺された冒険者達の溜飲が下がる事は無いだろうな、どんな理由があろうと」

 

ベル「…ッ」

 

確かに、リリはそこまで考えての発言だった、それに比べて僕は子どもの我儘をまた…しかも僕自身が本当に手を差し伸べるべきか迷っていたにも関わらずだ。

 

ベル「リリ…リリごめん…」

 

ヴェルフ「謝るなら明日にして、今日は休め、な?」

 

ベル「リリ…ッ」

 

説教された幼い子どものように泣き崩れるベル、少しして泣き疲れたのと、恐怖心が和らいだのかそのまま眠りに落ちた。

 

ヴェルフ「…ふぅ、俺も帰るか…」

 

扉に手をかけた瞬間怖気が走った、扉の向こうに嶋が居る、何故だ?追っ払ったからその復讐に?

扉を開けなければ真実は見えない、ヴェルフは怖気を打ち払い扉を開けた、予想通り、嶋がそこに立っていた。

 

ヴェルフ「…どうしたんだ、そんな所で」

 

嶋「ダンジョンの入り口とやらが、分からんのだ」

 

ヴェルフ「ええ…?」

 

嶋は道を尋ねようにも、怯えた冒険者達に近づきも出来なかった。

ダンジョンとやらは何処にあるのだろうか、肝心なことを聞き忘れていた。

 

ヴェルフ「…っあ〜そっか、仕方がねぇ…着いてきな…」

 

嶋「良いのか?今の某と共にいれば間違いなく…」

 

他の冒険者から、間違いなく非難を浴びるだろう、何故そのような男と一緒に歩いているのかと。

 

ヴェルフ「俺の少し後ろを歩け、俺はお前のことを知らない、お前も俺のことを知らない、そして何故か冒険者達がお前に怯えてるだけ、良いな?」

 

嶋「承知した」

 

負傷した冒険者達の治療もある程度落ち着き、いつものオラリオに戻りつつあった、途中数名の冒険者が嶋を見て敵討ちに馳せ参じたようだが、恐怖心に負けて撤退した。

何処まで強いんだコイツはとヴェルフは感心した。

 

ヴェルフ「ここがダンジョン入り口だ、後は一人で行ってくれ」

 

嶋「感謝するヴェルフ殿、ベル殿達に息災で過ごされよと伝えてくれ」

 

ヴェルフ「…あぁ、嶋も元気でな」

 

19階層で現れたという集団の長が、嶋であるならば間違いなくこれ以上関わるべきでは無いのだろうが、嶋の人間性は悪いものでなく、寧ろもっと話を聞きたかった、強いから恐れられている彼等の存在がこれ以上オラリオを混乱させないことをヴェルフはただ祈るだけだった。

 

19階層での収容を完了させ、ロキ・ファミリア一行は18階層で休養していた、負傷した冒険者達も安心したのか、皆酒を飲んだり休んだらしていた。

 

フィン「一先ずは大丈夫だろう、後は他の冒険者達があの嵐の防人達を刺激しなければ良いが」

 

ガレス「アイズでさえもお手上げの敵か、話を聞く限りだとレベル5を容易く…ふぅむ、モンスターで括られる強さではないのぅ」

 

リヴェリア「…怨霊か化け物の類いか、嶋義貞から感じたオーラもそうだった」

 

嶋以外に他の嵐の防人にあったのは一回だけだが、尋常ならざる強さを見せつけていた、人の強さでも、モンスターの強さでもない。

オラリオ中の冒険者が束になってかかっても勝率は低いだろう。

 

フィン「この一件で、奴らへ無闇に手を出そうとする冒険者は居ないだろう、今は治療した冒険者のファミリアへの貸しがどのくらいになるかしか考えられない」

 

この貸しは絶大なものであった、ロキ・ファミリアの名声はさらに高まるであろう。

 

一方アイズはと言うと、ベルの話が途中で終わりもんもとしていた。

 

