俺は個性は—— 作:ぱらぱらどきしかる
体育祭と言えば、夏の日差しのもの行われるリレーや綱引きなどを連想するだろうか。
この雄英体育祭では、それらとは異なる、より実践的で難易度の高い競技が行われる。
それはたとえ天下の雄英生であろうと、ヒーロー科以外ではまともに太刀打ちできないが、しかし見栄えという点においては他の高校の体育祭より大いに良いといえる。
白方は体育祭の入場のために待機しているA組の面々を見ていた。
緑谷に轟が「おまえには勝つぞ」と宣戦布告をしている。
緑谷も返すように闘争の意を示している。
彼は、漫画で主人公だった。
なぜ轟に目を付けられているのだろうか。
おぼろげな記憶をたどっても、死を境にしているほど昔の記憶はそんなワンシーンについてまで明瞭に思い出すことができなかった。
白方が覚えているヒロアカについての情報は、どちらかというと後期のものが多い。
そもそも家でふいにアニメとして流れていたのを観ていた程度なので、詳細なことは知らなければ、記憶が薄い前半の話はあまり覚えていないのだ。
そして自分が原作と関わることは半ばありえないだろうと考えていた白方は、原作知識というものをあまり正確に保持できていなかった。
そんなことよりも、彼は考えなければならないことがあった。
個性をどこまで使うのか。
自分の個性をフルで使えば、きっと多くの競技で好成績を残すことができる。
しかし、それは、同時に多くの危険を生む。
どうしても耳目を集めてしまうだろう。
白方がしなければならないのは、相澤からの評価を買うことと、できるだけ自然に雄英生として紛れ込むことだ。
失敗は許されない。
日常へ戻るための、なにより――
会場への扉が開け放たれ、他の生徒に続いて入場する。
多くの歓声が、彼らに降り注いだ。
ヴィランを退けた一年A組の力を、誰もが心待ちにしているのだ。
自らが転校生であると明確に宣伝されたわけではなく、白方にもその歓声は向けられていた。
除籍の見込みもなくして、AFOとの契約も履行して、平穏な日々を取り戻す。
〈第一種競技、障害物競争。〉
ヒーロー科代表の豪胆な「俺が一位になる」という選手宣誓を経て、体育祭はさっそく第一種目へと移行した。
まともなゴングとともに、大勢が走り出す。
――これは、爆豪が優利だな。
彼の爆破の個性ならば、爆風を使った高速移動で障害物をよけることなど容易いだろう。
それに、汗をかけばかくほど爆破の威力が上がるという個性は、この競技に適しすぎているほどだ。
最初はこれまでの経験の差で轟という少年が一位だが、後々爆豪も追いついてくるばず。
という白方の予想は、見事的中した。
数々のロボットが蠢く第一の障害、綱渡りの要領で進んでいく第二の障害。
数々の地雷が埋め込まれた地面を走る第三の障害にて、トップの座は爆豪から轟に移った。
一位というのは、この第三種目において不利だ。
二位以降は誰かが走った轍を辿ればいいが、一位はまったく地雷を位置がわからない状態で進んでいかなければならない。
それが氷を出す轟の個性によって地雷ごと凍りつかせるとしても、その分、後ろへの妨害がおろそかになる。
爆豪が、その才能でもって空中を飛び、轟へと追いつくことに成功する。
「宣戦布告する相手を間違えてんじゃねえよ!」
轟は緑谷だけに敵対心を燃やしているが、爆豪は生徒全員に敵対心を燃やし、燃やされていた。
轟は内心で煩わしいと感じる。
戦闘中は氷しか使わないと決めているのだから、自分の氷で道を作り、それを瞬時に溶かすということはできない。
それに対しこの頭がトゲトゲの男は、自分の個性をこの場で十全に生かすことができる。
そして、自身の左側に立たれているから右側の氷で妨害もできなければ、無理に位置を変えようとすると、また爆撃で邪魔される。
観察していたのだ。轟が視野狭窄に陥っている間に、爆豪は轟の強大な個性が右側からしか発動せず、小回りも利きづらいことを、観察していた。
戦闘訓練中、モニタールームでその強大な個性をみて打ちひしがれ、そして立ち直った爆豪は、強さだけではなく、厄介さを手に入れていた。
そんななか、二人の後方で爆発音が鳴り響く。
ロボのパーツを盾に、地雷の爆風を利用して、緑谷が二人のもとへと飛んでくる。
そして彼は二人より少し先に躍り出る。
「(ヤバい、追いつけない、減速してる……、いや、ロボパーツが、誰かに引っ張られてるッ!)」
