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防護服がなくなったことで視界を遮るものがなくなりマドロックのアーツ制御の速度は上がった。序盤に見せた土壁を用いたフェイントも織り交ぜる。だが守りの要であった鎧を失ったことでどうしても慎重な動きにならざるを得なかった。消極的な動きは勢いを欠き、結果ユーネクテスを捉えることは叶わず懐に潜り込むことを許す。
ユーネクテスはマドロックの至近に迫り一撃を加え離脱する。それを幾度も繰り返す。
ある時は迎撃に突き出された拳を尻尾で掴み取り。それを支点にぐるりと背後へと回りこむと遅れて振り返るマドロックの横っ面に裏拳をぶち込む。首が吹き飛ぶかと錯覚するほどの衝撃に遅れて痛みがやってくる。
「がッ……」
そしてある時は顔面狙いのストレートパンチを交差して受ける。拳が当たる直前ユーネクテスは尾で地面を蹴り勢いをつけてがら空きのマドロックの鳩尾へと深々と蹴りを叩きこんだ。アーツで距離を取らせ。膝をつく。
「げぁ……はぁっ……」
何とか立ち上がると次の攻撃が来る。顔が大地を擦りかねない。まるで地面を這うように突進して来ている。アーツが間に合わない。全身を使った足払いに体を浮かされる。
「くっ……!」
マドロックは空中で姿勢を正そうとこころみるがその顔面に下から膝が入り次の瞬間、その身は蹴り飛ばされていた。
「うぐぅぁ!?」
またしても尻尾だ。ユーネクテスは足払いの体勢から尻尾を使って地面から跳ね上がりそのまま宙のマドロックの顔面を捉えたのだ。結果としてマドロックの身は家屋数軒分吹き飛んだ。息もつかせぬ間に追撃がくる。
「休んでいる暇はないぞ!」
「…………ッ!!」
応戦する。
幾重にも展開した障壁も土壁も躱され、砕かれ。打撃を通される。アーツも身体も動かしている。だが対応しきれない。変幻自在の動きに翻弄され傷を増やす。息が上がる。隙が生まれ穿たれる。
「ぁはッ!?かッ」
マドロックは再び地面を転がる。身を震えさせながらも彼女は敵について思う。
強い……と。彼女が相対した中でもこれほどの速度と力を併せ持ったものはいなかった。これほど変幻自在に身を動かすものもだ。部下の前でこれ以上見苦しい所は見せられないと思いつつも気圧されていることは誤魔化せない。なんとか気持ちを切り替えようとする。
そんな彼女にユーネクテスは言い放つ。
「いつまでそんなものに頼っている?所詮土塊では私を捉えることはできんぞ」
それはこの戦いで一度も傷を得ていないからこそ出た慢心の台詞だろう。マドロックのことを知らないが故に出た、率直な感想であろう。
だがソレは彼女が、マドロックが決して許容できぬ言葉だった。
畏怖が一瞬にして怒りに染まるのが、身体に鬼神の如き力が入るのが自覚できた。何があろうとこの敵は叩き伏せると友に心で誓った。
そんな彼女にユーネクテスは突撃する。マドロックは迎撃にこれまで以上の反応速度と威力の拳を突き出す。だがそれもユーネクテスの尻尾に絡め取られ、掴まれる。尻尾の力で引き寄せられ、マドロックはたたらを踏む。隙が生まれたその胴体にユーネクテスの蹴りが、爪先が深く深くめり込む。
「”ゲ”フッ!!」
内臓を圧され息を吐きだし口元からよだれを垂らす。
その様に好機とみたユーネクテスは顔面に向って拳を叩きこまんと構え。力を込める。
瞬間、マドロックは口の端からよだれを溢出させつつも喜色の笑みを見せる。
その表情に危険を感じたユーネクテスは打撃を取りやめ即座にこの場から離れようとする。だがそれは叶わない。彼女の尾はマドロックによって万力というにも生易しい剛力で握りしめられていた。尾を失ったかのような激痛がユーネクテスを襲う。逃げられない。
痛みに喘ぐユーネクテスに対しマドロックはアーツを発動する。これまでのような打撃的に大地を生みだすのではない。捕らえ、留めるためのアーツだ。ユーネクテスの足元が泥岩に呑まれるそして瞬く間にそれは彼女の全身を覆い尽くした。