アイズ(ベル…あの時なんて言うつもりだったんだろう、好き人の意味も聞かなかったけど…なんか凄く覚悟を決めた感じだった…)

 

 

レフィーヤ「アイズさん…凄く悩んでますね、サコンの倒し方でも考えてるのでしょうか?」

 

ティオネ「そう?そんな物騒なこと考えてる感じじゃないけど」

 

ティオナ「この前アルゴノゥト君が帰る時にアイズ追いかけてったよね、な〜んか怪しいな〜」

 

レフィーヤ「ま、まさかあのヒューマン?!」

 

 

アイズ(ベルに対するこの気持ちはよく分からない、けど…嫌な気分では無い…寧ろふわふわして…嬉しいような恥ずかしいような…よく分からない…)

 

顔を赤らめたアイズに目敏く気がついた女子達は、アイズの元へ駆け寄り、恋バナに花を咲かせた。

アイズ自身はこの気持ちが何なのかはまだ理解できていないが、近いうちに分かる事となるだろう。

 

ティオナ「ふ〜ん分からないんだ〜じゃあリヴェリアに相談してみたら〜?」

 

確実に茶化しているティオナはリヴェリアへの相談を持ち掛けた、多分面白い事になるから提案しただけであろう。

 

アイズ「…リヴェリアに…」

 

リヴェリア「お前たち、早く寝ないか」

 

ティオナ「げ、リヴェリア」

 

悪戯がバレた子どもの如くティオナは陰に隠れた、リヴェリアも地獄耳だ、アイズからの相談事があるのはわかっていた。

人払いをして、アイズの相談に乗った。

 

リヴェリア「さて、アイズ、何か悩み事か?」

 

アイズ「…うん」

 

珍しい、娘のように育ててきたが、相談事がある時でも大抵痩せ我慢か黙っていたアイズが、素直に悩み事を打ち明けるとは、リヴェリアは嬉しいような寂しいような親心が出てきた。

 

アイズ「嶋義貞がベルに言ってた、好き人の意味が分からなくて、それをベルに聞いてたら途中で緊急クエストが…」

 

リヴェリア「成る程…アイズ、その話をベル・クラネルとしたのなら、ちゃんと最後までベル・クラネルに話させるんだ、自分から急かすような事はしてはダメだぞ?」

 

アイズ「どうして…?」

 

リヴェリア「多分だが、男の子の一世一代の大冒険…といえばいいかな」

 

アイズ「…分からないけど、分かった、ベルから話してくれるのを待つ」

 

リヴェリア「良い子だ、早く休みなさい」

 

夜も更けて、ロキ・ファミリアの野営地は静寂に包まれた、19階層への入り口への立哨もそろそろお役御免と言った頃合いだった。

 

「そろそろ撤収だな、早く帰って休もうぜ」

 

「ったく、嵐の防人って奴ら、めんどくさい事しやがって…」

 

19階層へ冒険者が行くというよりも、19階層からあの嵐の防人が来ることが脅威であった、番兵二人は完璧に油断し切っていたのだ、まさか後ろから来客とは。

 

嶋「そこな番兵よ、そこは19階層とやらの入り口で間違い無いか?」

 

「え…な、なんでお前が…」

 

嶋「質問の問いに答えよ、そこが19階層の入り口かと聞いている」

 

地図を読みながらあちこち回ってきた嶋は、ようやくここまで辿り着いた、途中壁から現れたモンスターに驚嘆しつつも拳骨で排除し、中層で出てきた牛頭の化け物の首を叩き落とし、火を吐く狼の首を捻りあげた。

なんとも珍妙な施設だろうか、化け物を塔で閉じ込めるようなことをしているのに、態々危険を犯してその巣に踏み入れる施設を道楽か何かで作り上げるとは。

 

「こ、答えろ!ここから先はッ」

 

嶋「…使えん奴だ、通るぞ」

 