緑谷は堪らず手を放し、体制を整え転がるように着地。すぐさま体勢を整え走る。
彼らは三つ巴の状態で固まっていた。
爆豪が押し出した緑谷は轟よりやや右側に移動。
轟はその緑谷の足もとを固め、同時に自分が地雷を気にせず走るため、氷の道を作る。
身動きのとれなくなった緑谷を避けようとズレたその瞬間を狙ったかのように、爆豪が爆発を起こす。
氷で滑りやすくなってのもあって、轟は勢いよく後ろに倒れる。
そのとき、緑谷は運動靴を脱いで氷から半ば無理やり脱出していた。
すでに爆豪は二人に数メートルほど差をつけていた。
「この三下がァァァ!」
叫びながら、爆豪が空中での高速移動でゴールを突き進む。
汗をかいた分の、最大出力。
これまでの高速移動を低速と云わせしめるほどの加速力を宿した爆風が起こる。
彼の第一種目優勝は、誰の目にも明らかだ。
「ハネが足りねぇんだよ!! このクソ踏み台ども!!」
「――ああ、踏み台というのは、比喩表現だったのか」
爆豪の視界にありえないものが映る。
空中で逆さに浮かぶ、白方道行の姿。
重力に反するように見えるその姿は、実際のところ、爆豪の限りない集中力がもたらした疑似的な体感時間の遅延だ。
前方からの風圧でかすむ視界、そこに移るその人間を、爆豪は幻覚かと見紛う。
「すまない」
彼の両肩を掴み。強く押す、そして推進力を奪った。
加速する白方に反して、爆豪が叫びながら減速。
「クソァァァァァァァァ絶対に潰してやらァァァァァぁべしッ!」
《な、な、何が起こったぁ!? 誰かいたぞ、いま!!》》
体育祭実況を担当しているプレゼントマイクが驚愕する。
その場の観客たちのほとんどが理解を追いつかないというような顔をする。いまの見間違いかと唸っている。
相澤消太だけがそのなかで例外だった。
《あいつ、個性を応用したな》
《応用ゥ??》
《うまく使ってんだ。個性届にはない使い方だった》
皆がゴールゲートに注目する。
しかし、誰もやってくる気配がない。
さらなる疑問が生まれようとしたその時。空間が揺らいだ。
ゴール後のエリアに、何かが現れる。
それは揺らめき、不安定となり、そして一気に崩れた。
そこから現れたのは、一人の男子。
白方、道行。
透明化のような個性でもって、この場に顕現した。
しかし、Aクラス女子の一人と違って、その透明化はどうやら服まで伝播するようで、登場時にも裸で現れカメラを止めるような事態にはならなかった。
遅れてやってきたのは、緑谷出久。
どうやらロボパーツを拾い、もう一度爆発を起こしたようだ。
その後、爆豪、轟の順位でゴールした。
轟が息を切らしながらも白方に近寄る。
「お前、もしかして、終盤までずっと俺の後ろについてきていたのか?」
「ああ、そうだな。」
「……そうか」
白方は自身に透明化を施し、轟の少し後ろを走っていた。
そして地雷を使って飛んできた緑谷の機械装甲につかまり、一気に空中へ跳躍する。これはうっすらとした原作知識が、「ここで緑谷が飛んでくる」と白方に警鐘を鳴らしたからこそできたことだった。
「……あんな跳躍ができる身体能力があるなら、なんで最初から先頭にいなかった」
轟の氷結の射程は実際そこまで長いわけではない。そもそも白方に一定以上距離をとられた時点で反撃は不可能だろう。もし可能な範囲に白方がいたとしても、跳躍によって避けられてしまう可能性が高い。
わざわざ敵に合わせて背後から機をうかがう理由が、彼にはわからなかった。
「それは……、君の、左側を警戒したからだ」
できるだけ真摯に、白方は答えた。
そこには皮肉も戒めもない。ただ率直な理由だった。
「透明化でもさすがに順位判定のカメラまでは誤魔化せない。それで順位が変動した瞬間に、空中を君の炎で範囲攻撃されては困る。だから前にはいかなかった。」
もし先頭に早々から出ていたなら、順位の変動が伝わって、轟は反射的に自身の左側の炎で攻撃。白方は丸焦げになってしまったかもしれない。
「左は……使わねェ」
「そうか。」
何も言わない。向こうの事情は大まかにしかわからない。自分が軽く語っていいものでもない。何より、
何か喚いている爆豪をよそに、その他の生徒もゴールに到達する。
全員が集まってところで、この体育祭の審判かつ進行である18禁ヒーロー「ミッドナイト」が、順位の管理をし始める。
そして、高らかに、「第二種目:騎馬戦」のルール説明を開始した。