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ユーネクテスの身体は泥岩に囚われた。自由に動かすことが叶うのは尾の半分程と四肢の先端のみ。その尾もマドロックに握りしめられ動かせない。敵の眼前に無防備に顔面と腹部を晒す危機的な状況に自らの失策を恥じる。そんな彼女にマドロックが絞り出すように語り掛ける。
「友人たちを土塊と嘲った報いを受けて貰おう」
そう語る彼女の左拳からは骨が軋む音が響き、指先が手のひらを傷つけ血が流れ出る。異常なまでに硬く握りしめられたその拳を振るう。
ユーネクテスは迫りくる剛腕に対し腹筋に全力で力を注ぐことで対処とした。だが、無駄だ。容易く腹筋を突き破り臓器へと突き刺さる。
「”ご”ッ”ぁ”ぁあ!?」
構えていてなおそれを上回る衝撃。それが二撃、三撃と無防備な腹部に叩きこまれる。
「~~~~~ッ!!!」
声にならない悲鳴があがる。
「…………誰が息をしていいと言った?」
「ーーーー!っ……ぁ、っ……っ!!」
ユーネクテスが息を吸おうとしたその時に合わせて四撃目が放たれる。肺の、身体中の全ての空気を吐き出し彼女は呼吸困難に陥る。次の攻撃が来る前に口を必死に上下させ束の間空気を貪る。五撃目が来る。貪った空気を直ぐに全て吐き出す。
彼女の眉尻と尻尾は力なく垂れ下がり、口はだらしなく開いたまま閉じる気配がない。
「もはや尾すら満足に動かせないか」
そう呟くとマドロックは尾から手を放す。そして両腕を組み握り込む。
身体中の酸素を失った息苦しさに喘ぐユーネクテス。彼女の視界は滲み、ぼやけ、正常に映らない。そんな視界の先、ぼやけたマドロックが両の拳を振り上げるのが見え。
次の瞬間。これまでとは比べ物にならない威力の一撃が。完膚なきまでにユーネクテスの腹筋を粉砕し尽くした。
受けた衝撃波が砕けた筋線維を通し、内臓を蹂躙する。それは全身へと波及してユーネクテスの身体を余すところなく破壊する。
埒外の激痛にユーネクテスの意識は闇に包まれる。完全に光を失う直前。激震により意識が覚醒する。二撃目だ。意識を失い。一切の防御を取っていなかったタイミングでの一撃。これまで堪えていた吐瀉物がユーネクテスの口元から溢れ出す。
「”ぇ””ぁ”……げほっ、”げ”ぇ……はっ、はぁ……」
咳き込みながら嘔吐するユーネクテスに構わず三撃目があばらへと突き刺さる。強靭なユーネクテスの骨が容易く砕ける音が響く。
ユーネクテスから吐き出される嘔吐に血が混じりだすがマドロックは四撃目の構えを取る。
痛みと倦怠感に支配される中でユーネクテスはあることに気付く。絶望的な気分が精神を支配する。
(馬鹿な……奴の傷が……殆ど癒えている。だと……!?)
ユーネクテスの気付いた通り。マドロックが両手を組んでの打撃に切り替えてから一撃ごとに彼女の傷は癒えていた。
岩崩し。マドロックが戦場で駆使する必殺技とも呼べる技の一つだ。本来は獲物であるハンマーを用いて行うものだが両手を組みハンマー状に握り込めば素手でも使用できる。その破滅的な一撃は振動を敵に通し身体の自由を奪い、同時に自身の身体を癒す。アーツと体術を複合させたまさに奥義といえるもの。ユーネクテスを襲っていたのはソレだ。
衝撃の事実に絶望感に包まれつつもユーネクテスは勝負を諦めていなかった。次の一撃が来るまでに勝機を探る。
―これは
衝撃が突き立つ。
「ぅぁ……かはっ……ぉ、ゲぅ……」
幾度も打ち付けられ、ユーネクテスの腹部は内出血ですっかり色が変わっていた。胃の中身はとっくに全てを吐き出しており、黄色い胃液が口の端から溢れ出る。咳き込みだらだらと血を吐く。
「……もうまともに口も聞けないか。これで終わりにしよう。懺悔はその後に聞かせてもらう」
そしてマドロックは今一度、大槌を振り上げる。