様々な不平不満が嶋の中に溜まっていた。

嶋が番兵を押し退けて通った先は、やはり見慣れた光景であった。

山々は、まるで卑弥呼の御身を守護するかの如く雷鳴が轟いており、凄まじい吹雪が山頂を覆っていた。

少しだけ離れていただけなのに、とても懐かしく感じた。

 

嶋「帰ってこれた…左近らは無事だろうか」

 

旧知の仲であり、ともに切磋琢磨した侍大将の左近虎徹、留守中は城の警備をしている筈だ、早く城へ戻らねば。

 

 

フィン「…嶋義貞が19階層に行った…と、そうか」

 

「申し訳ありません団長、止める事が出来ず…」

 

フィン「いや、寧ろ手荒な真似をされなくて良かった、ご苦労だった、休養をとってくれ」

 

ガレス「…これで、オラリオでの厄介ごとは消えたかのう」

 

アイズ「…」

 

いや、まだ厄介ごとは消えていない、嶋と行動を共にしていたベル・クラネルらの疑惑が消えていないのだ、ロキ・ファミリアの幹部や主力メンバーは概ねの理由は分かる、しかし一旦広まってしまった噂は、確実な情報には戻せないのだ。

 

リヴェリア「アイズ、ベル・クラネルが心配か?」

 

アイズ「…うん」

 

早く戻って、またベルに会いたい、アイズの心の中は今ベルでいっぱいであった。

 

ベート「…ッチ、そんなに会いてぇならさっさと帰れってんだ」

 

ティオネ「なに妬いてんのよ」

 

ティオナ「ベートかっこ悪」

 

ベート「んだとぉ?!」

 

邪馬台国へと変わってしまった19階層、オラリオでは徐々に正確な情報が流れ出した。

ギルドは対応に追われ、当面の間19階層へのの立ち入りを禁ずる処置を取った。

必然的にダンジョンは現時点まで18階層までしか探索できなくなったのである。

 

「あのヘスティア・ファミリアの連中が匿ってた嵐の防人、砂浜に流れ着いてたらしいぜ」

 

「どうやらベル・クラネルが手引きした訳じゃ無いらしい」

 

正しい情報も流れ始めた、これはギルドやロキ・ファミリア、ベル・クラネルに恩義のある人達のお陰でもあり、ベルはその御礼の挨拶回りを行っていた。

 

ベル「ミアハ様…ありがとうございます」

 

ミアハ「うむ、ヘスティアがまた頭を抱えていてな、ナァーザにもすこし細工をして貰った、あまり皆を困らせてはいけないぞ?」

 

ベル「は、はい…申し訳ありません…」

 

他のファミリアにも助けられた、感謝の気持ちと申し訳のなさでいっぱいである。

 

ミアハ「この発言は反感を買いそうだが、本当の正義がどちらかは明白であったな、何らかの歪みで生まれた別の世界に侵攻した冒険者を殲滅した…どう贔屓目に見てもベルには分かるだろう?」

 

ベル「はい、嶋さんは全く悪くありません、それに嵐の防人という人たちも…」

 

例えダンジョン内であろうと別の世界、侵攻してきたのは冒険者側であり、嵐の防人はただの侵入してきた敵を殲滅しただけの事であった。

振り返ればしょうもない話ではあるが、そうであっても冒険者達の溜飲が下がる事は無い。

 

 

リリ「暫くダンジョンは18階層までしかいけませんね、まぁあまり強いファミリアでは無いのでそこまで影響はありませんが」

 

ヴェルフ「まぁ魔石は取り放題だ、食い扶持がなくなる事はねぇだろ」

 

19階層の入り口は近々封鎖されるらしい、敵討ちの為と冒険者が彼らを刺激したら、今保たれてる均衡が崩れる恐れがある。

嵐の防人の逆鱗に触れ、オラリオに侵攻されえしまえば、この都市は速攻で壊滅してしまうだろう。

 

 

____________________________________________________

 

嶋「左近、暫く開けてしまって申し訳ない、皆も無事で何よりだ」

 

