ロドス・アイランド製薬。縮めてロドスと呼ばれる製薬会社は不治の病である鉱石病に冒され迫害を受ける人々を守り。その治療法を探るため日々戦いに身を投じている。
つい先日、ロドスは危機契約を通して斡旋された一大事業を成し遂げ、現在ロドス内部は打ち上げムードとなっていた。
作戦で多大な功績を収めたオペレーターたちには特別な恩賞や昇進の話も持ち上がっている。
中でも今回の作戦で抜きんでた活躍をしたオペレーターがいた。ユーネクテスだ。
ロドスにおいて重装オペレーターとして活動する彼女は、かの医療オペレーター、ガヴィルに負けず劣らずの身体能力に支えられた非常に高い戦闘能力と共に、決戦兵器アイアンハイドを用いた殲滅力にも優れる人材だ。此度の作戦では地形を踏み潰し、その重量、質量でもって襲い来る巨大ゴーレムをアイアンハイドで堰き止め。移動都市を襲う幻影の核とその守護を破砕したのが彼女であった。
彼女の所属する。エンジニア部にはその功績を讃え、多額の予算が組まれることとなった。
「いやーこれだけ予算がっぽりもぎ取ってくれるんだからアイアンハイドの製造頑張ったかいあったよねー。あたしも師匠として鼻が高いよ」
「私はささやかな支援しかできませんでしたが作戦でのユーネクテスさんの戦い振りは素晴らしかったです」
「よくやったぞー、よっ未来の部門長!」
「誰いまのいったの!?」
エンジニア部門の仕事部屋では黒髪のサルカズ少女にして自称ロドス・アイランドスーパーバイザー兼超優秀システムエンジニアであるクロージャと、彼女によって改造された円形の医療用六輪作業プラットフォームLancet-2を先頭にエンジニア部門の職員が集まり。功労者、ユーネクテスを讃えていた。
敬愛する二人と同僚たちに慣れぬ賞賛の言葉を受けた彼女は、頬を紅潮させ照れくさそうに頬を掻く。
「ありがとうLancet-2姉様!!!クロージャ師匠!皆!私が力を発揮できたのも皆の協力のおかげだ」
「ん?今なんであたしをLancet-2の後ろにまわしたの?ねえ?ちょっと」
「しっかし凄かったよな。あのデカいゴーレムをバコーンと一発で凹ましてやるんだからさ」
自身で設定を施したAIよりも順番を後に回されたことに抗議をするクロージャだったが皆はそれに構わず各々ユーネクテスとアイアンハイドの活躍について所感を述べていく。ユーネクテスもまた何かを思い出したように手を叩き。
「そうだクロージャ師匠!今度アイアンハイドに搭載したい武装と機能を思いついたのだがいいだろうか!?」
「あーもー!いいさいいさ!どんなの?★42オペレーターのクロージャ師匠に聴かせてみなさい」
エンジニア部の仕事部屋は夜更け過ぎであるにも関わらず明るくより一層の賑わいをみせた。
そんな騒がしい部屋の前を通り過ぎるものたちがいた。
白の防護スーツで身を覆った巨大な人影とその一歩後ろを行くサルカズの兵士たち。ロドスの重装オペレーター、マドロックと"彼女"が元々率いていた部隊。マドロック小隊の元隊員である。
元隊員の一人は開いた扉から漏れて来るエンジニア部からの賑やかな声に顔をしかめつまらなそうに言葉を吐く。
「たく他人の気も知らねえでどこもかしこも浮かれやがって」
「そういうな。大規模な作戦が無事に成功し、大勢の人々を救うことができたんだ。それでいいじゃないか」
「そりゃそうだがな。だが俺には、いや俺たちにはどうしても部隊が、あんたが軽く見られるのは我慢ならない」
「……」
彼が不平を漏らすのも無理からぬことであった。というのも此度の作戦でロドスが相対した敵というのがよくなかった。ソレはマドロックを中心としたマドロック小隊。正確には異常な原石が発生させた彼らの幻影ともいうべき存在である。
彼らに賞金稼ぎ、ビッグ・ボブの幻影を加えた現象は発生元となった移動都市に破壊をもたらし蹂躙した。
ロドスは偶然この移動都市に近い位置を通っていたことや、発生した幻影が所属のオペレーターを象っていることについての自社と本人たちの名誉を回復する意味合いも含めて事態の解決に動いた。
元マドロック小隊の面々もこの作戦に参加し汚名を返上するつもりではあったのだが、現地民に与える感情面での影響を考慮してロドスの防衛に割り振られることになった。待機というわけだ。
ともあれ彼女らは作戦に参加する機会を失った。結果として原因となった原石とその守護に当たっていた幻影側の最高戦力、マドロックとそのゴーレムは核の原石ごと一人のオペレーターによって破壊されることとなる。
そのオペレーターこそが部屋の奥でエンジニア部門の面々と歓談しているユーネクテスだった。彼女の獅子奮迅の活躍はエンジニア部門だけでなくその作戦に参加したオペレーターたちの語り草となっておりロドス全体に広がっていた。
活躍したものがそれに応じた賞賛を受け取っている。それは何ら憚れることのない至極当然のことだった。ただ光りある所には影があり。彼女が賞賛を受ければ受ける程ある認識が形成されていく。
それは重装オペレーター、ユーネクテスが同じく重装オペレーター、マドロックより強く優れているというものだ。
幻影とはいえマドロックと更にビッグ・ボブも同時に相手にして勝利を収めた事実があるのだからそういった認識がまかり通るのも無理からぬことではある。もっとも、ある程度の練度を積んだオペレーターたちにはそのような風聞は一顧だにするものではなかった。そもそもオペレーターの価値とは投入される現場ごとにいくらでも変動するものである。だが語られる側にとってはたまったものではなかった。
「俺たちは皆あんたに率いられて死地から逃れた。道中何人も倒れて、残った奴は数えるほどしかいねえ。だがそれでも俺達は今生きている。ロドスには世話にはなっているが俺達を救ったのはあんただ。俺達はいい。だが、アンタが不当に扱われるようであればその時はー」
「もういいわかった。だからお前達、振り上げた拳を降ろしてくれ。ようやく辿り着いた安住の地だ。そこで騒ぎを起こしたくはない」
「けどよお」
元隊員たちの意志に理解を示しつつもあくまで穏当を要求するマドロック。だが元隊員たちはそれでは納得しかねている。そこで彼女は一計を案じることにした。
「……お前たちの不満も理解しているといっただろう?そう悪くならんように動くさ」
そう呟く彼女の視線は部屋の奥のユーネクテスに注がれていた。