俺は個性は——   作:ぱらぱらどきしかる

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二話

 雄英高校は、先日襲撃にあった。

 

 授業中、突如として謎のヴィラン集団が現れ、生徒に襲いかかったのだ。

 

 体中に人間の手を張り付けたような不気味な男。靄に包まれワープゲートを作り出すヴィラン。そして、脳無と呼ばれるおおよそ人らしい知性を持たず、しかしオールマイトと並ぶ怪力や、その他いくつかの個性を保持していた強力な怪人。

 

 襲撃に合ったのは、雄英高校一年A組の生徒全員だ。

驚くべきことに、死亡者や誘拐された者は一人もいない。

 

 これは担任のヒーローや、駆けつけたナンバーワンヒーロー「オールマイト」の功績によるものだろう。

 

 白方は廊下で一人の雄英高校教師と歩いていた。

 

 包帯を全身に巻いたその教師の名は、相澤消太。「視認している相手の個性を消す個性」の持ち主にして、襲撃にあった雄英高校1年A組の担任教師だ。

 

 彼は白方に伝える。

 

「俺はお前を特別扱いしない」

「わかっています」

「見込みがないと見込んだら、すぐにでも除籍、そののち俺の目の届く範囲に隔離する。この高校に途中参加している時点で、お前は除籍一歩手前にいる。そう考えろ」

 

 彼はあくまで自分の方針を伝えている。

 

「ついたぞ」

 

 普通ならばまだ入院中であるはずの相澤は躊躇なく教室のドアを開く。

 同時に賑やかな声が相澤と白方の二人にあびせられた。

 

「相澤先生復帰早!!って、その人は!?」

 

 一人の麗らかな女生徒によって指摘されるのが早いか、白方はクラス全員からの注目を奪った。いくつもの疑問が注がれる。

 

「こいつは転校生だ。今日からこのクラスの生徒になる」

「よろしく」

 

 復帰について何も触れずに、淡々と告げる。

 

「転校!? 雄英にもあるんだ!?」

「男女比!!」

 

「こいつの転校は、校長などとの協議やこいつ自身の特別試験を経て行われた。自己紹介はやりたきゃあとでやってくれ。まずは体育祭についてだが――」

 

 それから、近々始まる体育祭では多くの観客が来ることや、ヒーローとして自分を売り込む上で大切な行事であることを伝えられる。

 

 その後、授業をいくつか乗り越えて昼休みになる。休み時間より本格的に白方の周りには人が集まり、転校生として質問攻めにされる。

 

「ワタシ芦戸! ねえねえ! なんで転校できたの? しかもヒーロー科に」

 

彼は

 

「あー、色々あって、個性の暴走を止めるために相澤先生が適任だったのと、俺自身の更生のためだな」

「個性の暴走? 使ったら体がボロボロになるとか!? 緑谷みたいに」

「うーん、実は俺もよくわかってない」

 

 白方が転校してきた顛末は、いまから数ヶ月前に至る。

 とあるヴィランの追跡をしていたヒーローがAFOらしき人物と対面した。

 彼は個性研究の実験体として使っていたとして、白方を失敗作だとして殺そうとしていた。

 しかしプロヒーローがすぐさま事務所に連絡したため、これ以上姿を見られるのはまずいとAFOはその場から立ち去る。

 その場に残ったのは、失敗作と呼ばれた少年、白方道行だったという訳だ。

 

 もちろんこれは偽造であり、AFOはヒーローに存在を簡単に認知されるような男でも無ければ、プロヒーローに事務所への連絡をする隙を逃すヴィランでも、そのプロヒーローを見逃すような優しい人間でもない。

 

 立ち去る前にAFOは白方の個性が爆発する可能性があるとヒーローたちに示唆していたため、AFOを知る一部のヒーローは、全面的に信じると共に、白方の扱いに困った。

 

()()()()()()()()()を頼っても、個性というのは多種多様かつ不定形であり、個性が暴発するのもその個性の特質として組み込まれていれば正常であり改善の余地はない、なにより個性の改造など前例がないとして、すぐさま匙を投げられた。

 

 個性の暴走を止められ、なおかつ学生としての期間を実験体として研究されていた少年の心と体を癒し、立ち直らせる場所。雄英高校に白羽の矢がたった。

 

 稀有なことに、彼はちょうど高校一年生となるような年齢だった。

 

 邪推を巡らす輩がヒーロー側にいないわけでもなかったが、お節介なナンバーワンヒーローのちょっとした後押しもあり、まんまと白方はA組に潜入できてしまった。

 

「とにもかくにも転校生! いっしょに食堂行かね!」

 

 何やらチャラい男子と某ペダル漫画に登場しそうな男子のコンビに誘われ、彼は食堂へと連行された。

 

「ああ。よろこんで」

 

 雄英高校は多くの生徒がやって来てごった返していた。

 

 同じ制服を着たものが並んでいるということと、自分もその制服をまとった一人であるということが、彼に少しばかりの感嘆を与える。

 義務教育期間は不登校気味だった彼だからこその感慨だった。

 