左近『シマ将軍モゴ無事デ何ヨリデス、侵入者ニ多少城下ヲ破壊サレマシタガ、女王卑弥呼ニハ一歩タリトモ』

 

嶋「うむ、やはり左近がいてこそ女王卑弥呼の守護が務められる」

 

嶋が城に戻り、嵐の防人は万全な体制となった、しかし当面の問題はあのダンジョンから侵入してくる者達の対応である。

殲滅するのは容易い事だ、彼らは脆く、そして弱い、しかし地上で世話になった者達に刃を向けられるだろうか。

 

左近『彼奴ラハ自ラヲ冒険者ト名乗リ、侵入ヲ正当化シヨウトシテオリマス、コノ際洞窟ニ潜ム彼奴ラヲ殲滅スル以外無イカト』

 

嶋「無用だ、奴らは既に我々に恐れ慄いている、それをお前達が見せつけた筈だ…侵攻する事は女王卑弥呼を守護する我々の任務では無い」

 

左近『承知』

 

どちらの世界が歪んで現れたのか、嶋はそれを知る術は無い、しかし無用な殺生はする必要はない、女王卑弥呼の御身を脅かし、城に侵入を画策した者のみを殲滅すればいい話だ。

 

嶋「ベル殿、どうか我々に刃を向けてくれるな…」

 

ヘスティア・ファミリアという者達は大層世話になった、例え女王卑弥呼を脅かす事となっても刃を向ける事は躊躇われる。

せめてもう少し話をして見たかった。

 

 

_______________________________________________________

 

18階層は度々魔物の群れが侵入してくる、そして強靭なモンスターも稀に侵入してくる、大抵の場合リヴィラの街の住人は街を放棄して、新しく再建する、しかし今回は襲撃の様相が違った。

 

「ふざけろ!?いつもとモンスターの数が段違いじゃねぇか!」

 

「文句言ってねぇでさっさと加勢しろ!ぐぁあっ!?」

 

アルミラージやキラーアントの群れ、それにインファントドラゴンやミノタウロスの姿もちらほら見受けられる、リヴィラの街はモンスターの群れに襲撃されていた、嵐の防人が現れたことにより街の冒険者は極端に少なくなっており、加勢出来る冒険者も二級や一級冒険者であり、劣勢は明らかだった。

 

リュー(全く、面倒な時に訪れてしまった…)

 

疾風の如く木刀を振り、モンスターが次々と灰へと変わる。

リュー・リオンは墓参りの為偶々18階層に訪れており、襲撃に遭遇してしまった、数多のモンスターを討伐したがまだ足りない。

それ程までに今回はモンスターの数は桁違いであった。

 

「クソっ!17階層の入り口にいけねぇ!」

 

「嘘だろ…どこにも逃げらんねぇ…」

 

リュー「…仕方がありません、私が道を切り開きます、あなた方はその間に」

 

疾風の如く女冒険者が駆け抜けていった、どこかで聞き覚えのある声だが、確認する暇など今はない、その冒険者の言葉を信じ、後に続いた。

 

 

リュー(斃しても斃しても出てくる…キリが無い)

 

18階層の入り口付近まで到達したが、その数の多さに圧倒されてしまった。

モンスターの強さこそ大したものではないが、やはり数が多すぎる。

 

「お、おいエルフの姉ちゃん!あまり無茶するなよ!!」

 

リュー(…あと少しで17階層…こんな所で死ぬ訳には…)

 

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…』

 

 

「こ、この声は…」

 

「嘘だろ…つい最近討伐した筈じゃ…」

 

この声は、18階層の前にある嘆きの大壁の主ゴライアス、ロキ・ファミリアがこの前の負傷者救助の片手間に討伐された筈だ。

 

「終わりだ…」

 

リュー「ッ…」

 

幾百のモンスターを抜けても階層主がいる以上、もう打つ手は無かった。

皆が頭を垂れ、最期を覚悟した。

すると突如、19階層の入り口からくぐもった音が聞こえてきた、何かを思い切り吹いている音、リューは入り口を見遣り、驚愕した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。