「……ま、……だだ……まだ私は、立っている、ぞ……」
ユーネクテスだ。全身を打たれ。立つことはおろか意識を保っていることすら困難の筈の彼女は流血を滴らせ。そこに立っていた。
「……馬鹿な。君は私のように身体を治癒するようなアーツを持っているわけではないだろう……?それで何故、何故立っていられるんだ」
あまりの光景にマドロックは呆然と立ち尽くす。そんな彼女の元にユーネクテスは一歩一歩身体を引きずるように近づく。
一歩を踏み出すごとに骨の軋む音が聞こえる。更に一歩を踏むと傷口から血が溢れ出る。身は震え傷ついていない場所などない。が、それでも一歩を踏み出す。
鋼鉄の意志が彼女を立たせ。前に進ませていた。
ユーネクテスは未だ動けずにいるマドロックの眼前までたどり着くとよろめく体を必死に支え振りかぶる。全身全霊をこの一撃にかける。あの時打てなかった。必殺の一撃。烈震崩撃を今こそ放つ。
振り抜かれた渾身の一撃は今度こそ敵の身体へと叩き込まれ。そして
そして何も起きなかった。
マドロックの腹筋には血に濡れたユー寝てクスの拳が柔らかく触れただけだ。それっきり。ユーネクテスは動かなくなった。
「……」
一呼吸の間。ユーネクテスの拳を身体で受け支えたマドロックはゆっくりと畏敬の念を口に出す。
「……心に刻もう。君は紛れもなく勇敢な戦士だ」
だからこそ。
マドロックは再び両腕を組み大槌の形状を取る。そして彼女がそうしたように全身で、全霊で、力の限り振りかぶり。真っすぐに振り下ろす。
撃音が部屋の外まで打撃する。
振動が止み。土煙が晴れる。
立っているのはマドロック。角にはヒビが入り、上半身を中心に無数の打撲の跡を残し、立つのもやっとという様子である。だが彼女は立っている。
そしてユーネクテスはうつ伏せの体勢で地面へとめり込んで倒れている。最早指の一本たりとも動いていない。彼女は意識を完全に手放している。
10,9,8,7,6。カウントが進む。
5,4,3,2,1その間両者は微動だにせず。
0。その瞬間勝者が確定する。
鋼鉄と泥岩のぶつかり合い。激しい闘争を制したのは泥岩。
勝者 マドロック
♦
ユーネクテスとマドロック。両雄の激突から数日。
勝者であるマドロックは早々に復帰しロドスの作戦に参加していた。
「危ない!」
「ウワッ!マドロックさん!ありがとうございます!」
瓦礫の下から這い出し、オペレーターを襲ったオリジムシをアーツの土壁で阻みハンマーで叩きつしたマドロックは一息をつき。
「……怪我がないならよかった。これで最後だな。ロドスに帰投しよう」
「はい!」
マドロックの合図に作戦に参加していたオペレーターたちが次々と集まってくる。その中には元マドロック小隊のメンバーもいた。
「マドロック大活躍だったじゃねえか。あの試合以降絶好調だな。流石俺たちの隊長だ」
「あの試合っていうとユーネクテスさんとの?凄い闘いだったんでしょう?俺も見たかったなー」
「あの試合……か」
彼らの言葉にマドロックは遠くロドスの方角を眺める。
「どうしたんです?」
「……いや。彼女は今頃何をしているだろうかとそう思っただけだよ」
♦
ロドス医療室。その一室のベッドの上でユーネクテスはガヴィルにグルグルと全身を包帯に巻かれていた。
「痛ッ!おいガヴィル……お前もうちょっと丁寧に巻けないのか」
「んーだよズゥママ。こんなので泣き言いいやがるのか?そんなだから肝心のとこで焦ったり殴らなきゃいけねえ時に殴れなくなるんだぜ?」
切り札の切り時について幼馴染に指摘を受けたユーネクテスは歯噛みし。肩を落とす。
「それは……わかっている……何故お前にとやかく言われねばならんのだ。やるか?」
「おーおーお前の怪我が治ったらな!そんだけ気概がありゃ大丈夫だ。さっさと治せよ!じゃな」
「いッ……!お前ぇ……」
バシっと背中を叩かれ悶絶するも睨み付ける頃には相手は病室の外に出ていた。
「たた……いわれなくてもだ。全く」
背中をさすりベッドに体を預ける。
「Lancet-2姉様の前で無様を晒してしまった……皆の期待にも応えられなかった」
窓を眺める。その方角には先日拳を交わし合った者がいるはずで。
(奴は早々に任務に復帰し、私はこの様か。随分差がついたものだ……)
そして闘いを反芻する。決して能力で己に劣る所があったとは思わない。勝機も掴みかけていた。だが流れの中で相手が上回りそして自分はミスをした。それだけだ。それがどうしても。
「……悔しいな。おかしいな……いつもはこんなここまでの気分になることはないはずなんだが」
敗北は慣れているはずだった。それでも涙は溢れて止まらない。腕で拭うそばからとめどなく流れ落ちる。
ユーネクテスは拭うことを止めしばし感情のまま震え。そして確かな意思を持って呟いた。
「次は負けん」
こうして二人の重装オペレーターの名誉を賭けた決闘は幕を閉じた。勝者は名誉を回復し。敗者は敗北を糧に再び立つことを誓う。
だがこれは終わりではない。長きにわたる二人の戦いの。その始まりに過ぎなかった。再戦の日は近い。 <終>