「雄英に転校してくるってすげぇよな! でもこれから体育祭の特訓とか大変じゃね?」

「それなぁ、お前の個性によると思うけどなぁ。ああ、別に個性を教えてほしいわけじゃないぜ? 未知ってのは力だしな!」

「そうだね。俺の個性は見てもわかりづらいから、体育祭では秘匿性を活かしたい」

 

 雄英高校の体育祭は昔のオリンピックに代わる祭典である。

 その知名度は他の高校の体育祭とは比べ物にならず、その難易度と規模も日本が誇るものに見合っている。

 

 そのなかで少しでも勝利を掴みやすくするための工夫として個性を秘匿することは、雄英生のなかでは許容されてしかるべきことだった。

 

 食堂から戻る途中、教科書を読んで授業の予習をせねばならないと考えている白方。

 

 彼を含む三人衆の正面から、白方が見たことのある人物がやって来ていた。

 

 ――そういえば、彼がコートを着ていない姿を見るのは初めてだな。

 

 塚内直正。

 少しばかり白方の顔がこわばるが、他人に悟られるほどのものではなかった。

 

 なぜ雄英に? 例のA組をヴィランが襲撃した事件によるものだろうか。

 体育祭には、その襲撃によって例年の幾倍もの警戒が敷かれることになっている。そのバックアップのためのものかもしれない。

 

 そんな思考で、白方はすでに塚内とすれ違ったことに気づかなかった。

 

 聞こえてくる足音が止まる。

 

「君……。いや、なんでもない。」

 

 通り過ぎた塚内が一度立ち止まって何かを言おうとするが、結局言いよどんでまた歩き出した。

 

 「君」というのは白方を指したのだ。ヴィラン側のスパイであることがバレれば、すべての道が頓挫する。

 

 この塚内という刑事は、ヴィランに対しては勘がひどく鋭い。

 少しでも隙をさらせば、いくつものプロファイリングによって培われた慧眼を以て、白方の「百面相」という仮面を探し当てられる可能性があった。

 

 自分には、ヒーローとヴィラン、どちら側にも味方がいないことを、白方は静かに実感していた。

 

 

 放課後、大勢の生徒に教室前が埋め尽くされていることによって、A組全員の帰路が阻害されていた。

 

 わらわらと集るこの生徒たちは、どうやら体育祭前にA組について知っておこうと集まって者らしい。

 しかし中にはどうやら喧嘩を売りにきた人間もいるようだ。

 

啖呵を切っている、隈の酷い男。

白方は、()()()彼に見覚えがあった。

 

心操人使(しんそう ひとし)……」

「へぇ、知ってんの。」

 

 ぽつりとその人物を見て呟いた言葉を、名を呼ばれた本人は耳聡く反応した。

 

 A組の生徒はなぜ彼について知っているのかと訝しむ。

 

「白方、お前あいつの友達?」

「俺はこんなやつを友達にした覚えはねぇな。記憶力自慢か何かか?」

 

 隈の深い心操の目が、ぎろりとこちらを見る。

 

「いや、たまたま知っていただけだよ。」

 

 それだけでは違和感が過ぎると思って、白方は咄嗟に「怖いからね。」と付け加えた。

 

 心操は自身の個性がバレている可能性に冷や汗を流し、麗日と数名は心操の顔を見て「確かに」と頷き、轟は白方を警戒した。緑谷はぶつぶつとつぶやきだす。そして一人の鉄属性熱血キャラは空気を読まず喋り出した。

 

 言葉選びを間違えたかと彼は考えたが、別にいいと思いなおす。

 心操の個性「洗脳」が危険であるということには変わりないのだから、嘘を言っているわけではない。これによって自分の個性がバレるようなこともない。彼はそう結論づけた。

 

 のんきな白方に対し、心操のなかには、劣等感のようなものがどろりと生まれた。

 それは自分がヒーロー科に入れなかったときに、送られたきたディスクによりプロヒーローから不合格を励まされたときと同じ、液状化した重りを浴びせられたような、暗い感情だった。

 

 自分の個性がバレている可能性。

 自分がA組に対して視察を行うずっと前から、彼は自分の、否、おそらくその他多くの生徒の情報を収集していたのだ。

 見ている世界も本気度も違う。

 それがたとえ、自分が脅威であると半ば認められたような言動であったとしても、彼我の差を実感させられることは彼の精神をとても揺るがした。

 

 心操はやりきれなさを感じ、無言でその場を去る。

 

 その後、爆豪が人混みのなかを鉄の意志で帰っていくのに続き、白方たちも帰路を辿ることとなった。

 

 

 

 

 

 いつも玄関の扉を開けると、大体彼女が待っている。

 

 白方は今世において、両親を知らない。

 児童施設で物心をつけ、その後すぐに養子にとられたが、あまりいい思い出はなかった。

 

 自分を養子として引き取った彼ら彼女らのことは、もう思い出したくないというのか本音だ。

 

 家出をし、ヴィランとなり、巨悪と出会った。

 

 ――『君は表では生きていけない。僕ら側の人間だ』

 

 二度目の人生で、いわゆる「原作知識」を持っているのに、何も成し遂げることができない。

 強いて言えば、劣悪な環境でも前世で人格はすでに形成されていたため、ある程度はまともでいられた。原作知識の恩恵はそれくらいだ。

 そんな心の隙間を、あの巨悪はうまくついた。

 白方を、ヴィランとして、日陰者として、百面相として、うまく引き込んだのだ。

 

 そんななか、百面相の名を広めていた時期、タルタロスというヒーロー社会の安寧を保つ牢獄要塞に忍び込むという仕事がやってきた。

 

 神話の要塞に潜り込めば、彼の名声はさらにとどろき、社会を大きく揺るがす。

 

「おかえり、以外と早いな。」

 

 扉を開くと、エプロン姿の彼女がそこにいた。

 

「ただいま。」

 

 彼は帰宅後すぐに背中に取り付けたカプセルを外す。

 カプセルを見つめる彼の目には、どこか遠くを見つめるようだ。

 

 これは大体毎日彼が無意識に行っている癖のようなもので、カプセルを手に入れたとある出来事に由来する。

 

「夕飯できてるけど、どうするんだ?」

「どうする……?」

「疲れてるんじゃないか? 人を騙すってのは労力を使うだろ? 少し休むか?」

「いや、大丈夫だ。ありがとう」

「そうかい」

 

 プロヒーロー「レディ・ナガン」。彼女は人を騙してきた。

 公安に雇われ、ヒーローが相手にできない悪事を主に「殺人」という手段を用いて処理する。いわば必殺仕事人だ。

 

 表ではヒーローを務め、裏では人を殺す。

 

 そんな生活に疲れて、罪を犯しタルタロスに逃げた。

 

 怪人百面相は、そんな彼女をタルタロスから盗んだ。

 そして、行き場のない彼女を、しょうがなく自らのアジトに住まわせる。

 

 それからは何もしていない。

 ただいつのまにか彼女が家事を代行するようになった。

 

 そしてたまによくわからない行動をする。

 

 夕食後、風呂に入って考える。

 

「(これから、あの気のよさそうなクラスメイトを騙していかねばならない)」

 

 思うことは絶えず。

 

 ヒーローとして夢をただひたすら追いかけるかれらを、自分は妨害する側の人間だ。

 昨日あったとされる雄英襲撃事件も、AFOの部下、否、弟子によるものだ。

 

 原作知識からでも、この世界での知識からでも、ヴィラン連合はこれから雄英生の前に立ちはだかることは容易に想像できる。

 

 あの五指で触れたものを崩壊させる個性の持ち主は、いくつもの失敗を経て学んでいくだろう。

 自分の道と、

 悪意の使い方を。

 

 現在、転校初日。

 夜中。

 

「(眠れないな)」

 

 原作知識の使い方と、自分の個性の使い方について悩み、白方はあまり深く眠れなかった。

 

 あまり眠れずに、ふと目を開けた。

 

 いつもより枕が高い。寝ている間にベッドから床に落ちたか?

 視界の上方になにかあることを確認する。

 

 思ったより疲れていたのか、動いて確認する気にならない。

 

 仕方なく手で触って確認することにする。

 

 触れる。

 

 やわらかい感触。

 

「ずいぶん積極的じゃないか。とうとう男子らしくなったか?」

 

 後頭部あたりから、声が響いた。

 彼の意識は覚醒する。

 

 いま自分か触れている胸部で隠れて表情は疑えない。しかしその声は淡々としていた。

 

「すまない。だがしかし、なぜ俺は寝ている間に膝枕をされている……」

「充電中の携帯電話ってあるだろ? あれ私。」

「同じ言語を操っているはずなんだがな……」

 

 寝起きで脳が完全に覚醒していないからだろうか。彼の理解は追いつかなかった。

 

「眠いんだが」

「眠ればいい。」

「眠れないんだが」

「私が眠らせてやる」

 

 起き上がろうとすると手で引き戻される。

 諦めて枕を背中に挟み膝枕と高さを合わせる。

 

「白い髪」

「それがどうしたんだ?」

「赤い瞳」

「ああ、確かに俺の瞳は赤いが」

「おでこ」

「おでこ――?」

 

 いくらかの静寂が流れ、白方はレディ・ナガン――いまでは哲家 ヒナ――が何かを考えていることを察した。

 変わらぬトーンで、彼女は言う。

 

「いっしょに、逃げないか?」

「……」

「どこか遠くへ、枷を捨てて。私がそうなったように。」

「無理だ」

「人質か……。そんなに大事か?」

 

 逡巡はない。

「大事だ。」

「そういうと思ったよ。心変わりしたら教えてくれ」

 

 ヒナは最初からわかっていたというようにさっぱりと言った。

 

 しかし放してくれそうにはないので、白方は諦めて眠ることにした。

 ヒナはいつ眠るのだろうかなどと心配しているうちに、微睡が彼を襲い、瞼が重くなる。

 

 白方が完全に眠ってから、一時間後。

 

 充電を終えた哲家ヒナは、やっと自室へと戻った。

 

 

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